正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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連日投稿はこれで終わりです。
必ず最後まで書くので、これからも御付き合い頂けたらと思います。


第23話 これから

Side エリカ

 

一帯を飲み込んだ闇に逸早く反応したのはリリィだった。

残り少ない魔力を駆使して瞬時に防御結界を展開したのだ。

 

「ありがとう、リリアナ。」

「いえ・・・ですがこれはいったい何なのでしょうか?」

「万里谷は何かわかるか?」

「・・・恐らく『死』だと思います。」

 

彼女の言葉に私達は少し肝を冷やす。

確かにウプウアウトは『死者の魂を冥界へと導く為の道を切り開く者』という記述があった筈だ。

恐らく冥界への道を作り現世に呼び込んだ・・・と言う所だろうか?

 

「・・・ですがこの状況が続くと、我々も危険です。」

「確かにそうだよね。

 この辺りに『死』が覆っているって事は、私達はこの結界内から出られないって事。

 多分王様以外が結界から出たら、あっという間に死んじゃうよ。」

「それに私も先の戦闘で魔力を使い果たしています。

 この結界を維持できるのもそう長くはありません。」

「なっ!!」

 

彼女達の言葉に彼は驚愕の表情を浮かべ、その表情を険しくさせた。

 

「・・・だったら、今すぐ俺をここから出してくれ。」

「大人しくしていなさい、草薙護堂。

 貴方の考えている事は分かるけど、貴方がここから出ようとすると私達が死んでしまうわ。」

 

私の言った事に彼は戸惑いを見せる。

 

・・・どういう事か分かっていない。

彼は本当に『1人では戦えない王』・・・という事ね。

 

彼の戸惑いに答えたのは清秋院恵那だった。

 

「結界を解いたら次の結界を張る時間も無く、恵那達が『死』に包まれちゃうよ。」

「っ!!・・・そう・・だったのか。」

「私達がここから動けない以上、この闇が晴れるまで昴を信じて待つしかないわ。」

 

自分でそう言いながら固く拳を握り締め、音すらも感じられない暗闇へ視線を向けた。

この闇の中、命懸けで戦っているであろう最愛の人の無事を祈りながら・・・。

 

今は何も出来ないけど、その時になったら絶対に貴方の助けになれる。

そして、その布石も既に準備してある・・・だから頑張りなさい、昴。

 

 

 

 

 

無音の闇の状態が続く。

周囲にも変化は見られず、未だ昴の状態も確認できない。

 

そして次第にリリィの顔色が悪くなってきていた。

額には汗が浮かび、苦しげに肩で息をしている。

 

・・・そろそろリリィは限界ね。

今なら私が代わりに結界を張る事が出来る。

でも、それをすると、もしもの時に動けなくなる。

 

 

そんな私の心が揺れ動いている時、突如私達を覆い隠していた闇が払われたのだ。

 

 

正に一瞬の出来事。

リリィの展開する結界に火の粉が舞ったかと思うと、それと同時に世界に光が戻った。

草薙護堂達は何が起こったのか分からず反応が遅れたが、私にはわかっていた。

 

すぐに周囲に視線を走らせる・・・戦い続けているだろう彼の姿を探して。

見つけた先には、多くの血を流しながらも立ち続ける昴の姿があった。

 

その時ほんの一瞬私達の視線が交わった。

 

何か言葉を発した訳でも、頷いた訳でも無い。

ただ視線が重なり合っただけ・・・たったそれだけで昴の思いが伝わって来た。

 

『信じてます』

 

昴はもう違う場所を向いている。

そして私も・・・彼の視線の先に目を向けながらも動き始めていた。

 

昴が見る先にはウプウアウトの姿。

一度戦ったからわかる。

今の私では『まつろわぬ神』相手に数分の時間稼ぎしか出来ない。

 

だからこそ頭を使う。

 

神は人間に殆ど興味を示さない。

しかも近くに神殺し・・・自身の敵がいるならば尚更だ。

 

其処を突く!!

 

私はこんな時の為に回収しなかった戦場に散らばるクレオ・ディ・レオーネの欠片。

それを瞬時に鎖に錬成し直し、ウプウアウト目掛けて撃ち放った。

 

その時には世界は再び闇に覆われている。

それでも昴の示した所へ迷わず鎖を向かわせた。

 

 

恐らく私が失敗すれば昴の負けは必至だろう・・・でも・・・。

 

騎士としての誇りを持つ私が・・・。

彼の騎士として忠誠を誓った私が・・・。

昴の絶対的信頼を受け取った私が・・・。

そして、最愛の人の危機にこの私が・・・。

 

失敗するなんてありえない!!

