正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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書き直しました。


都の守護者
第39話 修学旅行


Side 昴

 

長かった夏も終わり、僕達は学生らしい日常に戻っていた。

とは言え、日本に戻ってからも忙しかった。

先ずは沙耶宮屋の家に言ってイタリアであった事を報告。

 

サルバトーレ卿との決闘や、雷神トールを打ち取った事。

そして・・・・・馨さんと正式に婚約者として向き合うと決めた事。

全て馨さんが逐一報告していたみたいだったけど・・・・・。

 

だけど最後のはちゃんと僕の口から伝えたかった・・・・・いや、伝えなくちゃいけない事だと思った。

 

源蔵お爺ちゃんはとても嬉しそうに祝福してくれた。

千尋さんには真剣な顔付きで「宜しく御願い致します」と頭を下げられた。

その時の千尋さんの表情と雰囲気はブラウさんの時と同じだった。

大事な一人娘・・・・・嬉しくもあるけど、それ以上に神殺しの傍にいると思うと心配なんだ。

後にブラウさん、千尋さんの両人から伝えられた思いだ。

 

この時はその想い全てに気付く事は出来なかった。

けど、千尋さんの真剣な表情にそれ相応の覚悟を込めて返事をした。

・・・・・その返事に千尋さんの表情が少しだけ穏やかになった様に見えた。

 

 

 

それから長らく休んでいた道場の再開。

無事に戻った事を伝えたら皆さん揃って道場に顔を見せてくれて、そのまま道場を開く事になった。

 

その時に聞いた話だけど、何でもこの道場に通いたいと言う人が増えているらしい。

前々から『氣』のコントロールに定評があった僕の家。

お爺ちゃんを始めとする御先祖の方々は知る人ぞ知る感じで開いていた道場だった。

それが僕が神殺しになった事で一気に・・・・・それこそ日本全国に名前が広がったらしい。

 

僕としては来て貰えるなら拒むつもりは無いけど、それに待ったを掛けたのはエリカさん達だった。

 

彼女達の話では僕と仲良くなって、その権威を得ようとしたりとか。

神殺しという存在が気に入らず、懐に入って無謀にも危害を加えようと考えている輩も居たりするらしい。

こういった事を考える人は、ひと昔前のヨーロッパでは少なくなかったみたいだ。

これは今迄日本に神殺しという存在が居なかった事が原因みたい。

 

それは道場に通う年長者の方々も同じ考えだった。

だから道場に通っている人達に声を掛け、無闇に此処につれて来ないよう言って回ってくれたらしい。

エリカさん達はその方々に感謝を言いに行った・・・・・勿論僕も一緒に。

そしてその先で言われたのは・・・・・。

 

「此処には私共をここまで成長させてくれた恩がある。

 それこそ昴君のお爺さん・・・・・総一郎や先代・・・・・昴君の曾御爺さんには若い頃から世話になって来た。

 それに昴君の事も小さい頃からずっと見て来たし、接してきた。

 だから例え昴君が神殺しという偉大な存在になったとしても、私達にとっては孫も当然なんだ。

 昴君に危害を加えようとする輩を私達は許すつもりは無いよ。」

 

という、とても嬉しい言葉だった。

更に『今後僕に何かあれば全力で力を貸す』・・・・・という言葉も添えられて。

 

詳しく聞けば沙耶宮家が主導になり夏の間に話し合いの場を持ったらしい。

各年代いずれも『神道流道場』で腕を磨いていた人達の集まり。

何1つ揉める事無く、全員一致で僕の下に付くと決まったらしい。

 

此れには馨さんも聞いていなかったみたいで驚いていた。

そんな彼女を見た1人が「僕達を驚かせたかった」と笑って言った。

 

そして・・・・・この場に居た全員が膝を付き頭を垂れる。

 

神殺しになってからという物、少なくない回数見た光景。

僕力強く「ありがとうございます」と言葉を返すのだった。

 

 

 

落ち着きを取り戻した後。

聞けば道場に通いたいと言う人を沙耶宮家が主導になって精査しているらしい。

最終判断は勿論僕に委ねてくれるみたいだけど、あからさまな人を先に斬って置いてくれているみたい。

この方法なら、後々文句を言われる事も少なくなると思っての事。

僕達もその意見に賛成して、皆さんには悪いけど任せる事にした。

 

