正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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沢山のお気に入り登録ありがとうございます。

先日ご指摘のあった個所を少々訂正いたしました。
話にはあまり関わりのない所ですが報告させてもらいました。

この話を楽しんで頂けたらうれしいです。


第32話 ブラック・プリンス

Side 昴

 

アリスさんとの会談から3日。

現在結社の応接室にてテレビ電話を利用してアリスさんの報告を聞いている。

その報告というのが……3日という短い間にグリニッジ賢人議会の方達の説得に成功したという内容だった。

説得する際、幾つか条件が付いたと言っていたけど問題は無いと彼女は言っていた。

 

『折角ですので、何方か御会いになりたい方はいらっしゃいますか?』

 

唐突にそう問い掛けて来るアリスさん。

本当に唐突だった。

説得に成功したと話した直後に何の脈絡も無く聞いて来たのだ。

 

『折角私達の協力関係が成立しましたので、早速私に力になれる事が無いかと思いましたの!』

「あの…えっと……。」

『う~ん、誰がいいかしら?

 あっ『ラファエロ様』はどうでしょうか。

 いいえ、パオロ様にも手伝って貰って、イタリア中の結社を集めて大々的に挨拶するのもいいかもしれません。』

 

アリスさんのテンションが高すぎて、僕が口を挿む余裕が無い。

それに色々とぶっ飛んだ考えが次から次に口から漏れていて、危険な感じがする。

如何した物かと悩んでいたら、パオロさんが動いてくれた。

 

「プリンセス・アリス……少し落ち着いて下さい。」

『あらっ……私ったら、つい。』

 

パオロさんの声に漸く落ち着きを取り戻してくれたアリスさん。

随分とご機嫌だけど何かいい事でもあったのだろうか?

落ち着いても未だ楽しそうな笑みを絶やさないアリスさんを見て思う。

 

『申し訳ありませんでした、昴様。

 それで……何方か御会いになりたい方がおられますか?』

 

今度は多少なりとも落ち着いた様子で僕を画面越しに見詰めるアリスさん。

そんな彼女にパオロさん達にかなり無理を言って決めたある人物の名前を口にした。

その名前にアリスさんは固まってしまった。

 

『……それは、本気で御座いますか?』

「はい……どうしても直接お話ししたい事があるんです。」

 

真剣に頼む僕に本気だと伝わったのか、アリスさんは少し悩んでから頷いた。

 

『分かりました、交渉してみましょう。

 ですが、あの御方はかなり気難しい方です……少々時間が掛かるかもしれません。』

「無理を承知で頼んでいる事は分かっていますから。」

『では早速動こうと思いますので、今日はこの辺りで。』

「今日は態々ありがとうございました。」

 

そしてこの会話から更に3日後……僕はイギリスの地を踏んでいた。

 

 

 

アリスさんから承諾を得たと聞き、イギリス・ロンドンにやって来た僕達。

空港に到着するとアリスさんが待って居た。

そして挨拶もそこそこに車に乗り込み、移動を開始したのだった。

 

「今日は無理を言って申し訳ありませんでした……そしてありがとうございます。」

「礼には及びませんわ、昴様。

 事情は後日教えて頂きましたもの……私で御力に慣れて大変嬉しく思っております。」

 

僕達は今ロンドンに程近いコーンウォールへ向かっている。

理由はコーンウォールに拠点を持つ神殺し『アレクサンドル・ガスコイン』その人に会う為だ。

コーンウォールには彼が立ち上げた『結社・王立工廠』がある。

結社内には多くの神に纏わる品々が保管されていて、その多くは『拝借書』を用いて勝手に持ち出した物らしい。

道中にアリスさんが楽しそうに話してくれた。

 

「でも大丈夫でしょうか?

 急な話でしたし、ご迷惑になるんじゃ……。」

「心配しなくても大丈夫ですわ、昴様。

 最初は拒絶されましたが、私の作った資料と共に直接説得したら一応ですが頷いて下さいましたから。

 勿論警戒はしているでしょうし、それなりの準備もしている筈です。」

「緊張するのは分かるけど、自分で言い出した事でしょ。」

「昴君にはアレクサンドル様に御会いしたい理由があるんだ……だったら覚悟を決めて行かないとね。」

 

エリカさん達に励まされても、この緊張感を拭う事が出来ない内に遂に到着した。

『王立工廠』……見た目は立派な美術館だ。

だが……周辺に全く人がいない事にかなりの違和感がある。

その事を不思議に思っていると笑顔でアリスさんが教えてくれた。

 

「これも準備の1つです。

 部下を巻き込まない為に昨日の内に全員避難させたのでしょう。」

「……僕と戦う可能性があると考えているって事でしょうか?」

「諦めなさい、昴。

 貴方は今噂の『魔王様』なんですから、これ位の警戒はされて当然だと思わなくちゃ。」

 

……そうでした、今の僕は悪逆非道の魔王でした。

そんな僕に会ってくれると言うんだから、アレクサンドル様も心が広い。

いや、アリスさん交渉術が凄いのかな?

