正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第07話 魔術師の世界

Side 昴

 

「ん・・・う~~ん。」

 

気が付くとベッドの上で横になっていた。

周囲を見渡してみるが・・・知らない部屋だ。

 

・・・此処は何処だろう??

 

体を起こして改めて室内を見渡してみるけど・・・こんな部屋に見覚えはない。

シックで落ち着いた感じの室内だが置いてある家具のどれもが一目見て高級品だとわかる位に完成度が高い。

今座っているベッドもふかふかで・・・布団でしか寝た事の無い僕はちょっと落ち着かない。

 

・・・どうして僕はこんな所に居るのぉ??

 

目が覚めたら全く知らない場所にいた為不安になって来た。

流れ落ちた涙を拭いながら挙動不審に周囲を頻りに見渡していると、突然部屋の扉が開いた。

突然の出来事に体の動きが止まってしまい・・・不安と共に頬を涙が伝う。

 

「あら??目が覚めていたのね・・・気分はどうかしら??」

 

扉から入って来たのは知っている人・・・エリカ・ブランデッリさんだった。

しかし、心の中が不安でいっぱいの僕は恐る恐る言葉にする。

 

「エ、エリカ・・・さんですか??」

「えぇ、そうよ。」

 

涙を流す僕に少々驚いていたが、すぐに綺麗な笑顔を浮かべ、ベッドの横に置いてあった椅子に腰掛けた。

エリカさんは椅子に座ると優しい笑みのまま僕の頭に手を置いて優しく撫でてくれた。

それだけで心に充満していた不安は綺麗に無くなった。

 

「突然知らない場所で目覚めて驚いたのね・・・。

大丈夫よ・・・貴方の傍には私が付いてるわ。」

 

エリカさんは頭に置いていた手を放すと僕の頬を伝っていた涙を拭う。

我に返ると、またエリカさんの前で泣いていた事が恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。

 

 

 

そんな僕を微笑ましく見ていたエリカさんだったが、椅子に座り直すと真剣な面持ちで僕を見据えて来た。

 

「怪我の方はもう何ともなさそうね。

 ・・・昴はあの時何があったのか覚えてる??」

「あの時・・・??」

 

エリカさんの言葉に首を傾げる。

さっき怪我って言ってたし・・・僕は・・・・・。

 

「・・・あっ!!」

 

そうだ!!僕はあの時・・・アグニって言う神様と・・・。

あの戦闘を鮮明に思い出した僕は思わずエリカさんに顔を向ける。

 

「あ、あの後どうなりましたか!!」

「落ち着きなさい・・・ちゃんと後で教えてあげるわ。

 ・・・それよりも体におかしい所は無いかしら??」

「おかしい所・・・ですか??」

 

そう言われて改めて自分の体を確認してみる。

確かにあの時の戦いで負った怪我はかなり重症だった筈だ。

ベッドから体を起こして腰を捻ったりと体の調子を確認していったが・・・特に何処も変わった様子は無い。

服を捲って確認してみたけど傷痕一つ残っていなかった。

 

「特におかしな所は何処にも・・・あっ!!」

「どうかしたの!!」

 

何処にも異常が見られなかったのでそう報告しようとした時・・・初めて気が付いた。

僕の体を巡る『氣』の量があり得ない位増えている事に・・・。

 

な、何だこれ・・・僕の『氣』の量はこんなに多くなかったぞ・・・。

 

僕は自分の『氣』を操る事に関しては自信を持っていたので、急に量が増えた事に戸惑いを隠せなかった。

だからエリカさんの言葉にも反応する事が出来なかった。

暫く一人で考え込んでみたけど、結局理由は思い当たらない。

仕方なく顔を上げると、目の前に心配そうに僕の顔を覗き込むエリカさんの姿があった。

 

「うわぁぁぁ!!」

「キャッ!!もう、驚かせないで!!

