正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第08話 両親の誇り

Side 昴

 

「落ち着いたかしら??」

「・・・はい、もう・・大丈夫です。」

 

エリカさんが渡してくれた水を飲み、混乱で熱くなった体を冷ます。

突然告げられた僕が『神殺し』になったという話に混乱していた思考も落ち着きを取り戻す。

・・・あの時感じた嫌な予感の正体はこれだったか。

 

「あの・・・僕が『神殺し』って言うのは。」

「その話は後にしましょう・・・食事の用意が出来たみたいだわ。」

 

そう言ってエリカさんは僕の持っていたコップを受け取り立ち上がった。

結構長い時間固まっていたから、その間に確認しに行ってくれたのかな??

水も目が覚めた時には部屋に無かったと思うし・・・多分そうだろう。

 

僕もベッドから降り、エリカさんの後に続いて部屋を出る。

暫く歩くとエリカさんが一つの扉を開ける。

その部屋の中は八人程が座れる机と椅子が置かれた豪華な部屋だった。

エリカさんが一つの席に進んで行き、椅子を引いてくれる。

 

「さあ、昴・・・ここに座って。」

 

部屋の煌びやかさに圧倒されていた僕は慌ててその席に着く。

エリカさんが僕の隣に座ると料理が運ばれて来た・・・料理を運んできたのはメイド服に身を包んだ女性。

穏やかな、おっとりとした印象の女性は僕と目が合うと、優しい微笑みを浮かべ小さくお辞儀をしてくれた。

少しばかりの恥ずかしさを感じている間にメイドさんは着々と準備を進めて行く。

僕が気付いた時には既に机の上に美味しそうな沢山のイタリア料理が並べられていた。

 

「遠慮しないで、沢山食べていいのよ。」

 

運ばれてきた料理の数々・・・そのどれもが僕の目には輝いて見える。

 

ぐぅ~~~きゅるる~~~

 

思い出したかの様に僕の腹の音が鳴り響く・・・僕は羞恥心を隠す様にその料理の数々に齧り付いた。

本能に任せる様に料理を口に運ぶ。

体が訴えている・・・この体に足りない力を・・・。

この行動に迷いはない・・・戦う体を完成させる為に・・・。

 

机に置いてあった料理は全て平らげた。

スープもパスタも肉も魚もピザもデザートも・・・どれもこれもとれも美味しかった。

僕は満足気に椅子に凭れ掛かり、ナイフとフォークを置いた。

 

「満足出来たかしら??」

 

声のした方に顔を向けるとエリカさんが微笑ましげに僕を見ていた。

食べる事に集中しすぎて気付かなかったけど・・・もしかして食べてた所をずっと見られてたのかな。

力漲る体を小さく縮こまらせながら、羞恥に顔が赤くなってしまった。

 

 

 

「さて、食休みに少しさっきの話の続きをしましょうか。」

 

エリカさんが恥ずかしがっている僕を気遣ってくれたのか、そう口にした。

それに僕は有り難く縋り付く。

 

「あ、はい・・・あの僕が『カンピオーネ』だって・・・。」

「ええ、そうよ・・・昴はあの時の戦闘をどれ位覚えているかしら??」

「アグニとの戦闘ですか??

 ・・・エリカさんの剣がアグニの手に突き刺さって。

 その後『此処しか無い』と思ってあの時出来る最高の技を繰り出して・・・。

 ・・・すみません、その後の事は覚えていません。」

 

そう答えたらエリカさんは少し考え込む様な仕草をしてから、話し始める。

 

「そうなのね・・・なら、その後の話をしましょうか。

 ・・・あの時昴が最後に放った一撃がアグニの体を貫いたの。

 貴方はその一撃に全てを賭けていたんでしょうね・・・その直後、その場に倒れ込んだ。」

「そう・・だったんですか・・・。」

「『カンピオーネ』を生み出す転生の秘儀には『プロメテウス』の弟『エピメテウス』と妻『パンドラ』があらゆる災厄と僅かな希望を詰め込んだ箱の中から見つけたという伝承があるの・・・新たな神殺し誕生に気付いたのね、あの場にパンドラ様が現れた。」

「エリカさん、何もされませんでしたか!?」

 

