第25話 思わぬ遭遇
Side 昴
季節も夏に移り変わり7月の下旬、僕も含めた世の学生は夏休みに突入した。
そして僕は今、飛行機の中にいる。
何故こうなったかと言うと、それは昨日の事だ。
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僕が神殺しになった当初は事情により休んでいた道場だったが、夏休みを機に再開した。
そして1日の殆どを道場で過ごす様な生活を送っている僕。
久し振りに道場を開けた事と、夏休みだという事もあり多くの学生達が足を運んでくれるのだ。
彼等の相手をしていると気付かない内に結構な時間が経ち、いつの間にか夕方になっている日もあった。
勿論夜になると魔術関係者の人達が門を叩いて来る。
当初は殆どの人が神殺しになった僕を敬遠して来なくなった。
来てくれたのは僕が道場に出始めた頃から可愛がってくれていた常連の方達。
理由を尋ねると「昴君は昴君だからね」と昔の様に優しく頭を撫でてくれた。
恥ずかしくもあったが、それ以上に皆さんの変わらない態度が嬉しかった。
数日も経てば常連の方達が声を掛けてくれたのか、皆さん道場に来てくれる様になっていた。
最初は何処か他人行儀だったり、畏怖の表情を浮かべていたりしていた人達も暫く経てばいつも通りに戻っていた。
そんな生活を一週間程送っていたある日の事。
その日は珍しく2人共夕食の時間には帰宅していた。
稽古後という事もあってよく進む箸を手に、エリカさん達と他愛のない会話で盛り上がる。
楽しい食事も終わり、アンナさんが入れてくれた美味しいお茶に舌鼓を打っている時だった。
席を立とうとしていたエリカさんが突然思い出した様に話し掛けていた。
「そうだ、忘れてたわ。
ねぇ昴、夏休みの間に一度イタリアに戻ろうと思うのだけれど・・・一緒にどうかしら?」
「イタリアですか?パオロさん達にも御挨拶したいですし、僕は全然構いませんよ。」
「なら良かったわ。
じゃあ、出発は明日だから準備をしておいてね。」
そう言い残し、エリカさんは笑顔で部屋に戻って行った。
ど、ど、どういう事?
さっき明日って言わなかった!?
何かの聞き間違いだよね?
突然の事に固まってしまった僕だったが、我に返ってすぐにエリカさんの所に向かった。
けど既に部屋の電気は消えていて、起こしてしまうのも憚られたので事情を知っていそうな馨お姉ちゃんの所に向かう事にした。
部屋に居なかった馨お姉ちゃんだったが、御風呂上がりだったのか台所にてノースリーブに短パンとラフな格好で冷蔵庫の中を漁っていた。
「馨お姉ちゃん、聞きたい事があるんだけど・・・。」
「どうしたんだい、こんな時間に。」
僕に気付いた彼女は手に水を持って振り返った。
風呂上りで赤く上気している肌、短く切り揃えられた髪は軽く湿っていて何というか・・・とても扇情的だ。
それに寝間着の代わりなのか、薄着だから下着の有無もわかってしまう。
どういう事かというと・・・む、胸が・・・・・ってそうじゃなくて!
