正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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遅くなってしまい申し訳ありません。
とある資格の試験も終わり、ようやく時間が取れました。

ゆっくりではありますが、これからまた投稿して行こうと思っています。

御付き合い頂けたら嬉しく思います。


第41話 京都に行こう

Side 昴

 

2週間後。

エリカさん達2年生のテンションが徐々に上がって行く中、僕は変わらない日々を送っていた。

その日もいつも通りに過ごし、道場終わりのお風呂で汗を綺麗に流してきた後の事だった。

お風呂から上がると、リビングにエリカさん・馨さん・アンナさん以外にもう1人いた。

 

「千尋さん?」

「お邪魔しているよ、昴君。」

 

そこに居たのは沙耶宮家現当主・沙耶宮千尋さんだった。

颯爽と和服を着こなしている千尋さんはいつ見てもカッコいい。

 

千尋さんは僕に味方してくれると言った時から、頻繁に連絡をくれていた。

そして公に僕と接する事が出来る様になってからは、時間を見つけては道場にも顔を出してくれていた。

最初は馨さんが心配なのかと思っていたけど、心配されていたのは僕達全員だった。

神殺しとは言え僕はまだ高校生になったばかり。

それにこの家で暮しているのは高校生2人に大学生とメイドがそれぞれ1人ずつ。

 

・・・・・確かに心配にもなる。

 

という訳で千尋さんが此処に居る事は別段不思議な事では無い。

ただここに来る時はいつも道場にも顔を出していた筈・・・・・。

でも今日は来てなかったし・・・・・何か別の用件があって来たのかな?

 

「こんな時間に珍しいですね、どうかしたんですか?」

「申し訳ないんだが、今日は仕事の話で来たんだ。

 少し時間をいただけませんか、昴様。」

「っ!!」

 

僕は普段から畏まられても窮屈なので、いつもは普通に接して貰っている。

その千尋さんの口調が神殺しとしての僕の対応になっている・・・・・何かあった時の証拠だ。

僕はすぐに気持ちを入れ替え席に着く。

僕が座った事を確認した千尋さんは真剣な表情で口を開いた。

 

「少し急を要する案件が起こった為、夜分に申し訳ありませんが窺わせて頂きました。」

「気にしないで下さい・・・・・それで、何かあったんですか?」

「話すと長くなるのですが、簡単に言うと・・・・・。」

 

少し罰の悪そうにそう切り出すと、予想の斜め上を行く事を頼まれた。

 

「・・・・・京都に行って頂けませんか?」

「・・・・・はい?」

「困惑するのも無理はありません、これから経緯を説明させて頂きます。」

 

そう言うと千尋さんは真剣な様子で改めて口を開いた。

 

「本日、京都分室より正式に昴様を招待したいと一報が入りました。」

 

そう言って懐から一枚の手紙を取り出した千尋さん。

受け取って中を確認して、一通り目を通すと手紙を机に置く。

 

「京都に行く事自体は別に構わないんですけど、この指定された日程・・・・・僕学校なんですが。」

「私共も昴様が学業を優先したいと言う御心を汲み、長期休暇以外での話は断っていたのですが・・・・・。」

「・・・・・手紙には書いていない、何か緊急の用件があるって事ですか?」

 

察した僕の言葉に千尋さんは頷いた。

手紙で指定されていたのは一週間後・・・・・エリカさんの修学旅行の日付と同じ。

つまり護堂先輩も京都に滞在しているという事。

手紙には「是非会ってご挨拶を」って書いてあったけど、流石に何かあるのではと勘ぐってしまう。

 

「草薙様宛に此方同様に手紙が届いていないか調べましたが、私共の方では確認できませんでした。」

「僕達の方でそれとなく確認しておきます。」

「でも護堂さんが京都に行く事を知らなかった・・・・・とは考えにくいね。」

「偶然にしては出来過ぎているわ。

 相手側に何か意図があるとみて間違いないわね。」

 

2人の言葉に千尋さんも首肯し、懐から別の紙を取り出した。

 

