水音の乙女   作:RightWorld

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第135話「台風一過の海」

 

 

ウィッチ達は朝食も終わり、格納庫ではストライカーユニットに爆装をしたり、点検が行われたりと出撃の準備に忙しい。天音も今日は瑞雲にリベリオン製の50ポンド爆雷2発を翼下に着けた。

 

「爆弾を切り離す訓練しかしたことないんですけど」

「そこまでできればもうネウロイを仕留めたも同然です。後はヤロウの真上で切り離せばいいんですよ」

 

リベリオンの整備兵がニコニコして刷毛とペンキを差し出した。

 

「爆弾に何か一言書きます?」

 

千里のやる爆撃を思い出しつつ刷毛を受け取る。

 

「そんな簡単じゃなかったと思うけどなぁ」

 

刷毛を持って、他の人は何書いてるんだろうとシィーニーを見やると、

 

『ぶっ飛べバーン大尉』

『バーン大尉の超音速熱烈キッス(弾頭に唇の絵付き)』

『私がバーン大尉だ  ←発射したらもう戻らないで下さい』

 

などと見られないのをいいことに、マイティラットのロケット弾に好き放題書いてる。その大尉のことは天音も知ってるので「ははは……」と苦笑する。

 

「何書いてもいいんだよね」

 

と天音はかわいい猫の顔を爆弾の横に書いた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

外は次第に明るくなってきていた。雨は止んでいるが風はまだ収まってない。

最初に出撃する対潜ウィッチの天音とジェシカは飛行甲板に上がった。

 

「うわぁ、外海は波が高そうだなあ。風が収まってくれば少しは良くなるかもしれないけど、しばらくはシールドで海面押さえながらでないと大変だよ。出だしはジェシカちゃん達におんぶに抱っこになっちゃうかも」

 

環礁の外を見やって天音が嘆く。が、ジェシカは海を見ると厳しい顔になった。そして魔法力を発動させる。固有魔法『水中透視眼』を発動した証である赤紫の目が空母の横の海を見る。

遅れてやって来たジョデルが横に立つと、ジェシカは海を見据えたまま言った。

 

「やだどうしよう、ジョディ大変だわ。ハリケーンは半端ないわ」

 

天音がジェシカの顔を見て心配そうに聞く。

 

「どうしたの?」

「ハリケーンで海が撹拌されていて、泡も凄いし、海草とかも千切れて漂って、水中の視界が酷く悪いんです」

「え? 見えないの?」

「見えなくはないんですが、あんまりいいとは言えません。ここの海底もやっと見えてるかなって感じくらい」

 

泊地の水深は深くても10~15m程度しかない。ジョデルも魔法力を発動させると同じように海を見つめた。

 

「外海でこれだとまずいわね」

「少し深く潜られると見えないってこと? 大変だ! 葉山さんに知らせなきゃ」

 

 

 

 

 

今日は卜部の零式水偵に乗って現場指揮をする葉山は、まだ飛行甲板に置かれている零式水偵で準備をしていた。そこへ天音達が駆け寄ってくる。

 

「葉山さん、大変です! ジェシカちゃん達が海の中見えないって!」

「な、何だって? 魔法力の不調か?」

「いえ、ハリケーンのせいで水がすごく濁ってて、海の中の視界が悪いんです」

 

ジョデルが説明する。勝田がリベリオンのパイナップルの缶詰を通信員席に投げ込む手を止めて振り向いた。

 

「あ、やっぱりこういう濁った水は見にくいんだ」

「昨日、潜水型ネウロイを攻撃してた時からやな感じだなぁって思ってたんですが、まさかここまで濁るとは……」

 

ジェシカも肩を落とす。

 

「一崎はどうだ?」

「わたしは大丈夫と思います。濁ってる時に使う用の魔法波がありますし、あのペカン川の河口の茶色い水でも見えてましたから。それより荒れた海に留まってられるかの方がわたしは心配です。いられても海の中見るゆとりがなさそうで……」

「一長一短だねえ」

「濁った水でも平気なんだ。やっぱり天音先生は凄いなあ。それに引き換え私達は……やだわぁ~」

 

