正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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御待たせ致しました。
2話ですが投稿します。

楽しんで貰えたら光栄です。



第24話 会談

Side 昴

 

あの戦いから既に1ヶ月・・・僕は落ち着いた日々を過ごしていた。

7月も間近に迫り日に日に気温が上がる中、今日は梅雨明け最後だという雨が降っていた。

気温はそれ程上がっていないが、ジメジメとした梅雨らしい一日だ。

 

僕は家の道場に居る。

正面には正座で座る2人の姿・・・エリカさんと馨お姉ちゃんだ。

2人は真剣な表情で目を閉じ、意識を集中させ、体に『氣』を纏わせている。

・・・エリカさん達の間では『魔力』や『呪力』と言うらしい。

 

 

 

『神道流』には幾つかの決まり事がある。

その中に神道流の神髄ともいえる『氣』を使う型は神道流・当主に認められなければ教わる事が出来ないという物がある。

認められる条件は幾つかあるが、その中でも一番厳しいのは『氣』を自由自在に操れなくてはいけない事だ。

それが出来る様になって初めて『神道流』の神髄を教わる事が出来る。

 

その『氣』のコントロールの基準が厳しく難しい為、型の習得まで至った人を僕は知らない。

 

真剣な表情で『氣』を操っている2人を見て改めて自分が規格外だったと実感する。

身内だから最初から一般向けの動きと共に『氣』の使い方を教えて貰えた。

僕は周りの大人達を横目に普通なら数十年・・・いや、一生を掛けて習得する物を1年程で習得したのだ。

 

お爺ちゃんに「才能がある」と凄く褒められていたから、もっと稽古に励んで行った事を覚えている。

 

 

 

「今日はこの位にしましょうか。」

 

僕の声に2人は深く息を吐き、体の緊張を解いた。

そんな2人に用意していたタオルを手渡しながら、指摘していく。

 

「馨お姉ちゃんは流石ですね。

 でも時間が経つに連れて少しコントロールが甘くなっています。

 其処が改善できれば、次のステップに進む事が出来ますよ。」

「そうかな?

 でもそう言ってくれて嬉しいよ。」

 

馨お姉ちゃんは汗を拭いながら嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「エリカさんも最初の頃に比べたら凄く良くなってます。

 一度に正確に操る事の出来る『氣』の量も増えて来てますし、この調子ならすぐに馨お姉ちゃんに追い付けますよ。」

「自分の事は自分が1番わかっているわ・・・私なんてまだまだよ。」

 

エリカさんは悔しさを滲ませながら首を横に振った。

彼女はその悔しさからかタオルの持つ手には力が籠っていた。

僕は力の入った彼女の手を取ると、優しく話し掛けた。

 

「そんな事ありません。

 エリカさんが稽古を始めて3か月・・・道場に通う誰よりも早いペースで上達してます。

 大丈夫です、当主である僕が保証します。

 きっとパオロさん達が今のエリカさんを見たら絶対に驚きますよ。」

「・・・ありがとう、昴。

 でも、もっと頑張らなきゃ。」

 

エリカさんの顔に笑顔が戻った。

その笑顔が凄く輝いて見えて、とてもドキドキしてしまった。

 

「皆さん、朝食の準備が整いましたよ。」

 

僕を我に返らせたのはアンナさんの声だった。

自分のしていた事に顔が赤くなり、慌てて握っていたエリカさんの手を放す。

 

エリカさんは少し残念そうだったが、それでも嬉しげな笑顔のまま立ち上がった。

 

「昴、今日も稽古を付けてくれてありがとう。

 とてもいい勉強になったわ。」

 

そうお礼を言うと、最後に僕の頬に口付けをして道場から出て行った。

馨お姉ちゃんが来てから過度のスキンシップは控える様になっていたエリカさんだったので、突然のキスに更に顔が赤くなる。

そうして固まっていると背中から誰かに優しく抱き締めら、それと同時に拗ねた様な口調で囁かれた。

 

「・・・エリカさんにだけ優しく手を握ってあげる何て狡いなぁ。」

「か、馨お姉ちゃん!?」

「僕も昴君の婚約者だって事を忘れないでくれよ。」

 

