正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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御待たせ致しました。
間が空いてしまい申し訳ありせん。

待っていて下さった方々に楽しんで頂けたら嬉しく思います。


第34話 開戦

Side 昴

 

「皆さんしっかりして下さい!!」

 

神の神気の当てられて呆然としている彼等に声を掛ける。

彼等の様子から見てこの様な出来事に巻き込まれるのは初めてだろう。

ヨルダンさんですら僕が声を掛けるまで心ここに在らずの状態だった。

 

「ヨルダンさん、電話を貸して下さい。」

「は、はい。」

 

先程渡しかけていた電話を受け取り、急いで操作して電話を掛ける。

しかし繋がらない。

電話が繋がらず困惑していると、僕の様子を見て彼等も自分の電話を確認してくれた。

だが誰一人として繋がる事は無かった。

 

「確かこの辺りに電話の通信所があった筈です。

 もしかすると先程の落雷で止まってしまったのかもしれません。」

 

この状況を判断したヨルダンさんの言葉。

確かに先程程ではないが今も断続的に雷が鳴っている。

可能性としてはあり得る話だ。

 

でも、それならどうする。

まだ確認はしていないが、この心身の高まりから『まつろわぬ神』が出現したのは間違いないと思う。

今も神の神気がこの辺り一帯に撒き散らされている。

そして海岸の方からは雷とは別に大きな音も聞こえている。

この雷と石板に記されたヨルムンガンド…顕現した神はもしかしたら……。

 

この近辺で神に対抗できるのは僕とアレクさんだけ。

でもアレクさんは今間違いなく戦闘中だろう。

連絡がつかない以上、エリカさん達の助けは望めない。

今日会ったばかりの彼等をいきなり神との戦いに巻き込む訳にはいかない。

 

……腹を括ろう。

 

「ヨルダンさん、この辺りの封鎖は完了していますよね?」

「は、はい、我々以外は全員避難させました。」

「……でしたら貴方達も早く避難して下さい。」

「し、神藤様は……。」 

「僕は現れたまつろわぬ神の所に向かいます。」

 

そう言ってさっきまで居た海の方へ足を向ける。

 

「それでしたら我々も一緒に……。」

「ご心配なく、こう見えても僕も神殺しの一人です……大丈夫ですよ。」

 

彼の提案は断った。

彼を含め全員体の震えが止まっておらず、顔色も悪い。

提案自体は有り難いが正直この様子では何もできない、足手纏いだ。

 

「ここから避難したら如何にかしてこの事を赤銅黒十字に伝えて下さい。

 僕の電話を預けておきます。

 ここに赤銅黒十字の総帥の直通番号が入っていますから。」

 

電話をヨルダンさんに預け僕は走り出す……まだ見ぬ神の下へ。

 

 

 

海辺に辿り着くとそこには燃える様な目と赤髪と赤髭を持つ大男の姿があった。

荘厳さと力強さ、そして圧倒的存在感。

その全てが今まで見た生物を凌駕している。

 

大男は悠然とした足取りで歩き続ける。

向かっている先は例の『氣』が発せられた山……恐らくその『氣』の正体の下へ行く気だろう。

 

だが未だアレク様の『氣』も感じ取れる事から、まだ戦闘は続いている筈。

だったら僕のやる事はただ1つ。

 

僕は神に向かって全力で走る。

彼を見た瞬間から全身に力が漲っている。

彼が僕に気付いた様子はなく、恐らく唯の人間だと思われているのだろう。

今もただ真っ直ぐに山を目指して歩いている。

 

だから僕は普段抑えている『氣』を解放した。

 

その『氣』に気付いたのか、彼は足を止めて僕を始めて視界に捉えた。

 

「貴様……神殺しだな。」

「その通りです、私は今代の神殺しの1人『神藤 昴』と申します。

 もし宜しければ貴方の名前を教えて下さい。」

 

僕の問い掛けに彼は手に持つ巨大な槌を掲げ高らかに答えた。

 

「問われれば答えねばなるまい!!

