正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

31 / 41
第31話 プリンセス・アリス

Side アリス

 

私の名前はアリス、周りからは『プリンセス・アリス』と呼ばれています。

グリニッジ賢人議会の元議長・現特別顧問で自分でも世界有数の魔術師だと自負しております。

 

アレクサンドルの追い続けていた『最後の王』との戦いも一先ず落ち着きを見せた3月。

少しはゆっくり出来ると思っていた所にある報告が上がってきました。

イタリアに顕現したまつろわぬ神。

赤銅黒十字が対処していたのですが、何やら不穏な動きがあるという物でした。

 

神を封じたという些か信じ難い発表を確認する為、議会の者達が現地調査に行きまたが、その場に神が封じられている気配は無いとの事でした。

私達はすぐに赤銅黒十字に説明を求めましたが「調査中」の一点張り。

私個人で昔から縁のあったパオロ様と連絡を付けてみても教えては下さらなかった。

得られた情報は唯「近い内にわかる」その一言だけでした。

 

その後パオロの姪であるエリカ・ブランデッリが日本に留学したという報告も上がってきました。

日本には草薙護堂様が居られます。

何か関係があるかと探らせましたが、何でも婚約者のお世話に行ったとの事。

 

その婚約者について調べさせていた時、事件は起こりました。

日本に現れたまつろわぬ神と戦っていた草薙様。

そこに突如戦いに割って入った者が現れたそうです。

 

その御方の名は『神藤 昴』・・・新たに生まれた神殺し。

 

報告には草薙様の獲物を横取りした・・・とありました。

その後王同士の会談を持って和解したとの事でしたが、多くの者が近い将来2人の王が激突すると考えています。

 

何故なら神藤様はあの「ヴォバン侯爵の再来」と呼ばれているのですから・・・。

 

王の命令に逆らえない事を良い事に赤銅黒十字を自らの手中に入れた。

そしてそれだけに飽き足らずパオロの姪エリカを自身の女として囲っている。

同じく日本でもとある家系を傘下に入れ其処の娘も1人、人質として傍に侍らせていると言う。

 

・・・もし噂通りの人物だとしたらヴォバン侯爵以上の魔王振りです。

 

イタリア中の魔術師達が新たな王に警戒を強める中、赤銅黒十字から1つの打診がありました。

それは「我等が王『神藤 昴』様が賢人議会の方との会談を望んでいる」という物でした。

議会の方達は大いに慌て、多くの王と面識があり懇意にもしている事から私に協力を要請してきました。

本来結社の方針としては断固として断るべきなのですが・・・被害を最小限にする為受けるという事でした。

実際はこれより先にパオロ様から『我が王と会ってくれないか』という話が来ていました。

 

・・・その時は言葉を濁したのですが、結局は私が行く事になりました。

 

 

 

しかし会談の数日前、突然中止になってしまいました。

その理由はサルバトーレ卿と神藤様の決闘。

神藤様が来日したその日にサルバトーレ卿が決闘を申し込み、神藤様もそれを了承したとの事でした。

この事からも随分と交戦的な御方だという事が想像できます。

 

その決闘の様子は赤銅黒十字の撮影した映像で確認させて頂きました。

資料作成の参考に・・・とパオロ様から内密に送られてきた物です。

 

・・・随分と危険な橋をお渡りになられる。

結社が危機的な状況とはいえ、エリカが心配では無いのでしょうか。

 

等と考えながらも拝見した映像では神藤様が勝利していました。

事前情報通り炎に関する権能をお持ちのよう・・・。

しかしあの矢を放った権能は流石にどういった権能なのか分かりませんでした。

恐らく日本にて草薙様から横取りした神の権能である事は間違いない筈。

映像越しでは無く、直接見る事が出来れば何かしらの啓示を得る事が出来るでしょうが・・・致し方ありません。

 

結局映像からわかった事は神藤様の神殺しとしての実力の一端だけ。

いえ、それが分かっただけでも僥倖でしょう。

 

後は直接会ってみない事には対策も立てようがありませんから・・・。

 

 

 

日程を調整し今日神藤様と会談をする事になりました。

護衛は2人・・・議会の中でも屈指の使い手です。

神殺しに対しては石ころ同然でしょうが、一応連れて行く事になりました。

私はアストラル体でいくので危険なのは護衛の人達だけの様な気もしますけど・・・。

 