 

そんな事を考えていると、既に皆は結社の中に入ろうとしていた。

 

「何をしているの昴、貴方も早く来なさい。」

「あっ、待ってください。」

 

急いで追い掛け一緒に中に入ると、そこは荘厳な雰囲気のある空間だった。

幾つものショーケースが置かれ、多くの展示物が並べられている。

そしてその殆どの物が神にまつわる物だと直感でわかった。

集中して感じてみれば、実際に神気を微量ながら発している物もあった。

 

それ等が珍しくきょろきょろと周囲を見回していると、不機嫌そうな声が響いた。

 

「態々貴様の話に乗ってやったんだ、とっとと要件を済ませて帰れ。」

「あらあら、そんな事だから女心がわかっていないと言われるんですのよ。

 客人を持て成す位やったら如何なのですか?」

「ふんっ、俺はお前達を招待した覚えはない。

 お前が強引に決めたんだろうが。」

 

現れたのは黒髪黒目、黒のジャケットを着こなしている白皙の美男子だった。

眉間に皺が寄って機嫌が悪い事を隠そうともしていない。

そして流石は歴戦の神殺し、今の会話の間も僕への警戒を一度も解いていない。

 

「……それで例の新たな神殺しが俺に何の用だ。」

 

今までアリスさんに向いていた鋭い視線が僕に向けられる。

今にも襲い掛かって来るのではないかと錯覚する程の殺気と共に……。

驚きはしたけど、事前の話からこうなると予想していたから、それに怯む事無く真っ直ぐに見返せた。

そんな僕を感心した様に見詰めると、彼は口を開いた。

 

「若いとはいえ流石は神殺しだな、この程度の殺気では大した牽制にはならんか。」

 

そう言って僕の後ろに立つエリカさん達を確認すると殺気を収めた。

彼の視線に気付いてエリカさん達を見ると、その顔には冷汗を浮かべていた。

……アリスさんは平然としていたけど。

 

「……それで、貴様がいったい何の用だ。」

 

彼から発せられる覇気に怯みそうになるも自身に喝を入れ、再び問われた事に今度はちゃんと答える。

 

「御初に御目に掛かります。

 この度新たに神殺しとなりました、神藤 昴と申します。

 先達に当たるアレクサンドル様にご挨拶に伺いました。」

「挨拶だと!?

 ふんっ、俺にも勝負を挑みに来たという訳か・・・だが生憎俺は忙しい、他を当たれ。」

 

一方的に話は終わりだと言わんばかりに切り捨て、奥に引き帰そうとするアレクサンドル様。

そんな彼を慌てて引き止める。

 

「えっ、い、いや、ちょっと、ま、待ってください、僕は別に戦いに来た訳じゃないです!」

「ヴォバンの再来と言われている貴様が何を言っている。」

 

僕の言葉を全く聞いてくれる様子が無い。

何とかしなくては、と次の言葉を発する前にアリスさんが助け舟を出してくれた。

 

「だから少し待ちなさい、アレクサンドル。

 先日資料をお渡しした際、自身の目で噂の真意を確かめて欲しいと言った筈です。

 貴方ともあろう御方がたかが噂話を真に受けて、その真実から目を背けるのですか?」

 

彼女の言葉に去ろうとしていた足を止めたアレクサンドル様。

そんな彼を楽しそうに見詰めているアリスさんと、その彼女を睨み付けているアレクサンドル様。

 

「……いいだろう、お前の言う真実とやらを見極めてやろうじゃないか。

 神藤 昴、唯挨拶に来たという訳じゃあるまい、早く本題に入れ。」

 

流石は古くから付き合いのあるアリスさん。

更に不機嫌さは増した様に感じるけど、話を聞く気にはなってくれたみたいだ。

2人のやり取りに呆気に取られていた僕は、慌てて姿勢を正し口を開いた。

 

