正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第27話 VSサルバトーレ・ドニ

Side 昴

 

あれから2日が経ち、遂にサルバトーレ卿との決闘の日がやって来た。

今僕達が向かっている場所はミラノ郊外にある公園。

周囲に被害を掛けない様にパオロさん達が辺りを封鎖して、誰も近付けない様にしている。

 

今日は起きた時から緊張感と高揚感が混ざり合った様な精神状態だった。

戦う事への不安から来る緊張感。

剣術の頂点にいる人へ挑む高揚感。

 

しかも戦う事を意識しているからか、体の調子も万全だ。

 

そんな僕のいつもと違った様子に気付いたエリカさん達はあまり話し掛けて来なかった。

良い精神状態にいる僕の邪魔をしたくないと気を使ってくれたみたいだ。

 

 

 

僕達が待ち合わせ場所に到着した時には、既にサルバトーレ卿の姿があった。

彼は僕の姿を視界に捉えると、獰猛な笑みを浮かべて招き入れた。

 

「待っていたよ。

 早速、始めようじゃないか。」

 

彼を見た僕も同様に挑戦的な笑みを押さえる事が出来なかった。

真っ直ぐ彼の前まで歩み寄る。

 

「今日は宜しくお願いします。」

「こちらこそ・・・。」

 

この間とは違う僕の様子に彼も気付いたみたいだ。

軽薄そうな様子は鳴りを潜め、彼も瞬時に臨戦態勢に入った。

 

僕達の間にピリピリとした空気が漂う中、エリカさんが口を開いた。

 

「本日の決闘の立会人はアンドレア・リベア、沙耶宮馨、そして私エリカ・ブランデッリが務めさせて頂きます。」

「そう、よろしくね。」

 

サルバトーレ卿は興味無さそうに告げる。

既に僕達の視界には相対する者しか映っていない。

 

「ルールを確認して置きましょう。

 今回の決闘は先に決定打を与えた方が勝者とさせて頂き、その判定は私達が決めさせて頂きます。

 宜しいですね。」

「わかりました。」

「・・・それで構わないよ。」

 

サルバトーレ卿は少々不服そうだが、一応頷いてくれた。

 

「それでは両者の準備が出来次第始めようと思います。」

「僕はいつでもいいよ、早く始めよう。」

「・・・少し時間を下さい。」

 

早く始めたくてうずうずしている彼に断りを入れ、昂り過ぎた心を落ち着かせる為エリカさん達の下へ向かう。

そんな僕を彼女達は優しい笑顔で迎えてくれた。

 

「昴に卿程とは言わないけど、戦闘狂の気質があったなんてね。」

 

僕の事を思ってか、軽い口調でそう言って来るエリカさん。

それに馨お姉ちゃんも続く。

 

「それは違うよ、エリカさん。」

「あら、何か違ったかしら?」

「昴君は戦う事が好きなんじゃなくて、向上心が強いんだ。

 現状に満足せず、より自分を高めて行く。

 神殺しになった今だって稽古を続けているだろう?」

「言われて見ればその通りね。

 神殺しの方が普段から自分を鍛えている何て聞いた事が無いわ。」

「とはいえ・・・昴君、少し気負い過ぎだよ。

 折角の機会なんだから、もっと柔軟性を持って臨まないと・・・色々と勿体無いよ。」

 

この時初めて2人が僕の方を見た。

2人の瞳からは、僕に対する絶対的な信頼が見て取れる。

僕は2人のやり取りとその信頼の視線にすっと無駄に入っていた力が抜けた。

そしていつの間にか狭まっていた視界も広くなった。

 

・・・本当に彼女達には助けて貰ってばかりだ。

 

「ありがとうございます、エリカさん、馨お姉ちゃん。」

「もう大丈夫そうだね。」

「いってらっしゃい、昴。

 私達は貴方の勝利を信じているわ。」

 

僕は力強く頷くと、サルバトーレ卿と対峙する為歩き出す。

そんな僕を獰猛な笑みを浮かべたサルバトーレ卿が迎えた。

 

「お待たせしました。」

「さぁ、早く始めよう。」

 

睨み合う僕達の間にエリカさんが立つ・・・そして高らかに宣言した。

 

「それでは・・・始め!!」

 

 

 

僕は開始の合図と共に、今出せる最高のスピードでサルバトーレ卿に突進する。

サルバトーレ卿はまだ一歩も動いていない所か、剣すら抜いていない。

それでも僕は『氣』を駆使して、常人なら絶対に出せないスピードで突っ込む。

 

そして間もなく彼の懐に入ろうかと言う所で・・・僕はサルバトーレ卿と目が合った。

 

それに気付いた瞬間、僕は回避行動に入っていた。

前に進もうとしていた体を強引に急停止させるが、その時にはもう目の前に剣先が迫っていた。

 

「っ!!」

 

このまま回避に移っても間に合わないっ!!

