正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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戦闘描写がいつまで経っても上手くなりません。
駄文ですが、楽しんで頂けたらと思います。


第05話 神殺し

Side 昴

 

「無茶よ、昴・・・やめなさい!!」

 

後ろでアグニに向かって駆け出した僕を呼び止めるエリカさんの声が響いたが僕は止まらない。

目の前に居るアグニは右手を僕に向けると、そこから数十の炎塊を放って来た。

『氣』の量から先程と威力の変わらない物が数十・・・あの程度の数と威力なら十分に対処出来る。

 

・・・けどここで『氣』を消費する訳にはいかない。

 

相手は僕よりもかなり多くの『氣』を持っている。

そんな相手に『氣』を普段の稽古の様に消費していけば・・・確実に僕が負ける。

そう判断した僕は脚にだけに『氣』を集めてアグニに近付くまで避け続ける事を選択した。

襲ってくる炎塊を体を少しずらす事によって避けて行く。

 

・・・この程度のスピードだったらお爺ちゃんの正拳突きの方が何倍も速い!!

 

避ける事に集中した為、走るスピードは遅くなってしまったが、炎塊は全て避ける事に成功した。

後ろに居たエリカさんもアグニが炎塊を放った事を確認すると射線上から退避したのは感じ取っていた。

そのお蔭もあって僕は避けるという選択肢を選ぶ事が出来た。

 

僕は一息つく時間も惜しいとアグニに向かう速度を上げようとした時だった。

アグニが僕の方を見て獰猛な笑みを浮かべていたのだ。

 

「ほぅ、この程度は対処するのか。

 ・・・ならば、これならばどうだ!!」

 

感心する様に呟いたかと思うと次の瞬間、百はあろうかと言う数の炎塊がアグニの近くに浮かび上がった。

アグニは再び僕に右手を向けると浮かんでいた炎塊が僕目掛けて一斉に襲い掛かって来た。

 

「くっ!!」

 

何て数だ・・・さっきの比じゃないぞ!!

この数を避けきる事は不可能だと判断した僕は立ち止まり拳を握り締める。

『氣』の消費を抑えたい僕だったが、そうは言ってもいられない。

可能な限り避けて行くが・・・炎塊の数が多すぎる。

僕は避けきれないと判断した炎塊は氣を込めた拳で防いで行く。

 

 

 

時間にして3分程だっただろうか・・・無限に思われた炎塊も何とか耐えきる事が出来た。

しかし、その代償に・・・服は至る所が焼け焦げ、炎塊を防いでいた両腕は酷い火傷を負い、『氣』も想像以上に多く消費してしまった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。」

 

あれだけの攻撃をしたって言うのに、顔色一つ変えない何て・・・。

それにさっきの攻撃を繰り返されたらこっちは体が幾つあっても足りないぞ。

くそっ、こっちは彼奴に近付かないと攻撃も出来ないって言うのに・・・。

このままじゃだめだ・・・何か作戦を考えないと。

 

アグニを倒す方法を考える為に彼から意識を逸らしてしまった。

・・・その一瞬の隙が命取りとなった。

 

「・・・昴っ!!」

 

エリカさん鋭い呼び声に我に返ったが・・・もう遅かった。

目の前に迫る炎塊・・・既に避ける事が出来ない距離まで迫っていた。

 

「がはっ!!」

 

正面から受けた炎塊は腹に直撃。

ギリギリの所で体を『氣』で覆い威力を削ぐ事に成功はしたが、全てを防ぎきる事は出来なかった。

腹に今まで酷使してきた腕以上の火傷を負い、エリカさんが居た辺りまで吹き飛ばされてしまった。

地面に倒れ込んだ僕にエリカさんが駆け寄ってくる。

 

「昴!!」

「・・・大・・丈・夫・・です。」

「大丈夫じゃないでしょう!!

 もういいから・・・後は私がやるから・・・貴方は逃げなさい!!」

「ダメ・です・・・僕が・エリカさんを守るって・・・決めた・・から。」

 

体を起こそうとするが力が入らず上手く行かない。

そんな時・・・アグニの呟きが耳に届いた。

 

「その程度か・・・暇潰しにもならなかったな。」

 

その言葉を聞いた瞬間、僕は『氣』を振り絞って痛めた体を強引に起こす。

腹に激痛が走るが歯を食い縛り耐える。

 

・・・こんな所で倒れる訳にはいかない。

僕が倒れればすぐにエリカさんを生贄にする為に動き出す筈だから・・・。

 

痛みで意識が飛びそうになるが、何とか立ち上がりアグニから視線を外さない。

立ち上がった僕にエリカさんの必死な呼び止める声が掛かる。

 

「やめなさい、昴!!

