正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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長らくお待たせ致しました。
ニートがバイトを始めた為執筆時間が取れませんでした。

楽しんでくれると光栄です。


第18話 厄介事

Side 護堂

 

新学期が始まって既に1ヶ月が過ぎた。

今の所何事もなく日々を過ごしている。

 

エリカが留学して来て何か起こるかとも思っていた時もあったが、特に接触してくる様子も無い。

リリアナは例の噂・・・イタリアに現れた『まつろわぬ神』の事を気にして色々と探りを入れている。

俺もエリカと例の後輩がこれに深く関わっているとみているのでリリアナの事は静観している。

 

・・・まぁ、今は彼に付いて大して心配していない。

 

しかしリリアナはそうでは無い様で、今も彼女達の周辺を洗っている。

・・・が、余り状況は芳しくなく、これといった情報を掴んでいないらしい。

だからか、エリカから少しでも情報を取ろうと昼を一緒にしてはどうかと提案して来たりもした。

別に断る理由もなかったので承諾し、今では毎日ではないが一緒に食事をする仲になった。

 

 

 

リリアナが気にしている相手の1人・・・エリカの婚約者だと言う俺の一つ下の少年。

名前を神藤 昴。

線が細く、顔も中性的で女の子だと言われても納得してしまう様な顔付きだ。

彼の事を知らない人は学年を問わず学校中居ない程、神藤 昴は有名になっている。

理由は勿論エリカと婚約関係だと学校中に知れ渡っているから。

 

リリアナが言うには彼は何か武術を嗜んでいるらしい。

勿論ドニの奴や姉さんの様な達人級ではないだろうけど、それなりの腕ではあるらしい。

彼が本当にカンピオーネだったとして、もし戦う事になったとしたら・・・厄介だな。

・・・こんな事を考えてしまう辺り、俺もこの体質に慣れてしまっているのかもしれない。

 

しかし今思えばその程度で神に勝てるとは思わない。

今迄の情報も単なる偶然で、俺の感じた感覚もやっぱり気の所為だったんじゃないかと今では思っている。

 

彼とは普通に話せる位には親しくなった。

始めは距離を感じていたが、今となっては神藤も俺の事を先輩として慕ってくれている。

俺も可愛い後輩だと思って何かと世話を焼く様になった。

・・・神藤と話していると万里谷達が何やら意味深な視線を向けてくる事がある。

どうしたのか聞いても「私達、信頼してますから」としか言ってくれない。

 

一体何だっていうんだ・・・。

 

 

 

五月も終わりそろそろ梅雨の時期に入ろうかという頃に俺の携帯に着信が入った。

 

「久し振りだな、元気にしてたか。」

『うん、恵那は全然元気だよ。

 お浄めも終わったから、そろそろ王様の所に顔を出そうと思ってたんだ。』

「そうだったのか、会えるのを楽しみにしてるよ。」

 

電話の相手は『清秋院 恵那』。

俺の持つ相棒『天叢雲剣』の使い手であり、媛巫女の1人だ。

彼女は降臨術師という稀有な能力を持っている。

これによって『神がかり』という自分に神の力を宿す事が出来る。

しかし『神がかり』は心身共に負担が激しく、何度も使う事の出来ない大技でもある。

更に街等に出て体内に俗気を溜めると『神がかり』が出来なくなる。

その為定期的に霊山に籠り心身共に清める必要があるのだ。

 

初めは日本で初めての神殺しである俺の近くに異国の者・・・リリアナがいるのが許せなかった様だ。

どちらも譲れない物があり二人は争っていたが和解・・・今では背中を預ける事の出来る仲間となっている。

彼女は俺にとっても大切な存在だ。

 

「用事はそれだけか?」

『そうだった・・・あのね、久し振りに頼み事を聞いて貰ってもいいかな?』

「厄介事か?」

『大した事じゃないよ・・・最後の王に比べたら・・・。』

「それ大した事あるよな!!また神様絡みの厄介事じゃないか!!」

『・・・えへへ。』

 

可愛らしく笑い声を零す彼女に思わず溜息が零れた。

確かに彼女とは会える時間が少ない為かこうして頻繁に連絡を取り合っている。

しかし、彼女から連絡が来た時は限って何かしらの厄介事を頼まれるのだ。

 

「はあ、せっかく平和を満喫してたって言うのに・・・それで、どうしたんだ。」

『うん、1週間位前にエジプトから考古学者がある発掘品を日本に持ち帰って来たんだ。』

「ちゃんと許可も取ってたんだろ、別に問題ないじゃないか。」

『それだけなら何も問題なかったんだけどね・・・その持ち帰った発掘品が神気を発してたんだよ。』

「それじゃあ、その人は何も知らずにゴルゴネイオンみたいな奴を日本に持ってきちゃったって事か。」

『そういう事になるね・・・それに逸早く気付いた清秋院家が回収する事に成功したんだけど・・・。』

「おい・・・まさか・・・。」

『数日前にエジプトでまつろわぬ神が現れたんだって・・・すぐに姿を眩ましたらしいんだけど。

 それで、間違いなく今回の件と関係があると思うから、一応王様に持って置いて貰おうと思うんだ。

 それにそっちには祐理がいるし、序に鑑定して貰おうと思ってるんだ。』

「はあ、それで俺はどうしたらいいんだ。」

『恵那も今からそっちに向かうよ、詳しい事は皆で直接話し合った方がいいと思うからね。』

「わかった、リリアナ達には俺から話しとくよ。」

『よろしくね王様・・・後最後にもう一つ。』

「何だ?」

 

