正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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漸く前作に追いつきました。

それではどうぞ!


第38話 予感

Side アリス

 

エリカ達と別れた後、私は体調は優れなかったが別の場所に転移した。

其処はあの海岸から少し離れた場所。

其処に佇む1人男の姿を見つけて隣に立つ。

 

「随分と昴様の事を気にしているようですね。」

「・・・・・貴様か、何の様だ。」

 

突然現れた私に驚く事も無く一瞥するとアレクサンドルは再び前を向く。

その表情から何を考えているのか読み取る事は出来ない。

そして私の言葉は無視された・・・・・がいつもの事なので気にせず続ける。

 

「少し伺いたい事が・・・・・あの山で一体何があったのですか?」

「・・・・・何の事は無い、少し神獣と戯れていただけだ。」

「神獣・・・・・トールの話から推測すれば、ヨルムンガンドですか。」

「結社に保管してあった石版・・・・・あれが鍵だった。

 何故今になって力を持ち始めたかは分からんが・・・・・。」

「それに気付かれたのが昴様・・・ですね。」

 

私の言葉に少し表情が険しくなる。

少し思う所があったのでしょうか?

彼らしくないと思いながらも、つっこむ事はやめて置く。

 

「あれの感覚は他の神殺しとは一線を画している・・・・・俺も言われるまで気付かなかったからな。

 それこそお前並みの魔女でも気付くか分からんレベルだった。」

「・・・・・それ程ですか。」

 

私達から離れた場所でエリカ達に介抱されている昴様に視線を向ける。

今迄であったどの神殺しとも違う御方。

普段の雰囲気は優しさあふれる少年・・・・・だがその戦っている姿は全くの別物。

戦況を見極め、勝負所を見落とさない勝負強さ。

真剣に相手に向き合う中に、ほんの少しの隠しきれない楽しそうな表情。

 

そんな彼の姿を目の前で見る事が出来たのは収穫だった。

 

「それにしてもあれ程の大物との戦いにも拘らず、大した被害が出ていないとは・・・・・。

 昴様の権能はかなり使い勝手が良い物なのですね。」

 

ふと思った事が口から零れた。

実際戦場跡を見渡しても幾らか焦げ付き、大小様々なクレーターは出来ているが目立った被害はその程度。

此処が街中であればまた違っただろうが、今回は大した被害では無い。

日本での戦闘の際もここと同じ・・・・・いや、もっと被害は小さかったと聞いている。

 

そう思って口にした言葉だったのだが、彼は違ったみたいだ。

 

「・・・・・お前は気が付かなかったのか。」

「何の事です?」

 

訳が解らず聞き返せば呆れた様に溜息を吐かれた。

その事にイラッとしつつも、いつもの事だと気持ちを静め、彼の言葉の続きを待つ。

 

「彼奴の戦闘における一番の強みは何だと思う。」

「強みですか?」

 

突然の問い掛けだったが、反論しても時間の無駄なので黙って思考を巡らす。

昴様は武術家・・・・・それも彼の年齢では考えられない程の使い手だ。

それに神殺し特有の勝負強さだろうか。

先の戦いでの手札の斬り方は流石と言えた。

 

といろいろ考えている所にアレクサンドルが口を開いた。

 

「武術か?

 いいや、それならサルバトーレや羅濠の方が勝っている。

 今後はどうなるか分からないが、今の時点では間違いなくだ。

 なら勝負強さや戦術眼か?

 それも草薙護堂・・・・・いや、経験から見て俺よりも下だろう。」

「でしたら、先程も言っていた鋭敏な感覚ですか?」

「半分正解だ。」

 

勝ち誇ったような顔つきで私を見る彼には本当にムカつきました。

口が開きそうになるのを如何にか堪えている内に、したり顔で彼は再び口を開いた。

 

「彼奴の戦闘での強みは呪力のコントロールだ。」

「呪力のコントロール・・・・・ですか?」

「俺達の出鱈目な呪力量は知っているだろうが、彼奴はそれを完璧に操っている。

 その上でのあの力の使い方だ。

 自身の内に力を溜め込んだ上で戦うのが彼奴のスタイルだろう。」

「・・・・・貴方は彼が力を内側に溜めこんでいるからここまで被害が出なかったと言いたいのですか。」

「漸く気が付いたか、その通りだ。」

 