 

 

鎖の何かを捕えた感覚。

絶対に離すまいと、鎖を地面に打ち付け固定する。

 

だがそれも一瞬の事・・・。

 

次の瞬間には鎖は引き千切られた。

手応えの無くなった感触に止めていた息を吐き、視線を上へと向ける。

 

其処にはこの闇の中、神々しい程に燃え上がる揺らめく光が見えた。

それが霞んだかと思うと、強烈な爆発が辺りを包み込んだ。

 

地震と見紛う程の揺れと、至近距離で爆弾が爆発したかのような衝撃。

 

爆発と同時に闇は晴れ、代わりに舞い上がった土煙が視界を遮る。

この時点で昴の勝利を確信していた私は、彼の無事な姿を確認したくて堪らなかった。

土煙が晴れ、リリィが結界を解いた瞬間に駈け出した。

 

後ろで草薙護堂が何かを言っているが気にしない。

 

向かった先には小さなクレーターが出来ていた。

ウプウアウトの姿は無く、その中心から少し外れた所に昴が倒れていた。

 

「昴っ!!」

 

倒れている彼を見つけ慌てて彼に駆け寄る。

あの時は一瞬でちゃんと確認できなかったが、昴の体はボロボロだった。

仰向けに倒れている彼の体には見えるだけでも左肩と右腕に穴が開いていた。

出血量からして他にも大きな怪我があるわね。

それに幾ら神殺しの体が頑丈だと言っても、早く治療するに越した事はない。

 

恐らく戦いが終わった事は甘粕冬馬を通じて馨さんに入っている。

ならばもう既に移動や治療の手配をしてくれている筈だ。

 

・・・と、これからの事を思案している時草薙護堂達が追い付いてきた。

 

「お、おい、大丈夫か!?」

 

昴が倒れている所を見て心配そうに声を掛けて来る草薙護堂。

私は彼に視線を向ける事無く言葉を返した。

 

「神殺しとは言え、このまま放って置けば危険よ・・・すぐに病院に連れて行くわ。」

「それがいいと思います・・・護堂さんの様に蘇生の権能を持っている訳では無いでしょうし。」

 

魔力を使い果たしたリリィを支えていた為、少し遅れて追い着いた彼女達。

右側から肩を貸す万里谷裕理が私に言った。

 

「今回ウプウアウトを倒した事で新しい権能を手に入れたと思うけど、恐らく違うでしょうね。」

「確かに『雄牛の権能』を使う時と使わない時とじゃ全然違うからな。

 早く病院に連れて行って休ませた方がいい。」

「そうさせてもらうわ。」

 

私は体が血で汚れる事を気にする事なく、昴を背中に背負う。

そしてそのままこの場を立ち去ろうとした所でリリィに呼び止められた。

 

「待て、エリカ・・・まだ聞きたい事を全て聞いた訳では無いぞ。」

「・・・手短にお願い出来るかしら?」

「先程言っていた準備期間の間に何を企んでいた。」

「企むだ何て人聞きの悪い・・・唯、日本で活動できる様に地盤固めをしていただけよ。」

「日本での支援者を作っていたという事か・・・。」

 

リリィの言う通りだが態々答える必要はない。

今後彼等とどういう関係を築くのか・・・まだ定かではないのだから・・・。

 

「ねぇ、エリカさん・・・日本で出来た支援者って誰なのかな?」

 

リリィが考え込む中、唐突に問い掛けて来たのは清秋院恵那だった。

しかし私はその問いに答えなかった・・・いや、答えられなかった。

何も言わない私を見て彼女は更に言葉を続ける。

 

「私達には言えない相手なのかな?」

 

彼女達の関係は聞いている。

この1年親交があった事も、清秋院恵那達と幼馴染だという事も・・・。

それに同じ四家同士という事もある・・・私が口を挟まない方がいいだろう。

 

「・・・もしかして沙耶宮家じゃないかな?」

「ち、ちょっと待て、沙耶宮家って馨さんの所じゃないか!!」

「王様には言ったでしょ?沙耶宮家が何か企んでいるかもしれないって・・・。」

「確かに聞いたけど・・・。」

「それで、エリカさん・・・どうなのかな?」

 

私は静かに首を横に振った。

 

「その事については何も言えないわ・・・ご自分で確認して貰えるかしら。」

 