「私共も同じ様に考え思案していた所に、もう一通手紙が届きました。

 これは沙耶宮家が京都に古くから繋がりを持つ家『土御門家』からの手紙です。」

 

手渡された手紙の内容に思わず目を見張る。

この手紙の内容にはエリカさん達も顔を顰めていた。

 

「これが本当ならば京都のみならず、日本そのものが大変な事態に見舞われます。

 昴様・・・・・行って戴けないでしょうか。」

 

千尋さんの嘆願、答えは考えるまでも無い・・・・・僕は力強く頷いた。

 

「・・・・・京都に行きます。

本当かどうか確かめる為にも、そしてもし本当だったら絶対に阻止する為に・・・・・。」

「・・・・・ありがとうございます。」

 

こうして僕の京都行きが決定した。

 

 

 

 

 

あれから数日が経ち、僕は今、馨さんと共に車に揺られていた。

向かっている先は勿論京都、運転しているのは甘粕さん。

出発したのは指定された日・・・・・エリカさん達の修学旅行の前日、学校から戻ってすぐに出発した形だ。

 

京都に行く事を決めた後、その旨を相手側に伝えた所エリカさん達と同じ新幹線の切符が送られてきた。

何か起こるか決まった訳では無いけど、先輩達と一緒に行動するのは些か不安がある。

それに僕達には情報が少ない。

それを少しでも補完する為、送られてきた切符を使わず、早めに出発する事となったのだ。

 

「・・・・・エリカさん、ちゃんと起きられるでしょうか。」

「アンナさんが居るんだ、心配いらないよ。

 そして何より彼女がこういったイベント事で寝坊するとは考えられない。」

「・・・・・確かに。」

 

此処に居ないエリカさんは修学旅行の日程通りに行動する事になっている。

本人は一緒に来たがっていたけど、先輩の方でも何か起きる可能性がある為別行動という事になった。

 

今回の事に付いては、先輩にも話している。

契約を交わしてから日本で起こる最初の案件になるのだ・・・・・最初から契約を違える訳には行かない。

それに旅行先で急に事件に巻き込まれるのはとても不憫だと思う。

折角の修学旅行に水を差す事になってしまったが先輩も心構えが出来る分、気が楽になったと言ってくれた。

その時クラニチャール先輩が「私達が解決しよう」と言い始めた時、エリカさんと口論になった。

けれど先輩の「そういう約束だろ」の一言で口を噤んでしまった。

でも何か力になれる事があれば協力するとも言ってくれた。

その事があったからか、エリカさん達の雰囲気が悪くなっていたのが少し心配だ。

 

・・・・・ここで僕が心配しても仕方ないかな、エリカさんを信じよう。

 

 

 

「それにしてもどうして態々車で行くんです?」

「それは勿論・・・・・車の方が昴君との距離が近いからさ。」

 

暫く走っていると甘粕さんが話題を振って来た。

そしてそれに答えた馨さんは僕の腕に抱き付いて来た。

 

「ふぇ!?」

 

大きめの車で広々としているのに随分距離が近いなぁとは思っていたけど、まさかのそんな理由!?

すぐに離れてしまったが、その一瞬の女性特有の柔らかさに心地い香りが鼻腔を擽る。

本人はエリカさんと自分を比べて幾分か悲観しているけど、僕からしたらどちらもドキドキしてしまう。

 

「あまり人前だとイチャイチャしたくないし、それにあまり公共機関は使わない方がいい。」

「私もいるのですが・・・・・それで、やはり監視されていると?」

 

甘粕さんの言葉に一気に僕の思考が切り替わる。

もしそうだとしたら、この道中も何かあるかもしれない。

そう思い周囲を警戒する様に意識を集中させるが、馨さんは否定した。

 

「いや可能性としては否定できないけど、それは限りなく低いと思う。」

「どうしてです?」

「まず第1に京都で大掛かりな準備をしているのに、今仕掛けるのは意味が無いから。

 第2に監視しているのだとしたら魔術なら昴君が、尾行なら甘粕さんが気付く筈だから。

 実際の所は如何かな?」

 