別の神が現れたと聞いて驚くと共に、エリカさんに被害が無かったのか心配になる。

僕の心配を嬉しそうに受け止めながらエリカさんは話し続ける。

 

「ええ、私何か眼中にも無い感じだったわ。

 『パンドラ様』は新たなる『神殺し』の誕生を祝福する為に現れたの。

 それに応える様にアグニが貴方に言霊を授けて・・・2人共その場から姿を消したわ。

 恐らくアグニは貴方に負けた事により、肉体を保てなくなって消滅。

 パンドラ様は自らの役割が終わったから姿を消したんでしょうね。

 その後、私がここ『赤銅黒十字』に連れて来たの。」

 

僕が神殺し??・・・信じられない。

エリカさんが嘘を吐いているとは思えないけど・・・現実味が全然ない。

 

「信じられないのも無理ないわ・・・でもそれが現実よ。

 貴方は新たな『カンピオーネ』としての生を受けてしまったのよ。」

 

エリカさんのその言葉を最後に二人に沈黙が落ちる。

現状が呑み込めず、沈黙が室内を包み込んでいる時・・・扉がノックされた。

それには心配そうに僕を見守っていたエリカさんが対応した。

 

「・・・どうしたの??」

 

エリカさんの声に扉が開かれ、そこから先程食事の用意をしてくれた女性が入って来た。

彼女は丁寧に頭を下げると・・・。

 

「パオロ様、ブラウ様、サーシャ様がお戻りになられました。」

「そう、叔父様達が戻られたの・・・ありがとう、アンナ。

 さぁ、昴・・・行くわよ!!」

「え!?・・・行くって何処へ??」

 

エリカさんは混乱の中にある僕を引っ張って席を立たせ、そのまま手を引いて部屋から連れ出した。

アンナと呼ばれたメイドさんはその様子を穏やかな笑顔で見送っていた。

 

「あ、あの、エリカさん??」

「これから貴方の今後について話し合うのよ。」

「それってどういう・・・。」

 

僕はエリカさんに連れられ、一つの部屋の前に到着する。

僕に何も詳しい説明をする事無くエリカさんはその扉を叩く。

 

「叔父様、エリカです。」

『入りなさい。』

 

中からは低めの男性の声が聞こえた。

許可を貰ったエリカさんは扉を開け、僕の手を取ったまま中に入って行った。

 

 

 

訳が解らない中、取り敢えず部屋の中に目を向ける。

何処かの社長室かの様な机の配置・・・その前には2つのソファが置かれ、ドラマで見た事のある景色だった。

 

部屋の中には2人の男性と1人の女性が居り、彼等は部屋の入口の傍で横に並んで立っていた。

2人の男性は同じ様な顔付きをしている・・・兄弟かな??

澄んだ青い瞳に、端正な顔立ち・・・そして服の上からでもわかる鍛え抜かれた鋼の肉体。

1人は軽く肩にかかる長髪、もう1人は短く刈り上げられオールバックの様な髪型になっている。

 

そして女性の方だが、この人はエリカさんにそっくりだ。

エリカさんが数年かしたら、こんな女性になるだろう姿形をしている。

しかし雰囲気は華やかな雰囲気のエリカさんと違い、かなりおっとりしている様に見受けられる。

 

何て不躾にも彼等の事を観察していた時、女性の方が僕に駆け寄って来たかと思ったら・・・。

 

ぎゅっ!!

 

突然優しく抱き締められた。

えっ!!ええっ!!何??どういう事??

ふわっと香る女性特有の甘い香りとその柔らかさ。

突然の事に驚いたけど・・・いい香りに頭がくらくらしてきた///

 

「お母様!!何してらっしゃるのですか!!早く離れて下さい!!」

 

エリカさんが隣で何か叫んでいるけど、僕にそんな事を気にする余裕はない。

女性は僕を抱き締める力を強めると、エリカさんに向けて口を開く。

 

「何??エリカちゃん嫉妬??・・・ちょっと位いいじゃない!!」

「なっ!!」

 

あぁ、この女性はエリカさんのお母さんなのか・・・道理で似ている筈だ。

理性を保つ為どうでもいい事を考えている時、エリカさんが顔を真っ赤にして僕を見ている事に気付いた。

・・・エリカさんのこんな表情始めて見たなぁ。

 

「サーシャ、その辺りにして擱きなさい。」

「もうちょっとこうして居たかったのに!!」

 