 

瞬時に判断した僕はそのまま体の力を抜いた。

急停止によって後ろにあった重心により体は自然と後ろに倒れて行く。

 

その時の僕の目には徐々に迫り来る剣先が映っていた。

 

僕は剣先から目を離す事なく、体が後ろに倒れる感覚に身を委ねる。

彼の狙いは『目』。

寸分違わず突き出されている剣はギリギリの所で僕の眼前を通過した。

 

僕はそのままバク転の要領で地面に手を着き、足を彼の顎目掛けて振り上げた。

 

「おっと。」

 

サルバトーレ卿は難無く躱すが、彼との距離を取る事には成功した。

しかし僕の背中には冷や汗が伝っていた。

 

・・・一瞬でも反応が遅れていたらさっきの一撃でやられていた。

 

サルバトーレ卿が何時剣を抜いたのか、何時剣を振るったのか・・・全く気付かなかった。

そして何より、僕の速さに完璧に対応した事が不思議でならなかった。

 

そんな考えが表情に出ていたのだろう、サルバトーレ卿は楽しそうに口を開いた。

 

「中々の速さだったけど・・・その程度じゃ、僕の目から逃れられる事は出来ないよ。」

 

それが権能の力なのか、彼の努力の結晶なのかは分からない。

でも完璧に僕の速さを見切っていた彼の言葉は事実だろう。

 

「でも驚いだよ、開始早々一直線に突っ込んで来るんだから。

 相手が僕じゃ無かったら決まっていたかもね。」

 

そう言う彼の表情は心底楽しそうだ。

何処にでもありそうな無骨な剣を肩に担ぎ、僕から目を離さない。

 

「う~ん、無手だったから護堂みたいな戦い方なのかと思っていたけど違ったね。

 どうも僕同様、武術を嗜む者みたいだ。」

 

彼はそう呟くと、だらんと両腕を下に下げた。

そしてその姿を見た瞬間、僕の本能が最大限の警戒を鳴らす。

ただ腕を下げているだけ・・・それなのに全く隙が見えない。

それ所か彼の間合いに入れば一瞬の内に切り捨てられる・・・そんなイメージが頭を過る程だ。

 

「先手は取られてしまったからね・・・次は僕の番だ。

 ここに誓おう。

 僕は、僕に切れぬ物の存在を許さない。」

 

その瞬間、彼から『氣』の奔流が溢れだし、彼の右腕が銀色に輝き出す。

これが『剣の王・サルバトーレ・ドニ』の全てを切り裂く魔剣の権能。

禍々しくも絶大なオーラを纏い『無骨な剣』を『魔剣』へと変化させたサルバトーレ卿は僕の方へ歩き始めた。

 

あの魔剣の力を持ってすれば、例え神殺しの体であろうと切り捨てられてしまうだろう。

それにあの眼がある限り容易には彼に近付けない。

例え懐に入れたとしても、あの剣技を躱せる自信は今の僕には無い。

僕には一歩、また一歩と近づいて来る彼の姿が死神の様に見えていた。

 

・・・それでもやるしかない。

 

最初の攻撃が失敗してしまった以上、僕に残された道は真っ向勝負しかない。

 

・・・望むところだ。

 

そんな覚悟を決めた僕の頭を過ったのは、灰色の狼の姿だった。

 

「っ!!」

 

何かに目覚めた様な感覚。

僕の口からは自然と言葉が紡がれていた。

 

「我は戦場の先駆者である。

 我は冥界への先導者である。

 我は勝利への道を切り開く者である。」

 

これが『ウプウアウト』より簒奪した権能を掌握した瞬間だった。

 

 