 このままじゃ、貴方が・・・。」

「僕は逃げませんよ・・・此処で逃げたら・・・一生後悔すると思うから。」

 

僕は心配そうに見上げるエリカさんに笑みを向ける。

しかし・・・その瞳には絶対に逃げないという覚悟と力強さを宿していた。

前を向くと僕には興味を失ったと一目見て分かる程エリカさんだけを見つめるアグニの姿があった。

 

・・・エリカさんに手を出させない。

 

僕は力の入らない体に鞭打って、再びアグニに向けて走り出す。

彼は僕の動きが視界に入ったのか、僕を視界に入れた。

 

「くどいぞ・・・これで終わりだ!!」

 

興味を失った僕に片手間の様に手を向けると、先程の比ではない『氣』の込められた特大の炎塊を放って来た。

後ろでエリカさんの僕を呼ぶ声が聞こえたが、迫り来る炎塊の圧力に気にしている余裕はない。

しかし、僕はここに最大のチャンスを見出した。

 

・・・これなら行けるかもしれない!!

 

僕は今出せる最大の『氣』を拳に込め、その拳を炎塊に向かって振り抜いた。

炎塊に触れた瞬間、熔けるのではないかと思ってしまう程の凄まじい熱が拳を襲う。

それでも全力で振り抜かれた拳によって炎塊の軌道が逸れた。

振り抜いた拳は皮膚が焼け爛れかなり酷い無残な状態になっていたが・・・アグニまでの道が出来た。

感心した様に僕を見つめる彼の一瞬の隙を見逃す訳にはいかない。

 

「『神道流移動術・瞬(またたき)』」

 

小さく呟くと『氣』を込めた脚を使って全力で地面を蹴る。

さっきアグニを殴り飛ばした時にも使った移動法・・・『神道流移動術・瞬(またたき)』

『神道流移動術』の初歩の初歩。

脚に『氣』を込めて全力で地面を蹴る事により爆発的な速さでの移動を可能とする移動術。

今迄は真っ直ぐにしか進めないという欠点があった為使用出来なかった。

しかし隙を作る事に成功した僕はこの技を使い一瞬の間にアグニの懐に入り込んだ。

 

「っ!!いつの間に!!」

 

突然目の前に現れた僕に驚きを隠せないアグニ。

やっと懐に入り込めた・・・ここは僕の間合いだ。

僕は拳に『氣』を込めるとアグニ目掛けて拳を突き出した。

 

「『神道流攻式壱ノ型・波(なみ)』」

 

繰り出した拳を相手に叩き付ける瞬間『氣』も一緒に叩きこむ。

攻撃の意思を持って叩き付けられた『氣』は相手の内部まで浸透して内側から攻撃する。

『神道流攻式壱乃型・波』は『氣』を全身に汲まなくダメージを与えて行く・・・『神道流』の基本となる技だ。

 

「ぐぅ!!嘗めるなぁ!!」

 

彼は一瞬の呻き声の後、怒気と共に腕を振るい僕に襲い掛かる。

僕自身余裕は無かったのでその腕を避けると、そのまま後ろへと後退した。

何とか一発叩き込む事は出来たが・・・アグニの様子を見て気を引き締める。

 

「貴様、やってくれるではないか・・・中々楽しませてくれる。」

「・・・全然効いて無いか。」

 

僕の攻撃を受けても何事も無かったかの様に僕に獰猛な笑みを向けてくるアグニ。

攻撃の感触から効いて無いのは分かっていた。

アグニに拳を叩き込んだ瞬間の抵抗感。

深く入り込み内部を攻撃する筈だった僕の『氣』は人では考えられない抵抗によって阻まれ・・・それは彼の表面を撫でるだけとなった。

・・・恐らくあの凄まじい『氣』が抵抗感の正体だろう。

彼の中に流れる『氣』が僕の流し込んだ『氣』よりも段違いに多く、技の威力も足りなかった。

その為、僕の『氣』を彼の中まで届かせる事が出来なかったのだ。

それにその前の特大の炎塊も1つの要因だろう。

拳の痛みのせいで『氣』の練りが甘くなった・・・微々たる要因かもしれないが。

 