実際には、人が多すぎて少し時間が掛かるみたい。

僕の出番はまだまだ先だと言われてしまった・・・・・ちょっと気合が入っていただけに少し残念。

 

 

 

 

 

そうしてあっという間に残った夏休みも終わり、既に学校が始まって1週間。

未だ夏の強い日差しが降り注いでいる。

そんな中、今日もいつもの様に学校に通い、今は昼休み。

先輩達と一緒に屋上で昼食を食べています。

 

「9月になったって言ってもまだまだ暑いな。」

「本当ですね、もう少し何とかならないんですかね。」

「2人共、時期に日差しが和らいできますから・・・・・もう少しの辛抱ですよ。」

「冬の時期はお昼如何していたんですか?」

「寒くなったら流石に教室で食べてたよな。」

「周囲の視線がとても多かった事を覚えています。」

 

万里谷先輩の言葉に、その状況が容易に想像ついた。

クラニチャール先輩と万里谷先輩・・・・・2人と一緒に食べていれば、間違いなく注目を集めるだろう。

特に男子からの恨みが籠った視線は僕も覚えがある。

それを思い浮かべただけで、背筋に悪寒が奔った。

 

先輩も同じなのか、少し憂鬱な表情を浮かべている。

でもすぐに首を横に振り、僕に顔を向けた。

 

「俺達は教室で食べるけど・・・・・神藤やひかり、静花はどうするんだ?」

「私は皆さんとお昼をご一緒できないのは残念ですが、教室で食べようと思います。」

「私もそうするよ、お兄ちゃんの教室で食べる訳に行かないし。」

「僕は・・・・・。」

「ねぇ昴、私達は学食で一緒に食事をしない?

 此処よりは周囲は騒がしいでしょうけど、お昼位は一緒に居たいわ。」

 

ひかりちゃんと静花ちゃんが断り、僕も続けて口を開こうとしたらエリカさんに遮られた。

甘える様に僕に寄り掛かると、そこから上目使いで訴えて来る。

その仕草と表情と目の前にいる大好きな彼女に一気に体温が上がり、顔が真っ赤になったのが分かった。

ドキドキしすぎて返答出来ずにいると、エリカさんを咎める声が上がった。

 

「エリカさん、公衆の面前で何をやっているんですか。

 その様なふしだらな事をしてはいけないといつも言っているではありませんか。」

「あら、これ位イタリアでは当たり前なのよ・・・・・ねぇ、リリィ?」

 

話を振られたクラニチャール先輩。

今迄我関せずと、甲斐甲斐しく先輩の世話を焼いていた彼女だったが声を掛けられた事で漸く顔を向けた。

 

「・・・・・前にも言ったが、気安く『リリィ』などと呼ぶな。

 そしてそんな当たり前は無い・・・・・お前の行動をイタリアの当たり前にするな。」

「でもリリィもこういう事には凄く興味があるでしょう?」

 

そう言ったエリカさんはとってもいい笑顔だった。

そしてクラニチャール先輩の表情は怒りと羞恥に染まって行く。

このままでは・・・・・と思った僕はエリカさんの体を離す。

 

「良いですね、寒くなったら学食で食べましょうか。

 でも、お弁当は如何します?」

「・・・・・いいんじゃない、お弁当を学食で食べても。

 でも、学食も食べてみたいから何回かはそっちも食べましょう。」

 

僕が割り込んだ事に少し不満げな、拗ねた様な表情を浮かべたが、すぐに何時もの優しい笑みに戻って安心する。

クラニチャール先輩も一度は頭に上った熱を先輩に宥められて、落ち着きを取り戻していた。

 

 

 

この二人は偶にこういったやり取りを行う。

エリカさんがからかい、それに過剰に反応したクラニチャール先輩が怒る。

そして残ったメンバ-が二人を宥める。

 

最近ではクラニチャール先輩が爆発する前にエリカさんを止める様にしている。

だってクラニチャール先輩を宥めるのが結構大変だから。

真面目な人だからこういうのに耐性が無いんだと思う。

それを分かっててエリカさんは楽しんでいる。

「彼女、からかうと楽しいのよね」・・・以前本人に聞いた時にこう言っていた。

 

でもそれだけじゃないと思う。

確かにエリカさんは悪戯みたいな事が好きではあるけど、クラニチャール先輩には少し過剰気味だ。

憂さ晴らし?・・・・・とは少し違うけど、少しクラニチャール先輩に思う所があるんだと思う。

 