「は、はい……アレクサンドル様は十年前に倒した『まつろわぬ神』について覚えておられますか。」

「いったい何の話だ………まぁ、いいだろう。

 十年前だったな……あぁ、イタリアの連中から頼まれた奴か、それがどうした。」

「その時その場にいた二人の日本人は覚えておられますか。」

「あぁ、俺が着くまで戦っていたあの二人か……それがお前に何の関係がある。」

 

突然の話題に訝しげなアレクサンドル様だったけど、雛定めするような視線と共に答えてくれる。

そんな彼の瞳を真っ直ぐに見つめて、僕も答えた。

 

「……私の両親です。」

 

僕の言葉に彼の眉間の皺が更に深くなった……でも、その表情に先程までの不機嫌さはない。

 

「この度はアレクサンドル様にお礼を言いに来ました。」

「……礼だと?」

「はい……両親の遺体を保護してくださったのはアレクサンドル様だとお聞きしました。

 本当にありがとうございました。」

「そんな事を言う為に俺に会いに来たのか、お前は。」

「お時間を取らせて申し訳ありませんでした。」

 

伝えたい事は言えた。

僕は両親のお礼を言う為に彼に会いたかったのだ。

当時の事は殆ど覚えていない僕だけど、これだけはちゃんと言いたかった。

 

でも以上は迷惑になる。

それでなくとも話を聞く限り僕達が強引に押し掛けたのだ。

紹介してくれたアリスさんには申し訳ないが、用件が済んだのだから早い内に御暇した方がいいだろう。

 

下げていた頭を上げて後ろへ振り返る。

そこには優しい笑みを浮かべたエリカさんと馨さんの姿があった。

……そして今でも楽しそうな笑顔のアリスさんも。

 

「もういいの?」

「はい・・・これ以上ここに居ても迷惑でしょうから。」

「わかったわ。」

 

僕の言葉にエリカさん達も歩き出そうとした所に声が掛かった。

 

「・・・・・待て。」

 

その声を聞いた瞬間、アリスさんの笑みが深くなった様な気がした。

・・・何か面白いネタを手に入れたかの様に。

それは置いておいて僕達は声の方へと振り返る。

 

「・・・・・そろそろ昼だな。」

 

突然どうしたんだろう?

ぽつりと小さな声がアレクサンドル様から零れたが、こちらに背を向けていてその表情はわからない。

そこに楽しさを隠そうともしないアリスさんが声を掛けた。

 

「どうかされましたか、アレクサンドル。

 私達は邪魔にならない様に帰ろうとしていたのですが。」

 

それを聞いた瞬間、彼から不機嫌オーラが溢れ出た。

多分からかわれているのが分かったんだろうな……僕にもわかった。

今のアリスさんはいつも僕をからかって来るエリカさん達と同じ顔をしている。

 

「ちっ!!……この辺りはお前達が来るからと、全員避難させた。

 勿論この結社内にも誰もいない。

 しかし俺は腹が減ったからな……自分で作る。」

「はぁ……。」

 

いったい何が言いたいんだろう。

確かにもうお昼の時間だし、僕もお腹が減っている。

この街に誰もいない事は分かっているから、どうしようかとエリカさん達に相談しようと思っていた所だ。

どう反応していいのか悩んでいると、またしてもアリスさんが楽しそうに話す。

 

「あらあら、もしかしてアレクサンドルが私達の食事でも用意してくれるのですか。」

「えっ!!」

「・・・・・ちっ!!」

 

そう言われた瞬間アレクサンドル様は部屋の奥へと去って行った。

見送るしかできなかった僕達にアリスさんが促す。

 

「さあ、行きましょう。

 アレクサンドルが食事に招待してくれるそうですよ。」

「えっ・・い、いや・・けど・・・。」

「彼は色々と捻くれていますから、あんな言い方でも私達を誘ってくれていたのですよ。」

 

そう言って自ら先頭に立ち進んでいく。

アリスさんを残して帰る訳にもいかず、僕達も後を付いて行く。

彼女は迷う事無く進んで行くから、恐らく何度も訪れた事があるのだろう。

すると次第にいい香りが漂い出した。

彼女はノックもせずに堂々と香りのする部屋に入る。

その中には1人黙々と食事をしているアレクサンドル様の姿があった。

そしてそのテーブルにはあと4人分の食事が用意されていた。

 

「恐らく私達が来る前から用意してあったのだと思います……言ったでしょう、捻くれ者だと。」

 

アリスさんはそう言うと、とっとと席についてしまった。

置いて行かれた僕達だったけど、ため息をつきながらもエリカさんが前に進み出た。

 