でも、アグニに攻撃を当てる事は分かっただけでも試した甲斐はあった。

・・・もっと『氣』と威力を込めて攻撃すれば何とかなるかもしれない。

 

「そんな物では無いであろう!!もっと私を楽しませて見せろ!!」

 

先程の怒りは何処へ行ったのか・・・彼は獰猛な笑みで再び僕に向かって幾つもの炎塊を放ってくる。

今迄なるべく近付くまで『氣』を消費しない様に戦ってきたが、そんな事を気にしている余裕は無くなった。

酷い怪我を負っている状況で、出し惜しみしている場合じゃない・・・このままじゃさっきの二の舞だ!!

覚悟を決めた僕は迫り来る炎塊に標準を合わせた。

 

「『神道流攻式弐ノ型・さざ波』」

 

僕は両手を正面に向けて腰辺りまで引く。

そして手に込めた『氣』を正面の炎塊に向かって一気に開放した。

 

バンッ!!

 

僕の両手から放たれた『氣』は正面の炎塊とぶつかると激しい爆発を起こした。

『神道流攻式弐ノ型・さざ波』は両手に込めた『氣』を正面に放つ技だ。

これを使って正面から迫っていた炎塊のみを相殺したのだ。

 

勿論正面全ての炎塊を相殺した訳では無い・・・その後ろから幾つもの炎塊が迫っている。

しかしそこに出来た小さな隙間を見逃さなかった。

そこを確認した瞬間、間を置かず空いた隙間に『瞬』を使ってアグニに肉迫した。

再び懐に入り込む事に成功した僕はさっき以上に拳を握り締める。

 

「『神道流攻式参ノ型『連撃・波(れんげき・なみ)』」

 

『氣』で身体能力を上げた体を使い、まず鳩尾に右肘を叩きつける。

そのまま右手の拳で顎を殴り上げ、すぐに左手の拳を鳩尾へ。

最後に首に目掛けて回し蹴りを放つ。

 

流れる様な連続攻撃・・・それが『神道流攻式参ノ型・連撃』。

勿論攻撃の一つ一つは『攻式壱ノ型・波』を使って体の内部まで攻撃している。

淀み無い連続攻撃は見事に決まりアグニの体が吹き飛んでいく。

 

・・・さっきよりも『氣』を込めて決められたし、手応えもあった。

今出せる最高の攻撃が決まった・・・もしこれでダメだったら・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。」

「やるではないか、今のは些か効いたぞ。」

 

膝に手を付きながら声のした方へ顔を向ける。

そこには何事も無かったかの様に立っているアグニの姿があった。

いや、口の端に少し赤い物が付いている・・・僕の攻撃が効いていた証拠だ!!

初めて相手にダメージを与える事が出来た。

でも・・・普通の人間だったら立ち上がれない様な威力だった筈なのに彼は普通に立っている。

・・・致命傷には程遠いという事だ。

 

くそっ!!このままのペースで攻撃していたら確実に僕が負ける!!

でも考えている時間は無い・・・アグニはいつでも僕を攻撃出来る態勢でいる。

・・・威力が高く『氣』を多分に使った攻撃を続けたら何とかなると信じてやるしかない。

既に満身創痍な僕に彼は称える様な声音で話し掛けてきた。

 

「はははっ、人間にここまでダメージを与えられるとは・・・面白い、面白いぞ。

 褒美だ、私の本当の姿を見せてやろう。」

 

アグニが笑みを浮かべながらそう言った瞬間と彼の体が炎に包まれた。

それと同時に彼の氣が出鱈目な程に高まり、周囲に炎を撒き散らせていく。

 

「なっ!!」

 

今迄のプレッシャーが可愛く見える位の『氣』の奔流に体が震え出す。

呆然と見ている事しか出来ない僕の隣にエリカさんが歩み寄って来た。

 

「昴、今すぐ逃げなさい。」

「エ、エリカさん。」

「アグニが真の姿を見せるって事は貴方を敵だと認めたという事よ。

 ・・・貴方のお蔭で時間も稼げた・・・住民の避難も終わってる頃でしょう。

 貴方には感謝しているわ・・・私の失態の尻拭いをしてくれて。」

 

忠告と共に柔らかな笑みを向けて来るエリカさん・・・しかしその笑みには覚悟が隠れている様に感じた。

 

「でも、もういいわ・・・後は私が時間を稼ぐから早く逃げなさい。」

「っ!!此処で逃げる何て出来ませんよ!!

