正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第06話 神殺しの誕生

Side エリカ

 

私の危機に駆けつけてくれた少年・・・『神道 昴』。

昴は重傷な体を引き摺って・・・再び神に戦いを挑む。

洗練された『魔力』を巧みに操り自身の身体能力を上げ、無理やり動かない体を動かす。

 

初めは炎塊に焼き殺されそうな所を助けられ・・・。

次に『まつろわぬ神』招来の生贄にされそうな所を助けられ・・・。

最後は私が油断した所を庇われ、命を救われた・・・。

何度も傷付き倒れながら・・・体中に重傷を負いながら立ち上がる小さな少年。

 

「僕は・・貴女を置いて・・・逃げたり・・何か・・・しませんよ。

 大丈夫・・です・・・貴女は・・・僕が・絶対に・・・守り抜いて見せますから。」

 

今にも倒れそうな彼から投げ掛けられた言葉に・・・。

心を和らげてくれる笑顔に・・・。

自分より小さな背中のから与えられる安心感に・・・私は高鳴る胸の鼓動を押さえる事が出来なかった。

 

 

 

限界を超えている体で昴が選択した戦い方は・・・インファイトだった。

最初は『神』相手に真っ向勝負など無謀だと思ったのだが・・・昴は相手に攻撃の隙を与え無い。

一瞬の間に懐に潜り込んだ昴は強烈な攻撃を畳み掛ける様に絶え間なく繰り出す。

 

・・・昴はこれ程まで強かったのか。

 

幼いながらも鍛え上げられた肉体・・・重症の中戦い続けられる精神力・・・。

何より、高い魔力耐性を持っている筈の『神』に対してダメージを与える事の出来る見た事の無い『武術』。

しかしそれを可能としているのは武術の力だけでは無い・・・昴の類稀な抜群の『魔力コントロール』。

 

・・・今の私では足手纏いにしかならない。

それでも何か出来る事は無いかと『絶望の言霊』を維持しながら足に治癒魔術を掛ける。

脚の治療が終わり掛けた頃・・・昴が自分の流した血溜まりに足を盗られ体勢を崩した。

その一瞬の隙をアグニは見逃さず、昴に炎塊を持った2本の腕で襲い掛かった。

 

反射的な行動だった・・・私は咄嗟に愛剣『クオレ・ディ・レオーネ』を片方の腕目掛けて投げ付けた。

剣は狙い通りに腕の1つに突き刺さり片腕を弾き飛ばす。

突然の襲来に一瞬動きを止めたアグニ・・・そしてその隙を切っ掛けに昴の猛攻が始まった。

 

流れる様な美しさと、力強さを持った連続攻撃・・・その打撃全てがアグニの胸だけを目掛けて放たれていく。

昴はアグニの反撃を受け、幾つもの重傷を負いながらも、少しも動きが衰えない。

 

・・・そんな昴の姿に私の目は奪われ、無意識の内に彼の名前を叫んでいた・・・彼に届く様に・・・。

 

その直後だった・・・昴の右手に凄まじい量の『魔力』が集められていく。

あの体の何処にあれ程の『魔力』が残っているのだろうか。

そしてその拳を雄叫びと共にアグニに叩き込み、その最後の一撃はアグニの体を貫いた。

 

 

 

昴は全てを出し切り力尽きたのかその場に倒れ伏してしまった。

その隣で胸に穴を開けながらも未だ佇み地面に倒れる昴を見降ろすアグニ。

私は昴を庇う様にアグニの前に立つが・・・アグニは私には目もくれずに豪快に笑っていた。

 

「はははっ、こんな小さな人間にやられてしまうとは・・・本当に現界は面白い!!」

 

アグニは一頻り笑い終えると天を見上げ大声を上げた。

 

「『パンドラ』よ、見ているのであろう。」

「もちろんよ、アグニ様・・・この子が私の新しい息子になるのね。」

 

何もない空間から声が聞こえたかと思うと、私は突然感じた重圧に身動き一つ出来なくなった。

その重圧を発する人物はいつの間にか昴の隣に座っていて、慈しむ様に昴の髪を撫でていた。

 

彼女が『パンドラ』・・・神と人の居る所には必ず顕現する者。

そして、あらゆる災厄と一掴みの希望を与える魔女と言われている存在。

 