僕はなるべく馨お姉ちゃんの方を見ない様に注意しながら問い掛ける。
「馨お姉ちゃんは知ってたの。
明日からイタリアに行くって事。」
「その事なら前々から決まっていたじゃないか。
今更何を言っているんだい。」
「いったい何時決まったの。
僕さっき初めてエリカさんから聞いたんだよ。」
「さてはエリカさん、君を驚かそうと思って黙ってたな。
だからあの時あんなに驚いていたのか。」
そう言う馨お姉ちゃんだが、彼女の顔も笑っている。
絶対に彼女もエリカさんと一緒で態と言わなかった口だ。
「もう、笑い事じゃないよ。
それにどれ位滞在するかも聞いて無いし・・・今から準備なんて間に合わないよ。」
「ごめん、ごめん。
ほら、僕も手伝ってあげるから。」
その後、馨お姉ちゃんに手伝って貰いながら急ぎ旅行の準備を始めた。
日程についてもその時教えて貰ったが、残った夏休みの殆どを向こうで過ごす事に驚いた。
それと同時に門下生の方々に道場を休むと伝えられない事に気付く。
連絡しようにも既に夜遅い時間。
どうしようか悩む僕だったが馨お姉ちゃんは「心配いらない」と言ってくれた。
「此処の門下生の人達の殆どは魔術関係者だからね。
委員会の方に顔を出せば誰かしら会えるんだ。
だから僕の方で明日から休む事は伝えて置いたから大丈夫だよ。」
「でも、学生の人達には・・・。」
「そっちはアンナさんが帰り際に伝えたと言っていたよ。」
その言葉に僕は思わず準備の手を止めてしまった。
突然キスをして来たり、朝起きたらベッドに潜り込んでいたりと、僕の理性を削って来る二人とは違って、いつも穏やかで優しい(ちょっと天然ではあるけれど)彼女にまで内緒にされていた事にショックを隠せない。
そ、そんな、『我が家の良心・アンナさん』まで旅行の事を内緒にされていた何て・・・。
衝撃の事実を知りショックを受けながらも準備を続け、何とか終える事が出来た。
かなり遅い時間になってしまったから早く寝よう。
そう思ってベッドに足を向けると、そこには穏やかな寝息を立てている馨お姉ちゃんの姿があった。
「・・・う、うそ。」
確かに準備が終わる頃から馨お姉ちゃんと言葉を交わしていなかったけど・・・まさか寝てるとは思わなかった。
呆れながらも静かに眠る馨お姉ちゃんに視線を向ける。
いつもは凛々しくて綺麗で格好いい馨お姉ちゃんだけど、寝顔からは保護欲を掻きたてる様な可愛らしさも垣間見える。
普段と違った表情に僕の胸は高鳴った。
まじまじと見入ってしまい、揚句には整った吐息を零す口元に視線が行ってしまう。
あの柔らかい感触を思い出して、無意識に唾を飲み込んでいた。
吸い込まれそうになった僕だったが、何とか我に返りベッドから距離を取ろうとしたその時だった。
突然腕を掴まれベッドに引きずり込まれたのだ。
突然の事に反応出来ず、為すがままにされた結果・・・僕は馨お姉ちゃんの胸に抱えられ、彼女の抱き枕になっていた。
目の前には慎ましくも柔らかい胸。
足にはすべすべな生脚が絡みついている。
抱き締められている事で全身に感じる女性特有の柔らかな感触に、鼻腔を擽る甘い香り。
その全てが僕の理性を凄まじい勢いで削っていた。
本能に任せて襲い掛かってしまいそうなこの状況の中で、それを止めたのはぽつりと零れた馨お姉ちゃんの言葉だった。
「・・・すばる君・・・僕は・・ずっと・君の・・・味方だ・から・・・・・すぅ・・・。」
囁かれる様に零れたその言葉に本能に染まりそうだった僕の心は、暖かな気持ちに上書きされた。
そして夜遅かった事もあり、安心に包まれた僕はそのまま微睡みの中へと落ちて行った。
「・・・ありがとう、馨お姉ちゃん。」
「さぁ、行くわよ。」
大きな音と共に掛けられた声に驚いて目を覚ました僕。
周囲を見渡すといつも朝が弱い筈のエリカさんが、完璧な姿で立って居た。
気付けば馨お姉ちゃんは居なくなっているし、僕は急かされるままに準備を始め、準備を終えたらそのままエリカさん達に連れられイタリア行きの飛行機に乗ったのだった。
馨お姉ちゃんだが、僕より先に起きて準備を始めていたらしい。
僕の事も一緒に起こしてくれたら、あんなに急がなくて済んだのに。
そんなこんなで飛行機に乗った僕だったけど、今とても眠いです。
睡眠時間が足りていない僕はフライト中少し寝ようと考えていたけど、いつもよりテンションの高いエリカさん達が話し掛けて来るから全然寝られなかった。
旅行が楽しみなのは僕も一緒だけど・・・少しでいいから寝させて欲しかった。
そんな淡い願いは届けられる事は無く、睡眠は取れぬまま飛行機はイタリアに到着した。
「さあ、まずは『赤銅黒十字』に行くわよ。」
「はい。」
「僕は初めてだから、とても楽しみだよ。」
