正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第02話 卒業旅行での出会い

Side 昴

 

まだ日の昇っていない時間。

家の前で友達に車で拾って貰い空港に向かう。

昨日は準備で忙しかった事と、久し振りに体を動かした事もあってぐっすり眠れた。

朝は稽古の関係上早起きが得意だったりするから問題なく起きられた。

 

空港で皆と合流し何事も無く飛行機に乗り込む。

イタリアまでおよそ12時間、飛行機の旅を楽しもう。

最初はみんなで楽しくお喋りをしていたのだが・・・でもすぐに皆寝てしまった。

朝も早かったし、案外飛行機の中って退屈だったから仕方ないかな。

僕も寝ようと思ったけど、これからの事を考えると楽しみ過ぎてまったく眠たくなかった。

だから気持ちを落ち着かせる為に精神統一をする事にした。

 

 

 

『神道流』は古くから我が家に伝わる古武術の一種だ。

『神道流』には基本的な武術とは別にもう一つ・・・特別な技法がある。

それは・・・体内に眠る『氣』を体に纏い技を繰り出す技である。

『氣』とは己の中に眠る力・・・人であれば誰でも持っている力だ。

勿論誰でもそれを認識し、使えると言う訳ではない。

お爺ちゃんによれば素質・・・要するに才能が必要だという話だった。

 

『氣』は色々な事が出来る。

『神道流』では己の体に『氣』を練り上げ纏い、攻撃力・防護力等の様々な身体能力の向上を行う。

勿論それだけではない。

己の『氣』を相手にぶつける事で体の内側から攻撃する事も出来る。

そう言った特別な技法であり『氣』を使った型は危険である為、人に使ってはダメだと教え込まれていた。

そして『氣』を使った型はお爺ちゃんに認められた人にしか教えられなかった。

・・・はっきり言えば僕とお爺ちゃん以外に使える人を僕は知らない。

 

何故僕が『氣』の力を知っているかと言うと・・・それは以前『氣』の力を疑っていた時だった。

お爺ちゃんにその事を話したら不意打ちでお爺ちゃんに『氣』を叩き込まれたのだ。

拳自体は全く力がなかったのだが、僕はその場で戻してしまい、暫く立ち上がる事が出来なかった。

・・・つまり身をもって『氣』の力を経験しているのだ。

 

門下生の人達の中では『氣』の事は『魔力』『呪力』とも呼ばれている。

彼等の話を聞いて僕の知っている『氣』の使い方とは全然違う使い方をしていて驚いた。

以前見せて貰った物では何もない所から剣を取り出したりしていた。

それが凄く格好良くて憧れた時もあった・・・お爺ちゃんに駄目だと言われて断念した。

 

『神道流』は本来『氣』を使う流派なのだが、それを教わる事が出来るのは当主に認められた者のみ。

であればそれ以外の人は一体何を学ぶのか・・・それは『氣』の使い方だ。

先も言った通り『氣』を使うにはそれ相応の才能がいる。

勿論才能だけで使いこなす事が出来るほど簡単な物では無い。

我が道場に通って来る人達の多くは『神道流』の武術だけではなく『氣』の使い方も学びに来ているのだ。

 

ここで僕の行う精神統一に戻るのだが、もちろん普通の精神統一とは違う。

己の『氣』の流れを感じそれを自在に操る事が『神道流』における精神統一なのだ。

僕は簡単に『氣』を自在に操れる様になったが、これが他の人にはかなり難しいらしい。

『氣』の流れを感じ取りそれを己の管理下に掌握していく。

それを体の隅々にまで行き渡らせると、次は体の一か所だけに纏わせていく。

体の至る所を順番に・・・そして次第にどんどん速度を上げて行く。

僕はこれが出来る様になるまで1年程かかったが、他の門下生の人達は体の表面に『氣』を纏わせる事すら悪戦苦闘していた事をよく覚えている。

 

 

 

 

 

そうやって逸る気持ちを抑えていると漸くイタリア・ミラノの空港に到着した。

空港を出ると卒業旅行の企画者の父親が待っており、彼の用意した車に乗り込んでホテルへと向かった。

本当であればすぐにでも素晴らしい街並みをこの目と足で見て回りたかったのだが、そこは我慢。

そして到着したのは普通だったら絶対に泊まれないであろう高級感溢れるホテル。

中に一歩足を踏み入れれば、エントランスの豪華さに呆気に取られてしまった。

泊まる部屋も豪華だった。

ベッドはふかふか、室内にある物はどれも磨き抜かれていて煌びやかに輝いていた。

 

