正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第21話 VSウプウアウト

Side エリカ

 

「エリカ、これはどういう事だ!!」

 

私が昴を送り出しと後すぐ、怒りの表情を隠す事無くリリィが詰め寄って来た。

無理もない・・・いきなり戦場に現れたかと思ったら、神と戦い始めたのだから。

草薙護堂含め、此処に居る全員が消耗していなかったら昴の事を見逃す事は無かっただろう。

 

「リリアナ、少しは落ち着け。

 でも、エリカ・・・説明はあるんだろうな。」

 

リリィの事を諌めながらも、私に視線を向ける草薙 護堂。

その視線には有無を言わせぬ力があった。

 

・・・これが1年間戦い続けてきた王の覇気・・・今の昴に無い物ね・・・。

 

いつもと違う力強い雰囲気に汗を流しながらも、私は頷いた。

 

「勿論よ・・・流石に隠し通せる事じゃないしね。

 貴方達ももう予想は付いているでしょう?・・・彼は新たに誕生した神殺しよ。」

 

私の言葉に草薙護堂や姫巫女の二人は驚きながらも、何処か納得がいかない・・・そんな表情を浮かべていた。

リリィは相変わらず私の事を睨んでいる。

 

「・・・何故今まで黙っていた。」

「必要だったから。」

「それだけではわからないだろ!!」

「リリアナ、だから落ち着けって。」

 

今にも剣を取り出しそうな勢いの彼女を再び草薙護堂が宥める。

彼の言葉に何とか落ち着いてくれるが、鋭い視線は変わらない。

 

 

私達がこうして話している間に昴とウプウアウトの戦いは始まっていた。

 

 

私は視線を彼等から外し、昴と神の戦いに目を向ける。

現在戦況は膠着状態と言ってもいい。

ウプウアウトが矢を放ち攻撃するのに対して、昴の戦闘スタイルは接近戦だ。

昴は矢による攻撃を上手く避けているが、その数の多さに近付けないでいた。

 

そんな彼を見守りながら私は口を開いた。

 

「彼は今年の3月の終わりに神殺しになったわ。

 以前リリィが詳しく話せって言ってきた、あの事件の時よ。」

「やはりそうか・・・だが何故『赤銅黒十字』程の大結社がこんな大事な事を隠していた。」

 

私は昴から目を逸らさない。

そしてリリィの疑問に答えるつもりも無かった。

私達『赤銅黒十字』の恩人の最後を軽々しく口にする事は出来なかったから・・・。

だから私はリリィの疑問を無視して話を続けた。

 

「彼は私を助ける為に神に戦いを挑み・・・そして重傷を負いながらも勝利を手にし、神殺しとなった。

 私は昴に救われたから、今此処に居る。

 皮肉な事に私の両親も、彼のご両親に命を救われた事があるわ。

 ・・・私達には彼に返し切れない恩がある。

 だから『赤銅黒十字』は彼の傘下に降る事を決めたの。」

 

リリィの息を呑む声が聞こえた。

何故なら大結社である『赤銅黒十字』には一人の神殺しに肩入れするメリットが少ないからだ。

実際リリィの所属している『青銅黒十字』は草薙護堂の恩恵は受けているが彼の傘下に入った訳では無い。

その事がわかっているからリリィは驚いたのだろう。

 

「彼がイタリアで活動をするんだったら、すぐにでも公表出来たわ。

 でも、彼は日本に戻る事を望んだの・・・そこで問題になったのは・・・。」

「・・・俺か。」

「そうよ、日本にはもう既に貴方と言う神殺しが居た。

 あの時神殺しだと名乗りあげても、正史編纂委員会は今迄仕えて来た王に付いたでしょうね。

 それに貴方がいきなり誕生した後輩にどういった対応をするのか予測が付かなかった。

 もし戦いにでもなって、負ける事があれば日本で活動出来なくなる可能性があった。

 いいえ、日本に居場所がなくなる事も考えられた。

 だから私達には日本で活動する為の準備が必要だったの・・・。」

 

私の説明に一応は納得してくれたのか、草薙護堂の強い視線は無くなっていた。

 

こうして話している間、昴の戦いには変化が無かった。

大量の矢の弾幕に昴は近付けない。

何とか隙を見て踏み込もうとしても、距離を取られるか、強い一撃を繰り出して昴を足止めさせる。

昴自身ダメージらしきダメージも負っていないが、この膠着状態に痺れを切らす頃だろう。

 

・・・そろそろ昴が動く頃かしらね。

 

そう思った時、昴の背から炎が立ち上った。

 

 

 

 

 

Side 昴

 

・・・このままじゃ埒が飽かない。

 

戦闘が始まってから今まで、神様の繰り出す大量の矢に近付く事が出来ないでいた。

ただ単に矢を放ってくるだけならまだしも、彼の攻撃には一つ一つに意味があった。

例えば、近付ける隙があったかと思ったらそれが罠だったり・・・。

避け続けた先に絶対に避けられない攻撃を仕掛けてきたり・・・。

此処までの攻防で大きな怪我は追っていないものの、彼の攻撃に手も足も出ない・・・といった所だ。

 

何とかしないと・・・。

 

このままでは一方的にやられるだけだと判断した僕は1つの決断をした。

未だ途切れる事無く迫る矢から一度大きく距離を取る。

恐らくこの距離でも彼の射程内ではあるだろうがさっきよりは余裕を持てる。

今まで近付こうとしていた僕が距離を取った事で、神様も警戒してか攻撃の手を止めた。

 