 エリカさんこそ早く避難して・・・。」

 

やっぱりだ・・・エリカさんは命を賭けてでも神を止める覚悟だ。

彼女の覚悟を感じ取った僕は彼女を守る為の説得の言葉を発したが・・・。

 

「逃げなさいって言ってるでしょ!!」

 

それは僕の言葉に被せる様に叫ばれたエリカさんの大声に掻き消された。

その時になって初めて気付いた・・・この状況の中でもいつも騎士の様に気高かった彼女の体が震えている事に。

エリカさんの手の中にある銀色の綺麗な剣もカタカタと震えている事が分かる程に・・・彼女の体は震えていた。

気丈に振舞ってはいるが、よく見れば顔色は悪い・・・かなり不味い状況だと理解させられた。

 

「何だ、逃げる相談か??

 折角楽しくなって来た所ではないか、もっと私を楽しませてくれ!!」

 

僕達は聞こえた声の方に反射的に顔を向けた。

その瞬間アグニの纏っていた炎が晴れた。

そこには赤色の体に炎の衣を纏い、二面二臂で七枚の舌を持つ先程までとは全く違うアグニの姿があった。

あれが彼の言っていた本当の姿なのだろう・・・纏っている『氣』も格段に跳ね上がっている。

 

そしてそれは今まで支えていた僕の覚悟を打ち砕く物だった。

やばい、体の震えが止まらない・・・意識を保つ事だけで精一杯だ。

隣に居るエリカさんも同様だろう・・・今まで以上に体の震えが伝わって来る。

 

「どうした??かかって来ないのなら・・・此方から行くぞ!!」

 

アグニはそう言うと四本ある内の二本の腕にそれぞれ剣と斧を持って此方に迫って来た。

大きな体で、周囲に火の粉を撒き散らしながら襲い掛かって来る『アグニ』。

逃げなくてはいけないと分かっていても恐怖による震えで体が動かない。

そうしている間にもアグニはどんどん近付いて来ている。

彼が射程内に僕を捕え様とした時・・・そんな時に僕の前に飛び出す人がいた。

 

 

 

・・・隣で同じ様に震えていた筈のエリカさんだ。

 

 

 

彼女は僕の方を振り返る事無くアグニから振り下ろされた剣を自らが持つ剣で受け流す。

 

「だから早く逃げなさいって言ったのよ!!

 気をしっかり持ちなさい、神の『神気』に飲まれては駄目よ!!」

 

そう叫びながらエリカさんはアグニを相手取って行く。

一目見て腕の立つ事が分かる剣捌き・・・しかしそれだけの腕を持ってしても『神』には届かない。

防戦一方の中エリカさんは周囲に氣を迸らせながら何やら言葉を紡ぎ始めた。

 

「エリ、エリ、レマ・サバクタニ!主よ、何故我を見捨て給う!

 主よ、真昼に我が呼べど御身は応え給わず。

 夜もまた沈黙のみ。

 されど御身は聖なる御方、イスラエルにて諸々の賛歌をうたわれし者なり!」

 

エリカさんから放たれている『氣』が大気を震わせ周囲の温度を恐ろしい速さで下げていく。

彼女の変化にアグニも警戒したのか一度距離を取った。

 

「我が骨は悉く外れ、我が心は蝋となり、身中に溶けり。

 御身は我を死の塵の内に捨て給う!

 狗どもが我を取り囲み、悪を為す者の群れが我を苛む!」

「ほぅ、呪詛の類か。

 その剣ならば私を傷つける事も可能であろうな。」

 

アグニはエリカさんを感心した様に見つめている。

 

「我が力なる御方よ、我を助け給え、急ぎ給え!