 我が名はアース神族の一員にして最強の戦神トールである!!」

 

雄叫びと共に槌を振り上げると彼……戦神トールに稲妻が迸る。

それは唯の稲妻ではない。

凄まじい神力を宿し、普通の稲妻の数倍の威力はあった。

それを自らに落としたトールだが特にどうといった様子はない。

 

雷の神にして北欧神話最強の戦神。

 

僕はその事を意識しながらもトールに問い掛ける。

 

「貴方はいったい何を望んでいるんですか。」

「わかりきった事を、私はこの先に居る蛇に用があるのだ。

 神殺し……確か神藤 昴といったな、邪魔立てするな。」

 

くそっ!! やはりそうか。

 

豪胆あるいは乱暴な性格といわれるトール。

ここで簡単に引き下がってはくれないだろう。

 

「悪いですが、それは出来ません。」

「ふん、やはりな。」

 

全身に闘気を漲らせながら僕を睨み付けるトール。

神と神殺しが出会ったのだ、彼も何事も無く先に進めるとは考えていないのだろう。

 

「だが二度は言わぬぞ、邪魔をするなっ!!」

 

怒声と共にトールは手に持つ槌を振り下ろす。

そして激しい光と轟音と共に稲妻が僕の目の前に落ちる。

爆音と共に凄まじい爆風に曝されるが全身に力を入れて何とか踏ん張りトールを睨み返す。

 

「此処を通す訳にはいきませんっ!」

「邪魔をするなと言った筈だ、私はあの蛇を殺しに行く!」

「だったら仕方ない、僕は全力で貴方を止めさせて貰います!」

 

今にも襲い掛かって来そうなトールの様子に全身の『氣』を高め、臨戦態勢に入る。

そんな僕にトールも神力を高めながら、獰猛に言い放った。

 

「ふんっ、分かり易くて結構だ……叩き潰してくれるっ!!」

 

僕は拳を構え、トールは手に持つ槌『ミョルニル』を振り被る。

ここに北欧神話最強の神との激闘が始まった。

 

 

 

 

 

Side パオロ

 

昴君がイギリスに出発して早数時間。

私はいつもの様に職務を熟していた。

 

少し休憩しようと部屋を出て歩いていると、ふと思った。

今日はいつもより結社の騎士達の士気が低く見えると。

 

まぁ、彼等の気持ちも分からないでは無い。

 

昴君が来てからという物、始めは恐怖と緊張から結社内は常に空気が重たかった。

だが彼が指導をし、騎士達と交流する様になってからは変わった。

彼と触れ合った事で知った優しさからか、騎士達のやる気は日に日に上がって行ったのだから。

いつも以上にやる気に溢れていた事から思えば、そう見えても仕方のないのかもしれない。

 

 

 

我々の中でも最近まで昴君の事を『ヴォバン侯爵の再来』という噂を信じ恐れていた者は多い。

それもミーシャと勇気ある若い騎士見習い達の御蔭で払拭された。

まぁ、彼の雰囲気は普段から噂とは全くの正反対。

声を掛けるにしても勇気入るだろうが、一度触れ合えば彼の優しさに誰もが気付くだろう。

 

昴君が指導してくれた数週間の間に結社全体の力は間違いなく底上げされた。

これはカンピオーネとしての力ではない。

彼自身が幼い事より培って来た物だ。

前神道流当主にして昴君の祖父『神藤 統一郎』。

統一郎殿は優れた指導者だったと聞く。

そんな彼の指導を1番身近で感じ、教えを受けて来た昴君だからこそ彼から受け取った物はとても多いのだろう。

 

その優れた指導力はここでも如何無く発揮された。

日本でも知る人ぞ知る『神道流』だが、多くの魔術師・騎士にとって大切な事を学べる流派だ。

魔力の使い方、体の動かし方、剣の振り方……数え挙げたら切がない。

各いう私も彼の両親からその基本を教えて貰った。

今の私があるのは彼等の御蔭といってもいい。

 

昴君の指導を受けていた中の1人に、見習い騎士から正式な騎士に昇格させてもいい実力の者も出ている。

後は現地にて実践経験を積めば、すぐに昇格するだろう。

 