ふと彼女の声が剣呑な雰囲気に変わった。

何かに警戒する様な彼女に俺も自然と真剣に耳を傾ける。

 

『恵那は山に入ってたから詳しい事はわからないんだけど・・・最近沙耶宮家の様子が可笑しいらしいんだ。』

「沙耶宮家って馨さんの所だったよな?」

『うん・・・何か極秘裏に企んでるみたいってお婆ちゃんが言ってた。

 王様の方からちょっと聞いてみてくれないかな?王様のいう事なら逆らえないと思うし・・・。』

「・・・わかった、俺の方でも確認してみるよ。」

『ありがと、王様・・・それじゃあ、恵那も直ぐにそっちに行くからね~~。』

 

そう言って電話が切れた。

平和だった日々が終わってしまった。

幾つかの懸念事項はあるが、今は気にする事では無い。

そう思って俺はリリアナ達に連絡を取るべく、そのまま携帯をとった。

 

 

 

 

 

Side 昴

 

僕は今1人の男性と共に身を潜めていた。

 

「それにしても素晴らしい隠形ですね。

 私も『忍』としてそれなりに自信があったんですけど・・・自信を無くしそうです。」

「そんな事ありませんよ・・・甘粕さん。

 貴方の方が上手く気配を消せているではありませんか・・・僕なんてまだまだです。」

「いえいえ、立場が違いますよ。

 昴さんはカンピオーネであり、私とは魔力の量も桁違いに多い。

 その事や年齢を考えると私等より素晴らしい技術をお持ちだ。」

 

そう言って褒めちぎってくれるのは正史編纂委員会所属の馨お姉ちゃんの片腕である『甘粕 冬馬』さんだ。

「僕の片腕だから」と馨お姉ちゃんが強引に僕達の側に引きずり込んだ・・・少し可哀想な人だ。

初めて会った時僕がカンピオーネだと知るととても驚いていた。

何でも昔僕のお爺ちゃんに教わった事があるらしい・・・少し懐かしそうに僕を見ていた。

 

巻き込まれた当初「安定した収入が・・・」何て言っていたけど、馨お姉ちゃんとお話しした後は一転。

とてもやる気に満ち溢れていた・・・馨お姉ちゃん何を言ったんだろう?

そして僕達は今、とある広場を見渡す事の出来るビルの一室でそこに居る人達を監視していた。

 

 

 

話は先日に遡る・・・。

 

 

 

「それじゃあ、『まつろわぬ神』がその発掘品を追って日本に来るかもしれないって事ですか?」

「今の状況だとそうなるね・・・時間的にも封印は間に合わないだろうし・・・。」

「まったく・・・面倒な事になったわね。

 あの人達だけで片付けてくれればいいのだけれど・・・。」

「僕達はまだ表だって動けない。

 それに僕はまだ東京分室の室長の身だ・・・護堂さんへの協力は拒めない。」

 

僕達が日本で活動出来る様にする為色々な準備をしていた頃、一つの問題が転がり込んで来た。

それは考古学者の人がエジプトで発見された発掘品を研究の為に持ち帰って来た事だ。

それだけなら何も問題はなかったのだが、それが神に纏わる代物だったのだ。

同時期にエジプトに『まつろわぬ神』が現れた事も確認されている。

恐らくその発掘品を狙ってくるだろうっていうのがエリカさん達の見解だ。

 

僕達はこの件についてどの様に対処するか話し合っていた。

その話し合いの最中にエリカさんの携帯が音を立てる。

エリカさんは電話相手の名前を確認すると少し複雑そうな表情を浮かべた。

 

「少し外すわね。」

 

彼女はそう言うと腰を上げ、部屋を出て行った。

そんな彼女らしからぬ感じに首を傾げる。

 

「誰だったんでしょう?」

「大体予想はつくよ・・・。」

 

馨お姉ちゃんは電話の相手に予想が付いているのか、エリカさんと同じ様な表情だった。

エリカさんが居ない状態で話を進める訳にも行かないので、その間僕達は雑談をして待っている事にした。

と言っても今回の件についてだったけど・・・。

 

「今回現れる神様ってどんな神様なんでしょう?」

「詳しい事は全然わかってないよ。

 発掘された品は何かの獣の形をしていたみたいだけど・・・ごめんね、僕の所まで情報が降りて来て無いんだ。」

「馨お姉ちゃんって確か東京で一番偉い人だった筈だよね?」

「その筈・・・何だけどね。

 最近僕達沙耶宮家が何かを企んでいるんじゃないかって・・・主に清秋院家から疑われているんだ。」

「それって・・・僕の事・・ですよね。」

「そうだね、いったい何処から漏れたのやら。」

 

馨お姉ちゃんは軽くその事を話していたが、僕の所為で沙耶宮家の人達に迷惑を掛けている。

落ち込み始めた僕に「気にする事は無い」と馨お姉ちゃんは僕の頭に手を置いた。

 

「昴君に味方をすると決めた時点でこうなる事は予想出来ていた。

 僕達沙耶宮家はそれをわかった上で君の配下になる事を選んだんだ。」

「でも・・・。」

「ほら、そんな顔をするな。

 これから君は僕達の王になるんだよ?