赤銅黒十字の本社に近付くにつれて、護衛の二人の緊張感が高まって行くのを感じます。

声を掛けた事によって幾分か落ち着いて下さいましたが、それでも体に力が入っています。

 

・・・そう言う私も心なしか緊張していますから、彼等の事を強く言えません。

 

赤銅黒十字で止まった車から降り、視線を巡らせるとガラス扉越しに幾人かの人影が見えました。

いいえ、この時間にこれだけの人数しかいないのはあり得ません。

恐らく今日の為に人払いをしておいたのでしょう。

 

しかしそこに居た人物が予想外でした。

迎えがいる事は予想していましたけれど、パオロ様が1人で来られると考えていました。

まさか「ヴォバン侯爵の再来」と噂の神藤様が態々出迎えに来られるとは思っても居ませんでした。

エントランスで待っていたのは、パオロ様とエリカと情報にもあった日本の呪術師・沙耶宮 馨。

 

そして神藤 昴様。

 

護衛の2人の動きが一瞬でしたが硬直し、警戒心が跳ね上がるのを感じます。

そんな私達を余所に真っ先に言葉を発したのは神藤様でした。

 

「態々御越し頂きありがとうございます。

 初めまして、この度新しく神殺しとなりました神藤 昴と申します。」

 

歩み寄った私達に対してとても丁寧に挨拶をして下さいました。

・・・もしかすると私達は大きな勘違いをしていたのかもしれないのですね。

そんな事を思いながら今日はとても有意義な時間になるのではと心が躍り出しました。

 

 

 

 

 

Side 昴

 

僕達は挨拶を済ませるとすぐにアリスさんを応接室に案内した。

そして今僕達は相対してソファに座っている。

パオロさんは僕の隣に座り、後ろにはエリカさんと馨さんが立って居る。

アリスさんの後ろにも多分護衛である人達が控えている。

 

「改めまして神藤昴です。」

「アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールです・・・気楽にアリスと御呼び下さい、神藤様。」

「それなら僕も昴と呼んで下さいませんか?

 様付されるのはまだ慣れなくて・・・ちょっとむず痒いです。」

「申し訳ありませんがそれは出来かねます。

 神藤様は神殺しの王で在らせられるのですから・・・御容赦下さいませ。」

 

はっきりとした拒絶。

何となくわかっていたけどやっぱり慣れないな、こういうの・・・。

 

「今日は此方に足を運んで下さりありがとうございました。

 本当でしたら此方が伺うべきなのに・・・。」

「王自ら御足労頂く等・・・そんな恐れ多い事をさせる訳にはいきませんわ。」

 

恐々としてそう訴えてくるアリスさん。

だけどその瞳にはこの状況を楽しんでいる様な感じがする・・・僕の気の所為かな?

 

「・・・厄災の魔王を我等が守護する地に入れる訳が無いだろうが。」

 

小さな呟きだったけど狭い室内だ・・・僕の耳にも届いてしまった。

声の方に視線を向けるとアリスさんの後ろに控えていた1人が僕を睨み付けていた。

・・・多分聞こえる様に言ったのかな?

僕も世間で流れている噂の事は知っているからある程度はと思っているけど・・・ここまで睨み付けられるのは初めてだった。

流石は対魔王組織の一員・・・恐怖を押し殺して対抗の意思を見せて居る。

心内で感心しているとアリスさんがすぐさま頭を下げて来た。

 

「ステイル!!

 申し訳御座いません、後でしっかり注意して置きます・・・何卒命だけは。」

 

鬼気迫った雰囲気を出しているけど・・・さっきの瞳の輝き記憶にある僕は演技に見えて仕方なかった。

まぁ、気にしている訳でも無いからいいんだけど。

 

「いえ、別に気にしていませんから。」

「ありがとうございます・・・それで今回はどういった御用件でしょうか。

 パオロ様からは『話がある』と伺っておりましたが。」

 

アリスさんの視線がパオロさんに向いたので僕も彼を見る。

そのパオロさんだが少々呆れた様子で口を開いた。

 

「プリンセス・・・貴方はもう気付いておられるのでしょう?」

「あら、何の事でしょうか?」

 

