水音の乙女   作:RightWorld

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2020/01/04
体裁修正しました。






第29話:護衛想定訓練 その1 ~序盤は順調~

 

 

天音たち427空の蛟龍(こうりゅう)を使った対潜水艦訓練は順調に進んでいた。

数日にして葉山少尉は口元が上がってしまうのを抑える事ができなかった。

 

『一崎の能力は予想以上だ。後は田所司令が言うように、実戦でこの力を出せるかどうかにかかってる。何としても発揮させてやりたい。そうすれば必ずこの状況をひっくり返してやれる』

 

「どうした葉山少尉。さっきからにやついて。気味悪いぞ」

「も、申し訳ありません、田所司令。あまりにも一崎一飛曹の力が凄くて」

「ほう」

「普通水中探信儀で潜水艦がいるらしいと探知してから、攻撃諸元となる方位、距離、深度、速度を割り出すのがどれくらい手間か知ってますか? 三角測量するんですよ。熟練した水測員が潜水艦と思われる波形、または測距発信波の反響を読み取って、2点の測量結果から計算するんです。それが一崎ときたら、瞬時ですよ。発見とほぼ同時。彼女には我々の目と同じ様に水中が見えてるんです。しかも探信儀では、潮の境目や塩分濃度、温度が急に変わるところでは音波が跳ね返ったり、曲げられたりして探知が困難になるということが分かってます。ところが一崎はそれもまるで意に介さないと言うか、そういう状況でも見る方法を心得ているんです」

「ほう~。さすがは固有魔法だな」

「まったくです。あれは確かに漁師がインチキと言うわけだ」

「ふむ。それでは今日は楽しめそうだな」

「ええ。さっそくですがよろしくお願いします」

 

葉山に促され、田所中佐は霞ヶ浦航空隊が銚子港の漁協からチャーターしたカツオ漁漁船に乗り込んだ。船長に合図を送るとボムボムボムボムと焼玉エンジンが大きく唸りを上げ、カツオ漁船はゆっくりと水しぶきをあげて桟橋から漕ぎ出した。

今日このカツオ漁船は軍艦扱いだ。なので艦尾には大きな軍艦旗を掲げている。さらにはマストにワザと目立つよう派手な大漁旗が結びつけられ風にはためいている。何処からか軍艦マーチまで流れていた。カツオ漁船は利根川を伝って海へ、鹿島灘へと出ていった。

 

今日は特潜隊第1戦隊の蛟龍(こうりゅう)4隻を借りきっての大演習だった。特殊潜航艇が待ち構える海域を、商船を護衛して無事に突破するというミッションを想定した訓練だ。カツオ漁船が商船の代わりである。

 

 

 

 

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「葉山だ。各機出撃したか?」

 

≪キョクアジサシ、出撃しました≫

≪K2、及びウミネコ、離水済みです。まもなく視界に入ると思います≫

≪カツオドリ、既に貴船の上空警戒中≫

 

427空の各機から応答が来る。

北極南極間を移動する長距離渡り鳥“キョクアジサシ”をコールサインにするのは、無尽蔵の体力を持つ優奈。

“K2”は勝田。勝田佳奈子のイニシャルK.K.から取ったもので、ウィッチ時代からのコールサインだ。

そして天音にもいよいよ晴れてコールサインが付けられた。“ウミネコ”と名付けられた。

因みに卜部は“トビ”だ。入隊した頃に卜部を“トベ”と読み間違えられたころに付けられたのを今でも使っている。

そして“カツオドリ”は千里のコールサインだ。

427空の鳥たちは今、太平洋の海原の上を舞っている。

 

「よろしい。こちらも今演習海域に入った。これより護衛作戦を開始する」

 

≪了解!!≫

 

「護衛対象は田所中佐座乗のカツオ漁船だ」

「はっはっは。今日は田所中将ということにしとこうか。将官座上の艦隊の護衛任務だぞ。しっかり守れよ」

 

基地仕事ばかりで滅多に表に出られないので、今日は上機嫌の田所司令だが、はしゃぎすぎたようだ。

 

≪田所中将? 何か気乗りしないね≫

≪まさかその気になって将官旗揚げてたりしないだろうな≫

≪それやったら軍機違反です≫

≪護れる自信ないなあ≫

 

「貴様ら~」

「私も乗っている。今日はここから指揮を執る。いわば本船は護衛艦隊旗艦だ」

 

