水音の乙女   作:RightWorld

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2017/6/24
誤字修正しました。
報告感謝です。 >(ΦωΦ)さん





第14話:あの時の想い再び

 

天音が横川少佐達と家に帰ると、仕事に行ってるはずのお父さんがもう家にいてびっくりした。

奥の部屋に通された横川少佐が挨拶を済ませると、さっそく本題に入った。

横川少佐は、ここ最近南シナ海で起きている出来事を説明し始めた。

 

・・・

 

東南アジアの海で水の中に潜むネウロイが初めて観測され、それによる攻撃があったこと。

 

それは決して遠くの出来事というわけにはいかない。実際に存在しなくても、いるかもしれないという恐怖だけで船の運航が支障をきたすこと。

 

海運がストップすると海洋国家である扶桑は国の存亡に係わること。

 

そしていまだブリタニア、扶桑の海軍をもってしても退治どころか、見つけることさえできないでいること。

 

・・・

 

「あなたの固有魔法なら、この危機を打開できる。私達はそう確信しているのよ」

 

天音はまだ不審がっていた。

 

「わたし、お魚は見つけられるけど、ネウロイなんて、見つけられるんでしょうか……」

「試してみましょうよ」

 

横川少佐は出されていたお茶を飲んで口を湿らせた。

 

「この潜水型ネウロイが報告されたとき、あなたのことを真っ先に思い出したのは、今ロマーニャの504統合戦闘航空団で戦闘隊長をしている竹井大尉よ。あなたが9歳のとき、最初にウィッチ適性検査をした人。覚えてる?」

 

最初に適性検査をした人……。

優しそうなお姉さんという感じの人だった。戦闘隊長なんてすごい勇ましそうなことしそうな人には見えなかったな。

 

「ええ、覚えてます」

「彼女はリバウから戻った後、国内のウィッチ発掘をしつつ、欧州に新しい統合戦闘航空団を作るためにあちこち回ってたけど、一崎さんのような能力を持った人には未だ巡り合ったことがないと言っていたわ。ナイトウィッチに水中を探査できるか試してもらったけど、だめだったと言ってたし。先日電話で話をしたばかりだから、記録は今も更新中よ」

 

天音は少し恥ずかしくなってきた。すごい褒め言葉だもの。

 

「ただ知られてない力なだけに、軍の中でも一崎さんの能力に疑問を持つものがいるのは確か。でも竹井大尉だけでなく、私も絶対いけると思ってる。私は国内専門の教官だから扶桑のウィッチしか見てないけど、半年前に検査させてもらったとき、こんな能力を持ってる人、他に聞いたことがないというだけじゃなくて、魔法力の制御の確かさとか洗練さというものが、その辺のウィッチとはまるで違ってた。あなたは小さいときから魔法力が発現していたこともあるけど、竹井大尉に言われてその後も魔法の使い方をずっと研究していたそうですね」

 

『その魔法力、磨きをかけておきなさい。また迎えに来るから』

 

竹井大尉に掛けられた言葉を思い出した。

嬉しかった。わたしでも世界を救う力になれる。だから励んだんだ。実際、いろいろ力を試していくにつれていろいろできるようになっていくことが楽しかった。

 

「洗練された力の使い方は、その鍛錬の賜物だわ。よく頑張ったわね」

 

横川少佐は天音の両手を取って握りしめた。

 

「あなたの固有魔法はすぐにでも使えます。だから是非とも一崎さんを連れて行きたいと思っている」

 

忘れていた自分を役立てたいという感覚が甦ってきて、天音は顔が少しずつ紅潮してきた。

しかし横川少佐はそこで厳しい顔になると、天音の両親の方に顔を向けた。

 

「ただそれは、この子を戦場に連れていくということでもある。これには本人の意志も大事だけど、ご家族のご理解もあってのことです」

 

両親は既に不安でいっぱいな顔をしていた。当然だろう。優奈をはじめ、周りでウィッチを送り出した家をいくつか見てきた両親は、特に欧州の大きな作戦に参加するという話を聞くと、その家族の心労は想像を絶するものがあるということを知っていた。今回のネウロイは欧州ではないが、人類未経験の新しいネウロイが相手という時点で、既に危険度は欧州での戦いと遜色ない。