僕達は部屋に荷物を置くとすぐにエントランスに集まった。

勿論観光する為だ。

だけど観光するにしても僕達だけでは心許無いので、日本人のガイドさんが付いた。

本当に至れり尽くせりだ。

 

 

 

 

 

・・・と思っていたんだけど。

 

「皆ぁ~何処行ったんだよ~~。」

 

現在皆とはぐれ絶賛迷子中。

どうしてこうなったのか分からない。

ミラノで有名な建築物を見たり、露店で買い食いをしたり、皆で記念撮影をしたり・・・。

僕は皆と一緒に歩いていた筈なのに・・・いつの間にか皆が居なくなっていた。

携帯に連絡しても誰も出ないし、ここが何処かもわからない。

あぁ、どうしよう・・・何か泣きそうだ。

視界が潤んで来てパニック状態に陥っていた時・・・目の前に女神が舞い降りた。

 

「そこのあなた・・・大丈夫??」

 

話し掛けて来たのは160を少し超える身長で、赤みがかった煌めく金髪、繊細な造りの華麗な美貌。

そんな見目麗しい美しい女性が僕に向かって優しく微笑みかけて来た。

 

「あ、あの・・え、えっと・・・・。」

 

ど、ど、ど、どうしよう・・・イタリア語わかんない。

涙目であたふたしている僕を見て、その女性は優しい微笑みを浮かべた。

 

「落ち着いて、日本語で大丈夫よ。」

「えっ!!ホントだ!!」

 

日本語が通じると分かり、ほっとする。

そして閊えながらも今の状況を話した。

 

「あ、あの・・僕、卒業旅行に来てて。

 そ、その・・・皆と逸れちゃって・・・。」

「そう・・・迷子なのね。

 他の人と連絡もつかないのよね・・・次に皆で行こうとしていた場所はわかるかしら??

 私で良ければ案内するわ。」

「あの・・そんな・・・ご迷惑じゃ・・・。」

 

申し出は嬉しいけど、この人にも予定があるだろうし・・・。

皆と逸れて不安ではあるけれど、初対面の人にそこまでして貰うのは何だか気が引けてしまう。

けれどその女性は優しい微笑みを僕に向けてくれた。

 

「気にしなくていいわよ、ここで貴方を見捨てるのは淑女として私の矜持が許さないから。」

 

この言い回し・・・何処かのお嬢様なのかな??

服装も簡易なドレスみたいだし、彼女の仕草にも上品さが醸し出されている様に見える。

僕はそんな彼女に見惚れてしまった。

 

「そう言えば自己紹介がまだだったわね、私はエリカ・ブランデッリ・・・あなたは??」

「は、はい、ぼ、僕は神藤 昴と言います!!」

 

見惚れていて反応が遅れてしまったが、何とか自分の名前を言う事が出来た・・・この時顔は真っ赤だった。

 

「それじゃさっそく行きましょうか。」

 

エリカさんはそんな僕の様子に笑みを浮かべると僕の手を取って歩き出した。

僕はいきなり手を繋がれたと事と、彼女の手の柔らかさに暫くドキドキが治まらなかった。

 

 

 

結局皆と回る予定の場所を順番に見て回ったが彼等と再会する事は出来なかった。

・・・本当に皆何処に行ったんだよぉ。

落ち込む僕を見かねたのか、エリカさんはそのまま僕の手を取って観光案内をしてくれた。

それも地元の人しか知らない場所ばかり・・・普通に観光に来たんじゃ絶対に見られない物を見る事が出来た。

 

僕はエリカさんに手を引かれて観光している時に、ふと懐かしい気持ちになった。

・・・前にもこんな事があった様な。

思い浮かぶのはもっと小さかった頃・・・僕が女の子に手を引かれて遊ぶ光景。

両親が死んだ時より前の記憶は殆ど覚えていない僕だけど・・・多分これはその頃の事じゃないかな。

隣を歩くエリカさんに視線を向けると、何だか胸の所が温かくなった。

 

 

 

結局日が暮れる前までエリカさんにミラノの街を案内して貰った。

最後にホテルの前まで連れて来て貰い、そこで漸く皆と再会出来た。

 

「今まで何処行ってたんだよ。」「そうだよ、心配したんだからね。」「おい、その綺麗な女の人誰だよ。」

 

皆に取り囲まれ一斉に質問攻めにされる・・・皆に心配を掛けてしまったみたいだ。

そんな僕を優しく見つめていたエリカさんだったが、彼女の持つ電話が鳴ると少しばかり表情を強張らせ・・・。

 

「今日は楽しかったわ、昴。

 機会があればまた会いましょう。」

「あっ!!今日は本当にありがとうございました!!」

 