 剣より我が魂魄を救い給え。

 獅子の牙より救い給え。

 野牛の角より救い給え!」

 

炎に囲まれていた筈の周囲の温度が急激に下がった。

それを起こしたのはエリカさんから放たれている冷やかな『氣』。

先程までとは質の変わった『氣』を放つエリカさんは僕の方を振り返る事無く口を開く。

 

「今なら動けるわね・・・私が時間を稼ぐから早く行きなさい。」

「ほぅ・・・その呪詛を持って私に挑むか。」

 

エリカさんはそう言うとアグニに向かって走り出した。

彼女はアグニに迫ると鋭い斬撃を放つ。

しかし彼女の攻撃は簡単に躱され、未だ傷一つ付けられない。

 

「そろそろ、私も反撃するとしようか。」

 

彼はエリカさんの攻撃をいなしながら呟くと、今迄休めていた攻撃を再開させ再びエリカさんに襲いかかった。

右からは剣が・・・左からは斧が・・・次々とエリカさんに襲いかかる。

彼女も何とか捌いているが、彼女からの攻撃の手は完全に止まってしまった。

 

 

 

激しい攻撃を捌く続ける中でエリカさんが一瞬の隙を付いて剣を突き出す。

それはアグニの頬に届き、そこからは一筋の血が流れた・・・神を相手に一太刀入れた瞬間だった。

エリカさんは喜ぶ事も無く、すぐにその場を離れアグニから距離を取る。

 

「ほぅ、私に傷を付けたか・・・中々の武を持っているな。

 ・・・ではこれならばどうだ!!」

 

傷を付けられた事を喜んでいるかの様に笑みを浮かべるアグニ。

彼は先程より強いプレッシャーを放ちながらエリカさんに襲い掛かる。

剣と斧を巧みに使い攻めるアグニをエリカさんも険しい表情を浮かべながらも何とか捌く。

 

「っ!!」

 

2人の攻防の中で今一度アグニに隙が出来た。

エリカさんもそこに気付いたのか再び剣先をそこ目掛けて突き刺そうとしている。

 

けど僕は気付いてしまった・・・それは罠だと。

剣と斧を持つ手・・・しかし今のアグニには腕がもう二本ある。

残る手の内の1つに炎塊を作り、突きを放とうとしているエリカさんを狙っていた。

僕は恐怖で震える体を奮い立たせ、エリカさんに向かって『瞬』を使って飛び付いた。

 

「きゃっ!!」

「ぐぅぅ・・・。」

 

ぎりぎり間に合い彼女に炎塊が当たる事を防ぐ事が出来た。

しかし動かない体を無理やり動かした所為で僕自身が避ける事が出来ず背中に少し喰らってしまった

突然に横からの衝撃に驚くエリカさんだったが、僕の様子を見て口を噤む。

 

「昴、何するの・・・っ!!

 ・・・その背中、私を庇ってくれたの??」

「これ位・・・気に・・しないで・・・下さい。

 それより・・・エリカさんこそ・・大丈夫です・・・か??」

「ええ、大丈夫・・・痛っ!!」

 

火傷を負った僕を心配して支え様としたエリカさんだったが、足を痛めたのか立ち上がる事が出来なかった。

僕は少し動かすだけで激痛の走る体を、精神力を総動員して起こす。

そして心配そうに僕を見つめるエリカさんに向かって優しく微笑んだ。

 

「・・・エリカさん・・後は・・・任せて下さい・・・・・僕が・・何とかしますから。」

「駄目よ、昴!!

 そんな傷で何言ってるの!!逃げなさいって言ったでしょ!!」

「僕は・・貴女を置いて・・・逃げたり・・何か・・・しませんよ。

 大丈夫・・です・・・貴女は・・・僕が・絶対に・・・守り抜いて見せますから。」

 

僕はエリカさんの呼び止める言葉を無視し、痛む体を引き摺ってアグニに向かって歩き出す。

何を思ったのかアグニも満身創痍の僕に対して攻撃をして来ない。

僕が彼の正面に立つと彼はおもむろに口を開いた。

 

「・・・それだけの傷を負ってもまだ私に挑んで来るか。」

「僕には・・・負けられない・・理由が・・・あります・・から。」

 

そう言うと腰を落とし拳を構える。

覚悟は決まった・・・もう揺るがない。

 

「貴方はここで僕が止めます。」

「何を言っている、これからもっと・・・もっと私は楽しむのだ!!お前は唯の余興に過ぎんっ!!」

「いいえ、終わりです・・・僕がここで終わらせます。」

 

そう言うと僕は『瞬』を使いアグニの懐に飛び込んだ。

アグニも予想していたのか、『瞬』の速度に慣れたのか、右手に持った剣で僕に切り掛かって来た。

しかし僕はその攻撃を気にする事無く拳を握り締める。

 