エリカさん先導の下、僕達は空港に着いたその足で『赤銅黒十字』へと向かった。
ちなみに僕の眠気は天元突破され、現在絶好調だったりする。
「流石イタリア随一の大結社、立派だねぇ。」
表向きは立派に金融業を営む『赤銅黒十字』は大きなビルを丸々使用している。
そのビルを見上げながら馨お姉ちゃんが零した言葉にエリカさんが微笑む。
「あら、ありがと・・・じゃあ、行きましょうか。」
僕なら尻込みしてしまいそうな立派なビルにエリカさんは堂々と入る。
着いて入れば皆エリカさんに気付き頭を下げていた。
一般の社員にも認知されているエリカさんに感心しながら、エレベーターに入り込む。
「『赤銅黒十字』では昴君の事はどう認知されているのかな?」
「叔父様達含め大騎士の方達とは以前滞在していた時に会っているから問題ないわ。
問題はそれ以外の騎士や、騎士見習いの子達かしらね。
昴の気持ちを汲んで叔父様達も行動しているだろうから、末端まで情報を共有していないんじゃないかしら。」
「もしそうだとしたら『昴君=魔王』だと思われている可能性があるね。」
「うっ・・・自分で言った事ですけど、想像しただけでちょっと精神的に来そうですね。」
「そんなに心配しなくて大丈夫よ。
今日から1ヶ月も近くに居れば噂がデマだったと皆わかる筈よ。
叔父様達もそう考えたからこそ、余計な口出しをしないのだと思うわ。」
そんな話をしている内にエレベーターは到着したのだが、どうやら様子がおかしい。
エレベーターを降りた先では幾人もの人が忙しなく行き交っている。
何人かはエリカさんを見て頭を下げて来たけど、とにかく忙しそうだ。
そんな彼等を呼び止める事も憚られた僕達は以前使っていた部屋に向かった。
「少しここで待っていて頂戴。」
この騒動の原因を聞きに行く為だろう、エリカさんはすぐに部屋を後にし、残された僕達はエリカさんが戻って来るまでゆっくりする事にした。
「いい部屋だね、流石は『赤銅黒十字』と言った所かな。」
「はい、前回も思いましたが凄く綺麗な部屋です。
でもここまで豪華だと、何だか逆に気を使ってしまいます。」
不埒で備え付けられていたソファに腰掛けながら、ゆっくりとした時間を過ごす。
その後30分程経った頃にエリカさんが戻ってきた。
「ごめんなさい、少し遅くなったわ。
知り合いを見つけたから事情を聴いて来たのだけれど・・・どうもサルバトーレ卿がこの辺りに潜伏しているとアンドレア卿から連絡が来たそうなの。」
「サルバトーレ卿が!?」
「確か『剣の王』と呼ばれている神殺しの1人・・・でしたよね。」
エリカさんは僕の言葉に頷くと続けた。
「恐らく新たな同胞に興味が湧いて、昴と繋がりを持っている『赤銅黒十字』を見張っているという事らしいわ。
その所為で現在結社を上げてサルバトーレ卿の捜索中。
だから大騎士を始め、叔父様も私の両親も今席を外しているの。」
「・・・大変な事になってるんですね。」
詳しい事情は分からないが、大きな騒ぎになっている事は分かった。
そんな僕の隣で「僕も何か手伝おうか?」と言う馨お姉ちゃんの申し出にエリカさんは首を横に振った。
「大丈夫よ、この位私達の手で何とかするわ。
でも・・・そうね、もし良かったら貴方達少し外を歩いて来ないかしら?」
「こんな時に僕達だけそんな事をする何て出来ませんよ。」
「心配しないで、ちゃんと考えがあっての事よ。」
彼女の言葉に首を傾げると、エリカさんは順を追って説明してくれた。
「昴はサルバトーレ卿にまだ顔が割れていないわ。
それを利用してサルバトーレ卿を探して来て欲しいの。
昴なら持ち前の鋭さで一目見ればわかるだろうし、馨さんはサルバトーレ卿の顔を知っているしね。」
「そう言う事でしたか。」
「序に観光もして来るといいわ。
前回は色々あってゆっくり見て回れなかったのだから、丁度いい機会よ。」
そう言ったエリカさんは優しく微笑んでいた。
此処まで言われ、外に行く大義名分まで与えられたのに断るのは逆に失礼だ。
馨お姉ちゃんも頷いてくれたので、エリカさんの優しさに甘える事にしよう。
「分かりました、少し外を歩いてきますね。」
「何か分かったらすぐに連絡するわ。
貴方達もサルバトーレ卿を見かけたら連絡を頂戴。
それじゃあ2人共、宜しくね。」
そうして僕達はエリカさんに見送られて結社を後にした。
外に出た僕達はゆっくりとした歩調で進みながら、これからの事を話していた。
「何処に行きましょうか。」
「う~ん、僕もローマに詳しい訳じゃ無いからなぁ。
僕が前回来たのは姫巫女の修行の時だし、その時は修行ばかりで全然観光できなかったからね。」
「それならローマの有名観光地を回りませんか?