 

 

 

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Side 馨

 

決闘の開始と同時に目にも止まらぬ速さでサルバトーレ卿に突っ込んだ昴君。

しかしその行動から攻撃に移る事は出来なかった。

昴君の速さを見切ったサルバトーレ卿がカウンターで刺突を繰り出したからだ。

 

間一髪の所で回避出来た昴君だったけど、先制攻撃に失敗した事で真っ向から戦わなくてはいけなくなった。

 

でも少し驚いた。

さっきの先制の突貫は奇襲とも取れる攻撃だ。

サルバトーレ卿との手合せを楽しみにしていた昴君が意表を突く戦法を取るとは思わなかった。

 

・・・後日話を聞いた所によると『折角の手合せ、自分の全てをぶつけたかった』と言っていた。

 

一度距離を取り、仕切り直した両者。

先に動いたのはサルバトーレ卿だった。

卿は魔剣の権能を行使し、ゆっくりと昴君に歩み寄る。

その重圧は対峙していない僕にも伝わっていた。

 

しかしその重圧を払拭する程の呪力の爆発が起こった。

 

視線の先には膨大な呪力を放つ昴君の姿があった。

・・・今迄とは違った力を感じる。

そう思った瞬間、僕の思考を遮る様にとあるイメージが流れ込んできた。

・・・それは灰色の狼の姿。

 

「馨さん、どうかしたの?」

 

僕の様子がおかしい事に気付いたエリカさんが声を掛けてきた。

 

「いや、大丈夫だよ。

 ちょっと霊視が降りて来たみたいだ。」

「あら、馨さんにも霊視の素質があったの?」

「言って無かったかな、祐理程では無いけど少しだけね。」

「それで何が見えたのかしら?」

「灰色の狼・・・間違いなくウプウアウトだと思うよ。

 僕の霊視はあまり成功率が良く無いけど、間近で昴君の権能掌握の瞬間を見たからだろうね。

 かなり明確なイメージが見えたよ。」

 

そんな僕達にこの場にいる最後の1人・・・アンドレア卿が声を掛けて来た。

 

「ウプウアウトというと先日彼が倒した神でしたか。」

「アンドレア卿・・・えぇ、間違いないと思います。

 ですが、現段階ではどの様な権能か全く見当が付きません。」

「・・・ぶっつけ本番、という事ですか。」

 

僕達が言葉を交わしていると、昴君の呪力の高まりは落ち着きを見せ始めた。

 

その間、昴君に詰め寄っていたサルバトーレ卿は足を止めていた。

まるで更なる強敵を待ち望んでいる様に・・・。

一方の昴君の方だが、僕からは何の変化も見られない。

強いて挙げるとするならば、高い集中力を保っている様に見える位か。

 

そして遂に両者が動いた。

 

 

 

 

 

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Side 昴

 

僕は掌握した権能に戸惑いを覚えていた。

戦闘中という事もあり顔には出さなかったが、この権能の能力がよく分からなかったのだ。

炎の権能の様に『体』や『氣』に変化がある訳では無い。

強いて挙げるとするならば、通常時より感覚が鋭くなっている事位か・・・。

 

混乱に見舞われていた僕は彼の声に現実に引き戻された。

 

「準備は出来たのかな?

 それじゃあ、そろそろ行くよ!!」

「っ!!」

 

そう宣言したサルバトーレ卿は先程とは違う素早い動きで僕に詰め寄ってきた。

一瞬で距離が無くなり、剣の間合いに入ってしまった僕は瞬く間に窮地に立たされる。

いつ振り上げられたのか分からない、上段から迫る刃。

咄嗟の反応で後ろに跳んだ事により間一髪、着ていた服を両断されただけで済む。

 

しかし彼の猛攻はそれだけに留まらない。

 

初動の見えない斬撃が僕を仕留める為に縦横から迫り来る。

それを回避だけに専念する事で何とか躱していく。

時には躱し切れず傷を負う事もあったが、致命傷という程でも無い。

 

これは権能行使時から感じていた鋭くなった感覚のお蔭だ。

未だにこの権能の能力は良く分かっていないけど、感覚が鋭くなると言うのは間違いなさそうだ。

 

