正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第20話 参戦

Side 護堂

 

「我が元に来たれ、勝利のために・・・・・。」

 

俺はこの戦いに決着を着けるべく『白馬の権能』を行使した。

戦闘中に日も落ち、既に周囲は闇に染まっている。

だと言うのに東の空が明るくなり、朝日が昇ったかの様に辺りを照らす。

 

しかしアヌビスはこのピンチの中、何故かその顔に笑みを浮かべていた。

俺は何か言われぬ違和感を持ったがもう遅い。

『白馬』によって呼んだ太陽の欠片がもうそこまで迫っていた。

俺の心配を余所に太陽の欠片は轟音と膨大な熱と共にアヌビスへ降り注ぐ。

 

その時・・・俺は見た。

辺りが白の世界へと覆い尽くされる中、煌めく一筋の矢が『白馬』の向きを変えた所を・・・。

 

「なっ!!」

 

強引に外された『白馬』はアヌビスに届く事無く地面に衝突して爆発した。

大きな爆発音に包まれて大量の土煙が舞う。

『白馬』の攻撃が収まった所でリリアナ達が傍に寄ってきた。

 

「お疲れ様です、草薙護堂・・・どうかされましたか?」

「気を付けろ!!まだ終わってないぞ!!」

 

先に言霊の剣で神力を削られていたアヌビス。

勝負あったと気を抜いていた彼女達に対して声を荒げ、注意を促すと瞬時に全員が気を引き締め直した。

 

土煙が晴れた先に居たのは『白馬』の影響を一切受けていないアヌビス。

そしてその後ろには、今までこの場に見受けられなかった狼の頭をした新たな神の姿があった。

突然の乱入者に俺達全員が唖然とする中、少し悔しそうに表情を歪めたアヌビスが口を開いた。

 

「本当ならば主を呼び出すつもりであったが・・・呼び出せたのはお前だったか・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

 

アヌビスの言葉に顔だけを向けて言葉を話そうとしない獣神。

そんな彼に悟った様に溜息を吐くと、黙って目を閉じてしまった。

 

「ふん、不完全だったか。

 まぁ、仕方ない。

 俺はもう殆ど力が残っていないからな・・・好きにしろ。」

 

アヌビスがそう言うと獣神は徐にアヌビスに噛み付いた。

 

「「「「「なっ!!」」」」」

 

その光景に俺達は愕然とする。

しかし獣神はそんな俺達を余所に、そのままアヌビスを一息に飲み込んでしまった。

目の前で狼に取り込まれてしまったアヌビス。

 

「・・・ウォオオォォォォォォ!!」

 

その直後、狼の遠吠えとも呼べる雄叫びと共に奴の神力が爆発した。

先程とは比べ物にならないアヌビス以上の神力。

俺達は今迄の疲労と、奴から感じられる強い神力の所為でその場を一歩も動く事が出来なかった。

 

そんな中、今まで口を閉ざしていた狼が俺を見て口を開いた。

 

「お前が我が父をあそこまで追い詰めた神殺しか。

 私がお前と戦う理由は無いが一応呼び出された身・・・義理は立てて置こうか。」

「お前はいったい・・・。」

 

尋ねると狼は口角を上げ、高らかに宣言した。

その声量は先程の雄叫びとなんら変わらない大きさであった。

 

「私はウプウアウト・・・『軍神・ウプウアウト』だ。」

 

奴の声量に耳を塞ぎながら頭を働かせるもその名に心当たりはない。

隣にいるリリアナ達に目を向けるが彼女達も首を振る。

そんな時、後ろから声を掛けられた。

 

「ウプウアウト・・・その名の意味は『道を切り開く者』。

 確か死者の魂を冥界へと導く為に道を切り開く者・・・だったかしら?

 エジプトの神でアヌビスの息子とも言われている神よ。」

「エリカ・・・お前エジプトの神話も詳しかったんだな。」

「詳しく何てないわよ。

 今回の事でちょっと調べただけで、この程度の事しか知らないもの。」

 

エリカが後ろから奴に関する情報を教えてくれた。

俺達が急遽頼んだ事とはいえ、エジプト神話に付いてまで調べていてくれた何て・・・。

・・・本当に凄い奴だ。

 

それにしても・・・これからどうする。

この状況で戦うのは厳しすぎる。

俺の権能は一日一回しか使えない。

しかも先のアヌビスとの戦闘でその殆どを使ってしまっている。

・・・今残っている権能でこいつを倒す事が出来るかどうか。

 

「私は我が父『アヌビス』様に召喚された身だ。

 義理立ての為、私と戦って貰おうか。」

 