「私達も頂きましょう。

 折角用意して下さった物を、食べない方が失礼よ。」

「それもそうだね、頂こうか。」

「わ、わかりました。」

 

そうして僕達も席に着いた。

 

 

 

テーブルに並べられていた料理は和食。

白いご飯に味噌汁・魚の干物に豆腐・漬物まである、完全に日本の朝食だ。

そしてそれが堪らなく嬉しかった。

イタリアに来てから、今まで此処までちゃんとした和食とは縁が無かったから。

 

「頂きます。」

「ふんっ!!」

 

手を合わせて挨拶をすると、アレクサンドル様が不機嫌そうに鼻を鳴らした。

でもその様子が僕達を気にしている様に見えて、何処か可愛く思ってしまった。

 

そして改めて食事に手を付ける。

まずはご飯から。

炊き立ての香りが食欲を刺激する。

噛めば噛む程甘味の増すのがたまらない。

次に魚。

いい焼き加減で、ふっくらとしている。

身をほぐすと中から湯気が立ち上り中までちゃんと火が通っているのがわかる。

味も絶品だ。

豆腐は自家製だろうか。

少々不恰好だがまたそれがいい味を出している。

味も文句の付け所がない。

漬物も塩梅が完璧でとてもおいしい。

最後に味噌汁をすする。

心に沁み渡る様な優しい味だ。

両親やおじいちゃんの事を思い出した。

 

とても堪能した。

あっという間に食べ終えてしまった。

おかわりが欲しい位だ……そんな事言わないけど。

 

そしてふと顔を上げると全員が僕を見ていた。

エリカさん達は微笑ましそうに。

アリスさんは楽しそうに。

アレクサンドル様は少し驚き交じりに……すぐに不機嫌そうな顔に戻ったけど。

見られていたのが恥ずかしくて顔を俯かせたのは仕方ないと思う。

 

 

 

先に食べ始めていたアレクサンドル様とあっという間に食べ終えた僕。

他の皆さんは未だ食事中。

普段なら会話の弾む食事中だけど今日ばかりはエリカさん達も黙って食べている。

……アレクサンドル様の前だから仕方がない。

アリスさんは意図的だ……多分この状況を楽しんでいる。

アレクサンドル様は指を叩きながらイライラしているご様子。

 

重苦しい雰囲気の中、居た堪れなくなった僕は必死に捻り出した案を口にした。

 

「あ、あの、ここに展示してある物を拝見してもいいですか?」

「……貴重な物が多い、触れるなよ。

 いや、壊されたら堪ったものじゃないからな、俺も行こう。」

 

完全に思い付きだったけど、如何にか上手くいったみたいだ。

これで少しはこの雰囲気を良くする事が出来た筈。

眉間に皺を寄せながらも、立ち上がり歩き出すアレクサンドル様。

 

「私達も食べ終わったら、すぐに行くわ。」

 

エリカさんの声を背に僕はアレクサンドル様の後を追う。

 

 

 

「どうせお前も神話について学んでいないのだろう、ならここで十分だ。」

 

彼はそう言って設置してある椅子に座り、腕と足を組んで黙り込んでしまった。

でもここなら広いし、そこまで重い空気になる事はない…と思いたい。

 

アリスさんの話だと『王立工廠』内の展示物は一般公開がされているらしい。

連れられて来たのは恐らくその一般公開されている所。

アレクサンドル様には言われてしまったが、僕も神殺しになってから少しは神話の勉強をしている。

……始めたばかりでまだエリカさん達には敵わないけどね。

それでもここにあるのは一般公開されているだけあって、誰でも知っている様なビックネームの物ばかり。

その為ここにある物の殆どを理解する事が出来た。

 

ギリシア神話に北欧神話とヨーロッパの物が多い。

それにこれら全てが本物だと直感的にわかる。

美術品や骨董品に詳しい訳では無いけれど、少なからず神の力を感じられるからだ。

……だからこそ、こうして収集して管理しているんだろうな。

 

1つ1つ見ている時に気になる物を発見した。

それは他の展示物と違い、はっきりとした神力を放っている。

題名を確認したら、北欧神話に出てくる毒蛇『ヨルムンガンド』について記された石版だった。

気になってじっと見ていたら突然後ろから声を掛けられた。

 

「・・・・・それがどうかしたか。」

「うわっ!!」

「……………。」

 

集中して見ていたから全然気が付かなかった。

その所為で驚いて変な声を上げたら冷めた目で睨まれてしまった。

 

「す、すみません。」

「・・・・・それで。」

「あ、は、はい、この石版なんですけど……。」

 

先程の石板を指さす。

訝しげにそれを見つめるアレクサンドル様。

しかし、一向に何の反応を示さない……もしかして気付いていないのかな?

