Side 昴
落ち着きを取り戻した僕達は改めて話をする為ソファに腰を下ろしていた。
席は僕とエリカさん・・・対面にパオロさんとブラウさん。
サーシャさんは飲み物を用意する為、今は席を外している。
最初に口を開いたのはパウロさんだった。
「さて、昴君・・・急で悪いのだが、君に決めて貰いたい事がある。」
「・・・何でしょうか??」
「君は自分が『カンピオーネ』になった事を理解してくれたかな??
・・・そしてその存在が我々『魔術師』にとってどれ程大きな存在か。」
「はい・・・何となくですが。」
パウロさんは僕の言葉に満足そうに頷くと、真剣な表情で問い掛けて来た。
「だったらいいんだ・・・君は『カンピオーネ』として、これからどうやって生きて行く??」
「あ、あの・・・日本で今迄通りに過ごして往きたいんですけど。」
これは僕の切実な願いだ。
もうあんな怪物と戦う何て御免だ・・・もし目の前で人が襲われているなら別だけど。
僕の答えにパオロさんは静かに首を横に振った。
「・・・すまないがそれは恐らく無理だろう。
脅す様で悪いが『まつろわぬ神』を始め、他の『カンピオーネ』の方達が君を放って置かないだろう。」
「それってどういうことですか・・・。」
「良くも悪くも『カンピオーネ』という存在は目立つんだよ。
今は私達が誤魔化しているが、近い内に君の事は必ず魔術師界全土に知れ渡る。
実際今回の事件も新たな『カンピオーネ』が誕生したのではと騒がれ始めている程だ。」
「それじゃ、僕の事はもう・・・。」
僕はもう逃げられないって事??
平穏な暮らしが送られなくなった事にショックを隠せない。
そんな顔色が悪くなった僕の前に柔らかな香りのする紅茶が置かれた。
「紅茶が入ったから・・・これを飲んで少し落ち着いて。」
優しい笑みを僕に向けるサーシャさんの言葉に従って紅茶を口に運ぶ。
口に入れた瞬間柔らかく優しい香りが口いっぱいに広がり、心の動揺が収まって行くのを感じた。
「・・・とても美味しいです。」
「それは良かったわ!!」
サーシャさんは僕の言葉に嬉しそうな笑顔を浮かべるとそのままブラウさんの隣に座った。
僕が落ち着いた事を確認したパオロさんは再び口を開いた。
「近い内に君の正体がばれるのは避けられないだろう・・・だが、少しの間は大丈夫だ。
昴君にも考える時間が必要だと考えてね・・・ちょっと工作をさせて貰ったよ。」
「・・・工作ですか??」
「あぁ、我々『赤銅黒十字』の総力を上げてあの場所に神を封印した様に細工をして来た。
勿論、見る人が見ればすぐにばれるだろうがね・・・でも君が考える位の時間は確保出来る筈だ。」
僕の為にそこまでしてくれる何て。
・・・一歩間違えれば他の『カンピオーネ』に目を付けられて、結社の危機になるかもしれないのに。
僕の為にここまでしてくれたんだ・・・僕も逃げずに、真剣に考えてみよう。
「僕の為に・・・ありがとうございます。
他の『カンピオーネ』の方達はどういったやり方を取っているんでしょうか??」
「イタリアのカンピオーネ『サルバトーレ卿』は何処の結社にも属していない。
彼はその力だけでイタリアの敬愛と畏怖を我が物としている。」
「イギリスに本拠を置く『アレクサンドル様』は自ら結社を立ち上げている。
中国の『羅濠教主』も同様に自らの結社を持っている・・・と言うより、中国全土を支配しているね。
「アメリカにいる『ジョン・プルートー・スミス様』はちょっと変わった人ね。
自分の正体を身近な人にしか明かさない・・・少数精鋭で活動していると聞いてるわ。」
パオロさん達が代わる代わる他の『カンピオーネ』のやり方を教えてくれた。
僕の印象的には・・・皆さん色んな風に活動しているんだな・・・と言った感じだ。
「最後に日本にいるカンピオーネ『草薙 護堂様』だ・・・この方は君の一つ年上の高校二年生だ。」
「えっ!!高校生ですか!!」
「草薙様は何処の結社にも所属されていないが、自らの傍に数人信頼出来る者を置いている。
そして日本の呪術界とも協力関係を結んでいるという話だ。」
「草薙様が連れている1人にイタリアの大手結社の1つ『青銅黒十字』の騎士が居るわ。
そのおかげで『青銅黒十字』は彼といい関係を築けているみたいよ。」
最後にエリカさんが付け加えた。
それにしても驚いた・・・日本のカンピオーネが僕と同じ高校生だった何て・・・。
「さて、これで全員だ・・・何か参考になったかな??」
「い、いえ・・・余計にどうすればいいのかわからなくなりました。」
そうするのが一番いい形か分からない。
僕自身魔術の世界には疎いから、あまり想像出来ないのが現状だ。
出来る事なら平穏に暮らすのが一番だけど、それが無理だと言うのであれば・・・
僕が考え込んでいるとパオロさんが思い出したかの様に真剣な表情で口を開いた。
「・・・そうだ、これだけは伝えて置かなくてはいけない。」
「何でしょうか??」
「私達『赤銅黒十字』には君がどの様な決断を下そうとも、君を支え続ける準備がある。」
思考を止めてパオロさんに目を向けると、彼に言われた事に僕は唖然とした。
既にイタリアにはカンピオーネの方が居るのに・・・僕なんかを??