あちらは既に戦うつもりでいるらしい・・・不味いな。

今にも襲い掛からんとしているウプウアウトに警戒していると、隣からリリアナが声を掛けて来た。

 

「草薙護堂、ここは退きましょう。」

「あぁ、わかってる・・・でも・・彼奴がそう簡単に逃がしてくれるとは思えない。」

「・・・私達が殿を務めます、その間に貴方は退いて下さい。」

 

そう言ってリリアナと清秋院の2人が目を合わせ前に出ようとする。

だがそれを俺が急いで止めた。

 

「駄目だ・・・お前達も、もう殆ど魔力が残ってないだろ。」

「しかし・・・!!」

 

俺が止めるとリリアナ達から抗議の声が上がったが、それを遮る様に彼女が前に出た。

 

「そうよ、貴方達は下がりなさい・・・殿は私が務めるわ。」

 

「お前もか」と呼び止めようとしたが、彼女から溢れだす魔力量に思わず声が出なかった。

エリカは赤と黒のケープをその身に纏い、その手には刀身の薄い長剣が握られている。

 

「エ、エリカ・・・お前、その魔力は・・・。」

「今はそんな事を説明している余裕はないでしょう。

 殿と言っても今の私ではそう長い時間を稼ぐ事は出来ない。

 だから、早く行きなさい!!」

 

エリカは魔術で剣を盾と槍に変形させると、強く地面を蹴ってウプウアウト目掛けて駆け出した。

 

「エリカッ!!・・・くそっ!!」

 

俺は駆けだした彼女を呼び止めるが彼女が止まる事は無かった。

思わず後を追おうとした時、そんな俺の腕をリリアナが抑えた。

 

「草薙護堂さん・・・今は退きましょう。」

「リリアナッ!!エリカ1人を置いて行ける訳が無いだろう!!」

「分かっていますっ!!・・・ですが、今の貴方には何も出来る事はありません。」

「そうだよ、王様・・・恵那も今は退く時だと思う。」

「護堂さん・・・エリカさんを信じて今は退きましょう。」

 

リリアナの意見に賛同する万里谷と清秋院。

こうしている間もエリカは俺達とウプウアウトの間に陣取り、彼奴の進攻を食い止めてくれている。

 

「・・・くそっ!!」

 

今も必死に戦うエリカを尻目に俺はこの場から退く事を決めた・・・そんな時だった。

 

「気を付けて、そっちに攻撃が行ったわ!!」

 

今正にこの場を後にしようとしていたその時、エリカの声が俺達に届く。

その声に反応して振り返ると上方から数本の矢が俺達目掛けて迫っていた。

その時ちらっとエリカ越しに見えたウプウアウトの目は、真っ直ぐに俺を捕えていた。

まるで逃がさないと言っているかの様に・・・。

 

エリカの声に反応したリリアナと清秋院が矢を打ち落とす為動くが、幾つか撃ち漏らしてしまう。

残った矢の数は3本。

あの速さの矢を避ける事は容易ではない・・・それに俺は既に『鳳の権能』を使ってしまっている。

俺の後ろには万里谷が居る・・・もし俺が避けられたとしても、彼女に被害があったら元も子もない。

 

くそっ・・・これしかないか。

 

俺は体を張る覚悟を決めた。

万里谷を庇う様に更に前に出て、即死を防ぐ為腕で顔を覆う。

多少の傷なら『駱駝の権能』で我慢する事が出来る。

重傷を負ったとしても『雄羊の権能』を使って蘇る事が出来る。

真っ直ぐ俺目掛けて迫る矢を目にしながら、俺は体に力を入れる。

 

 

 

・・・しかし衝撃が来る事は無かった。

 

 

 

矢が俺に当たる寸前、何かが矢と共に俺の前を通り過ぎたのだ。

突然の事に唖然とするも、俺はその何かの方へ視線を向けた。

 

「間に合ってよかったです。」

 

・・・そこには軽く体に付いた土を払いながら笑う、最近知り合った後輩の姿があった。

 

 

 

 

 

Side 昴

 

僕が広場に到着した時、そこにアヌビスの姿は無く、狼の顔をした人とエリカさんが戦っていた。

狼から感じる『氣』からして彼も神様だろう。

 

その神様と繰り広げるエリカさんの戦いはとてもいい物とは言えなかった。

繰り出す攻撃はどれも相手にされておらず、神様の視線はその後方に居る草薙先輩に向けられている。

それでもエリカさんは必死に神様の動きを止めようと攻撃を繰り返していた。

 