エリカさんは僕のお礼に微笑み、そのまま踵を返し去って行った。

短い時間だったけど彼女との観光はとても楽しかった。

彼女と別れるのは名残惜しいし、少し・・・いやとっても残念だが仕方がない。

・・・また会えるといいな。

 

その後皆からエリカさんの事や今日一日何をしていた等、沢山の事を聞かれた。

僕はエリカさんに付いては全部はぐらかした・・・だって彼女との思い出は僕だけの物だと思ったから。

・・・もう一つ言えばガイドさんと友達のお父さんにめちゃくちゃ叱られた。

 

 

 

その日は到着早々沢山歩き回って皆疲れていた。

その為夕食をホテルのレストランで食べたら、明日に備えて今日は休む事になった。

しかし休む事になったと言っても、友達との旅行・・・そう簡単に眠れる訳が無い。

幾つか借りている部屋の中で、僕ともう一人で使っている部屋に皆が集まっていた。

 

「それにしても今日は大変だったよなぁ・・・主に昴が。」

「本当に心配かけてくれたよなぁ・・・昴が。」

「こっちは心配してたってのに、その本人は金髪美人とデートだもんなぁ・・・なぁ、昴君。」

 

み、皆の顔が笑っているのに怖いです。

怖い笑顔で僕を見つめる彼等に必死に取り繕う。

 

「や、やだなぁ、デートだ何て・・・。

 周りから見たら、弟にしか見えて無かったと思うよ??」

 

自分で言って悲しくなった。

・・・僕は同年代の男子に比べたら結構小さい方だ。

周りに160・・・大きい人だと170を超える奴がいるのに、僕は160も無い。

・・・でも大丈夫、高校生になったら身長ももっと伸びる・・・筈だ。

 

「う~~ん、弟って言うより・・・妹に見られたんじゃねぇか??」

 

1人がそんな事を言い出した。

思わず言葉が出ない・・・その間に他の皆も次々に話し出す。

 

「確かに、弟じゃなくて妹だよな!!」

「昴ちゃんはそこら辺の女子より可愛い顔してるからなぁ。」

「髪が金髪で目の色が一緒だったら・・・何処からどう見ても妹だったな!!」

「・・・ぼ、僕は男だよ!!」

「いや、知ってるよ。」

「でも残念だよなぁ・・・お前が女だったら絶対モテモテだぜ。」

「余の男達が放っておかないよな!!」

 

余り嬉しくは無いが僕は背が小さくて女顔・・・可愛らしい顔立ちをしている。

小さい頃から女の子に間違われるし、中学の時も女子に化粧されてスカート穿かされそうになった事もある。

街を歩いていて男からナンパされた位だ・・・隣に居た友達に爆笑された。

僕の容姿に付いて思い思いに話す皆を見て今一度心に決める。

 

・・・いつか絶対かっこいい大人な男になって見せる!!

 

その後もずっと可愛い可愛い言って来るもんだから、遂に僕がキレてしまった。

その所為で皆が逃げる様に部屋を出て行き今日は解散になった。

 

暫く怒りが収まらなかったが、同室の子に宥められて何とか落ち着きを取り戻した。

時計を見るといい時間になっていた。

僕達は散らかった部屋を片付けてからベッドに入った。

 

 

 

ベッド横になってから今日の事を思い出す。

・・・エリカさん綺麗だったなぁ。

目を瞑るとあの優しい笑顔が鮮明に思い出される。

 

そこでふと何かが頭を過った。

何か思い出せそうな・・・う~~ん、何だったかなぁ。

 

「あっ!!そうだっ!!」

「わっ!!もう、びっくりしたなぁ。」

「ご、ごめん。」

 

既に寝ようとしていた同室の子に謝ると飛び起こした体を再びベッドの中に戻す。

そしてベッドの中で思い出した事を考えてみる。

 

『エリカ・ブランデッリ』・・・何処かで聞いた事があると思ったらあの手紙だ。

確か差出人が・・・『パオロ・ブランデッリ』。

おんなじ苗字だったぁ・・・どうして今まで気付かなかったんだろう。

今になって後悔が募る。

イタリアに「ブランデッリ」と言う苗字の人がどれだけいるのか分からない。

でも折角だから聞いておけばよかった・・・もしかしたらご家族の方だったかもしれないのに。

 

はぁ・・・もう会う機会は無いだろうなぁ。

 

僕は布団を深くかぶると、そのまま目を閉じて眠りについた。

夢の中でエリカさんに会えないかなぁ・・・何て心の隅に思いながら。

 


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