正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第28話 決闘後とそれぞれの思惑

Side 昴

 

エリカさんの掛け声でサルバトーレ卿との決闘は終了した。

僕は『氣』を収めると途端に力が抜けそうになったが、何とか踏ん張って対峙していた相手に礼を取った。

 

「ありがとうございました。」

「いや~さっきの一撃は中々だったよ。

 以前護堂に外からこんがり焼かれた事はあったけど、今度は中から焼かれちゃうなんてね。」

 

そう言う割には全然何ともなさそうだ。

とてもいい笑顔で僕に話し掛けて来る。

 

「最初はルールで縛る決闘なんて・・・と思っていたけど案外楽しめたよ。

 でも・・・より強く君と本気で殺りあってみたくなったかな。」

 

と思ったけど最後の言葉・・・全然目が笑って無かった。

背筋を震わせているとエリカさん達がやって来た。

 

「御二方の決闘をこの目で拝見出来た事を光栄に思います。

 サルバトーレ卿・・・今回の勝者に贈られる報酬を覚えておられますか。」

「確か勝った方の言う事を一つ聞かなきゃいけないんだったよね。

 残念だなぁ・・・僕が勝ったら今後は命懸けの真剣勝負をして貰うつもりだったのに。」

 

やっぱり・・・勝ててよかった。

安堵の息を吐いていると、今度は僕に話が振られた。

 

「今回の決闘の勝者は君だ。

 何か僕にして欲しい事はあるかい?

 何でもいいよ・・・あ、再戦だったら僕も嬉しいな。」

 

それは貴方の希望です。

僕は貴方と命のやり取りをしたくはありません。

 

そんな事を心内で考えながらも1つ息を吐き、気持ちを落ち着けてから口を開いた。

 

「報酬については既に決めています。」

「へぇ~・・・何かな?」

 

少し意外そうに・・・でも、何処か鋭い視線を僕に向けるサルバトーレ卿。

その視線に少し怯んでしまったが、それでもしっかり相手の目を見返す。

 

「僕が貴方に望む事、それは・・・僕からの依頼を受けて貰う事です。」

「・・・どういう事かな??」

 

少々呆気に取られている彼とその隣に立つアンドレア卿。

かなり予想外だった事はその表情から窺える。

 

「この先僕は神々との戦いに挑んでいく事になります。

 でも時には僕達だけでは手に負えない事柄もあると思うんです。」

「・・・つまり代わりに戦って欲しいって事かな?」

 

この時サルバトーレ卿の目は心底面白い物を見る様に僕を見つめていた。

 

「簡単に言えばそう言う事です。

 勿論受けて頂いたら報酬はきちんと御支払致します・・・如何でしょうか。」

「はははっ敗者である僕に拒否権はないよ。

 それに僕にとっても悪い事所か、寧ろ好条件だ。

 依頼内容によっては『まつろわぬ神』や『カンピオーネ』のとも戦える可能性があるって事だろう?

 願ったり叶ったりだよ。」

 

今後の事を考えているのか、とても楽しそうに笑っているサルバトーレ卿。

そんな彼の様子を見てかエリカさんが口を開いた。

 

「それでは今後神藤 昴より依頼があった際にはその依頼を受けて頂くという事で宜しいですか?」

「問題ないよ、いつでも連絡をして来てくれて構わないから。

 あっ、そうだ・・・僕の連絡先を教えて置かなくちゃね。」

 

そう言って自分のポケットを探し始めるサルバトーレ卿。

そこに「携帯電話なら此方に」とアンドレア卿が差し出した。

 

「ありがとね・・・はい、これが僕の連絡先。」

 

僕のアドレス帳に二人目の神殺しの名前が載った。

・・・二人には失礼だけど、ちょっと複雑な気分だ。

 

「中々いい体験が出来たよ。

 それじゃ、僕は帰らせて貰うね。

 また会おう・・・昴。」

 