見兼ねたオールバックの男性が助け舟を出してくれた。

エリカさんのお母さん・・・サーシャさんも彼の言葉に漸く僕を開放してくれる。

 

「それにしても大きくなったわね・・・見違える程格好よくなっちゃって。」

 

サーシャさんはそのまま離れるかと思ったら、じっくりと僕の顔を見つめて来た。

間近にエリカさん似の綺麗な顔がある為ドキドキして、顔が赤くなってしまった。

そんな僕の様子を見たエリカさんが、再び声を荒げる。

 

「お母様!!」

「わかったわよ・・・そんなに怒ると美容に悪いわよ??」

 

サーシャさんは再びエリカさんに怒られた事で、やっと離れてくれた・・・かなり渋々と言った感じだったが。

彼女が元居た位置の戻ると、彼等は突然僕の前に跪いた。

隣に居た筈のエリカさんも、何時の間にか彼等の隣に居て、一緒に跪いていた。

 

え??何、この状況??

突然の事で折角落ち着いた思考が再び混乱に陥る。

そんな僕を余所に真ん中を位置取る長髪の男性が頭を下げたまま口を開いた。

 

「新たなる王の誕生、心より祝福致します。

 そして御挨拶が遅れた事、心から謝罪致します。」

 

ど、どうすればいいの!?

突然知らない大人達に頭を下げられ、何やら御大層な事を言われている。

どうすればいいのか分からず、挙動不審に視線を彷徨わせていると、女性二人が肩を揺らしてる事に気付いた。

・・・あ、あれ、絶対笑うのを堪えてるだろ!!

 

「ぷっ!!あははは!!

 ごめんなさい、もう無理よ、我慢出来ない!!」

 

サーシャと呼ばれた人が我慢出来ずに声を上げて笑い出した。

それを切掛けに全員が立ち上がる・・・その表情は皆笑顔で僕に優しい視線を向けていた。

 

「いきなり驚かせて申し訳なかったね。

 新たな王への挨拶だ・・・こういう事はちゃんとして置かないといけなくてね。」

「い、いえ、確かに驚きましたけど・・・いったいどうして??」

「『カンピオーネ』という存在は『まつろわぬ神』に対する唯一の対抗手段と言ってもいい。

 そうなると私達魔術師は『カンピオーネ』に対して先程の様な姿勢を取る必要があるんだよ。」

 

・・・すると何か??

『カンピオーネ』の人達は『魔術師』に対して力がある事を理由に、無理な要求をしてるって事??

 

「まあ、全員がそう言う存在ではないんだけどね。

 それより自己紹介がまだだったね・・・私は結社『赤銅黒十字』の総帥『パオロ・ブランデッリ』だ。」

「私はパオロの弟で『ブラウ・ブランデッリ』だ。」

「私がブラウの妻でエリカちゃんの母親の『サーシャ・ブランデッリ』よ。

 久しぶりね、昴くん・・・また会えて嬉しいわ。」

「え、えっと、神藤 昴・・・です??」

 

皆さんに自己紹介をされたので、釣られて僕も挨拶を返したが、途中で疑問が頭を過る。

久しぶり??・・・さっきサーシャさん久しぶりって言わなかったか??

 

「あ、あの、久しぶりって・・・どういう・・・。」

「あぁ、昴君が覚えていないのも無理はないかな・・・君は幼い時私達と会った事があるんだよ。」

 

はい??・・・僕はこの人達の事なんて何も・・・。

僕は彼等の事を全く知らない・・・失礼に思いながらも問い掛ける。

 

「あの、会った事があるって・・・。」

「そうだね・・・まず君はご両親の事をどれ位覚えている??」

「両親の事ですか??・・・お爺ちゃんに僕が小さい頃に事故で亡くなったとしか聞いていませんけど。」

 

僕がまだ小さかった頃、僕の両親は事故で亡くなったとお爺ちゃんは教えてくれた。

両親が亡くなった後、その時は生きていたお婆ちゃんとお爺ちゃんが僕を引き取ったそうだ。

最初は両親が死んでしまった事に塞ぎ込んでいたらしく、見兼ねたお爺ちゃんが僕に『神道流』を教えてくれた。

両親も『神道流』を習っていた事を知った僕は稽古に打ち込み、暫くしたら元気を取り戻す事が出来た。

けど両親の死はかなりのショックだったのか・・・両親と過ごした日々の事は殆ど覚えていない。

僕がそう伝えるとパオロさん達は寂しそうに・・・でも何処か懐かしそうに両親の事を話し出した。

 