その笑みを見て僕も確信した・・・あの瞳の輝きは気の所為では無かったと。

 

「でもパオロ様も人が悪いですわ。

 それならそうと先に仰って下さっても良かったのではないですか?」

「私の言葉等よりも直接昴君に会って貰った方が確実ですからね。」

 

パオロさんの言葉に2人の視線が僕に集まる。

そしてアリスさんがとても楽しそうに話し出した。

 

「赤銅黒十字を脅して自らの傘下に、草薙様の獲物を横取り、更にサルバトーレ卿との決闘。

 これらの情報から多くの人からヴォバン侯爵の再来だと噂されていました。

 ・・・ですが、それは間違いだった様です。

 噂とは異なる優しき気性に、私達への配慮。

 そして何より・・・パオロ様達の神藤様に対する信頼と心配が感じ取れます。

 もし噂通りなのだとしたら、こんな穏やかな空気ではいられないでしょう。」

 

流石由緒ある貴族様・・・この短い間に真実に辿り着いた。

この場で話について行けていないのは、アリスさんの護衛の2人だけ。

その2人を蚊帳の外にしたままアリスさんは言葉を続ける。

 

「いったい何人の方が神藤様の真実を知らず恐怖している事か。」

「僕はそんなに怖がられていますか。」

「神藤様が来日されてからというもの、イタリア中の魔術師達は体を震え上がらせております。

 ですがその心配は杞憂だったと知る事が出来ました・・・これが私をこの会談に招いた目的ですか。」

 

最後の問い掛けはパオロさんに向けられていた。

その言葉に頷くパオロさん。

 

「彼の好意に甘えこの状況を創り出してしまったが、我々はなるべく早い内にその誤解を解きたいのです。

 そして誤解を解くには、直接会って貰うのが一番確実だった。」

「それに私ならば各地にあらゆる伝手があります。

 真っ先に誤解を解いておけば、色々と便宜を図って貰えると・・・そう言う事ですか?」

 

アリスさんの言葉にこの場に緊張感が生まれた。

パオロさんも真剣な面持ちで相対する。

 

「やはりそこまで御見通しですか。」

「少し考えればわかる事です。

 ・・・神藤様、幾つかお聞きしても宜しいでしょうか。」

「僕で御答え出来る事でしたら構いませんよ。」

 

僕の何かを見極める様な彼女の真剣な眼差しに自然と背筋が伸びる。

 

「ではまず・・・例の噂の発端であった『赤銅黒十字に対しての命令』は彼等を守る為ですか?」

「長い間僕の事を守って貰いましたから・・・僕も同じ事を行っただけです。」

「草薙様の獲物を横取りしたと言うのは?」

「形だけを見ればそう取られても仕方がないのかもしれません。

 ですが僕は先輩の事を心の底から慕っています。」

「・・・神藤様はその御力で何をなさるおつもりですか?」

 

その瞬間のアリスさんの雰囲気は凄まじい物だった。

それだけこの問い掛けが重要だと分かる。

答えを間違えればこの会談が台無しになってしまう事も十分に考えられる。

 

でも・・・僕の考えはこの力を持った時から変わらない。

 

彼女の覇気に気圧されそうになったが、視線を逸らさず真っ直ぐに見詰め返す。

 

「僕はこの力を誰かの為に使いたい・・・誰かを守る為に使いたい。

 勿論この力の強大さは十分に理解しているつもりです。

 だからこそ皆さんの御力が必要不可欠だと・・・僕は思っています。」

 

僕達の交わり合う視線。

先に表情を崩したのはアリスさんだった。

 

「ふふふっ、神藤様は本当に御優しい方なのですね。」

 

とても嬉しいそうに・・・そして満足そうに笑っている。

僕の答えに満足して貰えたみたいだ・・・安心した。

 

「では最後に・・・後ろの二人についてはどう思っていますか?」

 

安心した僕を狙ったかの様なその問いに、僕は自然と後ろを振り返っていた。

僕を見つめる2人の瞳には優しさと共に何処か期待している様にも見える。

僕自身恥ずかしかったけど、気持ちを偽る事は出来ず、この場で嘘を吐く事も出来ず、正直に口を開いた。

 

「あの、えっと・・・大切な人達で、その、あ、あ、あ、愛・・・しています。」

 