リベリオン期待の対潜ウィッチとして送り込まれたジェシカとジョデルだが、実戦に出てみれば出来ないことだらけだ。先に活躍していた世界初の対潜ウィッチ『水音の乙女』こと天音と一緒に戦えることになったのは幸運だったが、かえって実力差を目のあたりにすることになり戦意が下がってくる。しかし天音にはそんな差、1日にしてひっくり返る程度のものだと思っていた。

 

「ジェシカちゃん、わたしも最初からできたわけじゃないから。いろいろ実験して今の方法を見つけたんだよ。思いついたこと何でもやってみるのが肝心だよ」

「そんな急にできるようになりますかぁ?」

「何がきっかけになるかわかんないからね。一つの解決方法が結構応用利くこともよくあるしね」

「そ、そうなんですね。ジョディ、私達も何か方法ないか試そう」

「わかったわ。潜望鏡深度くらいなら今でも見えるし、行かないよりはましだしね。それにシェナンゴやサンティから出撃する哨戒機は磁気探知機積んでるから、彼らも頼りになるわ」

 

卜部もコックピットから起き上がるとスパナ片手に言った。

 

「そういうこと。それぞれのベストを尽くすまでだ。427空も毎度一崎に頼りっぱなしだが、一崎が不調だからって出来ませんとは言えないしな。そんな時は総合力さ。ってことで筑波いるか?」

「優奈は自分のストライカーユニットのところだと思いますけど……」

 

天音が答えると、卜部は「ちょっくら呼んで来い」と言った。

 

「一崎と筑波は今日はペアで動いてもらおう。荒れた海でも一崎が水中探信に集中できるよう、筑波に地ならしさせよう」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

≪対潜哨戒部隊出撃せよ!≫

 

司令部から出撃命令が下った。

スワニー、シェナンゴ、サンティはTBF・アヴェンジャー雷撃機を5機ずつ発艦させる。

サンガモンからは対潜ウィッチのジェシカとジョデルがカタパルトから射出された。

そして海に降ろされた天音と優奈、卜部操縦の零式水偵が水上滑走で北水道へ向かう。

 

「停泊地の中はだいぶ静かになったね」

「優奈~、外海(そとうみ)では足元シールドで大穴開けないでね。前みたいに5mもある穴開けられたら、落ちたら瑞雲のフロート壊れちゃうよ」

「分かってるわよ。今日は2m以内に抑えるよう頑張るから」

「せめてわたしの背丈くらいにしてよ! それだって急に落っことされると恐いんだからね! 優奈はムラッ気が多いんだよ」

「わかった、わかった。あたしも天音くらい魔法制御が完璧にできりゃそんなこと言わないわよ」

 

二人のやり取りを聞いて苦笑する卜部。

 

「筑波もこれでマスターするつもりで一崎によく教わってこい。一崎も丁寧に教えてやれな」

「わたしはいつも丁寧ですぅ」

「天音~、優奈はバカだから理屈で教えたって理解できないんだよ」

「ちょっと勝田さん?!」

「優奈は体で覚えるタイプだから、感覚で理解できるように教えてやりな」

「はぁ~、そうだよねえ、優奈の脳みそは全部筋肉だもんねぇ」

「ねえ、二人共酷くない?!」

 

そこへ先に北水道の外へ出ていたジェシカの叫びがインカムから流れてきた。

 

≪こちらジェシカ・ブッシュ、北水道の先に潜水型ネウロイを発見!≫

 

天音と優奈はとたんに顔を強張らせた。

 

≪北水道から800mに潜水型ネウロイ2隻! こいつら、見張ってたに違いないわ!≫

≪こちらデラニー、応援に行く≫

≪あ、潜ってく! やだ見えなくなる!≫

≪ジェシカ、水面ギリギリまで降りるのよ! 上空から見るより下まで見えるわ!≫

≪な、成る程。おーう、本当だ。ひゃあ!≫

≪ジェシカ?! どうしたのジェシカ?!≫

≪……ひ、低く飛びすぎて波被った。まだ波高いから低空飛行は危険だわ!≫

 

「大騒ぎだね」

 

無線を聞きつつ、勝田は立ち上がって風防からから顔を出して北水道の沖を見る。卜部が横に並ぶ水上脚に向け手を振った。

 

「ウミネコ、キョクアジサシ、早いとこ行って加勢するぞ!」

「「了解!」」

 

 


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