問題はサルバトーレ卿の攻撃に隙が無い事だ。

今の僕でも回避に集中しなくては避ける事もままならない。

動き出しが速過ぎてとてもじゃ無いけど攻撃に何て移れない。

 

 

 

気を抜けば一瞬で決着が付く、そんな濃密な時間が続く中・・・変化は徐々に始まっていた。

 

 

 

自分の変化に気付いたのはサルバトーレ卿の太刀筋が見え始めた時だった。

いや、見えていると言うよりも彼の動きが分かる様になった・・・と言うべきだろうか。

時間が経つにつれて・・・違う、彼から攻撃を食らう度に徐々に反応速度が上がっている。

避けきれず刻まれた傷の数々・・・これらを経験値として体が彼の動きを覚え始めていた。

 

自覚をして初めてこの権能の使い方がはっきりとわかった。

 

この権能は受けた傷の分だけ経験値として相手を知る事が出来る。

体を張って勝つ為の情報を集める・・・これがこの権能の力だ。

 

実際回避する率は上がって来ているし、今の様に考え事をする少しばかりの余裕もある。

 

でも問題もある。

1つは攻撃に当たらなければ経験値が貰えない事。

一歩間違えれば致命傷を負う可能性もある為命懸けの行動だ。

2つ目は怪我を負い過ぎると幾ら反応速度が上がっても、体の動きが鈍くなる事。

現在も彼に傷付けられた切り傷からは絶え間なく血が流れ続けている。

このままこの状況が続けば、先に致命的な隙を作るのは僕の方だろう。

 

反撃に移りたいが、未だそこに至れる程の余裕はない。

しかしタイムリミットがある以上何か打開策を考えないと・・・。

 

頭と体をフル回転させている時、サルバトーレ卿から声が掛けられた。

 

「いや~凄いね、どんどん反応速度が上がって来てる。

 それが君の権能なのかな?」

「っ!! そ、そうみたいですっ!!」

 

この際攻撃の手は緩められていない。

僕は何とか躱しながら、言葉を返す。

この時、鋭い斬撃を繰り出しながら楽しそうに口を開く彼に僕は1つの悪寒を感じた。

 

 

そしてそれはすぐに現実の物となる。

 

 

「あまり時間は掛けるべきじゃないかな。」

「っ!!」

 

サルバトーレ卿から呟きが零れた直後、本能が最大限の警戒を発した。

彼の『氣』が今まで以上に高まった事に、僕は急ぎ距離を取る。

 

しかし一歩遅かった。

 

「っあぁぁっ!!」

 

左腕から鮮血が舞い上がり、数瞬置いて激しい痛みが襲い掛かる。

目の前には剣を振り切っているサルバトーレ卿の姿。

痛みを堪えながら、僕はそのまま距離を取る。

追撃を警戒していたが、彼が追ってくる気配はなく未だその場に留まっている。

痛みと混乱が思考を鈍らせる中、権能による経験が入ってくる感覚があった。

 

そこから導き出された先程の一撃は・・・桁違いに速い斬撃。

恐らくやっていた事は何も変わらない・・・違うのはその速さのみ。

 

でも言葉で言う程簡単な事では無い。

速さを求め様とすればそれ以上の技術が必要になる。

技術が無ければ唯剣を振っているだけの、何の力も伝わっていない物に成り下がってしまう。

 

しかし彼は違った。

 

権能により感覚が鋭くなっていた僕が気付かない程の速さの斬撃。

それを今まで以上の鋭さと正確さを持って繰り出して来たのだ。

並大抵の技量では無い。

 

・・・これが『剣の王』の実力。

 

驚異的な実力に畏怖し、そしてこの程度の傷で済んだ事に安堵する。

 

彼は勝負を決めに来ていた。

狙いは左肩から右腹に走る斬撃。

それを反射に近い反応で無意識に体が回避していたのだ。

僕が反応出来たのは恐らく権能の力があったから・・・。

 

権能の力に感謝しつつ、同時に心の中で自分を戒める。

権能によって齎された経験を過信しすぎていた。

幾ら相手の動きを蓄積出来ると言っても、その全てを得られる筈も無かったのだ。

 

 

 

「結構本気で決めに言ったんだけどなぁ。」

 

楽しそうな声色の中に少々の驚きが含まれた声が上がる。

警戒を続けていた僕は大きな反応を示す事なく彼を見つめ続ける。

サルバトーレ卿はそんな僕を見て口角を上げたが、何か思ったのか突然審判役のエリカさん達に顔を向けた。

 

「ねぇ、さっきので勝負か決まっちゃったりしたのかな?」

 

確かに今回の決闘のルールは先に一撃を入れた方の勝ちだった筈。

 

・・・もしかして僕負けっちゃったの!?

