水音の乙女   作:RightWorld

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第102話「427空見参!」

≪こちら扶桑皇国海軍12航戦427空『カツオドリ』。そちらはリベリオンのウィッチか?≫

 

横に着いたウィッチがインカムに話しかけてきた。

 

「え? ふ、扶桑海軍?」

 

形状からして水上ストライカーユニットに間違いない。それゆえ偵察脚かと思ったが、ジェシカのアヴェンジャーよりずっと小さく、にもかかわらず大きな20mmクラスの機関砲を下げている。

 

戦闘機! 扶桑でしか成功していない水上戦闘ストライカーユニットだ!

 

銃口は下を向いているが、ジェシカはその大口径機関砲がさっきまで自分達に照準を合わせていたに違いないと勝手に想像し、急にがくぶると震え始めた。

そんなこんなでどもっていると、インカムにあどけない少女の声が入る。

 

≪方位270、距離950m、深度13m、潜水型ネウロイ3隻。静止状態です。南に向かって魚雷が6本走ってますが、たぶんこのネウロイが発射したものと思います≫

 

下方の水上偵察機の横にいるストライカーユニットの足元が光り輝いていて、そこから青白い波紋が暗闇に放たれていた。

 

≪おっけー。ボクに任せて≫

 

先頭で2機並んでいたうちの片方が、水上滑走のままカーブして隊列を離れた。

 

≪こちら西條、攻撃針路に乗った。ウミネコちゃん、念のため100mまで接近したら教えて≫

≪大丈夫です。針路ぴったりです。あと500m≫

 

真っ黒な海に広がっていく青白いサイリウムライトのような魔法の波紋。

流れるように攻撃に移るウィッチ達。

ジェシカの顔が驚きと喜びで混じったものになった。

 

「も、も、も、もしかして、『水音の乙女』?!」

 

≪西條さん、100mです≫

≪了解! 用意。……投下ー!≫

 

水上攻撃脚『瑞雲』から落とされた大型の125kg爆雷が物凄い量の海水を撒き散らし、一瞬遅れて爆発音が轟く。さらに一瞬待って水中でピカピカとコアが粉砕する光が瞬いた。

 

≪戦果確認!≫

≪ウミネコです。3隻とも木端微塵になってます。撃沈です≫

≪お見事、西條中尉!≫

≪流石です、西條中尉!≫

≪『瑞雲』最高ー!≫

 

水上偵察機の尾翼に埋め込まれたストロボライトがゆっくり点滅を始めた。

 

≪西條中尉、こちらトビ。本機の位置、確認できるか? 必要なら探照灯を点ける≫

≪ありがとうトビ。見えてるから大丈夫。隊列に戻る≫

 

低空を飛んで戻ってきた水上ストライカーユニットが旋回して再び着水し、隊列に戻った。

それを見守っていたジェシカが上ずった声で問いかける。

 

「こ、こちらリベリオン海軍CVW(空母航空団)771、空母サンガモンのウィッチのジェシカ・ブッシュ少尉です。あなた達は水音の乙女と12航戦の対潜ウィッチ部隊の方々ですね?!」

 

≪あ、もしかして香港沖で会ったウィッチさんでしょ。こんにちは。こちらウミネコ≫

 

時折探信波を水中に放っているストライカーユニットのウィッチが手を振った。

 

やっぱり! あれは水音の乙女、一崎天音軍曹だ!

 

ジェシカの顔がヒマワリのように輝き大きな笑顔になった。

 

≪427空、対潜指揮官のミミズクこと葉山少尉だ。HK05船団救援に来た。船団は無事か?≫

 

「こちら空母スワニーのジョデル・デラニー少尉。12航戦は今頃インドシナのはず。なぜここに?」

 

≪427空のK2だよ。その辺はあとあと。状況は?≫

 

ジェシカが低空に下りてきて身振り手振りを加えて説明する。

 

「泊地の南と北から同時に攻撃を仕掛けてきました。防潜網が破られてしまって、魚雷を次々に撃ち込まれてるんです。沈没船が盾になってるんで中まで入ってきてないんですが、このままじゃそれも時間の問題です」

 

≪ネウロイへの対応は?≫

 

「泊地に近付いたのは撃退してますが、遠くから攻撃してくる奴が暗くて探せないんです。可視光が水中にも差し込まないと、わたし達の固有魔法でも見えなくて。あと泊地周辺に設置した簡易灯台の明かりを見失うと帰れなくなるので、航空機も遠くへ行けなくて、偵察範囲を広げられないんです」

 

≪レーダーも使えないもんね。確かにこの暗闇の中を飛べってのは相当危険だよ≫

≪だからボク達も飛ぶのやめて、一塊で水上滑走することにしたんだもんね≫

 

ここに来る闇の中の移動でその苦労を体験してきた勝田と西條が、ジェシカの言う事に理解を示す。

 

≪正常なのは水中だけか。ミミズク了解した。ウミネコ、お前の探知力だけが頼りだ。できるだけ広範囲を見張っておいてくれ≫

≪ウミネコ了解。全方位広域探査も並行します≫

 

零式水偵の横に並ぶ天音の足元がひと際白く明るく光りだした。

 

「ジョディ、見て見て!『水音の乙女』の水中探信だよ!」

 

ジェシカがはしゃぐ。だがジョデルはキッと厳しい目で天音を見下ろした。

 

「あいつ、暗くても見えるの?」

「わたし達とは使ってる魔法が違うのよ。水音の乙女のはアクティブ・ソナーだもん!」

 

ジョデルは面白くないという顔つきだった。

天音の瑞雲の足元が真っ白になるほど光が強くなると、パンッと弾けるように大きな波紋が全周囲に広がった。1分ほどして天音は顔を上げた。

 

「2つ確認しました。ウミネコからの方位280、深度11m、距離3200mに3隻。微速でこちらに向かって来てます。それと方位290、距離9200mに4隻。こちらは静止状態」

 

≪近い方のは位置的にも泊地を攻撃してる奴に違いない。こいつもやっつけとこう≫

≪おっし、次キョクアジサシ行け!≫

 

葉山の攻撃判断に卜部が優奈をなかば煽るように送り出した。

 

≪キョクアジサシ、単独初戦果行きまーす!≫

 

先頭にいたもう1機の水上ストライカーユニットが探照灯を灯すと、弧を描いて水上滑走で暗闇を切り裂いて突入する。

 

 

 


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