「そうか・・・君のご両親と私達は親友同士だった。

 彼等とは彼等が新婚旅行でイタリアに来ている時に会ってね・・・いや違うな・・・助けられたんだ。」

「そうだったな・・・私達が三人で調査をしている時、はぐれの魔術師連中が神獣の召喚に成功してしまってね。

 その時、危なかった所を彼等が助けてくれたんだよ。」

「危なげ無く神獣を倒す彼等の強さに感動してしまってね。

頭を下げて私達『赤銅黒十字』に特別顧問として招いたんだ。」

 

・・・お父さん達はイタリアに居たんだ。

僕は知らず知らずの内に両親と同じ地を踏んでいたんだ・・・嬉しいな。

 

「彼等には『魔力操作』の指導をして貰ったり、一緒に仕事を熟したりしながら楽しく日々を過ごしていた。

 そんな彼等とも契約期間が切れてね・・・君の両親は日本に帰ったんだ。」

 

両親の事を話すパオロさん達はとても楽しそうで、とても両親と仲の良かった事が伺えた。

今まで口を閉ざしていたサーシャさんも笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「直接は忙しくて会えなかったけど、彼等とは手紙のやり取りはしていたの。

 エリカちゃんが生まれて数年経った頃、彼等が突然訪ねてきたの・・・その時よ、初めて昴君に会ったのは。」

 

サーシャさんから向けられた視線は慈愛に溢れていた。

そんな視線をお爺ちゃん達以外から向けられた事の無かった僕は恥ずかしさに顔が赤くなった。

 

「当時の君は人見知りでね・・・彼等の傍を離れなかったんだ。

 けど、エリカちゃんが無理矢理外に遊びに連れ出してね。

 私達が仕事から帰ってくると二人して仲良く遊んでいたわ・・・それはもう、本当の姉弟みたいにね。」

 

とても嬉しそうに話すサーシャさん。

エリカさんとも小さい頃に出会っていたのか・・・隣でエリカさんも驚いている。

けど、エリカさんに手を引かれた時に感じたあの懐かしい感覚・・・あれは気の所為何かじゃ無かったんだ。

 

「彼等は暫くイタリアに滞在すると言ったから、また一緒に仕事したりして過ごしていたの・・・。」

 

ここでサーシャさんの表情が暗くなり、それを見たブラウさんが代わりに口を開いた。

 

「ある日『まつろわぬ神』の目撃情報が入って、周辺の調査を行ったんだ。

 ・・・私達が現地に到着した時には既に周囲にかなりの被害が出ていた。」

「私達は偶然イタリアに滞在していた神殺しの1人『アレクサンドル・ガスコイン様』。

・・・彼に連絡を取って対処して貰おうとしていたの。」

「連絡も終え、後は『アレク様』が到着するのを待つだけだった。

 ・・・そんな時、普段人間なんか気にも留めない『まつろわぬ神』が私達を視界に捉えたんだ。」

「いいえ、正確に言えば『魔女』の力を持った私を・・・よ。」

 

そう告げたサーシャさんの先程まで見せていた穏やかな雰囲気は身を潜め、鎮痛な表情を浮かべていた。

それは彼女だけでは無い。

彼女の隣に立つブラウさんは彼女を支え、パオロさんも当時を思い出し、酷く悲しそうな表情を浮かべている。

 

「その神は『魔女』に対して異常な執着を持っていてね・・・私に襲い掛かって来たの。

・・・その時私を庇ってブラウが深手を負ってしまった。」

 

サーシャさんは涙を堪えられず、話す事が出来なくなってしまった。

ブラウさんの目にも涙が見えたが、彼はそれを零す事無く泣き崩れたサーシャさんの背中を摩ってあげている。

続きを話し始めたのはパオロさんだった。

 

「私がブラウ達を連れて退却している間に殿を務めてくれたのが昴君・・・君のご両親だった。

 彼等のお蔭で私達は無事に退却、弟は命を取り留める事が出来た。

 その後到着された『アレク様』に『まつろわぬ神』は討伐された。」

 