「・・・この間『最後の鋼』が打倒されたばかりだというのに。

 このタイミングで新たな息子が誕生する何て・・・。」

 

優しい面持ちで昴の頭を撫で続けるパンドラ。

彼女がこの場に現れたという事は・・・神殺しを生み出す転生の秘儀。

エピメテウスとパンドラが行う愚者と魔女の落とし子を生む暗黒の生誕祭。

つまり・・・私は神殺しの誕生を目の当たりにしている。

 

パンドラは昴の頭から手を放すと、何事も無かったかの様に立ち上がり声高らかに宣言する。

 

「さあ皆様、祝福と増悪をこの子に与えて頂戴。

 最も若き魔王となるこの子に、聖なる言霊を授けて頂戴。」

「いいだろう・・・確か神道 昴と言ったか。

 神殺しの王として新生を遂げるお前に祝福を与えよう。

 お前は私、火神の権能を簒奪した神殺しだ・・・何者よりも熱く・強く・生きて魅せよ!!」

 

パンドラの言葉にアグニは昴に『祝福』を与えた・・・彼の言葉には確かに言霊が宿っていた。

祝福を与え終えるとアグニの体は消え去り、それと同時に気付けばパンドラの姿も消えていた。

 

 

 

神の姿を消した事でこの場に掛かっていた重圧が消えた。

しかし、先程の光景が目に焼き付いていた私は動く事が出来ず、暫く立ち尽くしていた。

 

無理もないだろう・・・目の前で新たな神殺し誕生を目撃したのだから。

 

私は体の至る所に重傷を負いながらも静かに眠る『新たな神殺し・神藤 昴』に視線を向ける。

全身に大小様々な火傷があった筈だが、よく見るとその傷が少しずつ治り始めている。

それを見て、私は改めて実感した・・・この小さな男の子『神道 昴』が神殺しを成し遂げたのだと・・・。

 

しかし、いつまでも放心している訳にはいかない。

我に返った私は叔父である『パオロ・ブランデッリ』に電話を掛ける事にした。

叔父様は殆ど間を置かずに電話に出た。

 

「叔父様、エリカです。」

『エリカ!!無事だったか!!

 突然他の偵察メンバーから街が炎に包まれたと連絡があったんだ。

 それでお前に幾ら電話を掛けても連絡が付かないから心配していたんだ!!

 まつろわぬ神はどうなった??お前に怪我は無いのか??』

 

よほど私の事が心配だったらしい・・・矢継ぎ早に話し掛けて来る叔父様は初めてだ。

大切に思われているのだと感じ嬉しくなるが・・・今は報告が先だ。

 

「私は大丈夫です、叔父様。

 まず要点だけ話します・・・まつろわぬ神は討伐されました。」

『なっ!!どういう事だ!!

 現在その辺りにカンピオーネの方が居るという報告はされていないぞ!!

 いったいどの御方が討伐されたと言うんだ!!』

「いいえ、叔父様・・・現存するカンピオーネの方では御座いません。」

『っ!!まさか・・・そんな事が・・・。』

「はい、新たなカンピオーネが誕生致しました。」

 

電話の向こうで叔父様の息を呑む音が聞こえる・・・流石の叔父様も今回は驚いた事だろう。

暫くの沈黙の後、叔父様が重たい口を開いた。

 

『・・・今その御方は如何している。』

「今は静かに眠っておられます。

 負っていた怪我も徐々に治り始めている状態です。」

『・・・どういった経緯の持ち主か分かるか??』

「魔術師ではありません・・・後は日本人であり、友人と旅行に来ていた少年だという事位です。」

『そうか・・・。』

 

叔父様は私の報告に深く息を吐く・・・そして・・・。

 

『・・・エリカ、その御方はそのままにして今すぐ帰還しなさい。』

 

私はそう言われる事は予想が付いていた。

イタリアには『剣の王』と呼ばれる神殺し『サルバトーレ・ドニ様』が君臨している。

それに名門と呼ばれる結社は特定の神殺しとだけ親密になるのを避けたがる傾向がある。

・・・それは『赤銅黒十字』も例外ではない。

こういった理由からまだ器量定かでない魔王を担ぐ何て事、『赤銅黒十字』の総裁としてする筈も無い。

 