今の僕の顔は真っ赤な事だろう。

恥ずかし過ぎて最後は尻すぼみになってしまった。

そして正面に座るアリスさんはとても満足に微笑んでいた。

 

「あらあら・・・後ろの御二人は如何なのでしょうか?」

「私の心と体は、もう既に彼に捧げております。」

「僕の全てを賭けて彼を支えて行く所存です。」

 

彼女達の言葉に更に顔が赤くなる。

そんな僕をアリスさんとパオロさんは微笑ましそうに見詰めていた。

 

「とても可愛らしい方ですわね。」

「しかし思慮に長け、とても頼もしい王の姿を見せてくれます。」

「それは先に拝見させて頂きました・・・とてもこれからが楽しみである御方です。」

 

そんな2人の会話が耳に入らない位恥ずかしかった僕だった。

 

 

 

 

「では昴様が今お持ちの権能は2つだけで間違いないでしょうか?」

「はい、権能の力もさっき話した通りです。」

 

僕が落ち着きを取り戻した後も会談は続いている。

先程まで僕が神殺しになった経緯や、権能の能力等をアリスさんに説明していた。

何故ならアリスさんの協力を得るにあたって、それらを話す事が彼女の提示した条件だったからだ。

 

僕達がこの会談で求めていたのは誤解を解く事と彼女の協力を得る事。

誤解を解く事は結構簡単に解決したけど、問題はその後だった。

 

アリスさん自身は協力する事に積極的だった・・・と言うより既に協力するつもりでいた。

でもそこで問題になったのはアリスさんの立場だ。

対魔王組織の重鎮であるアリスさんが神殺しの1人である僕に協力というのが問題だったのだ。

 

そこでアリスさんがある提案をして来た。

それが僕の此れまでの経緯と権能について詳しく伝える事だった。

想像以上に悪い噂が流れている僕が協力を得る為には多少のリスクを負う必要がある。

彼女の提案を聞いた時、僕は自然と納得してしまった。

 

経緯については調べれば簡単にわかるという事で大した問題では無かったけど、権能に付いては違う。

神殺しにとって自身の権能は戦いの生命線。

勿論それだけで勝敗が決まる訳では無いけれど、勝敗の鍵である事は確か。

 

本来ならば教える訳にはいかない情報だけど・・・僕はそれを話す事にした。

 

普通ならば躊躇する所だと思うし、実際エリカさん達は躊躇した。

でもそれを僕が大丈夫だと言い切ったのだ。

 

言い切れた理由は2つ。

1つは議会の資料には権能のデメリットが記載されていなかった事。

先のサルバトーレ卿との決闘の際、ついでに護堂先輩の資料も見せて貰ったけど、そこには馨さんから聞いていた護堂先輩の権能の使用条件が殆ど載っていなかった。

理由を聞けばデメリットを掲載すれば、勝てると考えて神殺しに勝負を挑む輩が出てきかねない。

そう言う無駄な犠牲者を減らす為に態と記載していないという事だった。

 

そしてもう1つは・・・僕は権能の力を戦闘手段の1つとしか思っていない事だ。

権能には確かに強大な力がある。

でもそれだけで神々との戦いに勝てる程簡単な話では無い。

そして僕は『武術家』だ。

例え神殺しになってもそれは変わらないし、変えてはいけない物だと思う。

何故そう思うかは何となくとしか言い様が無いが、この気持ちは間違っていないと確信している。

 

今迄も武術を基本とし、権能でその威力を上げ戦ってきた。

そして例え権能が使えなくなったとしても僕は拳を握ると思う・・・1人の武術家として。

まぁ、武術の通用しない相手にはその限りではないと思うけど。

 

だから権能について全てを話した所で大して問題は無い・・・とエリカさん達に話したのだ。

僕の話を聞いてエリカさん達は納得した様に頷いてくれた。

 

「昴君は護堂さんと違って、権能の力だけが昴君の強さじゃ無かったね。」

「それに例え権能が使えなくても唯人に昴が負ける姿が想像できないわ。」

「あら、エリカ・・・神殺しとは元来そういう物ですよ。」

「恐らくあの草薙王も自身の危機となれば例えどんな手段を用いたとしても勝利を手にするだろうな。」

 

等という言葉と共に了承を得た僕は、これまでの経緯と今持つ権能に付いてを話したのだった。

 