「私達にとって君のご両親は命の恩人だ。
それにこの結社には君のご両親にお世話になった者が沢山いる。
これは私達だけじゃない・・・『赤銅黒十字』の総意なんだよ。」
そう言ったブラウさんは決意の籠った視線で僕を見つめていた。
ここまで言ってくれるんだ・・・この時僕の中で覚悟が決まった。
僕の纏う空気が急変した事にパオロさん達は驚きながらも姿勢を正す。
「『誰よりも優しく、そして強く生きろ』・・・それが祖父の最後の言葉でした。
分不相応にもこの様な力を手に入れてしまった僕ですが・・・僕はこの力を誰かの為に使いたい。
・・・それが祖父の最後の教えでもありましたから。
僕はまだ魔術界について何も知りません・・・どうすれはいいのかも全く分からない。
だからお願いします・・・こんな僕で良かったら皆さんの力を貸して貰えないでしょうか。」
僕はこの部屋に居る全員に頭を下げた・・・精一杯の思いと覚悟を乗せて。
頭を下げた僕にパオロさんの優しい声が掛かる。
「頭を上げなさい・・・王が簡単に頭を下げてはいけない。
それに・・・私達の考えは先程伝えた通りだ。
昴君が王としての道を歩むのであれば、我々は我々の全てを持って君を支えよう。」
パオロさんの言葉に僕は頭を上げる。
それを見たパウロさん達は僕の前に並んだかと思うと膝を付き、頭を垂れた。
・・・そして厳かに宣言する。
「これより我等『赤銅黒十字』は『神藤 昴』様を王とし、王の傘下となる事を此処に宣言致します。
・・・これから宜しくお願いします、我等が王よ。」
彼等から僕に向けられる敬愛の視線が何処かむず痒く、僕はそれを誤魔化す様に元気に返事をした。
「はい!!此方こそ宜しくお願いします!!」
『赤銅黒十字』と言う強い味方の出来た僕。
そんな僕はソファに座り直しパオロさん達と今後の方針を考えていた。
「・・・うん、今後の方針としてはこんな所でいいだろう。」
「そうですね・・・これから迷惑を掛けます。」
僕の頼みを嫌な顔一つせず真剣に考えてくれたパオロさん達には顔が上がらない。
話し合いも一段落した所で、サーシャさんがとてもいい笑顔で爆弾を投下してきた。
「昴君、言い忘れてたわ。」
「何ですか、サーシャさん??」
「それがね・・・昴君とエリカちゃん・・・実は婚約者同士なのよ。」
「「えっ!!!!!」」
僕とエリカさんの声が重なった。
エリカさんと婚約??・・・そんな馬鹿な!?
「お、お、お母様??い、いったいどういう事ですか!?・・・私はそんな話聞いた事が。」
エリカさんも顔を真っ赤にして動揺している。
サーシャさんに詰め寄る剣幕が激しくて、怒っている様に見える。
僕が婚約者なのが嫌なのかな・・・何かショックだ。
「あら、エリカちゃん・・・お顔を真っ赤にしちゃって。
でも、この話はあなた達が言い出した事なのよ??」
「「えっ!!!!!」」
再び僕達の声が重なる。
子供の頃に一緒に遊んでいたという話は聞いていたけど・・・そんな話覚えてない!!