気丈に話し続けていたパオロさんの言葉がそこで詰まった。

・・・何となく予想は付いている。

「もう話さなくても大丈夫」だと言えればいいんだろうけど・・・それでも僕は最後まで聞きたいと思った。

 

「・・・だが戦闘が終わった後、私達の所に戻って来たのはアレク様だけだった。

アレク様に抱えられる形で戻って来た君の両親は・・・既に息を引き取っていた。

 『・・・遅れてすまなかった』・・・アレク様は最後にそう言い残して去って行った。

 後に聞いた話だが、アレク様が現場に駆け付けた時には既に君のご両親は事切れていたらしい。

 ・・・しかし、その時『まつろわぬ神』もまた満身創痍だったと聞いた。

 君のご両親は『まつろわぬ神』を後一歩の所まで追い込んでいた・・・という事だ。」

 

パオロさんが口を閉じるとサーシャさんに寄り添っていたブラウさんが立ち上がり僕に頭を下げてきた。

サーシャさんもパオロさんも零れ落ちる涙を拭う事もせず謝罪を口にする。

僕の両親の事を始めて聞いたであろうエリカさんですら僕に頭を下げていた。

 

「本当にすまなかった。

・・・俺が怪我何てしなければ、5人で戦っていれば、君のご両親は死ななかったかも知れない。」

「本当にごめんなさい・・・昴君のご両親が死んだのは・・・私達の所為なの!!」

「私はあの時彼等もすぐに引き上げて来る物だと思い込んでいた。

 ・・・私が・・・私があの時すぐに引き返していれば・・・彼等が死ぬ事は無かった。

 謝って済む事では無いと分かっている・・・だが、本当に・・・すまなかった。」

 

僕はそんな彼等を黙って見つめていた。

父と母の死の真相を聞いた・・・というより初めて父と母の事を詳しく知った。

・・・お爺ちゃんもお婆ちゃんも余り教えてくれなかったから。

 

僕は目を閉じ気持ちを落ち着かせる・・・そして1度深く深呼吸すると口を開いた。

 

「皆さん、頭を上げて下さい。」

 

しかし全員頭を上げ様とはしない・・・それでも僕は話し続ける。

 

「僕は皆さんを恨んで何かいませんよ。

 ・・・確かに両親が生きていていれば思った事は何度もあります。

 けど両親の話を聞いて、それ以上に・・・僕は誰かの為に命を賭けられる両親を誇りに思いました。」

 

僕の言葉に顔を上げた4人の目を真っ直ぐ見据えて・・・僕の気持ちが伝わる様に言葉を紡ぐ。

 

「御2人が助かって本当に良かったです。

 だって御2人が死んでしまったら・・・エリカさんが悲しみますから。」

 

そう言って僕は微笑んだ・・・これは僕の心からの気持ちだ。

僕の思いが通じたのだろうか・・・パオロさん達は僕の手を取って涙を零した。

「すまなかった」「ごめんなさい」・・・そして「ありがとう」と呟きながら。

そんな彼等に優しい言葉を掛けながら思う・・・ずっと自分を責め続けていたんだろうな。

 

初めて聞いた両親の話・・・でも何処か両親らしいと思っている自分が居た。

その時、懐かしい気持ちと共に二人の笑顔が脳裏に過った。

懐かしさと喜びと嬉しさと・・・色々な感情が溢れて来て、僕の頬に涙が伝う。

思い出した・・・僕に・・・僕だけに見せてくれていたあの優しい笑顔を。

 

 

 

全員の涙が止まるまで少しばかりの時間を要した。

泣き止んだ所で全員目が赤くなっている事に笑みが零れる。

 

「昴君は統一郎さんと同じ事を言うんだな。」

「お爺ちゃんですか??」

「統一郎さんに謝った時も、私達が助かって良かったと・・・そう言ったんだ。」

「そうだったんですか・・・お爺ちゃんらしいですね。」

「昴君のご両親も同じ様な人だった・・・君は間違い無く彼等の子だな!!」

 

本当にお爺ちゃんらしい・・・武道に関しては厳しかったけど、それ以外は優しい人だったから。

そして最後の言葉に僕の心は喜びと優しさと温かさに包まれた。

 


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