≪成程!≫

≪あ、実感沸いてきました≫

≪葉山司令、お護りします!≫

 

「おのれ、葉山少尉、これはどういうことだ」

「まあまあ。蛟龍(こうりゅう)は何回沈められても復活OKだ。護衛対象が演習海域を出るまで何回攻撃してもいいぞ。427空は最後まで守り続けるんだぞ」

 

≪りょ、了解!!≫

≪特潜隊、了解。手加減はしないぞ≫

 

ブオオオーと低空飛行でカツオ漁船の上を零式水偵と、零式水偵脚、二式水戦脚の2機のストライカーが飛び越えていく。葉山は頼もしげにそれを見上げた。

カツオ漁船を飛び越えた水偵達は、2機がそのまま真っ直ぐ飛んで行った。残る1機はカツオ漁船の周囲を大きく回るように飛び始める。上空直掩機となる千里の二式水戦脚だ。演習用の1番2号模擬爆弾を6つ、袋に入れて吊り下げていた。

 

「事前打合せ通り、キョクアジサシは本船の予定航路を往復哨戒。ウミネコは5キロ先から水中を捜索してくれ」

 

≪了解≫

 

「さて、お手並み拝見だ」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

鹿島灘から東へ真っ直ぐ飛ぶ優奈。カツオ漁船から15キロほど先を飛んでいた。

 

零式水偵脚の右翼の先から延びているのは小さな八木アンテナ。今回搭載された航空機用電探だった。

その電探が漁船の予定航路のやや右寄りに反応を得た。双眼鏡でその方角を調べていると、潜望鏡を見つけた。

 

「こちらキョクアジサシ。潜望鏡確認。位置、ええと……旗艦進路前方11キロ」

 

≪葉山だ。攻撃許可する。とは言え当てるなよ。30m以上離れたとろこに投弾すること≫

 

「分かってますよー」

 

重そうに吊り下げている袋には1番2号模擬爆弾が10個入っている。実戦では零式水偵は60キロ爆弾を4発、ウィッチの零式水偵脚の場合は30キロ爆弾を最大4発まで抱えて飛ぶのだ。

優奈は袋から1発取り出すと、低空に降りてゆっくりと飛び、潜望鏡の横30mの所に落っことした。音で知らせるのが目的の模擬爆弾が小さく水飛沫を上げた。

音に気付いた蛟龍(こうりゅう)5号艇がゆっくり浮上した。司令塔のハッチが開き、艇長が顔を出した。

 

「おかしいな。もう見つかったのか」

「電探で潜望鏡がバッチリ捉えられましたよ」

「そうか。電探あなどれんな。よし、次はやり方を変えてみよう」

「はいー。それではまたよろしくお願いしまーす」

 

優奈は高度を上げ、再び前方航路哨戒に向かった。蛟龍(こうりゅう)はしばらく水上で移動すると、再び潜って仕切り直しに入った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

カツオ漁船の5キロ先に着水した卜部機。

天音がフロートに降りると、水中探信を始めた。

 

パヒーン……ン……ン……ン

 

しばらく耳をすましていた天音が顔をあげる。

 

「西6キロのは、さっき優奈が見つけたのでしょうか? 浮上してるようですけど」

「たぶんそうだよー」

 

勝田が答える。

 

「そうしましたら、南西4キロに1隻います。水深30m、速度6ノット」

「おほほー。さすが一崎! よっしゃ狩るか! おーい、登ってこーい」

 

卜部が大きく手招きして天音をせかす。

 

「まだ魔導波の反響を全部聞き取れてないですけど」

「南西のヤツやってからにしようぜ。早く早く」

「はーい」

 

天音は水中に落としていた尻尾を引き上げた。その直後、漁船の方向からの反響音が卜部機のところに届いたが、捜索を中止した天音は気付けなかった。

そこに千里からの通信が来た。

 

≪こちらカツオドリ、旗艦の左舷45度、潜水艦の影を確認。浮上しようとしてる模様。接近し調べる≫

 

「やるね私達。結構優秀じゃない?」

 

勝田が自分達の順調な滑り出しに喜んだ。

 

 

 





主人公に話が戻ってまいりました。
しばらくは天音ちゃん達の訓練の模様が続きます。
訓練もだいぶ進んで、実戦形式の演習を行っています。早くネウロイと対峙させたいところですが、焦らず焦らず・・。
はたして天音ちゃんはチートぶりを見せられるでしょうか。


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