馨お姉ちゃんはそう言うとエリカさんとは反対の頬にキスをして僕から離れた。

朝から少々刺激の強い出来事に僕は再びアンナさんが呼びに来るまで暫し呆然としていたのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

時間は流れて、夕食の時間。

今日は珍しく全員が食卓に付いている。

普段は放課後になると各自の用事があったりするので夕食時に全員が揃う事はあまりない。

 

エリカさんは日本でのコネクションを作る為に今でも色々と動いてくれている。

その為夜遅い時間に返って来る事も多い。

馨お姉ちゃんは東京分室・室長の座を退いたとは言え沙耶宮家次期当主としても、媛巫女としても学ばなくてはならない事がまだまだ沢山あるらしく、家を空ける事も珍しくない。

 

それでも朝食は全員で取る様にしている。

折角同じ家で暮しているのだからと、僕の我が儘を聞いてくれたのだ。

2人が僕の為に動いてくれている事を知っていたから言い辛かったが、2人共嬉しそうに賛同してくれた。

 

久し振りの皆での夕食に少しテンションが高くなり、口数も多くなっていた。

現在の話題は今日のお昼の事だった。

 

「そう言えば先輩はどうしたんですか?」

「あぁ、彼の事ね。」

「何かあったのかい?」

「草薙先輩が最近は毎日お昼を一緒に食べる様になっていたのに今日は来なかったんです。」

「授業が終わった後すぐ彼の携帯に電話が掛かって来たのよ。

 まぁそのお蔭で私は久し振りに昴と2人きりで食べられたから嬉しかったわ。」

 

綺麗な箸使いでご飯を口に運びながら、表情を緩めるエリカさん。

逆に馨お姉ちゃんは少し羨ましそうだ。

 

「そ、それでその電話が何だったのか分かったんですか?」

「電話に出る時から不機嫌になっていたから相当嫌っている相手みたいね。

 教室に戻った時もまだ不機嫌そうだったから聞けなかったわ。

 一体誰だったのかしらね。」

「それなら予想は付くよ。」

「馨お姉ちゃんは電話の相手がだれか分かるんですか?」

「普段温厚な彼が電話だけで機嫌が悪くなる相手なんて数が限られるよ。

 それにあの方もそろそろ我慢出来ずに動き始めたんじゃないのかな?」

「馨さん・・・もしかして。」

「多分『イタリアの盟主・サルバトーレ卿』で間違いないだろうね。

 あの方は根っからの戦闘狂だから。

 新しく神殺しになった昴君について護堂さんに聞こうとしたんじゃないのかな?」

「それであの人機嫌が悪かったのね。」

 

エリカさんは納得したみたいだけど、僕はさっぱりだ。

 

「どういう事ですか?」

「草薙護堂はサルバトーレ卿を毛嫌いしてるのよ。

 けどサルバトーレ卿は彼の事をライバルだと思っていて、とても気に掛けているって聞くわ。」

「平和に暮らす事が身上の護堂さんにとって彼は厄介者以外の何物でもないからね。

 彼等は今まで2回ほど衝突した事があるけど、その2回共護堂さんが勝っているよ。」

 

確かサルバトーレ卿は草薙先輩よりも早く神殺しになっていた筈。

自分より多くの経験をしている相手に全勝している何て・・・。

 

「やっぱり先輩は強いんですね。」

「そうね、この1年で1番戦闘を経験して成長したのは彼でしょうね。」

「護堂さんは勝負になると手段を選ばない人だからね。

 サルバトーレ卿の様に剣技で来ると分かっている人よりも戦い難いと思うよ。

 まぁ、彼と戦う未来が来ない事を願うしかないね。」

「大丈夫ですよ、この間ちゃんと契約したじゃないですか。」

 

不穏な会話をする二人に僕は自信を持って答えた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

時間は僕が退院した翌日まで遡る。

先輩側からの要請もあり、僕達はすぐに草薙先輩達と話し合いの場を持った。

 

会談の場は沙耶宮家の別邸。

 

「それにしても神藤が俺と同じだった何て今でも信じられないな。

 でも助けてくれてありがとな、御蔭で命拾いしたよ。」

「気にしないで下さい。

 僕も今まで黙っていてすみませんでした。」

 