資料を見て知ってはいたが、改めて考えると在り得ない事だと気付く。

神殺しの膨大な呪力を完璧に操る事は、実際在り得ない事ではあるが・・・・・まぁ不可能では無い。

だが権能という神をも殺し得る力を体内に留め、溜め込みながら戦う。

幾ら頑丈に出来ていると言っても体が持つ訳が無い。

 

其処に気が付きアレクサンドルの方を見るが、その彼は事も無げにいつもと変わらない表情。

 

「勿論自身に合った形で権能が昇華したんだろうがな。

 それでも化け物じみている事に変わりは無い。

 もし俺達が同じ威力の権能を持っていたとしたらこの辺り一帯は焼け野原になっていただろう。

 もう1つ言えば彼奴の鋭い感覚は呪力に敏感だからだ。

 自身の呪力をあれ程まで操れるのなら、その過程で周りの呪力にも過敏になっても可笑しくない。」

「・・・・・それが昴様の強み。」

「まぁ、俺は彼奴の事をそこまで知っている訳では無いから唯の推測に過ぎんがな。」

 

そう言うとアレクサンドルはもうここには用は無いと言う様に彼等から背を向け歩き出す。

私も彼の言葉に少し考え込んでいた為反応が遅れてしまい、気が付いた時にはもうこの場から去った後だった。

 

「まだ聞きたい事があったと言うのに・・・・・。」

 

と文句を言いながらも、思わず笑みが零れる。

普段はあまり人に興味を持たない彼が・・・・・。

 

「随分と昴様の事を気に掛けるのですね。」

 

彼らしからぬ事に、少しばかり可笑しくなってしまった。

何か思う事があったのか、それとも何かの気まぐれか・・・・・。

そればかりは彼しかわからない事だが、これからも楽しい事が沢山ありそうだ。

 

「それに・・・・・。」

 

終始彼は何かを考え込んでいる顔をしていた。

3月に退けた『最後の王』の一件から見なかった表情だ。

 

「彼の興味を引く事が起こったという事でしょうか。」

 

珍しく饒舌だった事もそれで説明が付く。

 

「近い将来、何か起こる可能性がありますね。

 そしてその中心にいるのは、恐らく・・・・・。」

 

遂に移動を始めた昴様達に再び視線を向ける。

エリカ達に運ばれている姿は唯の少年の様にしか見えない神殺しの1人。

他の方々とは違う『善王』としての素質を持つ彼の将来を予測し・・・・・。

 

「彼と協力関係を持つ事が出来た事がこの夏の一番の収穫ですね。」

 

そう思わず口から零れた。

そして私も休みを取る為に術を解き、柔らかいベッドの上へ帰るのだった。

 

 

 

 

 

Side アレクサンドル

 

アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールの前を去り、1人になって考えを纏めていた。

少し口に出した事で考えはある程度纏まった・・・・・その点だけはあの女に感謝しないでもない。

 

案件は幾つかあるが今大事なのはあの遺跡での出来事。

俺の手から滑り落ちた石板・・・・・あれは間違いなく何らかの意志の力があった。

でなければ俺があんなミスをする筈がない。

神殺しである俺に対して向けられた作為・・・・・恐らく神かそれに類する存在が動いているとみていいだろう。

・・・・・まぁ、どれもまだ証拠も何もない唯の推論だが。

 

だが調べてみる価値はある。

 

そう考えを纏めた俺は自身の破壊した遺跡の後に降りたった。

山が丸々総崩れを起こしていて最早見る影もない。

何か無いか見渡してみても辺りは剥き出しの土と木々の残骸ばかり。

 

「やはり遺跡は俺の権能に飲み込まれたか。」

 

あの時の呪力が一切感じられない事に思わず舌打ちしてしまう。

緊急事態だったとはいえ『さまよう貪欲』を使った事が悔やまれる。

 

暫く見回ってみたが結局痕跡1つ見つけられなかった為一先ず諦める事にした。

作為が動いていた事は間違いないのだから、その内またアクションがあるだろう。

 

 

 

用は無くなった・・・・・そう思いこの場を去ろうとした時ふと海が視界に入った。

此処から見える海は綺麗な物だ・・・・・あの戦闘跡が酷い海岸を除けばだが。

 

そして頭に過るは『神藤 昴』・・・・・あの男の事。

 