話を振られた僕は閉じていた眼を開けて、首を横に振った。

 

「いえ、そんな『氣』の気配はありませんでした。」

「・・・・・確かに、今の所は。」

 

今高速道路を走っていて、結構沢山の車がいるのに・・・・・甘粕さんってやっぱりすごい人だなぁ。

馨さんの言葉に気の抜けた僕は何と無しにそんな事を思ってしまった。

 

「だろう? まぁ、他にも理由はあるけど大体はこんな所かな。」

「ではどうして新幹線ではいけなかったのですか?・・・・・今回は真面目に答えて下さい。」

「簡単だよ、二つの爆弾を一緒にしておくと危険だと思わなかい?」

「そういう事ですか。」

「それに大規模な事を計画しているみたいだしね、恐らく護堂さんの手も借りる事になる筈だ。

 そうなった時、広い京都市内で固まって行動していてもあまり意味は無い。

 情報も仕入れなくちゃいけないし、一緒に行動する意味が無かったって所かな。」

 

・・・・・酷い言われ様だったけど、自覚している為何も言い返せなかった。

 

 

 

その後少しばかり気落ちしてしまったけど、馨さん達と話している内にそんな気分も忘れてしまった。

それに道中はとても楽しかった。

度々よるサービスエリアで甘粕さんお勧めのご当地グルメに心を躍らせ、ちょっとした旅行気分。

とても物知りな甘粕さんに心から尊敬してしまった程だ。

 

そして夜の間も車は走り続け、その間僕は休ませて貰った。

運転している甘粕さんに悪いから起きていようと思っていたけど、睡魔には勝てなかったのだ。

睡魔と闘っている時に馨さんに膝枕をされ、抵抗むなしくそのまま落ちてしまった。

 

そして気付けばすでに京都市内。

目を開けて最初に見たのは馨さんの優しい笑顔。

気恥ずかしさとともに迎えた今日・・・・・激動の1日が始まった瞬間だった。

 

 

 

 

 

Side 馨

 

僕の膝の上で可愛い寝顔を見せる昴君。

さっきまでは頑張って起きていたけど、今はいつもなら寝ている時間。

横になるように促すとそのまま眠ってしまった。

僕はそんな彼の髪を梳きながら、飽きる事無くその寝顔を見つめ続ける。

 

暫くそんな心地いい時間が流れていたが、運転席からの声に我に返る。

 

「我等の王も、こうしていると普通の少年にしか見えませんね。」

「急にどうしたんだい?」

「いえ、ただふと思っただけですよ。

 この姿も私の使える王の姿の1つだと・・・・・。」

「・・・・・そうだね。」

 

こんな可愛い寝顔を見せる子が神殺し何て誰も思わないよね。

普段は中性的な容姿も相まって、少し頼りなく見える昴君。

それでも一度スイッチが入ればそこには見紛う事無き王の姿が見える。

まだ神殺しに至って数ヶ月とは思えないその姿に、多くの人々が今後の彼に畏敬の念を抱いている。

 

・・・・・本人は無意識なんだけどね。

 

だからこそ本当に今後が楽しみなんだ。

でも、今くらいはゆっくり休んで欲しい。

今日は間違いなく大変な1日になると思うから・・・・・。

 

「それで、到着はいつくらいになりそう?」

「この調子でいけば、日の出位には京都市内に入るかと。」

「まずは『土御門家』に向かってくれ、その後は・・・・・。」

「わかっています、私は情報収集に入ります。」

「よろしく頼むよ、甘粕さん。」

「お任せください。」

「それじゃあ、僕も少し休むよ・・・・・後は宜しく。」

「分かりました。

はぁ、結局最後まで自分が運転するんですね、分かってましたけど・・・・・。」

 

そうして僕も膝の上の温もりを感じながら目を閉じたのだった。

 

 

 

「それにしても馨さん・・・・・別に早く行くなら車じゃなくてもよかったのでは?」

 

なんて言葉僕には聞こえなかった。




久しぶりに書いたため凄く不安です。
評価、感想お待ちしております。

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