僕達はいつもと変わらない雰囲気で会話を始める事が出来た。

まぁ先輩の後ろに控えるクラニチャール先輩はずっと険しい表情を浮かべていたけど・・・。

 

僕達の会話にひと段落ついた所で本題を切り出したのはクラニチャール先輩だった。

 

「神藤昴、お前の事はある程度エリカから聞いたが、今一度詳しい説明をして貰ってもいいだろうか。」

「昴の事はあの時話した事が全てよ。

 それに昴に付いての報告書にも同じ話が書いてあったでしょ。

 態々時間を無駄にする話をする必要はないわ。」

「それじゃあ恵那から馨さんに質問・・・どうして王様を裏切ったのかな?」

 

エリカさんに論破され押し黙ったクラニチャール先輩に変わって清秋院先輩が口を開いた。

彼女は鋭い視線で馨お姉ちゃんを睨み付けている。

しかし当の本人である馨お姉ちゃんはしれっとした態度で答えた。

 

「裏切った何て人聞きの悪い。

 僕が護堂さんを手伝っていたのは、正史編纂委員会東京分室室長という立場だったからだよ。

 別に僕個人が護堂さんに忠誠を誓った訳じゃない・・・君達と違ってね。」

 

この言葉には今まで静観していた万里谷先輩も表情が変わる。

 

「どういう意味でしょうか。」

「別に祐理達が苦労してない何て思ってないよ。

 護堂さんには何度も助けて貰ったし、この1年護堂さんが日本を護って来た事も確かだ。

 でもね、例え魔王であったとしてもいつまでも覚悟を決めず「平穏に暮らしたい」だ何て言っている人に心から忠誠を誓う事なんて出来ないよ。」

 

馨お姉ちゃんの表情が真剣な物に変わり、その言葉に室内の空気が重くなる。

そして一変した馨お姉ちゃんの雰囲気に先輩達は呑まれ、表情が固まってしまった。

 

「・・・あ、あの、馨さん?」

「あぁ申し訳ありません、護堂さん・・・恵那達もごめんね。」

「別にいいよ・・・でもついでだからもう1つ聞いていい?」

「何かな?」

「何でそっちの王様に着いて行こうと思ったの?

 やっぱり清秋院家に対抗した沙耶宮家の指示?」

「いや、家は関係ないよ。

 僕が昴君に味方するのは・・・心の底から昴君の事を愛しているからさ。」

 

馨お姉ちゃんの告白に僕達の反応は様々だった。

エリカさんは呆れた様に溜息を吐き、先輩達は口を開けて驚いている。

僕はと言うとストレートな愛の告白に顔を赤くしていた。

 

我に返ったクラニチャール先輩が耳の調子を確認しながら聞き返す。

 

「・・・沙耶宮馨、もう1度聞いていいか。」

「僕は昴君の事を世界で一番愛しているからだよ。

 それに僕と昴君は結婚の約束もしている・・・所謂婚約者同士でもあるね。」

「「「「・・・えええぇぇぇ~~~~~」」」」

 

一瞬の間を置いて先輩達の驚きの声が響き渡った。

 

「神藤昴、お前はエリカと婚約しているのではなかったのか。」

「・・・神藤さん、見損ないました。」

「何時の間に・・・恵那だってまだ王様からプロポーズされてないのに・・・。」

「・・・・・。」

 

クラニチャール先輩と万里谷先輩からは非難の視線が・・・。

清秋院先輩からは羨ましそうな視線が・・・。

草薙先輩は話について行けてないのか放心している。

 

「まぁまぁ落ち着いて。

 僕は子供の頃に神道流の道場に通っていた事があってね、昴君とは幼馴染なんだよ。

 当時から昴君の事が好きだった僕は、お爺様に泣きながらその事を言ったらいつの間にか婚約者になっていたんだ。」

「エリカはそれで納得しているのか。」

「私達の中でこの事はもう決着が着いているわ。

 私達二人共生涯を掛けて昴を傍で支える覚悟と想いがある。

 だったら態々いがみ合う必要はないわ。

 昴も王に為ったのだし、女を2人侍らせる位やって貰わなくちゃ。

 それにそっちも似た様なものでしょ?」

 

