Side 昴
長く感じた昼休みも終わり、あっという間に放課後。
学校から帰ると道場を開き、夕方は学生達、夜は魔術関係の大人達を相手に指導を行った。
それも終わり今日はエリカさん達も夜の稽古に参加していた為、3人で遅めの食事を取っていた。
その時話題は自然とエリカさんが行く修学旅行の話になっていた。
「へぇ、エリカさん達は京都に行く事になったんだね。」
「そうなの、今から楽しみだわ・・・・・馨さんは行った事あるのかしら?」
「勿論、京都には何度も言った事があるよ。」
「それは姫巫女の修行の為?」
エリカさんの問いに馨さんは首を横に振る。
「確かにそれもあるけど、それだけじゃないよ。
沙耶宮家も由緒ある家柄だからね、京都に所縁がある。」
「それは初耳ね。」
「と言ってもかなり昔の事だよ。
確か江戸時代にこっちに本拠を移したって書いてあったかな。
これ以上詳しい事は資料が無くて調べ様が無いけどね。」
そう言って笑う馨さん。
聞いてたけど・・・・・とても凄い事じゃなかった?
エリカさんのブランデッリ家も由緒ある家だって言ってたけど、沙耶宮家も負けず劣らず。
僕の大切な人達の家は思っていた以上に大きかった。
思わぬ話に唖然としている僕を尻目に話は続いて行く。
「だから京都には別荘も持ってるし、家同士の繋がりを持っている家もある。
その縁もあって京都には長い期間修行に行ってた。
勿論、長期休暇の時に遊びに行ったりもしたから、結構詳しいよ。」
「・・・・・今日のお昼リリィが思案していたのだけど、京都の魔術師事情はこの辺りとはまた違うのかしら?」
少し悩んだ末、馨さんに問い掛けたエリカさん。
それに何て事は無く馨さんは答えて行く。
「エリカさんの考えている通りだよ。
一般的に日本の中心は東京だけど、魔術の中心は京都なんだ。」
「どういう事かしら?」
「京都は歴史の深い土地、江戸時代前は京都がこの国の中心だったからね。」
「昔は京都が都だった事ですよね、それが何か関係があるんですか?」
意味の呑み込めていない僕に馨さんがさらに詳しく話してくれた。
「昴君、歴史が深いという事はその分魔術がより発達した地域という事になるんだ。
特に京都は日本の中心・・・・・日本の地脈点でもある。」
「・・・・・っ、地脈点でもあるのね。」
「地脈点?」
聞いた事の無い単語が多くなってきた。
「地脈点って言うのは、簡単に言えば大地に流れる力の集まりだよ。」
「私達にも魔力がある様に大地にも同じ様に魔力が流れているのよ。
それこそ、人間なんかじゃ比べ物にならない様な量・・・・・莫大な量が。」
「その魔力は地上にも影響を与える。
大地に栄養を与えるし、その土地に居る生物にも影響を与える。
勿論大地が動く様に、地脈点も移動する。
現在わかっているのは、アメリカ・中国・ヨーロッパの一部都市だったかな。」
「地脈点の辺りは繁栄している事が多いのよ。
でも、今まで日本にも地脈点があるなんて知らなかったわ。」
「それは仕方のない事だよ。
昔も昔、平安時代に京都の地脈点は封印されたんだから。」
それにエリカさんは大きく驚いた。
「まさかっ、在り得ないわ。
大地に流れる力だけでも強大な力なのに、地脈点はそれと比べ物にならない程に大きな力なのよ!?
そんな事が出来る人間が居る筈ないわ!?」
「そう思うのも無理ないけど、歴史上それが可能の人物が一人だけいたんだよ。
昴君も知っていると思うよ、結構有名な方だから。」
僕も知っている有名な人・・・・・?
さっき平安時代って言ってたから・・・・・。
「あっ、もしかして『安倍晴明』ですか?」
「正解だよ、昴君。」
「・・・・・確か平安時代に活躍した『陰陽師』だったかしら?」
「当時の京都は地脈点の影響で様々な災厄が蔓延していて、それを『安倍晴明』が地脈点を封印する事で抑えたと文献が残っているんだ。」
「・・・・・それ、本当なのかしら?