連絡先を交換し終えると、すぐにサルバトーレ卿は踵を返し歩き始めた。

その颯爽とした姿に戦闘の影響はないのだと、改めて彼の凄さを認識した。

そんな彼に僕も最後まで神殺しとしての姿を見せて居たかった。

 

「これから宜しくお願いします。」

 

最後にもう一度礼を取る。

サルバトーレ卿は笑顔で手を振りながら去って行った。

 

「それでは私も失礼させて頂きます。」

「あっ、アンドレアさんも今日はありがとうございました。」

 

アンドレア卿は多くは口にせず、僕達に頭を下げてサルバトーレ卿を追って去って行った。

 

 

 

去って行く二人の姿が完全に見えなくなると、最後に残っていた糸が解けその場に座り込んでしまった。

怪我と疲労から体に力が入らない。

そんな僕を柔らかな温もりが背中から包み込んだ。

 

「お疲れ様、昴。

 今回の決闘・・・私達が思い描いていた最高の形で乗り切る事が出来たわ。」

「最初はどうなる事かと思いましたが・・・何とかなりました。」

 

僕を支える様な形で後ろから抱きしめてくれたのはエリカさんだった。

彼女の温もりに緊張から解かれた心と体が癒されていく。

 

「とても格好良かったよ、昴君。

 それに新たな権能の掌握おめでとう。」

「馨お姉ちゃん・・・ありがとう。」

「疲れただろう? 今はゆっくり休むと良い。

 僕は移動の準備を整えて来るよ。」

 

そう言うと馨お姉ちゃんは行ってしまった。

残された僕とエリカさんだったが、僕はちょっと限界みたい。

 

「すみません・・・エリカ・・さん。」

「いいのよ、昴。

 馨さんの言った様に、今はゆっくり休みなさい。」

 

エリカさんは後ろから抱きついたまま僕の頬にキスを落とした。

その柔らかな感触を最後に僕は意識を手放した。

 

 

 

 

 

Side サルバトーレ

 

「それにしても意外だったな。」

「ん? 何が?」

 

追い付いたアンドレアは唐突に僕に話を振る。

何の話かさっぱりだ。

 

「さっきの決闘の事だ。

 いつものお前なら難癖つけて、強引にでも続けようとするだろうが。」

「えぇ~~流石の僕も決闘の場に置いてそんな事しないよ。

 ・・・まぁ、不完全燃焼である事は間違いないけど。」

 

不満が無いと言ったら嘘になる。

でもある程度楽しめたから『今回は』もういいかな。

 

「今日までアンドレアが忙しくて聞けなかったけどさ、君は彼の事はどう感じた?」

「誰のせいで忙しかったと思っているんだ。

 まぁいい、神藤王の事だったな?

 そうだな・・・噂とは全くと言っていい程違った御方だった。」

「ヴォバン侯爵の再来って奴?」

「どれ程横暴な男かと思っていたが・・・違った。

 初めて会った時には、普通の少年としか思えなかった。

 次に会った時には王としての威厳を存分に見せつけられた。

 だが・・・そんな彼の姿に畏怖する者は『赤銅黒十字』には見受けられなかった。」

「脅されているんだとしたら、あんなに心配そうな表情はしてなかっただろうしね。」

「それにあの覇気・・・彼が神殺しとなってまだ4ヶ月。

 今後の事を考えると少し恐ろしくもあるな。」

「そうなんだよ!!」

 

やっぱりアンドレアもそこに気付いてくれた。

その事に僕のテンションは鰻登りだ。

 

「護堂とは全く違う生粋の武人。

 勿論僕や羅濠教主と比べたらまだまだだけど、年は護堂よりも下なんだよ?

