水音の乙女   作:RightWorld

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2020/4/27 脱字修正しました。
報告感謝です。 >死神の逆位置さん





第140話「スターデストロイヤー現る」

北水道を出たところのタンジャン島とペンジャリン島に囲まれた広い水域で隊形を整えた船団はいよいよ出発した。船団の隊形は縦に10隻並んだ列が4列。列の間隔は1kmで、各船の前後間隔は500m。なので縦4.5km、横3kmという大きさになり、今まで12航戦が護衛してきた船団の倍の規模である。この船団の回りを護衛駆逐艦が固め、後方に護衛空母が付く。

 

船団は10kmほど北上し、船団最後尾がタンジャン島の北端を越えたところで一斉に西へと回頭した。これによって横4列だった船団は横10列、各列は4隻の隊形へと変わった。各船間隔も修正されると、船団は横9km、縦1.5kmという極端に横に長い隊形になった。

この横長の船団隊形というのは、リベリオンの数学者や統計学者というおよそ戦闘とは関係ない人達が、全く違ったアプローチで潜水艦からの攻撃に強い隊形とはどういうものかを考えた末、導き出したものだ。HK05船団は商船40隻なのでこの大きさだが、我々の世界のWWⅡではイギリスへ向かう船団の場合80隻という規模にもなり、横幅は12km、縦2kmという隊列で大西洋を横断した。この規模を護衛艦8隻程度、護衛空母1隻で守ったのである。

天音の世界でもこんな規模の船団を編成しなければならない事態にならなければいいのだが。

 

 

 

 

船団の対潜警戒部隊は、北水道出口と南水道から入り込んだ潜水型ネウロイへの対応で乱され、まだ元通りにはなってなかった。西へ針路を取るHK05船団の針路前方5kmでは天音が船団前方と周辺の水中を見張っている。その外側を空母のアヴェンジャー雷撃機の編隊がレーダーと磁気探知機で哨戒していた。千里、西條、ジョデルは爆雷と燃料補給のため母艦に戻っていた。

 

ジェシカはジョデルの補給が終わるまで飛び続け、主に船団泊地や泊地諸島の南方などを偵察、ネウロイの動向を探っていた。泊地を襲ったネウロイは見張りと強行偵察だった。本体がどこかにいるはずだ。

 

≪ジェシカ。こちらジョデル・デラニー。補給と再爆装が終わったわ。まもなく発艦するから戻ってきて。今どこ?≫

 

「こちらジェシカ・ブッシュ。現在位置は泊地の南水道付近。これよりサンガモンに戻ります。ジョディ、私シアンタン島の西の海を偵察ついでに北上して空母に戻るわね」

 

≪わかったわ。そのルート、もしかして天音さんの顔でも拝んでいくの?≫

 

「やだぁ、それいいわねぇ」

 

シアンタン島を飛び越え西側の海へ出た。こっちへ回ったのはちょっと気がかりがあったからだ。

島の西側の海に出ると、ジェシカはすぐ北へは変針せず、そのまま飛び続けた。赤紫に輝く水中透視眼が海の中を見渡す。

 

「島の西側の海はあまり濁ってないわ。深いせいかな。海底まで見える」

 

右の遠方に小島を認めると速度を落とした。

 

「確かこの辺だったわよね」

 

だがいつまで経っても思っていた海底地形が見えない。

 

「あれ? おかしいわ。間違ったかな?」

 

旋回すると来た方、島に向かって戻る。しばらくするとシアンタン島が近付いてきた。

 

「やだ、ちょっと、やっぱりおかしい! ジョディ!」

 

≪こちらジョデル。どうしたのジェシカ?≫

 

「ジョディ、あの三角の窪んでる海底地形がないの! この辺にあったよね?!」

 

≪窪んでるる地形? ああ、あれ? あれ長さ500m、深さ10mの段差でしょ。見逃すはずないでしょ≫

 

「だ、だよね。だとしたらちょっと、やだあ」

 

≪どういうこと?≫

 

「段差がなくなってる。つまり……何かがあそこにはまってるってことよ!」

 

≪な、なにが?≫

 

「絶対あの形の超大型ネウロイ。きっと擬態してるんだわ!」

 

≪な、なんですって?!≫

 