 それに声を掛けても全然反応しなくなるし・・・心配するじゃない!!」

 

突然声を上げた事に怒られてしまった。

でも仕方ないと思うんだ・・・だって、エリカさんとっても綺麗な人だし。

 

「す、すみません・・・そ、その、エリカさんの顔が近くにあって・・・お、驚いてしまって・・・。」

「・・・ふぅ、それで・・・体に変化があったのよね??」

「は、はい、あ、あの、実は・・・。」

 

全く動じないエリカさんは息を吐くと改めて質問をしてきた。

僕は心が落ち着かなかったが、何とか口を開いて気付いた事を話そうと思ったその時・・・。

 

ぐぅ~~~~~~

 

僕のお腹の音が盛大に鳴り響いてしまった。

あぁ・・・恥ずかしい。

 

「・・・うふふ、少し待っていて頂戴。

今食事を準備する様に指示してくるわ。」

 

エリカさんは可笑しそうに微笑むと、そう言って部屋を出て行った。

ど、ど、どうしよう・・・図々しいとか思われちゃったかな。

後悔を胸に顔を赤くして待って居たら、すぐにエリカさんが戻って来た。

 

「すぐに準備するそうよ、少し待って頂戴ね。」

「い、いえ///すみません///ありがとうございます///」

 

何とか感謝の言葉を絞り出したがエリカさんの顔が恥ずかしくて真面に見れない。

あぁ・・・エリカさんに笑われてる気がするよぉ。

 

 

 

「さて・・・食事の準備が出来るまで、少し話でもしましょうか。」

「は、はい。」

 

まだ恥ずかしかったが、そう言われては相手の顔を見ない訳にはいかない・・・失礼だし。

エリカさんに顔を向けるとその顔は再び真剣な物へと戻っていた。

 

「さっき言い掛けていた事だけど・・・何に気付いたのかしら??」

「あぁ、それは・・・えっと・・・エ、エリカさんって『氣』ってわかりますか??」

「『氣』・・・それは貴方が戦っていた時に使っていた力の事かしら??」

「はい・・・人によっては『魔力』とか『呪力』って言うみたいですけど。」

「その事なら大丈夫よ・・・私にとっては『魔力』の方が耳に慣れてるけどね。」

 

一応確認しておかないと・・・。

何も知らない人からしてみれば、ただの頭の可笑しな人になっちゃうから。

 

「あぁ、話し易い言葉で話してくれて大丈夫よ。」

「ありがとうございます。

 それで『氣』の事なんですけど・・・ちょっと考えられない位『氣』の量が増えてまして・・・。」

「・・・そうなの・・・やっぱり・・・。」

 

僕の気付いた事を報告すると顎に手を当て考え込んでしまった。

うん、とっても絵になります・・・ってそうじゃなくて!!

少しの間考え込んでいたエリカさんだったが、すぐに顔を上げ神妙な面持ちで僕に視線を向ける。

 

「・・・昴は『魔術師』なのかしら??」

「『魔術師』ですか・・・??」

 

『魔術師』って確か道場に『氣』の稽古に来ていた人達がそんな事を言っていた筈だけど・・・。

 ・・・って言うより、本当に『魔術師』だったんだ!!

 

「僕は違いますよ・・・ただ、僕の家は道場でして・・・。

 『神道流』って流派何ですけど、『神道流』では『氣』を使って武術を教えているんです。」

「・・・貴方が使っていた武術ね。」

「でも『氣』を使った『神道流』本来の武術は当主に認められた人にしか教えて貰えない決まり何です。」

「・・・随分と厳しいのね。」

「実際、僕と亡くなったお爺ちゃんしか使える人はいませんでした。」

 

亡くなったという言葉に少し反応を示したエリカさんだったが、その事に付いて口を挿む事は無かった。

 