 あの若さであれだけの武術を身に着けて居る何て・・・本当にこれからが楽しみたよ。

 それでいてあの呪力の使い方の上手さ・・・あれだけは誰にも真似出来ないだろうね。」

 

捲し立てる様に言葉を並べる僕にアンドレアは呆れた様に溜息を吐く。

 

「はぁ・・・少しは落ち着け。

 だが言う程の物だったか? 俺にはそうは見えなかったが・・・・。」

「わかってないなぁ、アンドレアは。

 赤銅黒十字で会った時も、さっきの決闘後も・・・全く呪力を感じられなかった。」

「っ!! 確かに戦闘後だけなら一時的な疲労で説明も付くが・・・。」

「神殺しの持つ呪力は底が無い。

 それを完璧に自身の内側へ押さえ込んでいるんだ・・・それも平常時から。

 僕が言うのも何だけど・・・ちょっと規格外だよね。

 でも・・・。」

 

と続けようとした所で急に足から力が抜けた。

痩せ我慢で今まで持っていたけど・・・流石に限界だったみたいだ。

体を内側から焼かれるのは予想外だった。

鋼に変えていた範囲も時間が無くてかなり少なかったし、ダメージ量が半端ない。

 

急に倒れた僕に切迫した様子のアンドレア。

 

「・・・い、いやぁ・・ちょっと限界みたい。

 後は宜しくね、アンドレア。」

「お、おい!!」

 

最後に残った意識の中で思う。

昴もまた護堂同様発展途上だ。

権能の掌握もこれから進むだろうし、戦闘経験も積んでいく事だろう。

 

・・・やっぱりもっと成長した時に再戦した方が楽しそうだよね。

 

そして僕は完全に意識を手放した。

後日長時間の説教を喰らったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

Side 昴

 

意識を失った僕が次に目覚めたのは赤銅黒十字で使っている部屋だった。

体には包帯が巻いてあったりしたけど、殆ど痛みは無い。

状態がいい事もあって、丁度起き上がろうとした所にエリカさん達が入って来た。

 

「目が覚めたのね。

 まだ起きたら駄目よ、安静にしてなさい。」

「エリカさん、馨お姉ちゃん、おはようございます。

 もう殆ど痛みはありませんし大丈夫ですよ。」

 

制止を無視して体を起こす。

心配な表情を浮かべていた二人だったが、僕の何ともなさそうな様子にほっとしていた。

 

 

 

エリカさん達の話を聞けば、僕は丸1日眠っていたみたいだ。

傷自体は大した事なかったけど、出血量が多かったらしい。

その為1日も目が覚めなかったのだろうとエリカさん達は言っていた。

 

空腹を落ち着かせる為に朝食を取ったら、パオロさん達の下へ向かう。

パオロさんの執務室に入ると、中には幹部のメンバーが揃っていた。

 

「お疲れだったね、昴君。」

「確かに疲れましたけど、とてもいい経験が出来ました。」

 

僕はパオロさんの正面に腰を下ろす。

するとミーシャさんがすっと紅茶を出してくれた。

 

「ありがとうございます、ミーシャさん。」

「いえいえ、昴君もお疲れ様。

 怪我も大した事なくてよかったわ。」

 

優しく微笑んでくれたミーシャさん。

彼女だけでなく、この場に居る全員が優しい笑みを浮かべていた。

その事に心が温かくなる。

照れ隠しに紅茶で一息付くと、改めて口を開いた。

 

「何とか勝てましたから、計画した通りに進める事が出来ました。」

「エリカから報告は受けているよ。

 イタリアに来て早々大変だったが、やっと落ち着けるね。」

 

パオロさんの言葉に苦笑いが浮かぶ。

 

 

 

僕達はサルバトーレ卿との決闘が決まった後、長い時間を掛けて話し合いを行った。

その主だった内容は、勝った時と負けた時の対応だ。

 

負けてしまった際の事はすぐに決まった。

満場一致で再戦を申し込まれるという予想だったので、僕が頑張って戦う・・・それだけ。

 

問題だったのは勝った時だった。

この条件はサルバトーレ卿を納得させる為に付け加えた物。

別に僕は彼に望んでいる事があった訳じゃない。

それはパオロさん達も同じだった。

 