 

「……これがどうしたと言うのだ。」

「い、いや、これだけ他の物と違って神の力が強かったと感じたので。」

「何だと!!」

 

気付いた事を伝えると僕を押しのけて石板に齧り付く。

じっと石板を観察しながら、彼の集中力が急激に高まって行くのを感じ取れた。

 

「……確かに力を感じる。

 いや、今まさに強くなっていっているな。」

 

小さな呟きが聞こえてくる。

彼は突然振り向いて僕の肩を掴み、睨みつけて来た。

 

「何故気づいた。」

「えっ?」

「どうしてこれに気付いたのかと聞いている。」

「は、はい・・・えっ?

 あの、どうしてと言われましても……偶然としか。」

 

僕の言葉が信用できなかったのか、それでも僕を正面から睨むアレクサンドル様。

だけど暫くすると、何かに閃いた様にぶつぶつと考え始めた。

 

「個人の力量にもよるが、神殺しの殆どが神と相対した時のみその力を発揮する。

 だがこの場には少なからず神力を宿している物が多くあった。

 微量だが石板からは確かに他と比べると強い力を放っていた。

 いや、そうだとしても……まさか此奴の感覚は俺よりも鋭いと言うのか。」

 

暫く目の前で考え込むアレクサンドル様に気不味かった僕。

だけど何かを決めたのか急に顔付きが変わった。

そして懐から鍵を取り出すとショーケースを開けて、石板を取り出した。

 

「……行くぞ。」

「へっ?」

 

彼は僕の襟首を掴み、そのまま引き摺る様に歩き出した。

 

「い、いや、ちょっと、待って下さい、行くっていったい何処へ。」

「着いたらわかる。

 今は話している時間が惜しい。」

 

問答無用みたいだ……強引過ぎてとてもじゃ無いけど逆らえる空気じゃない。

知的な人だと思っていたけど、違ったみたいだ。

 

「せ、せめてエリカさん達に・・・。」

「ダメだ。」

 

そして僕は引き摺られながら、何処かわからない所へ連れて行かれるのだった。

 

 

 

 

 

Side エリカ

 

昴がアレクサンドル様に連れられて行った事で、この場の緊張感は緩和された。

……あの子の事だから、この空気を何とかしようと思ったのね。

御蔭で残された私達は比較的ゆっくり食事を取る事が出来た。

そして久し振りの和食を堪能した後、昴の所に向かったのだが……。

 

「何処に行ったのかしら?」

「こっちにもいなかったよ。」

 

昴とアレクサンドル様の二人の姿が何処にも見当たらない。

あの短い間に何処に行ったというのだろうか。

 

「2人共、こっちに来て。」

 

馨さんと悩んでいると、アリス様から声が掛かった。

声のした方へ行くとアリス様が開きっぱなしのショーケースを見つめていた。

 

「アリス様、どうかされましたか?」

「いえね……ここだけショーケースが開いていて、しかも少しだけど神気を感じるの。」

 

真剣な表情で何かがあった場所を見ているアリス様。

ショーケースの表示には『ヨルムンガンドの石板』と書かれていた。

 

「……もしかして!」

「何かわかりましたか?」

「恐らくなのだけど、此処に展示してあった物に気になる事が出来た。

 そしてアレクサンドルはそれを調べに言ったのではないかしら?」

「昴君が居ないのは、その緯線に気付いたのが昴君だったから?」

「……あり得るわね。」

「異変に気付いた昴様は、何かに役立つかと思われてアレクサンドルに連れて行かれた……という事ですか?」

 

アリス様の見解に私達は思わずため息をついてしまった。

まさかこんな事になるとは……。

 

「私の考えがあっているとは限りませんが、神殺しが二人で行動しているのです。

 ……必ず何かが起こるでしょう。」

「ですが追い掛けるにしても、何か手掛かりが無いと……。」

「ここにはヨルムンガンドの石板と書かれているわね。」

「確かこれはスウェーデンの結社が保管していた物をくすねて来た物だったと思います。」

「それじゃあ追いかけましょうか。」

 

私は叔父様に連絡を入れ、昴の行方を追うべく一路スウェーデンへ向かう事にしたのだった。

 


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