「少しはやる様だが、逃げてばかりでは、私に勝つ事は出来んぞ。」

 

神様はそう言うと再び弓を構える。

距離を取って余裕があるとはいえ、あの攻撃を避けながらだと集中できない。

そう思った僕はすぐに自身の中に眠る言霊を紡いだ。

 

「天上にあっては太陽、中空にあっては稲妻、地にあっては祭火。

 世界に遍在する火、惑わしの罪を取り除き、善き路によって富を導く者為り。」

 

言霊を紡ぐと共に体から『氣』が漲り、体が内から熱くなる。

 

本当だったら、初めての神殺しとしての戦闘・・・権能を使わずにどこまで通用するのか試したかった。

でもこのままじゃ自分の戦いが出来ないと判断して今回は諦めた。

それに出し惜しみしてやられたら元も子もない。

 

膨れ上がった『氣』は言霊を通じて熱を持ち、徐々に炎へと変わっていく。

今回は前回の様に辺りを火の海にする様なへまはしない。

溢れ出ようとする『氣』を完璧に内に留め、限界まで耐える。

 

・・・とその時、僕の異変に気付いた神様は今迄で最速の矢を放って来た。

 

今迄とは比べ物にならない音速を超える速度で迫る矢。

でも僕は焦る事無く右手を前に掲げ、内に留めてきた『氣』を解放した。

 

ごおおぉぉぉぉ!!

 

その瞬間僕の右手から火炎放射が放たれた。

目の前まで迫っていた矢を一瞬で焼き消したそれは勢いを止める事無く、神様の居る所まで襲い掛かる。

 

「くっ!!」

 

神様は悔しそうな声を上げるも、僕の放った火炎放射を横飛びで簡単に躱す。

まぁ、僕もあの程度で攻撃を食らわせる事が出来るとは思っていない。

だけど時間を稼ぐ事は出来た・・・と僕は自然と口角が上がっていた。

 

右手から放たれた火炎放射はそのまま進行方向を変え、僕の方に引き返してきた。

・・・と言うより、僕がそうなる様に操っている。

そしてそれをそのまま僕の所に突っ込ませ、それと同時に溜めていた『氣』を爆発させた。

 

突如僕から立ち上る火柱。

僕は火柱の中で自身が作り上げた炎・・・その全てをコントロールして背中に集束させる。

外からは炎が収縮する様に見えていると思う。

背中に集められた炎は徐々にその形を変え、大きな輪を形成していく。

そして僕の姿はあの時と同じ日輪を背負っている姿となった。

 

「ほぉ・・・火の神、火神から簒奪した権能か・・・面白い。」

 

そんな僕を見た神様からそんな言葉が零れた。

その表情を獰猛に歪め僕の事を睨み付けながらも、その口角は上がっている。

 

でもそれが決定的な隙となった。

 

彼の見せた一瞬の隙・・・それを見逃す程僕は甘くない。

『神道流移動術・瞬(またたき)』を利用して彼との距離を一瞬で詰める。

その時気付いたが『氣』を込めた瞬間、僕の足に炎が灯った。

 

・・・そうか、この権能はこうも使う事が出来るのか!!

 

権能の使い方の1つを理解した瞬間だった。

だけど今はそんな事を気にしている時では無い。

そのまま地面を蹴り、炎の軌跡を残しながら神様の懐に飛び込んだ。

 

「なっ!!」

 

一瞬の隙を付いた速攻に神様は反応する事が出来ない。

僕は拳にも足同様に『氣』を込める。

そしてそれは自然と炎へと変化していた。

それを認識した瞬間、僕は口角が上がる事を押さえられなかった。

 

「『神道流攻式壱ノ型・波(なみ)・焔(ほむら)』」

 

僕は拳を叩き込んだ。

『波(なみ)』による攻撃に炎の権能が加わった事によって、体中を炎が駆け巡っている筈だ。

 

「ぐっうううぅぅぅ・・おおおぉぉぉぉ。」

 

苦悶の声を上げる神様。

此処で勝負を決めるつもりで更にもう一発叩き込む。

しかし、そうしようとした所で、突如彼の手にメイスが現れたのだ。

その事に気付いた時にはもう遅かった。

彼は表情を痛みで歪めながらも的確にメイスを振り上げていた。

 

「ぐはっ!!」

 

まさか反撃が来るとは思っておらず、僕は腹に重い一撃を喰らってしまう。

そのまま吹き飛ばされ、ごろごろと暫く地面を転がり続けた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・くっ!!」

 

暫くして漸く止まる事が出来た。

急いで体を起こそうとしたが、激しい痛みに体の動きが止まってしまう。

それでも気合と根性で起き上がり神様に視線を向けると、彼も僕を睨み付けていた。

その彼も僕と同様、肩で息をしている。

互いが始めて貰った一撃・・・それがかなりの威力を持っていたという事だ。

 

「はははっ・・・流石は神殺しと言った所だな、先程の一撃は中々に効いたぞ。」

「・・・それは僕も同じですよ。」

 

思わず僕達の顔に笑みが浮かぶ。

だがそれはすぐに互いを睨み合う鋭い視線をと変わった。

 

ウプウアウトの手には再び弓が構えられる。

それを見た僕は痛む体に鞭打って構え直す。

 

そしてウプウアウトの弓から矢が放たれた瞬間に僕達の第二ラウンドが始まった。

 


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