それは理解している・・・でも・・・。

 

「・・・叔父様、私は彼に何度も命を救われました。

 何も知らない彼をこのまま此処に捨て置く等到底出来ません。」

『しかし・・・エリカも理解しているだろう??』

「もちろん理解しています・・・理解した上で彼の保護を願い出ているのです!!」

 

再び二人の間に沈黙が落ちる。

先に動いたのは叔父様だった・・・叔父様は観念した様に一つ息を吐くと・・・。

 

『・・・わかった、新たなる王の誕生だ・・・始めに恩を売っておくのも悪い事では無い。

 その御方の保護を許可しよう・・・一緒に連れて帰って来なさい。』

「っ!!ありがとう、叔父様!!」

 

よかった!!これで一先ず昴の安全を確保する事が出来た!!

この世界の事を何も知らない彼が・・・もし悪い魔術師にでも誑かされたら・・・どうなるか想像に容易い。

 

『新たなる王に付いて何か他に知っている情報は無いか??』

「私が知っている事と言えば、彼が日本人であるという事。

 名前は神藤 昴・・・先程も言った通り友達と観光旅行に来ていた事位です。」

『神藤 昴・・・彼は本当にそう名乗ったのか!?』

「そうですが・・・どうかなさいましたか??」

『他に・・・彼はどうやって神を殺めた??』

「見た事の無い武術を使っていました・・・確か『神道流』と言っていたと思います。」

 

とても動揺しながらも続けて質問してくる叔父様の様子を疑問に思いながら質問に答えて行く。

そして・・・『神道流』と言う言葉に電話越しにも叔父様が酷く驚いた事がわかった。

 

『『神道流』だと!!』

「叔父様は何か知っているのですか!?」

 

私の問いには何も反応を示さず、それきり叔父様は黙り込み何やら考え込んでしまった。

次に口を開いた叔父様は、とても真剣な声色だった。

 

『・・・事情が変わった。

 エリカ、その方は我等『赤銅黒十字』が責任を持って保護する・・・必ず連れ帰って来るんだ!!』

「いったいどういう事ですか!?」

 

突然の変わり様に戸惑いを隠せない。

しかし叔父様は何も教えてはくれなかった。

 

『詳しい事は戻り次第説明する。

 だから急いで戻って来なさい・・・すぐに迎えを送る。』

「・・・わかりました。」

 

有無を言わせぬ物言いにそう返事をする事しか出来ず、通話は切られる。

迎えが来るまでの間、静かに眠る昴を微笑ましそうに眺める。

 

・・・叔父様の様子がおかしかった。

この少年と居ると感じたあの懐かしい気持ち・・・あの感情と何か関係があるのだろうか??

物思いに耽っていると遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。

其方に目を向けると瓦礫を蹴散らしながら、物凄いスピードで此方にやって来る一台の車の姿があった。

見覚えのあるその車を確認すると思わず溜息が出た。

その車は急ブレーキと共に私の横に停まると中から、メイド服を着た少女が飛び出して来た。

 

「エ、エリカ様!!ご無事ですか!!」

「落ち着きなさい、アリアンナ・・・私は大丈夫よ。」

 

慌てた様子で私の体を確認してくる彼女は、私専属の部下である『アリアンナ・ハヤマ・アリアルディ』。

魔法の才能が無く結社を止め様としていた所を私が引き取った少女だ。

魔法の才能は全くと言って無かったが、その代わりに家事などの一般的なスキルが高く重宝している。

幾つか致命的な欠点があるが、それも含めて面白い子だ。

・・・今回の様に疲れがピークに達していなければ・・・の話だが。

 

「・・・本当にご無事で何よりです。」

「心配させて悪かったわね。

 早速で悪いけど・・・そこで眠っている子を頼めるかしら??」

「・・・この子、ですか??」

「えぇ、私の命の恩人なの・・・起こさない様に気を付けてね。」

「この子が!!わ、わかりました!!」

 

彼女は私の言葉に驚いていたが、その後は丁寧に昴の事を抱き上げ車に乗せていた。

私も重たい体を引き摺りながら車に乗り込み、座席に座りしっかりとシートベルトを締め、気合を入れ直す。

 

帰り道・・・彼女の運転に残った体力を全て持って行かれたのは言うまでもない。

 


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