私達は少しの間視線を合せた。

その時彼女が何を思っていたのか分からないが、瞳が揺れ動いていた。

視線を先に逸らせたのは彼女の方だった・・・それと同時に深く息を吐く。

 

「何となく分かってたんだ・・・恵那の勘って良く当たるし・・・。

 うん、エリカさんからはもう何も聞かないよ。

 確かにこういうのって本人から聞いた方がいいしね。」

 

そう言うと彼女は口を閉ざした・・・その表情は何処か悲しそうだった。

そんな彼女を横目に今度こそ歩き出そうとした時、次は万里谷裕理が口を開いた。

 

「私からも一つ宜しいでしょうか?」

「何かしら?・・・早くして貰える。」

 

早く昴を病院に連れて行きたい思いから、言葉が強くなってしまった。

それを感じた彼女は謝りながらも、質問してきた。

 

「す、すみません。

 あ、あの、神藤さんは日本で何をするおつもりなのですか?」

「・・・それは今話す事では無いわ。

 こんな事になったんですもの、近い内に話し合いの場が持つ心算でいるわ。

 それまで待ってくれるかしら?」

「は、はい。」

 

本来出ればもっと強く問い詰める筈だ。

それをしないのは昴の体の事があるから・・・。

私は「でも・・・」と続けていた。

 

「でも・・・これだけは言って置くわ。

 昴は純粋に慕っている草薙護堂とは争いたくはないと思っているわ。

 勿論私もクラスメイトである貴方達と・・・何より幼馴染であり友でもあるリリィとは戦いたくないわ。」

 

私の言葉に一番驚いていたのはリリィだった。

柄にもない事を言った事は分かっているが、私の本心でもある。

若干顔が赤くなったが、そんな事をおくびにも出さず、今度こそ彼等に背を向ける。

 

「そろそろ失礼するわ。」

「・・あ、ああ、また学校でな。」

 

私は漸くその場を後にする事が出来た。

そして広場を出た所で車に乗る甘粕冬馬と出会え、そのまま病院へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

Side 昴

 

僕は目を覚ますと、そこは何もない空間だった。

僕は周囲を見渡してみるが本当に何もない。

全てが灰色に塗り潰されている不思議な空間。

 

「目覚めたね。

 ここは『生と不死の境界』、簡単に言うと『あの世の直前』みたいな感じ?」

 

突然声を掛けられ事に驚き、反射的にそちらに顔を向ける。

そこにいたのは小さな女の子・・・綺麗というより、可愛いと言った方が合う子だ。

戸惑いながらも僕も口を開く。

 

「あの・・・あなたは?」

「私は『パンドラ』・・・あ、ちゃんとした女神だからね。

 息子の顔を見る為に態々『不死の領域』から会いに来たのよ。」

 

とても楽しそうに話すパンドラさん。

そんな彼女を余所に今言われて気になった事を尋ねる。

 

「・・・息子って僕の事ですか?」

「そうよ・・・『ママ』って呼んでもいいのよ?」

 

凄く期待を込められた視線を向けられる。

・・・断れる雰囲気じゃない。

でも『ママ』なんて言った事ないし・・・少し恥ずかしい。

 

「・・・『お母さん』じゃ駄目ですか?」

 

恐る恐る問い掛けると、パンドラさんはプルプル肩を震わせながら俯いてしまった。

やっぱり駄目だったかと、不安になって慌てて訂正しようとしたが・・・。

 

「あ、あの駄目でしたか?駄目なら『ママ』って・・・。」

「・・・う・・うわーーーーーーい!!」

「うわっ!?」

 

パンドラさん・・・・もとい『お母さん?』がいきなり飛び付いて来た。

そんな彼女の小さい体を抱き留めながらも、頭には?が浮かんでいた。

 

「こんなに素直な子が新しい息子だ何て・・・お母さんとっても嬉しいよ。

 いいよ、いいよ、これからもお母さんって呼んでね。」

「わかったよ、お母さん///」

 

自分より小さい子を『お母さん』と呼ぶのに違和感はあった。

でも、そう呼ぶと彼女が嬉しそうに笑ってくれるので気にしない事にした。

 

「それにしても最初の実戦から勝利を掴む何て素晴らしいね、お母さんも鼻が高いよ。

 でも気を付けなきゃ駄目よ。

 私と旦那の子供って中々長生きしてくれないのよ。

 この間も2人死んじゃったし・・・。」

 

そんな彼女の話に突然頭に知識が浮かんできた。

 

「っ!!!???・・・神殺しは『エピメテウス』と『パンドラ』の落とし子?」

「おぉ、その通り、特に私は神殺しの支援者でもあるの・・・気紛れだけどね。

 でもヒントを与える位はするのよ・・・まぁ、今回は必要なかったけどね。」

「そうだったんですか・・・でもそうやって気に掛けてくれる人が居るってわかって嬉しいです。」

「本当にスバルは素直で可愛いはね。」

 

そう言って頭を撫で始めた。

自分より年下に見える人に撫でられるのは流石に・・・恥ずかしい。

 

「は、恥ずかしいよ。」

「ごめん、ごめん。」

 

やっと止めてくれた。

今更だけど自分より幼く見える母親ってどう何だろう?