「私達が仕事から帰って来た時だったわね。
エリカちゃんが昴君の手を引いてやって来て・・・
『私昴と結婚するわ!!私が傍で守ってあげるの!!』ってエリカちゃんが言ったの。
そしたら昴君も『僕もエリカちゃんと結婚する!!エリカちゃんとずっと一緒にいる!!』って言ったのよ??」
2人とも絶句である。
ぼ、僕は子供の時とはいえ、そんな恥ずかしい事を言っていたのか・・・。
・・・恥ずかし過ぎてエリカさんの方が見れない。
でも、エリカさんの反応も気になって、ちらっと視線を送ってみる。
エリカさんはいつもの凛々しい表情を崩し、顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。
僕達の反応を面白がっている様子のサーシャさんは、更に言葉を続ける。
「それで折角だからって、2人を婚約者同士にしちゃったのよ。
まあ、子供の時に決めた事だし、2人に既に好きな人がいたりしたら破棄してもいいのだけれど・・・。」
チラチラ見ていた僕の視線は、丁度僕に向いたエリカさんの視線と目が合ってしまった。
そして、何とも言えない恥ずかしさに2人して更に顔を赤くする。
これに耐え切れなかったエリカさんは、矢継ぎ早に部屋を出て行ってしまった。
「っ!!私は先に失礼させて頂きます!!」
「あらあら、照れちゃって・・・それで、昴君はどうかしら??」
「あ、あの、僕は・・・。」
逃げられた事にショックを隠し切れない僕はサーシャさんに詰め寄られていた。
最初はなんとか誤魔化そうと考えていたのだが、彼女の迫力に心が折れ、正直に話してしまった。
「エリカさんみたいな綺麗な人が婚約者なんて夢みたいです。
・・・けど今も逃げられちゃいましたし・・・エリカさんが嫌なら解消した方がいいのかなって。」
僕の言葉に残っていた3人は口を開けて唖然としていた・・・僕、おかしな事言ったかな??
最初に我に返ったサーシャさんが更に僕に詰め寄り、肩を掴んで激しく揺す振って来た。
「昴君、それホントに言ってるの!!」
「え、あ、いや、あの、ち、ちょ・・・はい。」
「ははは、エリカも大変だな!!」
「サーシャ、その辺にして置きなさい・・・昴君が限界だよ。」
パウロさん・・・笑ってないでサーシャさんを止めて下さい。
・・・気持ち悪くなっていきました。
ブラウさんの言葉で漸くサーシャさんが離してくれた・・・もっと早く止めて欲しかったです。
目を回している僕に笑みを零しながらパオロさんが告げる。
「昴君、今日の所はもう大丈夫だろう。
他の事はまた明日すればいい、部屋まで案内させるから今日はもう休みなさい。」
「は、はい・・・今日はありがとうございました。」
時計を見ると結構遅い時間だった。
僕は気持ち悪さを我慢しながらお礼を言うと、その場を後にした。
気持ち悪さも収まって、食事も昼を用意してくれた女性が持って来てくれた物を食べた。
お風呂も部屋に付いていたシャワーで済ませた。
着替えが無くて焦ったけど、部屋で見つけたバスローブを借りた。
・・・初めて使ってドキドキしたけど、案外使い心地が良くて驚いた。
やる事も無くなって、そろそろベッドに入ろうとしていた時だった。
コンコン!!
夜も遅い時間、突然扉がノックされ誰かが訪ねて来た。
「ど、何方でしょうか??」
「私よ、昴・・・まだ起きてるかしら??」
遅い時間だからか小さい声で聞き取り辛かったけど、その声は確かにエリカさんだった。
知っている人だと安心して僕は扉を開ける。
「起きてますよ・・・今開けますね。」
扉を開けるとそこにはやはりエリカさんがいた・・・でもその格好に視線を奪われた。
風呂上りだろうか・・・肌は薄っすらと赤く火照っていて色っぽい。
さらに、髪もしっとりと濡れていて妖艶さを際立たせる。
そしてあろう事か・・・身に着けている物はバスローブだけだった。
「こんな時間にごめんなさいね。
中に入れて貰ってもいいかしら??・・・少し話がしたいの。」
「・・・・・・。」
「・・・昴??」
「す、すみません!!ど、どうぞ!!」
何も物を言わない僕に不思議そうに首を傾げるエリカさん。
思わず見惚れてしまい、声が出なかった・・・だってとっても綺麗だったから。
エリカさんは部屋に入るとベッドに腰掛けた・・・僕も他に座る所が無かったから少し離れた所に座る。
エリカさんは座ってからじっと僕の顔を見つめて黙っている・・・じっと見られると恥ずかしいな。
恥ずかしさを我慢出来なくなった僕は、意を決してエリカさんに声を掛ける事にした。
「あ、あの、エリカさん・・・話っていうのは。」
「ああ、ごめんなさい。
先ずはお礼を言わせて頂戴・・・あの時は助けてくれてありがとう。」
突然面と向かってお礼を言われた。
最初は何の事か分からなかったが、恐らくアグニと戦った時の事だろう、と思い至った。
「そんな、お礼何ていいですよ。
あの時・・・エリカさんが居なかったら僕の方が死んでいました。
アグニを倒せたのはエリカさんのお蔭です・・・僕の方こそ、ありがとうございました。」
「ありがとう、そう言ってくれると私も嬉しいわ!!」
僕の素直な気持ちを言葉に乗せてお礼と共に頭を下げた。
エリカさんも嬉しそうに僕の言葉を受け取ってくれた。
・・・そこで僕達の会話は終わってしまう。
どうしようも無い気まずさと感じていた時、ふとエリカさんが近付いて来ている様な気がした。
・・・いや、気のせいじゃない・・・確実に近付いて来ている。
気付かない振りをして来たが、僕を見詰めるエリカさんの瞳は潤んでおり、思わず吸い込まれそうになる。
火照った体も、唇から零れる吐息も・・・その全てが彼女の魅力を最大限に引き立てている。
そんな彼女は等々僕のすぐ隣まで近付いて来ていた。
そして緊張して固まった僕の手の上にそっと自分の手を重ねて来た。
どきっ!!