 

 

・・・僕はこの戦闘において幾つかわかった事がある。

相手は神様・・・無傷で倒す何て無理なんだ。

それ相応のリスクを負わなくては勝機すら見出だせない。

 

そんな僕が唯一勝機を見出した戦い方は・・・インファイト。

最大限威力の込めた攻撃を、休まず一つでも多く相手に叩き込む。

回避は疎かになるが気にしている余裕はない・・・致命傷となる物のみ判断して避ければいい。

 

 

 

僕はアグニの剣よりも早く拳を相手に叩き込む・・・その技は『神道流攻式壱ノ型・針(はり)』。

『波』が全体を攻撃する技なら『針』は1点集中型。

より高い『氣』のコントロール技術が必要とされるが、その分体の内部深くまで攻撃が届く威力の高い技だ。

本来ならば急所に向けて放つ一撃必殺の技なのだか、今回はそんな事は関係ない。

 

僕の拳を受けて、首に目掛けて振り下ろされていたアグニの剣が一瞬動きを止めた。

その隙に更なる攻撃を繰り出していく・・・相手に反撃の隙を与えない。

次々に繰り出される攻撃にアグニが少しずつだが苦悶の表情を浮かべて行く。

 

 

 

アグニに拳を、蹴りを叩き込む。

朦朧とする意識の中で僕が考えているのは・・・『エリカさんを護る』・・・唯それだけ。

その思いに突き動かされる様に休む事無く拳を握り締める。

 

「此奴・・・徐々に威力が!!」

 

このままでは危険だと判断したのかアグニが攻撃を繰り出して来る。

既に避ける程体力が残っていない僕は即死する攻撃だけを無意識に判断して避けて行く。

切り刻まれ、炎に焼かれていく体・・・それでも攻撃の手を緩めない。

 

「っ!!」

 

攻撃の流れの中で剣と斧を持つ手を弾き飛ばし、アグニの体を無防備な状態にした時だった。

今迄流し続けてきた血によって出来た血溜まりに足を取られ体勢を崩しその結果攻撃の手が止まってしまった。

その隙を逃す神ではない・・・残った腕で炎塊を瞬時に創ると僕目掛けて放つ。

 

不味い・・・これは避けられない!!

左右から迫る炎塊に絶体絶命のピンチに陥り、死を覚悟したその時・・・。

片方の腕に後方から飛来した剣が突き刺さり、炎塊をも弾き飛ばした。

 

腕に刺さる剣はエリカさんが使っていた物・・・そして好機が見えた。

剣の突き刺さった腕に気を取られ一瞬動きを止めたアグニ・・・もう片方の腕もその動きを止めている。

そして目の前には未だ無防備な状態の体・・・。

 

ここだ・・・ここしかない!!

僕は最後の力を振り絞り、体に流れる『氣』全てをこの一撃に掛ける。

 

「『神道流攻式四ノ型『集撃・真槍(しゅうげき・しんそう)』」

 

『神道流攻式四ノ型・集撃』は『参ノ型・連撃』の上位技。

『連撃』とは違い狙うは一点集中・・・目標を一点に定め連続攻撃を繰り出す・・・その手数20以上。

『真槍』・・・貫通力を高めた『針』の上位技を組み合わせ、唯一点を狙って行く。

 

右の拳を・左の拳を・右肘を・左肘を・右足を・左足を・右膝を・左膝を・・・。

全て・・・アグニの心臓目掛けて・・・一点集中。

流れる様な動きを止める事無く・・・全ての攻撃を心臓へ。

 

「この私を嘗めるなぁ!!」

「うおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

アグニも僕の攻撃を無視して反撃して来る。

幾つものアグニの反撃を食らっても、それでも僕は止まらない・・・止められない。

 

「昴!!」

 

朦朧とした意識の中でエリカさんの声が聞こえた気がした。

でも、もうこれで・・・最後だ。

 

「あああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

体中にある『氣』を全て縛り尽くせ・・・そしてその全てを右手に。

僕は今までで一番の威力のある拳を振り向いた。

 

「ぐああぁぁぁぁ!!」

 

アグニの叫びが耳に届く・・・手応えはあった。

全てを絞り尽くした僕はそこで意識を手放した。

 


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