・・・多分エリカさんの目的はあの神様の足止め。

さっきの戦いで消耗した草薙先輩達を逃がそうとしているんだ。

 

何とか自分に意識を向ける為泥臭くも攻撃を繰り返す彼女の姿を見て僕はそう判断した。

だったらとエリカさんを援護する為動き出そうとしたその時、エリカさんと対峙する神様が先に動いた。

 

タイミング的には丁度先輩達が撤退を始め様としていた時・・・。

それに勘付いた神様が初めて攻勢に出たのだ。

今まで避けると言う選択肢しか選んでこなかった相手に対して、エリカさんは咄嗟に対応する事が出来なかった。

突き出した槍を掴まれ、そのまま投げ飛ばされてしまった。

彼女自身はうまく着地に成功し怪我も無かったが、神様はその隙に攻撃準備を完了させていた。

 

「気を付けて、そっちに攻撃が行ったわ!!」

 

エリカさんの鋭い声が飛ぶ。

それと同時に神様の手から弓に番えた矢が放たれた。

 

それにいち早く反応したのはクラニチャール先輩と清秋院先輩だった。

 

放たれた矢は一本だったが、空中で幾つもの矢に分裂した。

それを二人は的確に落としていく。

しかしさっきの戦闘が響いているのか、2人の動きにはキレが無かった。

その全てを落とす事が出来ず3本の矢が草薙先輩目掛けて迫る。

 

それを見た瞬間、体が動いていた。

 

今迄押さえていた『氣』を解放し全力を持って駆けだした。

矢の狙いは先輩の眉間・・・3本全てが一直線に飛んでいる。

 

だったら狙うのはあの一点・・・丁度、矢が重なり合う所。

 

先輩は後ろに居る万里谷先輩の事を思い、腕で頭をガードしながらその場を動かない。

先輩が動かないなら好都合と、僕は速度を落とさず前に飛び上がる。

そしてそのまま先輩にあたる直前の・・・丁度重なり合った矢を纏めて蹴り飛ばした。

 

バキッ!!

 

蹴りを喰らった矢は圧し折られ、それと共に消え去る。

僕は勢いを殺し切れず、地面を滑りながら着地した。

少し土煙が上がってしまったから、体に付いた土を落としながら後ろを振り返った。

 

「間に合ってよかったです。」

 

そう言うと草薙先輩は凄く驚いた顔で僕を見ていた。

どうして僕が此処に居るのか分からない・・・そんな表情だ。

 

「・・・神藤・・・だよ・な。」

 

何とかといった感じで発せられた言葉に僕が返そうとした時、別の所から声が掛けられた。

 

「・・・昴。」

 

声の方に振り向くとエリカさんの姿があった。

その顔は「仕方ないわね」と半ば諦めている・・・そんな顔をしていた。

そしてその後方には以前戦った鋼の獅子が神様相手に奮迅しているのが見えた。

僕と話をする為の時間を稼いでいるんだ・・・でも、神様相手にあれでは大した時間は稼げない。

 

「すいません、エリカさん・・・折角協力してくれていたのに台無しにする様な事をしてしまって・・・。」

「昴、今は目の前の事に集中しなさい!!」

 

時間の無い事が分かっているエリカさんは謝り始めた僕に喝を入れる。

そしてそのまま僕に顔を寄せると頬にキスをしてくれた。

 

「私にかっこいい所を見せて頂戴。」

 

彼女の喝に気持ちがリセットされ、彼女の温もりが僕に力を与えてくれた。

自分でも少し現金だと思うけど、この際気にしない。

 

「思う存分やりなさい、何かあればサポートするわ。」

 

そう言うとエリカさんは僕から離れ、後ろに下がって行った。

 

 

 

気持ちを入れ替えた僕は神を見据える。

彼は既にエリカさんの創りだした獅子を粉々に砕いてしまっていて、真っ直ぐ僕だけを見据えていた。

 

 

此処で初めて僕達の視線が合わさった。

 

 

ここに来てから溢れ出ようとする『氣』を抑えるのが大変だった。

でも・・・もう抑える必要はない・・・全力で戦える。

 

「貴様も神殺しだな。

 しかし今は貴様の相手をするつもりは無い・・・其処を退いて貰おうか。」

「それは無理な相談です。

 先輩と戦いたいのなら、僕を倒してからにして下さい。」

「・・・・・。」

 

神はそれ以上何も言わず、僕を睨み付けながら弓を構えた。

これ以上の問答は無駄・・・と言う事か。

 

「神道流当主・神藤 昴・・・いざ参る!!」

 

そして僕が神殺しになって初めての『まつろわぬ神』との戦いが始まった。

 


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