僕の心臓が跳ね上がる。
エリカさんの手・・・とても暖かくて柔らかい。
思わず本能が暴走しそうになる所を寸前で我に返り、理性を総動員して何とか抑える。
「エ、エリカさん、ど、どうしたんですか??」
「最近は何をしても上手く行かなくて・・・ずっとイライラしてたの。
でもね・・・貴方と一緒に街を回っている時、とても暖かい気持ちになっていた。
久し振りに感じた心地よさに、懐かしさすら感じていた。」
エリカさんは強く僕の手を握り締め、僕の目をじっと見詰める。
とても真剣で・・・でも何処か凄く女らしい表情に僕も吸い込まれて行く。
「あの時は気付かなかったけど、今ならはっきりとわかるわ。
忘れていた筈なのに・・・昴に会って、共に過ごしただけで、あの頃の気持ちを思い出してしまった。
私は貴方に恋したんだと思う・・・いいえ、していたと言うべきね。」
そう言ってエリカさんは微笑んだ・・・その笑みはまるで天使の様だった。
僕は突然の告白に驚きながらも、エリカさんのその笑顔に見惚れ、じっと彼女の言葉に耳を傾ける。
「そして貴方は私の命を救ってくれた。
貴方の小さくて大きな背中に・・・あの見惚れる程華麗な武に・・・私の心は奪われてしまった。
ねえ、昴・・・私はこのまま貴方と結婚したいと・・・貴方と永遠に一緒に居たいと思ってるわ。
・・・貴方は私の事どう思ってるか聞かせてくれないかしら。」
エリカさんは潤んだ瞳で僕を見上げ、垂れかかる様に僕に体重を預ける。
心臓の高鳴りを押さえる事が出来ない。
突然の愛の言葉に驚きを隠せないし、動揺もしている。
でも、エリカさんの瞳に宿る僅かな『恐れ』を見れば・・・彼女の勇気を感じ取る事が出来た。
そして僕も・・・そんな彼女の気持ちに答えたいと思った。
僕は僕の体に寄り掛かるエリカさんの肩の手を置いて少し体を離すと、彼女の瞳を真剣の眼差しで覗き込んだ。
「僕もエリカさんと街を回っていた時、とても楽しかったんです。
それに、エリカさんの横を歩いていると何故かとても安心しました・・・心が落ち着くんです。
あんな感覚は子供の頃以来でした・・・と言っても、子供の頃の事はあまり覚えていないんですけどね。」
はははっ・・・と少し笑ってみる。
うん、緊張して来た・・・自分の気持ちを伝えるってこんなに怖い事なんだな。
エリカさんは僕の言葉に真剣に耳を傾けてくれる。
「でも、昔エリカさんと遊んでたって教えて貰って・・・何となく当時の事を思い出して・・・わかりました。
・・・だからエリカさんと一緒だと安心するんだって。
それに神様に勝てたのだってエリカさんを守る為に戦ったからだと思います。
・・・あの時はエリカさんを守る事しか頭にありませんでしたから。」
僕はそこで一度言葉を切り、改めてエリカさんの瞳を見詰める。
そして覚悟を決めて口を開く。
「エリカさん、僕も声を掛けてくれたあの時から。
・・・いいえ、子供の頃から貴女に恋をしていたんだと思います。
僕でよかったら・・・・・ンっ!!」
それより先は言葉にする事は出来なかった・・・エリカさんの唇に口を塞がれたから。
柔らかい感触が唇から伝わっている・・・それと同時にエリカさんの温もりが僕を優しく包み込む。
「んっ!!・・・・ちゅ!!・・・・・はぁ・・・ありがとう、昴・・・貴方の気持ち、とても嬉しいわ!!」
唇を放すと僕に抱き着き耳元で囁くエリカさん。
とても柔らかくて、いい香りが鼻腔を擽る。
僕も恥ずかしかったけどエリカさんを優しく抱き締め返しす。
「これから宜しくお願いしますね。」
「えぇ、こちらこそ。
私は私の全てを賭けて貴方の傍で、貴方を全力でサポートするわ。」