「道場に通って来る人達の中には『氣』の使い方を教わりに来ていた人達も多く居たんです。」

「『氣』・・・『魔力』の使い方??」

「『神道流』は繊細な『氣』のコントロールが要求されますから、まずは『氣』を自在に操る術を学びます。

 そしてそれが出来る様になって初めて当主に認めて貰えるんです。」

「つまり、貴方の家の道場には多くの『魔術師』が通っていた・・・という事かしら??」

「今思えばそう何だと思います・・・『魔力』や『呪力』と言う言葉もその時に聞きましたから。」

 

実際道場で『氣』の使い方を学ぶのは大人だけで、子供は僕一人だった・・・彼女が居なくなってからは。

彼女の事を思い出して、少し懐かしい気持ちに包まれる。

しかしエリカさんはそんな僕に気付く事も無く少し考えた後、口を開いた。

 

「・・・なら先ずは私達『魔術師』に付いて話すわね。

『魔術師』は『魔力』や『呪力』等の内に秘められた力を消費して、超常の術を扱う者達の事よ。

 勿論、私もその内の1人・・・そして系統は違うけど貴方も『魔術師』に分類される筈よ。」

「僕もですか??」

「えぇ、『魔力』を意図して使う物の事を称して『魔術師』と呼んでいるの。

『魔力』で体を強化、『魔力』を攻撃的な『魔力』に変化・・・特殊だけど『神道流』も立派な『魔術』よ。」

 

そうだったのか・・・知らなかった。

・・・という事は、僕は『魔術』を行使した『武術』を使っていたのか。

初めて知った事実に浮かれている僕にエリカさんは話し続ける。

 

「魔術師は幾つもの『結社』に分かれて活動しているの。

 私が所属しているのは『赤銅黒十字』と呼ばれるイタリアにある由緒ある結社よ。」

「『赤銅黒十字』ですか・・・何かかっこいい名前ですね。」

 

僕の子供っぽい感想にもエリカさんは嬉しそうな笑顔を向けてくれた。

・・・やっぱり自分の所属している所が褒められたら嬉しいんだな。

 

「『赤銅黒十字』はテンプル騎士団の秘術を継承している魔術結社。

 イタリアの結社の中で最強の一つと呼ばれているわ・・・私はその末裔よ。」

「ふえええぇぇぇ~~~~。」

 

・・・って事は、エリカさんはやっぱりお嬢様だったんだ・・・僕、失礼な事して無いよね。

 

「ここはその『赤銅黒十字』本部の客室の1つよ。」

「あ、そうだったんですか。

 ・・・すみません、僕何かが使わせて貰っちゃって。」

「気にしなくていいのよ、私達が勝手にした事なんだから。」

 

恐縮した僕にエリカさんは笑ってくれていた。

 

「『魔術師』としても仕事は幾つかあるわ。

例えば古くから伝わる『魔術』を途絶えさせない事だったり・・・。

『魔術』を悪用する人を取り締まったり・・・色々ね。

その中でも最も重要なのは・・・『まつろわぬ神』が現れた際の対応よ。」

 

『まつろわぬ神』・・・確かエリカさんが『アグニ』の事をそう呼んでいた気がする。

魔術界にとって『まつろわぬ神』は周知の存在なのかな??

 

「『まつろわぬ神』・・・人の紡いだ神話に背いて自侭に流離い、その先々で人々に災いを齎す神々を指すの。

 決して朽ちない肉体を持ち、地上の武器や魔術も通じない。

 闘いが生業の神であればデフォルトで人類最高峰以上の武技を持つ・・・そんな出鱈目な存在よ。

 勿論貴方の戦った『アグニ』も『まつろわぬ神』の1人よ。」

 

自身の顔が青褪めて行くのが分かる。

彼がそんな出鱈目な存在だった何て・・・僕そんな奴と戦ってたのか。

僕がこうして生きている事は殆ど奇跡に近いという事か・・・今になって震えが。

 

「『まつろわぬ神』は自分の神話と縁も無い土地にも表れて災厄を齎す事があるわ・・・今回はその例ね。

 そして・・・神は唯其処に居るだけで人の世に多大な悪影響を及ぼすの。

 今回の『アグニ』の様に火神であれば辺りは炎に包まれ、嵐の神であれば街は台風以上の嵐に見舞われる。」

 