「サンガモンコントロール、こちらジェシカ・ブッシュ。シアンタン島西側の海を飛行中。ここの海底にあったはずの大きな三角の窪地が見当たりません。ネウロイがはまっている可能性あり。もう少し詳しく調べます」

 

≪サンガモンコントロール了解。気を付けて調査せよ。デラニー少尉、発艦したらブッシュ少尉と合流せよ≫

≪サンガモン、こちらミミズク。うちの西條中尉とカツオドリも補給完了次第向かわせる≫

 

ジェシカはもう一度島の方からアプローチし、見逃さないよう細心の注意をもって海底を観察した。

 

不自然な地形が必ずあるはず。多分あんな形のが……

 

そして予想していた地形を見つけた。微妙だが長い直線的な珊瑚礁の違いだ。

 

「あった! ってことはこの内側が全部ネウロイ?」

 

見渡す限りとは言わないが視界の大部分、長さ500m、幅300mが全部ネウロイの体だと言うのだ。

 

「や、やだぁ、2000ポンド爆弾でも沈みそうにないわよこれ」

 

ネウロイの上部は意外と起伏に富んでいる。大きな畑の畝のようなのが幾筋も並んでいるようにも見える。外周を確認したら、次は内側を調べようと上を飛び回っていると、ネウロイも珊瑚礁のふりをしてるのがばれてると気付いたようで、海底地震のように地響きをたてて動き出した。外周に沿って泡と泥が舞い、浮上を始める。

 

「ああ、動き出した! サンガモンコントロール、こちらジェシカ・ブッシュ、ネウロイが動き出しました! 予想通り巨大な三角形のネウロイです!」

 

≪こちらサンガモンコントロール。どこへ向かうか接触を保ち報告を続けよ≫

 

「了解!」

 

あまりに広大なため、動いているのが自分なのかネウロイなのか、見分けがつきにくい。

 

「ゆっくり浮上、海底を這う用に移動してます。速度約5ノット、方角は……北です!」

 

北、つまり船団がいる方向だ。

 

「なんとか足止めできないかしら」

 

ジェシカはアヴェジャーの爆弾倉の扉を開ける。が、爆雷は既に使い切っている。

 

「天音先生いればチャンスだったのに~。これだけ大きければ爆弾切り離すことさえできれば命中できますよー」

 

その時、擬態した巨大ネウロイの上部で幾筋も並んでいた畝のような部分が光ると、次々と切り離された。それらの擬態が解かれると、なんと潜水型ネウロイになった。その数10隻。

 

「うわあ、やだこれ、やっぱり潜水型ネウロイの母艦だあ!」

 

巨大ネウロイは上昇を続け、とうとう海上に浮上した。体が波打つように揺らいで見えると、ぼこぼこしていたサンゴ礁がなくなり、擬態が解かれ、ハニカム模様のついた黒い躯体へと変化した。

楔型の二等辺三角形の艦体。底辺側の広い甲板に菱餅を積み重ねたような構造物と、その上の後ろ端にまるで艦橋のような横長の構造物が付いている。上部左右には丸いレーダードームのようなものまで乗っていて、いかにも艦橋っぽく見える。その全体像は、まさにどこかの宇宙戦艦『恒星破壊者(スターデストロイヤー)』そのものだった。

楔型の巨大ネウロイは浮上状態のまま、潜水型ネウロイを露払いにして船団の方へ向け本格的に進撃を始めた。上空を飛ぶジェシカが逐一詳細をサンガモンの司令部へ報告する。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

ジェシカの報告を聞いたTF77.1(タフィー1)司令部ではこのネウロイについて色々な憶測が出ていたが、もう認めざる得なかった。

 

「もはやこれは潜水型ネウロイではない。新たな形態、水上型が現れたということだ」

「水上型……」

「500mのですか?」

「単なる水上型じゃないですよ。あいつは母艦です。言うなれば水上要塞型です」

「……我々の水上艦で倒せるのでしょうか」

「戦艦の主砲ならどうだ」

「まてまて、我が艦隊に戦艦などないぞ!」

 

≪ネウロイがビームを発砲!≫

 

ジェシカの絶叫が聞こえてきた。

 

 




110話で見つかった海底の窪みは本当にスターデストロイヤーのものだったようです。

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