暗に僕だけが非難される謂れはないと反論するエリカさん。

その指摘に先輩が顔を赤くしながら、慌てて口を開いた。

 

「前にも言っただろ、皆とはそう言うんじゃないって。」

「・・・ほんと貴方の何処がいいのか全然分からないわ。」

 

草薙先輩の言葉に呆れるエリカさん。

クラニチャール先輩達は何処か寂しそうに見えた。

 

 

 

「この話はこれ位にして、そろそろ本題に入ろう。」

 

何とも言えない空気を変えたのは馨お姉ちゃんだった。

それに乗っかる形でクラニチャール先輩も続く。

 

「沙耶宮馨の言う通りだな。

 草薙護堂、どうされますか?」

 

いきなり話を振られた先輩は首を傾げる。

 

「どうするって・・・何の話だ。」

「はぁ・・・ここに来る前に説明した筈です。

 今回の会談は我々と彼等とがどう付き合って行くか話し合う場だと。」

「あっ、あぁそうだったな。

 ・・・と言われてもなぁ・・・神藤達はどうするつもりなんだ?」

 

先輩からの問い掛けにちらっとエリカさんを見ると黙って頷き返してくれたので、事前に決めていた内容を話す事にした。

 

「僕は可能な限り神様やそれに類する災害に対処していきたいと思っています。

 勿論僕はまだ学生なので『赤銅黒十字』の皆さんや『沙耶宮家』の皆さんに助けて貰いながらになると思いますけど・・・。」

「へぇ・・・そんな事を考えていたのか、凄いな神藤は。」

「先輩はどうされるんですか?」

 

感心している先輩に今度は僕が問い掛けると、先輩は間髪入れず答えた。

 

「俺か?俺の考えはずっと変わらない。

 俺はこれからも平和に暮らしたと思ってるし、もう厄介事はごめんだよ。」

「なら今後日本で起こりうる全ての神の対処を昴に任せて貰えると言う事でいいのかしら。」

 

先輩の言葉にエリカさんは悪魔の様な笑みを浮かべると、間を置かず問い掛けた。

けど素早い反応を見せたクラニチャール先輩が草薙先輩が答える前に割り込んできた。

 

「ふざけるなっ、そんな事許される訳が無いだろう。」

「黙りなさいリリィ、私は草薙王に聞いているのよ・・・それでどうなのかしら。」

「あぁそれで構わないよ、好きにすればいい。

 神藤に押し付ける形になって心苦しくは思うが、俺としては厄介事が無くなって万々歳だ。」

 

言質をとったからか、エリカさん達の顔がすごく笑顔だ・・・はっきり言って怖いです。

逆にクラニチャール先輩達は険しい表情をしている・・・満足そうなのは草薙先輩だけだ。

 

そんな彼に万里谷先輩達が声を掛ける。

 

「本当に宜しかったのですか、護堂さん。」

「厄介事を全部引き受けてくれるって言っているんだし、願ったり叶ったりじゃないか。」

「考えが短絡的過ぎます。」

「そうだよ、王様。

 向こうは今後一切日本で起こる神に纏わる出来事には手を出すなって言ってるんだよ。

 それでもいいの?」

「それのどこが問題なんだよ。」

「大問題です、考えても見て下さい。

 これから起こりうる全ての出来事ですよ。

 その中には期せずして護堂さんが持ち込んで来てしまう出来事もあるでしょう。

 例えば未だ決着のついていない『あの神』との戦いもそうです。」

 

その言葉に草薙先輩の表情が変わった。

 

「そういった事が起こった際、全て神藤さんに任せると・・・貴方はそう仰ったんですよ。」

「それは・・・。」

「だから言ったのです、考え方が短絡的すぎると・・・。

 いい加減王としての自覚をお持ち下さい。」

「・・・・・。」

 

草薙先輩は何も言い返す事が出来ず、等々口を閉ざしてしまった。

其処にエリカさんがわかっていながら、凄くいい笑顔で問い掛ける。

 

「どうかしたのかしら?」

「・・・エリカ、もし良かったらさっき言った事を取り消してもいいか。」

「あら、貴方は平穏な暮らしがしたいから、全部私達に任せてくれるんじゃなかったの?」

「いや・・・それは・・・。」

「エリカさん・・・彼には今まで日本を守ってきた実績があるんだ。

 それに新参者は僕達の方なんだよ?

