書くかもと言っていた最終戦闘終了後から支援部隊解散までの一晩、その3です。
空母サンガモンの女性専用区間。その士官用シャワールームにウィッチ達は集まった。
手前にトイレが並び、奥には壁で間仕切りされ、扉(と言っても頭と足元は見えてる)が付けられたシャワー用の個室が5つ並んでる。
「シャワールームです。お湯使いたい放題許可もらっときましたので、皆さんハリウッドシャワーできますよー」
ジェシカがどんなもんだと鼻息荒く告げると、ジョデルが手を合わせて喜んだ。
「やった! サンガモン来て良かったわ」
真水の貴重な船で、時間を気にせず蛇口開けっ放しにしてシャワーを浴びるというのは大変な贅沢、ご褒美なのだ。すると芳佳がここぞと身を乗り出した。
「お湯使いたい放題ならお湯張ってお風呂出来ないかな!」
「どうやってお湯張るんですか?」
天音の質問に芳佳は豊富な前線での経験を披露する。
「扶桑陸軍の工兵部隊はね、防水の幕を張って湯船作るんだよ。テント一つお風呂専用のにしてね。飛行機に掛けるキャンバス使えば同じ事出来るんじゃないかな。それなら皆で背中流しっこもできるよ~」
芳佳の期待の目は優奈に向かう。
ややっ、卜部少尉もなかなかいい形をしてるじゃないですか。さすが大人の女。これは大きさなら坂本さん以上だよ。
天音も乗り気な反応を見せているので芳佳は楽しくなってきた。
「へぇ~。じゃあ卜部さんの零式水偵に掛けてたキャンバス持ってくれば……」
「一崎~」
しかし卜部が天音を睨みつける。隣からも美緒が芳佳を怖い顔して睨んでいた。
「宮藤、リベリオン海軍が便宜をはかってくれてるとはいえ、少しは遠慮しろ」
「そうだぞ。いくら使いたい放題と言っても真水はまずいだろう。ここは海軍らしく湯船は海水風呂にしてだな」
美緒が派手にずっこけた。
「卜部! お前まで本気で風呂作る気だったのか!」
「あれ? 坂本、お前風呂大好きだったと思ったがな」
美緒は眉間を指で揉みながら言った。
「お前らは他国の船で海外赴任したことなかったな。文化の違う国の船で風呂作るのは色々難題があってだな」
何やら危なげな雰囲気を感じ取り、ジェシカが心配になって尋ねた。
「や、やですね。皆さん何をしようとしてたんです?」
会話を聞いても全く想像ついてないらしいジェシカを見て、優奈は小声で解説する。
「扶桑ってお湯をたっぷり張った湯舟に体をどっぷりと浸かって寛ぐんですよ」
リベリオンも湯舟=バスタブを使うことがある。西部開拓時代を題材にしたハリウッド映画にも出てくるが、いわゆる泡風呂にして、人一人が横になって入れる大きさのあれだ。当然ジェシカが思い浮かべたのもそれだった。
「バスタブ? ああ、確かにそういうのはリベリオンの軍艦は備えてないですねえ」
「その……バスタブもジェシカさんが考えてるような、一人横になって入るようなのじゃなくて、今ここで宮藤さんが言ってたのは……」
優奈は芳佳に顔を向けると、ニコニコした顔から案の定な答えが返ってきた。
「やっぱ3、4人入れるくらいのがいいよね」
それを聞いてジェシカの少々癖のあるブロンドの髪の毛が跳ね上がった。
「3、4人? やだ、小型プールじゃないですか! それをどこへ?」
芳佳と天音と卜部がシャワールームの、着替えや通路のために開いてるスペースを指差す。
「ここにプールを?! そ、それを満たす程の真水を?!」
「だからそれはさすがにだめだろうと思って、海水を沸かしたのにしたらって私は言ったんだ」
「扶桑のお船のお風呂はそういう作りになってるんだよ。熱いお湯に浸かると一日の疲れも吹っ飛ぶよー」
卜部、天音の説明で、何をしようとしてたのかジェシカもようやく頭の中に造詣が浮かび上がってきた。
「ひぇ、扶桑の船はすごい仕掛けしてますね……」
天音のにこやかな顔を見ると、それはホントのことのようだが、ジェシカの回転の早い頭には、それを今ここで急ごしらえで実現させようとした場合に起こり得そうなリスクが次々と列挙されてきた。
「か、海水を沸かして持ってくる設備がありません。ボイラーで沸かしてポンプで移送? 消火用ポンプじゃ勢いがあり過ぎて人吹っ飛ばしちゃいそうだし、使い終わった後そのお湯捨てるのも、そこの排水口で足りるかしら。あふれかえって逆流……。やだ、その前にもし万が一プールが決壊したらここの居住区に水が雪崩込んで……。艦の動揺でもこぼれるかもしれないし……」
若干12歳とはいえジェシカも士官。しかもウィッチ隊の隊長という肩書も持ってる。女性区画の管理責任の一翼も担っている者としては許容しきれないリスクだ。
「ドラム缶風呂なんてのもありましたよねえ」
天音が言うと芳佳がポンと手を叩いた。
「工兵隊がいない最前線部隊でもできるお風呂の定番だね。2人くらいしか一緒には入れないけど、お風呂の気持ちよさは十分堪能できるし、たいてい野外だから露天風呂の解放感も味わえる立派はお風呂だよ」
「そ、それはどういう……」
「ドラム缶に水を張って、下で火を焚いてお湯にして、そこに入るの」
「火を焚く?! やだ、ここで?! 元給油艦で油満載のサンガモンで火を焚く!」
ジェシカ卒倒しそうになった。
さらにジェシカの頭に浮かんだ情景は、焚火の上にかけられた薬缶か鍋に人が入っている姿。
扶桑って一応先進国じゃなかったっけ?!
