正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第13話 草薙 護堂

Side 護堂

 

俺の名前は『草薙 護堂』・・・城楠学院に通う高校2年生だ。

そして1年前・・・イタリア・サルデーニャ島で『軍神ウルスラグナ』を殺し神殺しとなった男だ。

 

それが波乱の幕開けだった。

その後すぐにウルスラグナと争っていた神『メルカルト』と戦う事になるし・・・。

俺の先輩にあたる神殺し『剣の王』サルバトーレ・ドニと戦い、勝手にライバル認定されてしまうし・・・。

この1年、『神』や『カンピオーネ』との戦い続き・・・しまいには時間旅行までさせられた。

そして神殺しとして最大の強敵だった『最後の王・ラーマ』を倒す事に成功した。

ホント大変だった・・・しかもまた何年かしたら復活するみたいな事を言っていたし・・・憂鬱だ。

 

神殺しになって様々な事件に書き込まれた波乱の1年だったけど、俺も高校2年生。

満喫したとは言えない春休みが終わって今日から新学期が始まる。

 

 

 

そんな俺は早朝・・・いつも通りに起きて日課のランニング。

シャワーを浴びてスッキリしたら爺ちゃんが作ってくれた朝食を食べる。

そして隣に座る妹『草薙 静花』から新学期早々白い目を向けられる。

 

「お兄ちゃん・・・もう何を言っても無駄だろうけど、高校生らしからぬハーレムを築くのはやめた方がいいよ。」

 

何て事をぐちぐちと言って来るが気にしない。

俺はそんな物作ってない・・・彼女達は俺の大切な人であり、パートナーだ。

妹の視線を無視し続け、朝食も食べ終わった頃・・・玄関の呼び鈴が鳴った。

 

「ほら、お兄ちゃん・・・お迎えが来たよ。」

 

妹の絶対零度の視線を華麗に受け流し、鞄を持って玄関に向かう。

扉の先で待っていたのは、妖精を思わせる端正な顔立ちに可憐よりは凛々しいという言葉の似合う、銀褐色の長い髪をポニーテールに纏めた女の子・・・自称俺の騎士である『リリアナ・クラニチャール』だった。

 

「おはようございます、草薙 護堂、今日から新学期ですね。」

「おはよう、リリアナ・・・いつも迎えに来て貰って悪いな。」

「いえ、これも騎士の務めですから。」

 

彼女とは俺がカンピオーネになる少し前からの付き合いだ。

俺がサルデーニャに行った時に偶然出会い、最初は俺が持っていた荷物に興味を持ったのだったか・・・。

俺を『はぐれ魔術師』だと警戒して届け先まで一緒に行ったんだ。

そこで神の戦いに巻き込まれた俺はカンピオーネになってしまった。

 

そしてリリアナは俺が神殺しになってしまった事は自分にも責任があると・・・俺の騎士になってくれた。

・・・のだが、リリアナが所属している『青銅黒十字』の上層部の人達が反対してきた。

理由は俺が新米の神殺しだから・・・神殺しと言えど何の実績の無い俺には従えないという事だった。

その時俺に興味を示したサルバトーレ・ドニが勝負を持ち掛けた。

ドニの野郎の提案で決闘の内容で判断すればいい・・・という事になり強制的に決闘する事に・・・。

結果的に何とか俺が勝利を収め、『青銅黒十字』の人達に俺の力を認めさせる事となった。

そして彼等は俺に協力してくれる様になり、リリアナも晴れて俺の騎士になった訳だ。

 

まあ、日本にまで付いて来たのには驚いた。

日本に来た当初は何でもかんでも俺の世話をしようとするし・・・はっきり言って大変だった。

でも、神との戦闘や、カンピオーネとのもめ事でいつも俺の事を助けてくれた・・・俺の大切な仲間の1人だ。

 

「それじゃあ行くか。」

 

そう言って俺達は学校に向けて歩き出す。

リリアナは俺と歩くときいつも少し後ろを歩こうとする。

理由を聞くと「騎士だから」と言われた・・・気にする事無いのにな。

 

「一緒のクラスになるといいな。」

「その事でしたら心配なさらなくても大丈夫です。」

「どういう・・・まさか!!」

「申し訳ありませんが少し細工をさせて頂きました・・・騎士として王の御傍を離れる訳にはいきませんので。」

「あまりそういう事するなって言ってるだろ!!