「僕は何があろうと・・・何が起ころうと・・・何があっても僕も全てを賭けて必ずエリカさんを守ります。」
僕の言葉にエリカさんは嬉しそうに笑みを深めると、僕はそのままベッドに押し倒された。
「ん・・・う~~ん。」
朝・・・柔らかな温もりに包まれながら目を覚ました。
体に纏わり付く柔らかい何かを感じながら、寝ぼけ眼で体を起こす。
その時に初めて違和感に気付いた・・・僕何で服を着てないんだろうと。
いつもなら着ている筈の寝巻を着ていない事を不思議に思っていると、ベッドの中に誰かいる事に気付いた。
恐る恐る布団を捲ると、そこには、有りの侭の姿で気持ち良さそうに眠るエリカさんの姿があった。
彼女の在られも無い姿を見て昨夜の事を思い出した。
そうだった昨日の夜、エリカさんと・・・。
昨夜エリカさんと心を通わせ、そのまま体まで通わせた事を思い出し、顔が熱くなるのを感じる。
ど、ど、ど、どうしよう・・・。
こういう時どうすればいいのか分からず、あたふたしていると・・・。
「んっ・・・。」
と言う艶めかしい声がエリカさんの唇から洩れた。
彼女の方に視線を向ける。
そこにはいつもの凛々しさは鳴りを潜め、あどけない少女の様な表情で目元を擦るエリカさんの姿があった。
「・・・おはよう・・昴・。」
「お、おはようございます・・エ、エリカさん・・。」
エリカさんはゆっくりと体を起こす・・・すると傷1つ無い真っ白な肌が露わになる。
ふくよかな胸も、括れた腰回りも、張りのあるお尻も・・・その全てが目の前で晒されていく。
見ちゃ駄目だと思いながらも、視線を離す事が出来ない。
そんな僕を見て嬉しそうに微笑むと、エリカさんは両腕を僕の首に回し抱き着いて来た。
そしてそのまま唇を塞がれる。
「んっ・・・はぁ・・・おはようのキスよ・。」
「エ、エリカさん。」
目の前で妖艶な笑みを僕に向けるエリカさんは再度キスをしようと顔を近づけて来る。
僕もエリカさんの柔らかい唇を味わいたくて、流されるまま身を任せようと考えている時だった。
「昴君、朝ご飯が出来たわよ!!」
大きな声を上げながらノックも無しに部屋に入って来たのはサーシャさん。
裸で抱き合いキスをしようとしていた僕達と、それを見てしまったサーシャさん。
僕は我に返り、恥ずかしくて顔は真っ赤になり固まってしまった。
逆にエリカさんはすっと僕から離れ、シーツを体に纏わせると、優雅に挨拶を繰り出した。
「おはようございます、お母様。」
「・・・エリカちゃん・・・昴君。」
サーシャさんは僕達を見比べると、顔を俯かせ体を震わせ始めた。
その様子に怒らせてしまったと判断した僕はどうすればいいのかと焦り始める。
それはそうだろう・・・大事な1人娘の体を結婚前に傷付けてしまったのだから・・・。
何か言おうと口を開こうとした時だった・・・サーシャさんは興奮した様に声を上げた。
「あ、あの・・・。」
「やったわね、エリカちゃん!!昴君もおめでとう!!
こうしちゃ居られないわ・・・ブラウにも教えてお祝いしなくちゃ!!」
そう言うとサーシャさんはあっという間に部屋を飛び出してしまった。
嵐の様に去って行ったサーシャさんを呆然と見送る。
そんな僕を見てエリカさんが諭す様に僕に語り掛けて来た。
「・・・お母様はあぁいう方よ。」
「そ、そう・・だったんです・ね。」
エリカさんはベッドを降り、近くにあったバスローブを身に纏うとすっと僕に顔を寄せ僕に口付けを落とす。
触れるだけのキスの後、エリカさんは「また後でね」と微笑むと部屋を後にした。
僕はそんな彼女を見送りながら、朝から色々な事がありすぎて思考が停止してしまったのだった。