災厄か・・・その通りだ。

炎に街が包まれた光景・・・今でも忘れる事が出来ない。

エリカさんの話が本当であれば、もっと色んな神様が居る筈だ。

もし違う神様が現れていたらアグニと違った被害が出るんだろう。

 

「『まつろわぬ神』に対して幾つかの対処法があるわ。

 まずは嵐か地震の様な物と割り切ってやり過ごす方法。

 次に相手が神格の弱い神であれば、その存在を封じ込める方法。

 ・・・これには長い準備期間と多くの人員が必要になるから簡単に出来る方法では無いわね。」

 

確かに神と呼ばれるだけあってアグニの持つ『氣』の量は凄まじい物だった。

そんな彼等を封印するとなると・・・魔術師にとって命懸けの仕事なんだろうな。

 

「最後にもう1つ・・・神と戦い神を殺める事。」

「えっ!!」

 

エリカさんは神妙な雰囲気で最後にそう言った。

その為彼女の言葉が嘘ではないと理解した・・・でもとてもじゃ無いけど信じられない。

神を殺す??・・・あんな化け物みたいな力を持った存在を??

エリカさんも言っていたけど、そんな事不可能なんじゃ・・・。

考えていた事が顔に出ていたのだろう・・・エリカさんは言葉を続けた。

 

「そう、普通なら天地が引っ繰り返っても在り得ない。

 でもそんな所業を成し遂げる人間が実際に存在するのよ。

 私達は神をも恐れぬ偉業を成し遂げた彼らの事を『カンピオーネ』と呼んでいるわ。」

「『カンピオーネ』・・・。」

「イタリア語でチャンピオンと言う意味ね。

 現在この世界には六人のカンピオーネの方がいらっしゃるわ。」

「ろ、六人もですか!!

神に勝った人がそんなに居る何て・・・凄いなぁ・・・。」

 

神を殺せる人が6人に居るなんて・・・素直に感心してしまう。

と言うより、その人達は本当に人間なんだろうか??・・・と疑ってしまう。

 

「もちろん滅多に誕生しないわ・・・過去に数百年不在だった事なんてザラにあるのよ。

 ここ半世紀は異常なの・・・古参の『神殺し』は1人だけで、後の方々はここ数十年で誕生したのよ。」

「そう・・・なんですか。」

 

そうですよね・・・『神殺し』何て偉業を成し得る人が簡単に現れたら苦労しませんよね。

 

「今は此処イタリア、そしてイギリス・中国・アメリカ・日本に一人ずつ居られるわ。」

「に、日本にもですか!!」

 

驚いてはみた物の・・・心当たりがある。

去年の間に起った様々な騒動・・・並びにその時々に感じた大きな『氣』。

あれは日本に居る『神殺し』と『まつろわぬ神』の戦いだったのか!!

今迄謎だった事が解明され1人満足感を感じていた時に、おかしな事に気が付いた。

 

「エリカさん、今6人いるって言ったのに5人しか言ってませんよ??」

 

この僕の言葉にエリカさんは深く息を吐いた。

そんな彼女の様子を見て僕は何とも言えない嫌な予感を感じた。

・・・もし、この続きを聞いてしまえば、後戻り出来ない様な・・・そんな予感を・・・。

 

「それはそうよ・・・六人目が誕生した事を知っているのは私を含め数人しかいないんだから。」

 

エリカさんは表情を真剣な物から優しい微笑みに変え改めて口を開いた。

・・・何故かその笑みは僕の様子を楽しもうとしている物にしか見えなかった。

 

「おめでとう、昴・・・貴方が新たに生まれた六人目の『神殺し』よ。」

 

嫌な予感は見事に的中・・・僕はその言葉に思考が停止し、固まってしまうのだった。

 


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