そんな僕の想いとは裏腹に、お母さんは人差し指を立てて話しだした。

 

「折角会えたんだから1つアドバイスをしてあげようかな。

 神殺しになる様な子は大抵自分の戦い方を弁えている物なの。

 今いる子供達も剣の天才だったり、武術の天才だったり・・・色々ね。

 だからこれからも自分の戦闘スタイルを貫き通しなさい。」

「・・・自分を貫き通す。」

「そうよ、それが出来れば貴方は世界最強よ。」

「ありがとう、お母さん、これからも頑張るよ。」

 

とてもいいアドバイスを貰えた。

自分が戦いたい様に戦う。

この言葉を胸に刻んでこれからも頑張って行こう。

 

気合を入れ直した僕に「でも・・・」と話を続ける。

 

「でも・・・ここでの事は地上に帰ると忘れちゃうんだ。

 だけど教えた内容は無意識領域に残るから、安心してね。」

 

お母さんの言葉に少しショックを覚えてしまった。

それに気付いたお母さんは慌てた様子で僕に声を掛ける。

 

「ど、ど、どうしたの。

 大丈夫だよ、覚えてないけど覚えてるから・・・。」

「・・・ううん、知識の事はいいんだ。

 でも・・・お母さんの事も忘れるんだと思うと・・・。」

 

折角お母さんが出来たのになぁ・・・。

覚えていられないなんて・・・寂しいよ。

 

落ち込んでいる僕をお母さんは優しく抱き締めてくれた。

お母さんの腕の中は暖かくて・・・体だけじゃない、心まで暖めてくれる・・・そんな気がした。

それは多分、無意識化に彼女が自分をもう一度生んだ母だと認識しているからだと思う。

 

「ありがとう、そんな事言ってくれたのはスバルが初めてだったよ・・・大丈夫、また会えるから。」

 

僕はお母さんに抱きしめられている内に意識が徐々に途切れて行った。

それでも、最後まで包まれている暖かな感触は無くなる事は無かった。

 

 

 

 

 

目を覚ますと其処は病室だった。

ベッドの脇にはエリカさんと馨お姉ちゃんの姿が見える。

僕が目を開けた事に気付いた二人は安心した様に微笑んでくれた。

 

「目が覚めたようね、昴。」

「気分はどうだい?」

 

体を起こす為に力を入れてみたけど、何処も問題はない。

少し肩と背中に違和感はあるけど、気にせずそのまま体を起こした。

 

「ご心配をお掛けしました。

 体の方も肩と背中に違和感はありますが大丈夫そうです。」

「なら、良かったわ。

 それにしてもカンピオーネの体って凄いのね。

 細かい傷はすぐに完治してしまったもの。」

「護堂さん程早くは無かったけど、凄い回復速度だったね。

 まだ完治してないのは、矢を受けた背中・右太腿・左肩・右腕だけ。

 体の至る所で骨が折れたり、罅が入ったりしていたけど、そっちはもう治ってるよ。」

 

体を確認すると言われた所に包帯が巻かれていた。

言われてみると、背中と左肩だけじゃ無くて右太腿と右腕にも違和感が残っている。

あれだけ痛い思いをしたのに、もうこんなに治ってる何て・・・改めて自分の異常さを再確認した。

 

確認を終えた僕が2人に顔を向けると、彼女達の表情が真剣な物になっていた。

 

「昴君に報告する事がある。」

「・・・僕の事ですよね?」

「そうよ、貴方が眠っている間に・・・というより貴方が参戦した時から馨さんが準備を始めたわ。」

「甘粕さんから連絡を受けて直ぐに僕の家と『赤銅黒十字』に連絡を入れた。

 まあ、準備はしてきたからそれ程大変では無かったよ。

 そして・・・もう発表する準備は出来ている。」

 