 

 

その様な事を考えながら休憩から戻り仕事を進めていると電話が鳴り響いた。

電話に表示されているのはエリカの名前。

 

「もしもし、私だ。」

『エリカです、叔父様。

 少々緊急の連絡があり電話致しました。』

 

エリカからの電話だが、その声から少し疲れが見える。

緊急の用件ともいうし、間違いなく何かあったのだろう。

 

「何かあったのか?」

『昴がアレクサンドル様と共に失踪しました……こちらから連絡がつきません。』

 

エリカの言葉に思わず動きを止めてしまった。

どうしてそんな事になったのだ。

 

『恐らくアレクサンドル様が昴を強引に連れだしたものと思われます。』

「この際理由は気にしない。

 それに昴君の事だ、多少の事なら大丈夫だろう……行先に心当たりは?」

『プリンセス・アリスがスウェーデンに行っただろうと。』

「スウェーデン?……少し待て。」

 

そう言って一旦電話を離す。

確か先程確認していた書類に・・・・・あった。

 

「エリカ、行先はスウェーデン北東だ。」

『北東ですか?』

「詳しくは分からないが、先程スウェーデンに派遣している騎士から緊急の連絡が入ったのだ。

 急に強い呪力を感知した地があると報告が上がって来ている。」

『叔父様、私達はこれからスウェーデンに向かおうとを思います。』

「カンピオーネが二人も揃っている。

 恐らく何らかの騒動が起こるのは確かだ、準備を怠るなよ。」

『わかっていますわ、叔父様。

 それではこれで失礼いたします。』

 

エリカとの電話はそれを最後に切れた。

確実に起こるであろう騒動を思い私は深く息を吐いた。

 

 

 

エリカの電話から数時間後、再び電話がかかって来た。

登録者の名前は神藤 昴。

急いで電話に出る。

 

「もしもし、昴君かい?」

 

しかし電話から聞こえたのは聞いた事の無い男の声だった。

 

『そちらは結社赤銅黒十字の総帥パオロ・ブランデッリ様で宜しいでしょうか。』

「誰だっ!!」

『申し遅れました。

 私スウェーデンで小さな魔術結社のリーダーを務めております、ヨルダンと申します。

 この度神藤様の指示の下、緊急の連絡の為神藤様の電話を御借り致しました。』

「彼はどうしている!!」

『い、今報告いたします。』

 

ヨルダンと名乗った彼は声を震わせながら今の状況を報告してくれた。

 

「よく分かった……報告ありがとう。

 それで、昴様は今まつろわぬ神と戦っていると?」

『はい、私達が避難している間にも凄まじい爆音が鳴り響いておりましたので間違いないかと。

 今も途切れる事無く、激しい音がここまで届いております。』

「……そうか。」

 

報告された内容は大方予想通りの事だった。

やはり2人もカンピオーネが揃えば、こんな事になるか。

 

「既に我々の結社の者がそちらに向かっている。

 君達の結社に向かわせるから彼女達の指示を受けなさい。」

『……わかりました。』

 

普通なら他の結社に指示を出す様な事はしないのだが、今は緊急事態だ。

彼の声は震えていたから、初めてまつろわぬ神を間近に感じたのだろう。

神に対する恐怖が抜けきっていない事が分かった。

それに我々はカンピオーネの庇護下に入っている結社だ……彼もそれを十分に理解しているからの判断だろう。

 

全てのやり取りを終えて、彼との電話を切ると共に深いため息が零れる。

ここに来てまつろわぬ神との遭遇……彼も大変な星の下に生まれた事だ。

……神殺しを成し得た時点で何を言っても遅いだろうが。

 

私は気を取り直して今の事をエリカに伝えるべく再び電話を取る。

今まさに激戦を繰り広げているであろう昴君の無事を祈りながら……。

 




警察試験に登販試験と試験が立て続いたため、執筆時間が取れませんでした。
これからもロングパートに勤務時間が伸びた為、更新速度は遅いままだと思います。

しかし自己満足な作品ですが最後まで書くので、御付き合い頂けたらと思います。

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