折角イタリアに来たのに、見逃す何て勿体無いですよ。」
「ハハハっ、昴君楽しそうだね。」
「・・・確かに結社の皆さんに申し訳なく思っています。
でも折角エリカさんが気を利かせてくれたんですから、楽しまないとそれこそ失礼ですよ。
それに馨お姉ちゃんと2人で出掛けるのって、凄く久し振りだから・・・その、楽しいんです。」
少し恥ずかしそうに零した言葉に馨お姉ちゃんは一瞬きょとんとしたが、次の瞬間嬉しそうに顔を綻ばせた。
「実を言うと僕もこの状況を凄く楽しんでいるんだよ。
この旅行中、昴君と2人切りで過ごす時間何て出来ないと思っていたからね。
でもこうしてエリカさんが時間をくれたんだ、一緒に楽しもう・・・勿論頼まれ事も忘れずにね。」
ウィンクしながら最後に付け加えた馨お姉ちゃんは僕に手を差し出す。
少しばかり恥ずかしかったが、僕はその手をしっかり握り返した。
その後僕達は色んな所を見て回った。
サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂に、去年草薙先輩が破壊し現在再建中のコロッセオも見に行った。
悪戯心で先輩に工事中の写真を撮って送ってあげた。
そして良い時間になった頃、最後にトレビの泉へとやって来た。
「綺麗な所ですね。」
「あぁ、本当に綺麗だ。」
一頻り感動した後は、恒例のコインを投げ入れたりして大いに楽しんだ僕達。
そろそろ帰ろうかと2人で話していた時だった。
「あれ?財布が無いな・・・何処かに落としちゃったのかな。」
「大丈夫かい、お客さん。」
そんな会話が耳に入った。
声の方に視線を向けると、屋台のジェラート店で困り事があった様だ。
お客さんの服装は場所に全然合っていない派手な色のアロハシャツを着た青年だ。
そして肩には筒状の入れ物を担いでいる。
どうやら彼は財布が無い様で、頻りにポケットの中を漁っている。
僕は何故か彼から目が離せなくて、困っている様だし僕は声を掛ける事にした。
馨お姉ちゃんにその旨を伝え、駆け出す。
後ろから「ち、ちょっと待って」と呼び止める声が聞こえた気がしたけど、その時には既に声を掛けていた。
「どうかしましたか?」
「ん?日本人・・・観光客かな?
いや~~ちょっと財布を無くしちゃってね、困ってたんだよ。」
「僕で良ければ、お金貸しますよ。」
「ホントに!
ありがとう、助かるよ。」
この時初めてこの青年と目が合った。
彼はとても整った顔をしていて、俗にいうイケメンの部類だろう。
そして彼と目を合わせてしまったが故に気付いてしまった。
この人っ!?