僕の勝手な行動の所為で色々と迷惑を掛けたみたいだ。

表情を暗くさせた僕を見て馨お姉ちゃんは明るく励ましくれた。

 

「気にする事は無いさ。

 僕の家族もエリカさんの家族も君らしいと笑っていたよ。」

「それでも皆さんには迷惑を掛ける事になってしまいました。」

「そう思うなら私達の王としてこれから頑張って行けばいいわ。

 それに今回の功績を褒める人はいても、怒る人なんていないわよ。

 初の神殺しとしての戦闘で勝利して、新たな権能を得て、更に草薙護堂に貸を作る事が出来たんですもの。」

「そ、そうだ・・・草薙先輩は怒っていませんでしたか?」

 

あの時は無我夢中だったし、勝てた事は嬉しいけど・・・僕は先輩の戦いを横取りしちゃったんだ。

・・・怒ってたらどうしよう。

 

「そんなこと気にする必要はないわよ。

 彼等も助けられたとは思ったも、横取りされた何て思わない筈だから。」

「そうだよ、護堂さんは基本的には優しくて常識的な人だから・・・心配しなくてもいいよ。」

「・・・そうですよね、良かったぁ。」

 

ほっと一息ついて再び気合を入れる。

まだ話は終わっていないんだから・・・。

 

「それで、僕はこれからどうすればいいんですか?」

「さっきも言った通り、貴方の事を発表する準備は整ってるわ。

 後は貴方が一言、言ってくれさえすれば今すぐにでも・・・。」

 

そんな彼女の言葉にすっと目を閉じる。

そして深く深呼吸をすると、真っ直ぐ彼女達を見据えた。

 

「これからエリカさんと馨お姉ちゃんには沢山迷惑を掛けると思います。

 でも2人の事は僕が絶対に守ります・・・勿論僕を支えてくれる他の皆さんの事も・・・。

 だから、これから宜しくお願いします。」

「ええ、もちろんよ。」「こちらこそ、宜しくね。」

 

2人は力強く頷いてくれた。

 

 

 

 

 

その日新たな王の誕生が世界中に発表された。

日本人の高校生がカンピオーネになったと・・・。

草薙王の戦闘に介入して彼の王を獲物を横取りしたと・・・。

 

僕の事を知っていて報告しなかった『赤銅黒十字』はやはり非難された。

しかしそこは僕の名前を出して貰った。

パオロさん達は渋ったが、僕の所為で彼等が非難されるのは我慢出来なかった。

だから・・・『王の命令』で仕方が無かった・・・そういう風になる様に情報操作をして貰った。

だからかイタリアを始めとしたヨーロッパで僕は『ヴォバン爵の再来』と呼ばれている。

 

僕はどうせ神殺しだ・・・親しい人に本当の事を知って貰っていれば、それでいい。

 

しかし日本ではそんな噂は全くと言っていい程流れていない。

勿論沙耶宮家の皆さんが他方に口添えしてくれた事も大きい。

でもそれ以上に僕と先輩の仲が友好的であると、清秋院家が発言した事が大きかった。

 

馨お姉ちゃんの話では先輩自身が口添えしてくれたらしい。

 

そして沙耶宮家だが正史編纂委員会から追放されるかと思われた・・・がそうはならなかった。

実際の所、沙耶宮家の人間はその多くが重要な要職に就いている。

その為、そう簡単に追放する事が出来なかったのだ。

それに正史編纂委員会としても、僕と先輩の仲が良好ならば、態々片方に付く必要が無くなった事も大きい。

 

でも、馨お姉ちゃんはこれから僕を傍で支えると言って、東京分室室長の座を退いた。

 

現在『赤銅黒十字』『沙耶宮家』には僕に関する情報を少しでも得ようと多方から電話が殺到しているらしい。

予想はしていたみたいだけど、その数が想像以上だったみたいで対応に参っているそうだ。

 

 

 

 

 

そして僕の事を発表した数日後・・・僕が病院を退院し、エリカさん達と家に到着した時の事・・・。

僕達が家に到着すると、其処では荷物の運び入れが行われていた。

 

「えっと・・・何事ですか?」

「これ、もしかして馨さんかしら?」

「流石エリカさん、良くわかったね。

 東京分室室長も辞めたし、これからは堂々と昴君と一緒に居られるからね。

 という事で、今日からお世話になるよ。」

 

そう言って何事も無く、家の中に入って行った馨お姉ちゃん。

それに多少不機嫌になりながらも、諦めた様に続くエリカさん。

 

僕は突然の事に暫くの間その場で呆然としていたのだった。

 




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