 

「無理に……、行かなくてもいいんだよ」

 

お母さんが両手を胸の前で組んで懇願するように言った。

 

「強制はされないんですよね?」

 

お父さんは横川少佐に尋ねた。

 

「そうですね、強制はできません」

 

横川少佐は再びお茶で口を湿らせた。

 

「ただ、状況の変化は一月もしないで扶桑にも現れてくるでしょう。備蓄品のないものから扶桑は物が欠乏していく。次第に補給の途絶えた欧州各地の扶桑の部隊も動けなくなっていく。そして彼らが支援している欧州各国にも影響が出て、戦線が崩壊することも十分あり得る」

「そんな大袈裟な……。今までいてもいなくても何の影響もなかったわたしが、いきなり今日からわたし一人がいないだけで世界がそんなふうになるなんて言われても……」

「さっきも言った通り、状況は一変したんですよ。もし扶桑やブリタニアが打開策を見つけられなければ、本当にそうなります。そして扶桑の打開策は……」

 

横川少佐は天音の目をまっすぐに捉えた。

 

「一崎さん、あなたなのです」

 

天音は正座している畳に目を落とした。目だけゆっくり持ち上げて、横川少佐の肩越しに自分の机に目を向けた。そこには優奈と一緒に撮った写真があった。最近届いた優奈の写真、どこか戦地で撮ったらしいあの雪景色の港の写真もあった。

 

『一緒に世界を救おうね!』

 

優奈の言葉が思い出された。

 

まさに、世界を救うという話じゃないか。夢物語じゃない。わたしの力が必要だと、わたしでなければだめだと、海軍の偉いウィッチの人がわざわざ目の前に来て言っているんだ。

そもそも呼ばれるつもりで今まで何年も鍛錬してきたんじゃないか。

優奈なんか今年になって発現して、すぐに適性検査されて、これまたすぐに海軍に入ることを決めてしまった。何も考えてないんじゃないかと言えば、優奈の事だからあり得なくもないけど、わたしが今更行くのを躊躇ってるなんて、優奈が知ったら何て言うと思う?

 

天音の視線の先を追った横川少佐も、写真に目を留めた。

 

「その写真は筑波優奈さんね。実は彼女も自分の所属部隊の上官に、今回の件で一崎さんを推薦したのよ」

 

天音はびっくりして横川少佐の方へ振り向いた。

 

「優奈が?!」

 

横川はこくりと頷いた。

天音は立ち上がると、自分の机に歩いて行き、その前に正座すると、優奈の写真を取り上げた。

 

『天音の力が必要になる日がきっと来る!』

 

また優奈の声が聞こえた。

 

そうだ。優奈はわたしが来ないなんて微塵も思ってない。それどころか、わたしの力を信じて、呼んでいる!

その時のために今まで力の使い方を磨いてきたんじゃないか。

呼ばれたらわたしは行くよって、あのときから両親にも伝えてたじゃないか。

わたしが使い物になるなら、いかなきゃ。

 

天音は振り返った。

 

「わたしの力が本当に役に立つものなのか、試してください」

 

横川はニッコリ笑った。

 

「準備してください。すぐ行きましょう」

 

 

 

 





天音ちゃん、期待されちゃってます。追い込まれちゃってます。
なにしろ世界にたった一人、という設定です。
でもかつての想いを再び思い起こし、それに応えようとしてます。
強い子ですね。実際いたらオリンピック選手並の心臓の持ち主かもしれません。
もちろんそんな深刻な心情など描くつもりはありませんが。

天音ちゃんの才能に目を付けたもう一人のウィッチ。本家スト魔女でも超有名な竹井醇子をお借りしました。坂本美緒が道端でばったりスカウトしそうなのに対し、竹井醇子は地道に逸材を発掘しているイメージがあります。お二人とも欧州にいるので天音ちゃんとお会いする予定は今のところありませんが、もし第2期が書けるなら・・・再会できるでしょう。

ちなみに磐城ちゃんは外の車のところで待機中です。




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