あまりにも在り得なさ過ぎて、信じられないんだけど・・・・・。」
「気持ちは分からないでもないよ。
実際僕も封印の地を確認した事は無いし、文献の方も目にしたんじゃなくて又聞きだからね。
でも、この事は京都支部・上層部の最重要機密だって話だ。」
「・・・・・何でその最重要機密を馨さんが知っているんですか?」
「あぁ、修行に行った時お世話になった人が教えてくれたんだ。
教えてくれた人はかなりノリの軽い人だったから・・・・・あまり信用は出来ないけどね。」
・・・・・随分口の軽い人が居るもんだなぁ。
大丈夫なんだろうか、京都の人達は・・・・・。
「とっ、話が少しずれてしまったね・・・・・確か京都の魔術師事情だったね。」
「そう言えばそうだったわね。
興味深い話だったから、つい聞き入ってしまったわ。」
2人して苦笑いを浮かべている。
僕も言われるまで気が付かなかった。
「京都も一応正史編纂委員会の支部の1つという形を取っている。
けど、その体系は他の支部とは全く違う・・・・・その原因を作っているのが『陰陽師』だ。」
「その『陰陽師』は『魔術師』と何か違うの?」
「そこまで大きく変わらないね。
違う所があるとするなら『陰陽師』は地脈の力を利用する事で術を発動するって所かな。」
「・・・・・それはヨーロッパでは珍しい技術ね。」
「見た事の無い技術では無いけれど『陰陽師』はそれが主流なんだ。
彼等はそれを『陰陽術』と呼んでいる・・・・・でもこの技術自体が問題な訳じゃ無い。」
此処で馨さんは深く溜息を吐いた。
「彼等が『陰陽術』に高いプライドを持っている事が問題なんだ。」
「自分達の持つ物にプライドを持つ事が問題とは思いませんけど?」
「確かにそうだよ・・・・・でも彼等のそれは少し違う。」
「要するに、魔術師より自分達の方が上だと・・・・・そう思い込んでいるって事かしら?」
呆れた様に言い放ったエリカさんに馨さんが苦笑いを浮かべる。
「簡単に言えばね・・・・・勿論全員が全員そう思っている訳じゃ無い。
でもその思想が根深い事は間違いない。
長い歴史の中で京の都をずっと守護してきた自信とプライドが在るんだ・・・・・仕方のない事かもね。
でも、それが原因で日本と海外の関係以上に魔術に関して鎖国が激しいんだ。
・・・・・同じ日本国内なのに、本当に馬鹿みたいだよね。」
同様に呆れた様に溜息を吐く馨さん。
その姿にやけに実感が帯びている様に思う。
「もしかして馨さん・・・・・修行中に何かあったの?」
「本当に大変だったんだよ。
僕を招いてくれた沙耶宮と関係の深い人達はとても良くしてくれたんだけど・・・・・。
その人達に連れられて行った合同練習会は酷かったよ。
・・・・・今でもあまり思い出したくはないね。」
馨さんの本当に嫌そうな表情に余程の事だったんだと悟った。
でもすぐに何時もの笑顔に戻ると明るく言った。
「でも今はそこまでじゃない筈だ。
当時僕が修行に行く前に京都支部の上層部の総入れ替えがあってね。
そんな彼等の新しい指針の下、外との交流にもっと積極的になるべきだって言う事で、僕が実験的に京都に修行に行ったんだ。
僕が最初だったから酷かっただけで、その後に言った祐理達は普通に過ごしていた筈だ。」
「つまり、特に心配する事じゃないって事でいいかしら?」
「話は長くなっちゃったけど、そう言う事だね。
基本彼等は有事の際以外は不干渉だから・・・・・変な事をしなければあっちから干渉して来る事は無い筈だよ。」
それならばと、僕は少し安心した。
行った先でエリカさんに何かあったら気が気じゃ無かったから・・・・・。
「1人問題になりそうな人が居るけれど・・・・・今それを心配しても仕方ないわね。
・・・・・それなら何処かお勧めの観光スポットは無いかしら?」
「そうだね、それなら・・・・・。」
一瞬不安そうに何か呟いたエリカさんだったけど、すぐに楽しそうな笑みを浮かべて馨さんと話しだした。
それからアンナさんも交えて、珍しく全員で夜遅くまで話が盛り上がるのだった。