 トップがそんな事じゃ皆が不安になるだろう?」

 

そう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。

その状態のまま「それに・・・」と口を開く。

 

「・・・もうあの地位に対して何の執着も無いんだ。

 今の僕には昴君の隣で、昴君を支えていく事にしか頭に無いよ。」

「馨お姉ちゃん・・・。」

 

撫でる手を止め僕の顔を覗き込んでくる彼女の顔はとても嬉しそうに笑っていた。

そしてその顔は徐々に近づいて来て・・・。

 

「んっ、うん・・・私がいない間に何しているのかしら?」

 

後ろから掛けられた声に慌てて馨お姉ちゃんから距離を取る。

ぼ、僕は何を・・・さっきの事を思い出して自然と顔が赤くなって来た。

そんな僕を余所に2人の間では火花が散っていた。

 

「案外戻ってくるのが早かったね・・・もっとゆっくりしていても良かったんだよ。」

「要件は簡単な物だったから・・・残念だったわね。」

 

 

 

僕の二人の婚約者は怖いです・・・。

 

 

 

「エ、エリカさん、電話は誰からだったんですか?」

 

声を掛けると二人は睨み合いを止め僕に意識を向ける。

僕の問いに対してエリカさんは少し困った顔をして「少し面倒な事になったわ」と切り出した。

 

「どうかしたんですか?」

「さっきの電話リリアナからだったんだけど・・・今回の件で協力してくれないかって要請が来たわ。」

「やっぱりそうだったか・・・。」

「えぇ、私も予想はしていたけど・・・本当にそんな事を言ってくる何てね。」

「仕方ないよ、君はそれだけの騎士だ。

 何か緊急事態に陥った時に手を貸してくれる人材は多い方がいいからね。」

「光栄ね・・・私からしたらいい迷惑だけど・・・。

 でも、断れなかったわ・・・今の段階で王の命令に逆らう訳にはいかない。」

「今はまだ・・・ね・・。」

 

先程とは打って変わってテンポよく会話が進んで行く・・・まるで長年一緒に居る親友同士みたいだ。

僕は二人の話に口を挿む事が出来なかったが、会話の切れた所で不安事項を口にした。

 

「でも、大丈夫何ですか?

 神様との戦いの最前線に立たされる何て・・・何か危ない事を任されるんじゃ。」

「前回の戦いに比べたらそこまでの危険ではないと思うわ。

 今回本当の最前線に立つのは草薙王だし、彼のサポートも近衛騎士であるリリアナ達がするでしょうから。

 私は何かあった時の為の彼等全員のサポートよ。」

「そうですか・・・それなら安心しました。」

 

危険な事には変わらないけど、エリカさんが神に挑む事が無さそうで・・・心の底からほっとした。

後は・・・。

 

「僕はどうすればいいでしょうか?」

「・・・昴には家で待って居て貰いたいのだけれど・・・嫌・・よね?」

「当たり前です!!僕だけ家で待ってる何て出来ませんよ!!」

 

エリカさんが危険な所に行くのに僕だけ安全な所で待ってる何て出来る訳が無い。

僕の強い言葉に説得は難しいと判断したのか、馨お姉ちゃんが代案を出してくれた。

 

「・・・だったら、こうしよう。

 護堂さんに限って無いとは思うけど、もし彼が破れてしまった時の為に昴君には近くに控えていて貰う。

 何かしらの緊急事態になったら僕達の計画は狂うけど・・・仕方がない・・・昴君に対処して貰おう。」

「昴が黙って待っていられない様だし、それが妥当ね。」

「わかりました、僕は気付かれない様に近くで待機して置けばいいんですね。」

「昴君には甘粕さんを付けるよ。

 彼は優秀だから、何かあったら的確に対応してくれる。」

 

 

 

そして僕は甘粕さんと一緒に草薙先輩達を監視しているのだ。

先輩達は発掘品を封印する事を既に諦めている。

馨お姉ちゃんの言っていた通り封印する時間が全然足りなかったからだ。

それに万里谷先輩の霊視によって発掘品が神様の重要な力の一部である事が分かっている。

だから、まだ完全に復活していない『まつろわぬ神』を迎え撃つ事に決めたとエリカさんから報告があった。

 

その時ふと、何か強大な力が近付いて来るのを感じた。

それと同時に僕の体にも変化が起きる。

 

・・・この感覚は・・・。

 

「甘粕さん、来ましたよ。」

 

僕は視線を遠方に向けながら甘粕さんに声を掛ける。

僕は初めて自分以外の神と神殺しの戦闘を見る事となった。

 




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