 

はっとして僕もエリカさん達に顔を向ける。

エリカさん達3人は顔を見合わせると、頷き合い代表してエリカさんが口を開いた。

 

「先程の攻撃で受けた傷は見た目に反してそれ程重症ではありません。

 それに・・・まだ双方力を出し切ってはいない様に思います。

 このまま決着にしては双方納得しないでしょう。」

「うん、それを聞いて安心したよ。

 折角楽しくなって来た所だったのに、こんな所で止められたら完璧に不完全燃焼だよね。

 もしかしたらちょっと強引な手段を使ってでも彼と戦おうとしたかも・・・。」

 

最後に何やら不穏な事を言っていた様な気がする。

エリカさん達の判断に僕も安心したが、すぐに気を引き締める。

 

・・・これからどうするか。

 

先程の攻防でこの権能に付いて更にわかった事がある。

 

1つはこの権能の重要な欠点を見つけられた事。

それは先程も考えた様にこの権能の力では相手の全てを知る事は出来ない。

僕の感覚でだいたい6~7割と言った所だろうか。

あの一撃から「これ以上は得られない」と感じている事から、得られる経験も限られているんだと思う。

 

どうしてそれが分かるかというと・・・『勘』としか言い様がない。

 

そしてもう1つ・・・これもさっきの一撃から感じている物。

今まで気付かなかったが経験と共にもう1つ・・・別の力を蓄えていたみたいだ。

勝負を決められる程強い力では無い。

でも勝つ為の『道を切り開く力』はある・・・僕はそう感じている。

 

その力に意識を向ければ、思い浮かぶのは『弓』とたった一本の『矢』。

 

現在の中断で多少休む事が出来たけど、どちらが優勢かは一目瞭然。

至る所から血を流す僕と、無傷のサルバトーレ卿。

流血は未だ止まる気配が無く、このまま行けば間違いなく僕が負ける。

 

・・・だったら、この力に賭けるしかない。

 

 

 

「さっきはうまく避けられたけど・・・次は決めさせて貰うよ。」

「そうは行きません・・・この勝負、勝つのは僕です。」

 

心に抱える不安は一切見せる事無く、僕は言い切る。

そんな僕にサルバトーレ卿の笑みは深まるばかりだ。

 

「そうでなくちゃ面白くない。

 さぁ、第2ラウンドと行こうじゃないか!!」

 

彼の言葉が再開のゴングとなった。

踏み込もうとしていた彼よりも早く、内に溜められていた力を行使する。

 

「我は戦場に置いて勝利を欲する。

 勝利する為の道を切り開く力を我に示せ。」

 

溢れ出る『氣』と共に手の中に『弓』と『矢』が顕現する。

僕の行動に警戒からか一瞬踏込を躊躇したサルバトーレ卿。

 

その隙を逃さず弓を構え、力一杯矢を放った。

 

矢は凄まじい速度でサルバトーレ卿に迫る。

しかしその先に居る彼は万全の態勢で待ち構えていた。

 

「それも権能の力だね。

 途轍もない呪力が矢に籠められているのがわかるよ。

 でもこの程度・・・僕に斬れない訳が無い!!」

 

そんな事は僕も分かってる。

この攻撃で勝てる何てこれっぽっちも考えてない。

でもあれは唯の矢じゃ無い。

僕自身どんな力があるかもわかっていない。

けどこの場を好転させるだけの力はある筈なんだ。

 

僕は何処から来るか分からない絶対の確信を持って、決着の準備を進める。

 

 

 

その間にも矢はサルバトーレ卿に迫っていた。

迎え撃つ態勢に居るサルバトーレ卿には一縷の隙もない。

 

しかし矢は突然の変化を見せる。

 

サルバトーレ卿に矢が届こうとした瞬間、突然矢が淡く輝き出したのだ。

その輝きは正に彼の持つ魔剣と同じ輝きだった。

それには流石のサルバトーレ卿も驚きを見せるが、次の瞬間には獰猛に口元を歪めていた。

 

「面白いっ!!