 

 

全てを話し終えた後、同じ内容の資料をアリスさんに渡した。

僕の資料作成に・・・と用意していた物だ。

それを受け取ったアリスさんは、今までの穏やかな空気を真剣な物へと変えた。

 

「先のお話に加えこの資料・・・昴様の信頼と思い、丁重に管理させて頂きます。」

「いえいえ、先程も言いましたが隠す様な事ではありませんから・・・皆さんで有効活用して下さい。」

「・・・ありがとうございます。」

 

深々と頭を下げるアリスさん。

これが元来あるべき神殺しと魔術師の関係性何だろうな・・・そんな事を考えながらアリスさんを見詰める。

そして頭を上げたアリスさんは再び口を開いた。

 

「今日の所は一先ずこの辺りで御暇させて頂こうと思います。」

 

彼女の言葉に僕は部屋に備え付けてある時計に目をやる。

話合いが始まって早数時間・・・もう既にお昼の時間を過ぎている。

 

「そうですね・・・今日は本当にありがとうございました。」

「私も大変貴重な時間を過ごす事が出来ました。」

 

彼女の言葉に僕も頷き返す。

当初の目的通り、僕の誤解も解け協力関係を結ぶ事が出来た。

この会談はとても実りある物になったと言っていいだろう。

 

「最後に、これからの事なのですが・・・先ずは議会の方々の説得をしなくてはいけません。

 どれ程時間が掛かるかは分かりませんが、頂いた資料もありますので説得は難しくないかと思います。

 本当ならば昴様に直接一声掛けて頂けたらと思うのですが・・・。」

「確かにそうすれば間違いなく頷かせる事は出来るでしょう。

 誤解を解く事も出来るかもしれないが、それ以上に周囲に与える影響が計り知れない。」

 

僕もパオロさんの言っている意味が分かった。

もしかしたら直接会う事で議会の方々と親交を深める事が出来たら、それはそれでいい事なのかもしれない。

しかしそれを赤銅黒十字同様「脅し」と取られる可能性が高いのだ。

そうなれば幾ら弁明した所で、僕の「魔王」という肩書きはこの先ずっとついて回る事になる。

 

これからの事を考えれば、それだけは避けなくてはならない。

 

「時期が早いという事は分かっております。

 ・・・ですがいずれは私共と昴様の正式な協力関係を築ければと考えてなりません。」

「まだ将来の事は分かりませんが・・・そうなれば僕としてもとても嬉しいです。」

 

 

 

そうして僕達の会談は終わった。

アリスさんは軽快な足取りで結社を後にし、護衛の人達も最初程警戒は見られなかった。

彼女達を見送った後、今までの緊張がどっと疲れとして出た。

 

「はぁ~~上手く行って良かったです。」

「お疲れ様、昴。

 最高の結果になったのは昴の頑張りの成果よ。」

「そんな事ありません。

 エリカさん達が支えてくれたからです・・・今日は本当にありがとうございました。」

 

そう言ってパオロさんとエリカさん・馨さんに頭を下げる。

彼等はそんな僕を笑顔で見つめていた。

 

「昴君を支える事が私達の仕事だからね。

 それにここまでスムーズに事が運んだのはプリンセス・アリスの御蔭でもある。」

「あの御方が高位の魔女であったからこそ、昴君の本質を見抜いて、最初から協力的だったんじゃないかな。」

「・・・そうだったんですか。」

 

確かに全てを見透かされる様な感覚があったのを覚えている。

緊張であまり意識していなかったけど・・・。

 

「とはいえ今日は本当に御疲れだったね、ゆっくり休むと良い。」

「はい、そうさせて貰います。」

 

そうして僕達は各々の部屋へと歩き出した。

 

 

 

この時の僕は疲労感とは別の、ある種の達成感を感じていた。

初対面の方との初めての会談。

最初はどうなる事かと思ったけど、相手の人にも恵まれた事もあって、ちゃんと熟す事が出来た。

 

・・・此れからこういう事が増えて行くんだろうな。

 

そう考えると少し気が滅入るけど、僕の望む未来の為に・・・そして支えてくれる皆の為により一層頑張ろうと思った。

後日エリカさんと馨さんに「愛の言葉」をもう一度・・・とせがまれた時はとても大変だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。