話合いの際、最初にサルバトーレ卿の事を詳しく教えて貰った。

主に彼の性格、戦闘スタイル、そして権能。

 

その情報があったからこそ今回の報酬を思いつく事が出来たんだと思う。

 

戦う事が好きであるサルバトーレ卿。

有事の際、僕の手が回らない事も多くある筈。

そんな時に代わりに戦ってくれる人がいると心強い。

勿論彼が僕達の思い通りになる様な人ではないと言うのは分かっている。

でも同じ神殺しである僕の・・・それも依頼という形なら無下には出来ないのではと考えた。

それに依頼内容も戦闘のみにするつもりだ。

 

此れならば依頼自体が彼にとってのご褒美になるのでは・・・と思ったのだ。

 

僕の提案に皆賛同してくれた。

この契約だけで彼の問題行動がなくなるとは誰も思っていない。

けど今後の事を考えると、出来る限り良い関係を築いていきたいと言うのが全員の総意だった。

 

だから僕が勝った時の報酬は『依頼の発注』に決まったのだ。

 

 

 

「これで少しはあの御方も落ち着いてくれると嬉しいんだがな。」

「それは無理だろう。

 あの方にとっては『戦える機会が増える』としか思っていないだろうからな。」

「それもそうか。」

 

結局今後もサルバトーレ卿の動向には気を付ける・・・という事で一致した。

 

 

 

「さて、これからの予定なんだけどね。」

 

その後も多くの話題で話が弾んでいたが、時計を見たパオロさんがそう切り出した。

主だった話題は僕の新しい権能に付いてだった。

全員が興味津々で、各自の見解で大いに盛り上がった。

しかし朝から始まったこの会議も、今は昼に差し掛かろうとしている。

パオロさん達には仕事もあるだろうし、この辺りが区切りと見たんだろう。

 

「本当はある人に会って貰う予定だったんだけど・・・あんな事になったから話が流れてしまってね。

 でも日を改めてと話は付いている。

 詳しい日程が決まり次第連絡するよ。」

「わかりました・・・それまで僕は何をしていればいいですか?」

「そうだね・・・折角の夏休みだから、ミラノの街を楽しんできたらどうだい?」

 

パオロさんは優しい笑みを浮かべる。

彼の言葉は嬉しいけど、流石にそれは悪い。

 

「僕も何かお手伝い出来る事は・・・。」

 

しかしパオロさん達に笑って断られた。

 

「その気持ちだけ受け取っておくよ。

 昴君はまだ学生だ、今は子供らしく遊ぶ事を優先すると良い。」

「それに大きな戦闘の後だ。

 心身ともに休める事も必要だよ。」

「そうよ、仕事は私達に任せて夏休みを楽しんで。」

 

ブラウさん達からも言われてしまった。

 

確かに僕に出来る事は限られてくる。

それに夏休みを満喫したいという気持ちがあるのも確かだ。

等と考えている時エリカさん達にも声が掛けられていた。

 

「エリカもこの夏は好きに過ごすと良い。」

「勿論馨ちゃんもね。」

「しかし・・・宜しいのですか?」

「今は忙しい時期でも無い。

 それにエリカも昴君とゆっくりしたいだろう?」

 

パオロさんの言葉にエリカさんは顔を綻ばせ、そして「ありがとうございます」と頭を下げた。

 

馨お姉ちゃんは僕と同じお客様という立場だ。

『赤銅黒十字』と『沙耶宮家』との親交を深めると言う役目はあるけど、そこまで深い意味合いは無い。

よって馨お姉ちゃんも同様に夏を満喫できるという訳だ。

 

僕がエリカさん達に視線を向けると、彼女達は笑顔で頷いてくれた。

 

「わかりました、ゆっくり休ませて頂く事にします。

 でも、何かあったら教えて下さい。

 僕に出来る事でしたら何でもしますから。」

 

僕の言葉にパオロさんはしっかり頷く。

・・・という事で僕達は連絡があるまでゆっくりする事になった。

 


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