 だけど・・・僕には届かない!!」

 

彼の叫びと共に振るわれた魔剣は寸分違わず矢と交わった。

数瞬の拮抗を見せるも矢は真っ二つに切り裂かれてしまい、そのまま消え去る。

 

 

 

だが・・・それだけの隙があれば十分だった。

 

 

 

僕は矢を放った瞬間、今まで鋭くなっていた感覚が戻って行くのを感じていた。

けど得られた経験は無くなっていない。

 

今が勝負の時!!

 

僕はすぐさま新たに権能を行使する。

でも前回の様に長時間準備する時間の余裕はない。

 

少しでいい・・・この勝負を決められるだけの『力』だけで十分なんだ。

 

僕の想いに答える様に体の内が熱くなってきた。

同時に聖句も無く権能を行使するのは無茶なようで、焼ける様な痛みが胸元を襲う。

けどそれも『氣』から『炎』へと変化が完了した事で徐々に収まっていく。

 

それと同時に矢がサルバトーレ卿に届いた。

 

それは嬉々として迎え撃った彼の意識が完全に矢だけに向いた瞬間だった。

未だ残る痛みを我慢して僕は炎を脚に灯し、全力で地面を蹴る。

その速度は最初の比では無い。

地面に炎の軌跡を残しながら、数瞬の間にサルバトーレ卿の懐に入り込む。

 

目の前で矢が消え去るのが見えた。

そしてサルバトーレ卿が僕の姿を一瞬見失う。

次の瞬間には僕の接近に気付く所は流石としか言い様が無いが・・・もう遅い。

 

煌々と燃え盛る拳をサルバトーレ卿に叩き込んだ。

 

 

 

「危なかった・・・ほんとギリギリだったよ。」

 

其処には何食わぬ顔で正面から僕の炎の拳を受け止めているサルバトーレ卿の姿があった。

注視するのは僕の拳が当たっている所。

其処だけ服が焼けているが見えている肌は全くの無傷。

そして拳の当たった感触が在り得ない程硬く、まるで『鋼』を叩いた様だった。

 

「力の籠った一撃を囮とした良い攻撃だったけど・・・。」

 

そう言って手に持つ魔剣を振り上げる。

この距離でこの体制では絶対に避けられないだろう。

 

・・・でも。

 

「この勝負、僕の・・・。」

「いいえ、僕の勝ちです。

 『神道流攻式壱ノ型・波・焔』。」

「なっ!!」

 

サルバトーレ卿に残った炎を全て叩き込む。

事前にサルバトーレ卿の『鋼の加護』についてはエリカさん達から聞いていた。

 

勿論その効果と・・・弱点も。

 

元来『鋼』は『炎』に弱い。

『太陽』や『溶岩』といった超高温に晒されれば間違いなく熔ける。

聞いた話では他の神殺しの方には『鋼殺しの炎』を持っている方がいて、とても強力な権能らしい。

 

僕の『炎』には『太陽』程の力は無い。

『火神』から簒奪した権能・・・所詮は『火』でしかないのだ。

それでも『鋼』に対して唯一の対抗手段。

だから最後の一撃は『炎の権能』を使うと決めていた。

 

戦闘不能に出来なくてもいい。

少しでもダメージを与える事が出来れば・・・。

 

僕の考えは間違ってなかった。

 

サルバトーレ卿の体を炎が駆け巡った。

例え『氣』によるダメージは『鋼』で防げたとしても、『炎』による熱までは防げない。

恐らく全身を中から熱されている事だろう。

 

「・・・がはっ!!」

 

少量だが口から吐血したサルバト-レ卿。

それでも倒れる事無く剣を握り続け、未だ闘志が衰えないのは流石神殺しと言った所だ。

 

・・・でも。

 

 

 

「それまで!!」

 

この場にエリカさんの声が響き渡る。

対峙していた僕達は声の方に顔を向け、それを確認したエリカさんは宣言する。

 

「只今の一撃を持って・・・勝者『神藤 昴』とします。」

 

神殺し同士としては異例のルールに則った決闘に決着がついた瞬間だった。

 




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