確かに今までに会った事が無い神殺しとしての気質を持っていた。

あの男と違い自分な立場を理解している。

あの男と違い此方の考えを汲んで行動していた。

そして他の神殺しに無い物・・・・・人間らしさが多く見られる男だ。

 

「権能の汎用性と威力はあの力量にあった物という事・・・・・。」

 

人としては真っ直ぐな男ではあったが、その力は桁違いに強い。

元々の力量に起因しているであろう権能の威力と汎用性は、はっきり言えば信じられなかった。

しかしやはり神殺し・・・・・化物の類である事に変わりは無いと切り替える事にした。

 

更に言えば・・・・・あの『太陽』の力。

恐らく身に合わない力だった事は間違いない・・・・・あの隠し切れない苦痛の表情がその証拠だ。

 

「外に放てば良かったもっと楽に使えただろうに・・・・・。」

 

それが出来なかったのか、やらなかったのか、それとも考えつかなかったのか・・・・・。

 

「何れにしろ、俺には関係の無い話か・・・・・。」

 

そうして俺もこの場から帰る事にした。

 

 

 

 

 

結社に帰ってからも休む事なく働き続ける。

やる事が多く、今回の件の整理に資料作成もしなくてはならない。

 

そして神藤昴の資料を作っている時にふと考えてしまった。

今回の件、間違いなく俺が彼奴を巻き込み、挙句神との戦いも強いる結果となってしまった。

 

「いや、強いてはいないか。」

 

あのまま無視する事も出来たのに戦うと選択したのは彼奴自身だ。

最初はそう思ったが、暫く一緒に居た事で少しばかり見えた彼奴の気質を思い出し、思わず顔を顰めた。

一般人に近い気質に、あの神殺しらしからぬ優しさ。

 

「・・・・・全く面倒な事になった。」

 

どちらにせよ、事の発端を作ったのは俺だ。

 

そう至ってしまった自身の思考に舌打つ。

そして出来上がった資料に殴り書いたメモを挿み、送還の術で赤銅黒十字まで飛ばした。

 

 

 

漸くひと段落した俺は広を脱ぎ捨て、自室のソファに沈み込んだ。

一息つくと用意していたグラスを傾け、最後の・・・・・最重要案件に思考を傾けた。

 

あの時は自分の権能に巻き込まれない様にする為、そこまで考えが及ばなかった。

だがあの感覚は間違いない・・・・・権能を手に入れた時に感じる、自分の中に何かが入って来た感覚。

この体になって何度か受けたあの感覚が・・・・・間違いなく『ヨルムンガンド』を倒した後に感じた。

 

本来ならあり得ない事だ。

 

神獣から権能を得られたという話は聞いた事が無い。

もしそうだとすればこの世は権能を持つ者だらけという事になってしまう。

 

「確かに神格化されている、人の形を持たない神も多く居るが・・・・・。」

 

ヨルムンガンドにそれ程の力は感じる事が無かった。

少し手ごたえがあるな・・・・・その程度の感覚だった。

 

なのに得られた新たな権能。

 

「俺に干渉してきた相手の仕業と考えるのが無難か・・・・・。」

 

グラスをテーブルに置き、立ち上がると再び動き始めるのだった。

 

また何かが起こりそうな・・・・・いや、もう既に起こっている。

そんな確信が俺の中に残ったのだった。

 

 

 

 

 

後日、この事はあの女を通して全世界に流して貰った。

勿論権能を得られるという物では無く、神獣の強さが跳ね上がっているという物をだ。

 

神獣は一般的な魔術師が単独で倒せるものではない。

だが指折りの手練れの中には神獣程度なら倒してしまう物もいる。

 

その連中がもし神獣を討伐してしまったら・・・・・。

 

それをあの女も理解した様だ。

この話をした時「なぜもっと早く」と怒っていたが、教えてやっただけ有り難く思えないのだろうか。

緊急の用件だから教えてやっただけであって、本来なら教える義理は無い。

 

等と心内で罵倒しながら、今日も作業の手を止める事ないのだった。

 




頑張って書きましたが、皆様から見れば突っ込みどころ満載だと思います。
どこか矛盾している所がありましたら教えていただけたら幸いです。

・・・・・だたガラスのハートにつき、優しく指摘していただけると嬉しいです。





次回からは新章に突入します。
幾つかの別作品のキャラを出そうかと思っています。

上手く書けるか分かりませんが、今後も読んで、楽しんで頂けたらと思います。

それでは、ありがとうございました。

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