「み、皆さんに寛いでもらいたいのは山々ですが、この区画を管理監督する立場としてはちょっと……やだもう、ごめんなさい、ごめんなさい」
ペコペコペコと平謝りするジェシカに天音が慌てる。
「わあ謝るのはこっちだよ! ごめんね、変なことばっかり思いついちゃって」
「そうかあ。文化が違うと設備や作りも違ってて、無理にやるとうまく行かないのかぁ。お前もしかして……」
卜部は美緒の顔を覗き込む。
「経験あってのことか?」
目線をそらすと美緒はニヤッと口元を引き上げた。
「後も閊えてることだし、早く入ろうよ」
勝田が催促した。卜部も頷くと素早く順番割をする。
「そうだな。それじゃ一番手は坂本、宮藤、秋山、一崎、シィーニー軍曹でいこう」
「「「え?!」」」
秋山、シィーニー、天音がぴょんと飛び跳ねた。
「「「なんで私達が?!」」」
美緒も「飛行機でぬくぬくしてた私が先に入るのは忍びないな」と遠慮がちだ。
「坂本と宮藤はこの後欧州まで長旅だろ? 早く休んだ方がいい。他の3人は褒美だ。暗雲吹っ飛ばした立役者と、でかネウロイの止めを刺した2人。反撃の最初と最後を務めたんだ」
「いい人選だ」
ウィラが頷く。が、シィーニーはおろおろした。
「わ、わ、わたし植民地兵ですよ。名だたる士官様達を差しおいて一番先になんて、そ、そんなお恐れ多いこと……バレたらブリタニアの怖い大尉から何されるか……」
「やですねえ、マレーを代表するウィッチのシィーニーさんが何を遠慮する必要がありますか。それに士官待遇でよいと司令のお達しも出てますし、何の問題もありません」
ジェシカにウインクで返されたシィーニーは、飴玉をもらった子供のようにぱあっと笑顔になった。
「もめて時間を無駄にする方が勿体ない。シャワーだから一番風呂のようにお湯を汚す心配もないしな。宮藤、有難く頂こう」
「はい。……うう、優奈ちゃんと一緒がよかったなあ」
「あの、あの、またここのソープ使ってもいいんでしょうか?!」
両手を胸の前に上げたシィーニーが目を輝かせてジェシカに聞く。
「勿論ですよー。昨日とは違うの試してみて」
「そんなにいっぱい石鹸あるの?」
芳佳が尋ねると、
「これですほら! わは、今日はどれにしようかな~」
とシィーニーが棚に並ぶソープの列を物色する。
「何これ!」
「この綺麗な入れ物、ソープだったんだ。昨日は慌てて入ったから気にも止めなかったよ」
優奈と天音がびっくりしてると、ジェシカが説明した。
「あちこち入港したときのお土産なんですよ。自由に使ってくださいね」
「ありがとう。わあこれ液体? どうやって使うのかな」
「手に取って泡立てればいいんですよ~。シィーニー行きまーす」
そう言うとシィーニーは勢い良くパッパと服を脱ぎ去った。目の前に晒された褐色の全裸に天音は思わず顔を覆ってしまう。
「うわ、シィーニーちゃん潔い……」
天音より1つ年上の14歳というのに、まるっきり成長の悪いシィーニーは天音から見ても幼い。つるピカの体を踊らせて個室に飛び込んでいく。
「す、すみません。お言葉に甘えて先使わせていただきます」
ぺこりと頭を下げて秋山も個室の中に入った。
「あとの者は待機」
と卜部達はシャワールームのすぐ外のドレッサールームへと出ていった。
やっとまともにシャワータイムが始まったと思いきや、お湯使いたい放題というのに美緒は烏の行水のごとくさっさと済ませて出ていってしまった。
暫くしてシィーニーのところから慌てた声が聞こえてくる。
「むわっ、また泡泡が! 前見えない!」
「どうしたの? シィーニーちゃん」
天音が扉の上から顔を出して覗くと、隣の個室から泡が吹き出してる。
「わっ、何これ!」
「またこれがえらく泡立ち良くって、な、何にも見えません! わあ、滑った!」
「大丈夫?! シィーニーちゃん!」
天音が慌てて飛び出し、シィーニーのところの扉を開けた。開けただけで中から泡が、ももももっと溢れ出てきた。
「な、なにこれ~? シィーニーちゃん!」
天音は泡を掻き分けて中に飛び込んだ。手を伸ばして左右に振るが、泡の中には何もない。すると足の甲を誰かに撫でられた。
「きゃっ!」
「あれ、誰です?」
下の方から声が聞こえてくる。
「シィーニーちゃん? 下にいるの? わたし、天音だよ」
「アマネさん?」
スネを掴まれた。