僕は不自然にならない様に視線を逸らせ、財布を取り出す。
「これだけあれば足りますか?」
「十分だよ・・・いや~~日本人はやっぱり親切だね。」
彼は僕から受け取ったお金をお店の人に渡して精算をする。
その時後ろから「やっと見つけたぞ」とスーツを着た男性が駆け寄って来た。
彼は逃げ出そうとしたが、男性がその前に肩を掴むと諦めた様に溜息を吐いた。
「あ~あぁ、もう見つかっちゃたか。」
「本当にいい加減にしろ、毎回毎回・・・。」
スーツを着た男性は凄く怒っている様で、その怒りが今にもオーラとなって見えそうな勢いだ。
でも、怒られている人は全然堪えていない・・・と言うより聞いていないみたいだ。
すると、今まで怒りが口から零れていた男性が僕に気付いた。
「おい、この子は?」
「この子は困っている僕にお金を貸してくれたんだ。」
「はぁ・・・大変ご迷惑をお掛けしました、これで足りるでしょうか。」
男性は財布を取りだし、僕にお金を差し出す。
僕は先程の怒った彼を思い出して、思わず受け取ってしまった。
「それでは私達はこれで・・・おい、行くぞ。」
お金を受け取った僕に頭を下げると、男性は青年の首元を掴み、引き摺りながら歩き出した。
「ち、ちょっと、もう逃げないから。
あっ、助けてくれてありがとね。」
そうして2人は嵐の様に去って行った。
2人が見えなくなると馨お姉ちゃんが僕の所に歩み寄って来た。
「大丈夫かい、昴君。」
「はい、大丈夫です・・・ちょっとお金を貸しただけですから。」
「ならいいんだけど・・それよりも・・・。」
馨お姉ちゃんの真剣な表情に、僕は頷いた。
「うん、分かってます。
目が合った時に気付きました・・・あの人がサルバトーレ卿・・・『剣の王』ですね。」
「流石に鋭いね・・・そうだよ、あの方が此処イタリアに君臨する神殺し『剣の王』サルバトーレ・ドニ様だ。
・・・でも、びっくりさせないでくれ。
突然卿の所に向かうものだから僕は気が気じゃなかったよ。」
「す、すみません・・・あの人がサルバトーレ卿だと思いもしなかったので。」
「はぁ・・・でも、何事も無くて良かったよ。
向こうは昴君の事に気付いてなかったみたいだしね。」
かなり心配を掛けたみたいで、馨お姉ちゃんは少し乱暴に僕の頭を撫でて来た。
僕も結構危険な橋を渡っていた事に気付いたので、暫くの間我慢した。
「エリカさんと連絡が付きませんね。」
気を取り直した僕達は、早速エリカさんに連絡を取ろうとしていたのだが、一向に連絡が付かなかった。
僕もパオロさん達に電話をしてみたが全員繋がらない。
「・・・何かあったんでしょうか?」
「さっきサルバトーレ卿を連れて行ったのは『アンドレア・リベラ』・・・彼の騎士だ。
もし彼が見つかった事を利用して正面から『赤銅黒十字』に乗り込んだのだとしたら・・・。」
「っ!! 今すぐ結社に戻りましょう。」
馨お姉ちゃんも賛同し、僕達は急ぎ『赤銅黒十字』に戻った。
しかし時既に遅く、結社に一歩踏み入れたそこは重たい空気に支配されていた。
エントランスホールに入るとそこには片膝を付き、頭を下げているパオロさん達の姿があった。
そして勿論、その中にはエリカさんの姿もあった。
その姿を見た瞬間、僕は少なくない苛立ちに見舞われる。
・・・誰が彼女達に膝を付かせているのかと。
・・・彼女達は僕の大切な人達なのにと。
その苛立ちが僕の内に蓄えられている『氣』を漏れ出させた。
その瞬間全員が僕の方に振り返った。
けれど僕の視線は唯一人に縫い付けられている。
それはさっきまでパオロさん達が頭を下げていた人物。
それはついさっき僕がお金を貸してあげた人物。
僕は真っ直ぐ彼に歩み寄る。
その青年は驚いた様に僕を見たが、次の瞬間にはその顔に獰猛な笑みを浮かべていた。
「君はさっきの・・・そうか、君がそうなんだね。
始めまして、僕達の新しい同志よ。
僕の名前はサルバトーレ・ドニ・・・さっそくだけど僕と決闘しないかい?」
「それにしてもいい所に来たね、アンドレア。」
「どういうことだ。」
「いや~そろそろ待つのも面倒になっていた所だったんだ。
アンドレアも報告があるんじゃないの?
僕も着いて行ってあげるから、一緒に『赤銅黒十字』に行こうか!」
「は!? 何を言っている! ま、待て!」
というやり取りがあったんだと思います。
身勝手な彼についているアンドレアはやっぱり不憫だと思います。