 幾ら昴君の庇護を受けているとは言ってもそれ以上は不敬になるよ。」

 

意地の悪い事を言うエリカさんを馨お姉ちゃんが窘めると、エリカさんは態とらしく息を吐いた。

 

「・・・それもそうね、だったらこう言うのは如何かしら。

 まず前提としてあなたは平穏な暮らしをしたい・・・そうよね?」

「あ、あぁ・・・。」

「だったらこうして仕舞いましょう。

 何か事件が起こったら双方相手側に連絡を入れるの。

 そして連絡を入れた方が責任を持って事件に対処する・・・どうかしら?」

「・・・それだと幾つか問題点があるんじゃないか?」

「そんな事は分かってるわ。

 でもこれが一番蟠りのない方法だと思うのだけど・・・違うかしら?

 これなら貴方は戦いたい時だけ戦えるし、私達も貴方に振り回されずに済む。」

 

エリカさんの提案に草薙先輩はクラニチャール先輩達と相談したりして吟味していく。

暫く待っていると考えが纏まったのか僕達の方に向き直った。

 

「わかった、その提案に乗ろう。」

「だったらもっと細かく案を詰めましょうか。」

 

そうして双方の案を取り入れながら僕達の間で交わされた契約はこうだ。

 

1.日本に置いて何かしらの事件が起こり、それに関わった際は必ず相手側に連絡を入れる。

2.連絡した側が責任を持って事件に対処し、相手側は基本的に干渉しない。

3.もし双方が同じ事件に関わっていた場合、先に連絡した方が事件に対処する。

4.連絡を受けた際不満があれば交渉する権利がある。しかし最終的な決定権は連絡した側にあり、必ずその指示に従う事。

5.以上の内容を反故にした場合、会談の場を持ち相手側に1つ要求する事が出来る。違反側はその要求を断る事が出来ない。もし要求を断る事があった場合、決闘を持って雌雄を決する。

 

最後は何とも物騒な事になってしまった。

僕と先輩は必要ないと言ったのだが、エリカさん達が念の為だと書き加えた。

・・・決闘が起こる事態にならない事を祈るしかないかな。

 

 

 

契約内容も決まり、後はお互いの確認に入った時だった。

先輩が突然僕に真剣な表情で声を掛けて来た。

 

「神藤・・・最後に1ついいか。」

「何でしょうか。」

「もし大切な人の命が掛かっていたとしても、お前はこの契約を守れるのか。」

 

もしエリカさんや馨お姉ちゃんの命が掛かっていたら・・・。

先輩の問い掛けに思わず想像してしまう。

2人の事を失う恐怖と、そんな事態を招いた自分自身に対する怒りが沸き起こる。

 

僕はそんな感情を押し殺し、深く息を吐き真っ直ぐ先輩を見据える。

 

「・・・守ります。」

「自分で助けたいとは思わないのか。」

「勿論自分で助けたいです。

 でも・・・それが契約を反故にしていい理由にはなりません。

 それに先輩になら任せられます・・・信頼してますから。」

「・・・そうか、ありがとな神藤。」

 

先輩は目を見張ったが、最後は嬉しそうにお礼を言ってくれた。

そして先輩は僕に手を差し出す。

僕はその手をしっかりと握り返した。

 

「これから宜しくな。」

「はい、宜しくお願いします。」

 

 

 

 

 

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「あの人は、その場その場で考えを変える人だからなぁ。」

「警戒するに越した事は無いのよ。」

「・・・わかりました。」

 

不満そうな僕を見て2人は苦笑していた。

と、話題が切れた所でエリカさんが思い出した様に口を開いた。

 

「それよりも昴、もうすぐ夏休みだけど何か予定はあるのかしら?」

「夏休みですか?

 いえ、まだ何も決めていませんけど。」

「そう、ならそのまま予定を開けて置いて貰えるかしら。」

「何かあるんですか?」

「折角の夏休みなのよ・・・有効的に使わなくちゃね。

 大丈夫よ、悪いようにはしないから。」

 

そう言うエリカさんの顔はとても楽しそうだった。

 


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