・・・・・僕に力になれる事があればいいのに。

 

 

 

「そういえば修学旅行、楽しみだよな。」

 

話題が変わり、話は2年生が行く修学旅行の話。

この間エリカさんが話していたっけ・・・・・日程は10月に入ってすぐだった筈だ。

 

「10月に入ってすぐでしたよね。

 もう何処に行くのか発表はあったんですか?」

 

うちの学校は毎年修学旅行の行き先が変わるのだ・・・・・この辺りは流石私立と言った所。

そして行先の発表は当日の1ヶ月前という良く分からない決まりがある。

年によって当たりはずれがあるので、2年生の間に緊張感が漂っていた。

 

「あぁ、ちょうど今日発表があったんだ。」

「何処だったんですか?」

「京都だったよ。」

「京都ですかぁ、良いですね。」

「本当に普通の観光地でほっとしてるよ。」

 

安堵の息を吐く先輩に思わず苦笑する。

気持ちも分からないでもない。

いい年だとヨーロッパやアメリカといった海外・・・・・例年でも沖縄や北海道といった有名観光地だったりする。

けど運が悪ければ富士山に登山だったり、近場で済まされたり・・・・・。

噂で聞いた話だと都内でキャンプというのもあったらしい。

確かに楽しそうではあるけれど・・・・・修学旅行でそれは嫌だと思ったなぁ。

 

「神藤は京都行った事があるのか?」

「一度祖父母に連れて行ってもらいました。

 けど小さい頃だったのでほとんど覚えていなくて・・・・・。」

「俺は行った事ないから、楽しみなんだよなぁ。

 万里谷は行った事あるんだっけ?」

「私も一度だけですが行った事があります。

 けど姫巫女の修行の一環でしたので、観光は殆どできませんでした。

 だから私も楽しみです。」

「私も京都にはとても興味があります。

 歴史ある建造物に趣のある街並み・・・・・そして多くの神々を祀る仏閣。

 忙しくて行く機会は暫く先かと思っていたのですが幸運でした。」

 

昼食も食べ終えてきぱきと片付けに勤しんでいたクラニチャール先輩も会話に入ってきた。

その言葉通り顔に笑みが浮かんでいて、楽しみにしている事が十分に伝わって来る。

だったのだが、その表情が真剣な物に変わる。

 

「・・・・・ですが心配事もあります。」

「もしかして・・・・・また魔術絡みか?」

 

察した先輩の言葉にクラニチャール先輩が頷く。

けどクラニチャール先輩が再び口を開く前に先輩が首を横に振った。

 

「今そんな事を心配しても仕方ないさ。

 折角の修学旅行なんだからさ、リリアナも純粋に旅行を楽しもうぜ。」

 

そう言う先輩の視線が一瞬ひかりちゃんと話している静花ちゃんに向けられた。

それに気付いたクラニチャール先輩も何か言いたげだったけど口を噤んだ。

 

 

 

何とも言えない空気が漂う中、それを吹き飛ばしたのはエリカさんだった。

 

「私も京都に行くのは楽しみなんだけどね。

 ただ・・・・・昴と離れ離れになるのはとても寂しいわ。」

「エ、エリカさん!?」

 

再び僕に寄り掛かって来る彼女に上目使いで見上げられると、あっという間に顔が熱くなる。

 

「エリカさん、また貴女は!」

 

僕に凭れ掛かっているエリカさんを再び万里谷先輩が叱る。

その行動にあの空気は一瞬にして霧散し、いつもの感じが戻って来る。

 

それは良かったんだけど・・・・・。

 

僕はエリカさんが凭れている為動く事が出来ず、一緒に万里谷先輩に叱られる羽目になった。

叱られている間もエリカさんはより体を押し付けて来るし、それに万里谷先輩も反応して叱る勢いが強くなるし。

結局休み時間が終わるまで、飴と鞭を同時に味わうと言う状況に耐えるしかなかった。

 

あの空気を変えてくれたのは嬉しいけど・・・・・もっとやり方は無かったんですか!?

 

僕の心の声はそう叫んでいたのだった。




リリアナのキャラがなんか違う気がして書き直しました。



ゆっくりですが着実に更新していくつもりです。
これからも読んでもらえたら嬉しいです。

感想、評価、誤字指摘頂けたらと思います。
ですが厳しい指摘は勘弁して貰いたい・・・・・心が砕け散ってしまいます。

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