「下の方なら見えるかと思ったんですが、下までみっちり泡だらけでした。今立ち上がります。ちょっと失礼」
そう言うとシィーニーは天音の膝、そして太ももに手を這わせ、這い上がってくる。
「え?! シィーニーちゃんくすぐったいよ。いや、ちょっと、そのまま上に来ないで……」
「すみません。見えなくって、掴まるところがないと立ち上がれないもので」
そう言って内股をゆっくりと這い上がってきた。手の平は泡に塗れてヌルヌルとしているので、何度も滑って内股の肌を撫でる。
「やぁんっ、だめ」
そしてようやくのこと両足の付け根に到達した。天音がビクンと震える。
「だ、だめだってぇ! あぅん」
ぬるぬるした手はそのまま上へ伝い上がってきたが、おへその下の方で止まった。
「??」
シィーニーの手がその小さな丘の上をゆっくりと撫でる。
「何するの、やあ、変なとこ撫でないで」
「アマネさんは仲間だと思ってたのに、う、裏切られました!」
「え、え?」
「アマネさん、大人になってきてるじゃないですか! ほんのちょっぴりだけど」
ヴィーナスの丘陵地帯で見つけたものをシィーニーはちょっとだけ引っ張る。
「えー? そ、そりゃあもうわたしだって中等生だし……」
「年上のわたしがまだなのに!」
「シィーニーちゃんは栄養足りてないんだよぉ。ちゃんと食べてる?」
「ブリタニアの食事を知らないんですか? 3日と堪えられません」
シィーニーは天音に置いた両の手をお腹から更にその上まで這わせて、ようやく立ち上がった。手の平はそこの小さな起伏の上で止まったまま。やがて確かめるように円を描く。
「お胸は同じくらいなのに。なんか負けた気がします……」
「シィーニーちゃん揉まないで! あぁ~ん」
そこへざあーっとシャワーのお湯が降ってきた。
「シィーニーさん、またですか? 昨日といい今日といい、なんでこんなに泡立てられるんです?」
大量にあった泡が次第に流されていく。それは秋山だった。バスタオルを巻いて出てくると、天音のいたところのシャワーを伸ばしてきてお湯をかけたのだ。泡の中から正面向き合って立つ二人が出てきた。シィーニーの手が天音の胸に伸び、まだ頼りない小さな膨らみを掴んでいる。天音は頬を桃色に染め、悩ましいというか困惑した顔で秋山を見ると、恥ずかしさで「ひゃあ」とあっちに上体をそむけた。
「シィーニーさん、人の事とやかく言えないじゃないですか」
「違います。これは身体検査というやつです」
「い、言っときますけど、私とレアさんは裸で触れ合ったりはしてないですからね!」
「それも時間の問題のような気が……。アマネさん、お肌真っ白できれいですねぇ」
天音の胸に置かれたシィーニーの褐色の手が対比になるせいか、天音の白さが際立って見える。
「女の子同士って、思ったより悪くないですね……」
「えぇ? シィーニーちゃん、そ、そういうの好きなの?!」
「女の子同士なら安全だけど、人前ではやめようね。目のやり場に困るから」
と言うもののまんざらでもなさそうな表情で間に入ったのは芳佳。
「ご、ごめんなさい! シィーニーちゃん、もう手どけて~」
その時、優奈がシャワールームに大慌てで飛び込んできた。
「秋山さん!」
優奈はなぜか皆が一つのシャワー個室の前に集まってるのに怪訝な表情をしたが、すぐ真顔に戻った。
「ナドー少尉の意識が戻ったそうです!」
秋山は大きく息を吸い込んだ。
「レアさん!」
秋山がダッシュして駆け出した。
シャワールームから飛び出し、そのまま一直線に外へ向かおうとする秋山を見て、ジェシカの目が点になった。
「やだ、秋山さん待って!」
見事なアメフトのディフェンダー張りのタックルをかますと、秋山の体を覆っていたバスタオルが空を飛び、もつれた二人は床にダーンと倒れ込んだ。
「だめです、そのまま行っちゃだめでーす!」
それで秋山も気が付いた。
「きゃーっ!!」
「医療区画は男性もいるんですよー!」
「わ、わかりました! だから放して!」
必死にしがみついているジェシカの顔は秋山のお尻に埋まっていた。出てきた天音とシィーニーと芳佳も思わず顔を赤らめた。
「うわぁ」
「女しかいない環境はやっぱりどこかおかしいですねえ。ジェシカ少尉もあっちの人みたいです」
「ここも大変だね……」
シィーニーちゃんは意外と経験豊かです。のちにまた皆をびっくりさせます。
次回はケイズリポートに出てくる話と女性の話のとっかかり。