 はぁ・・・まぁ、しちゃったのならしょうが無いけどさ。

 それに何だかんだ言っても、リリアナと一緒のクラスなのは嬉しいしな。」

 

そう言って笑い賭けると、リリアナは顔を逸らした。

何か顔が赤くなってる気がするな・・・何やらぶつぶつ言っていた気がするが、気にしない事にした。

前を向くとそこに見知った少女の背中を見つけた俺はその背中に声を掛けた。

 

「おはよう、万里谷。」

「おはようございます護堂さん、リリアナさん。」

 

俺の声に気付き、態々足を止めて振り返り、優雅に挨拶をする人物は・・・。

しっとりとした上品さと聡明さがうかがえる顔立ち。

茶色身が強く、長い髪をした大和撫子な女の子・・・名前は『万里谷 祐理』。

 

彼女もまた俺に協力してくれる仲間の1人で、日本の『媛巫女』と呼ばれる霊能力者である。

中でも霊感を読み取り未来を予測する能力・・・『霊視』の力が他者よりずば抜けて優れている。

彼女には何度も助けられ、『霊視』の力は何度も俺に道を示してくれた。

感謝してもしきれない・・・だからなのか彼女には全く頭が上がらない。

何やら呟いていたリリアナも我に返り挨拶を返す。

 

「おはよう、万里谷 祐理。」

「今日から新学期ですね。

 一緒のクラスだと嬉しいのですけれど・・・去年は私だけ違いましたから。」

「それなら心配いらないと思うぞ・・・リリアナがやってくれたらしい。」

 

俺がそう言うと万里谷はリリアナが何をやったのか気付き、慌てて詰め寄っていた。

 

「何を考えているんですか!!・・・こんな事に力を御使いになって!!」

「わ、私もやり過ぎかと思ったが仕方ないではないか・・・草薙 護堂の傍を離れる訳にはいかないんだ。」

「そ、それはわかりますが・・・。」

「それに万里谷祐理、貴女も同じクラスになる様にして置いた。」

「そ、それは・・・とてもありがたい事ですが・・・。」

 

何て会話が聞こえていたが、俺はそんなに信用が無いのか?・・・傷付くぞ。

しかしいつもの事だと割り切り、時間を確認すると彼女達に声を掛けた。

 

「2人共、早く行かないか?

 いい加減にしないと新学期早々遅刻するぞ。」

 

俺の言葉に彼女達は我に返り、俺の横に並んで再び歩き出す。

暫く歩くと、俺達の通っている学校が見えてきた。

玄関で靴を履き替え、教室前に張り出されている自分のクラスを確認するとそのまま教室に入る。

・・・リリアナの細工通り3人とも同じクラスだった。

 

「リリアナさんを疑っていた訳ではありませんが、同じクラスでホッとしました。」

「ははは、ホントだな。」

 

万里谷の席は俺の左、リリアナは右だ・・・去年と同様この席も魔術で細工したんだろうな。

そう思って苦笑いを浮かべていると突然リリアナが真剣な声色で切り出した。

 

「そう言えば草薙 護堂・・・少しお耳に入れたい話が。」

「何かあったのか?・・・もしかして厄介事じゃないだろうな!!」

 

彼女の真剣さから重要な案件だと考えるも、厄介事の匂いが漂って来ている。

・・・正直に言ってあまり聞きたくはない。

 

「3月の終わりにまつろわぬ神がイタリアに顕現しました。

 その頃はどのカンピオーネの方々も「最後の王」関連で疲弊されていて動けなかった時期です。」

「あぁ・・・あの時期は皆大変だったもんな。」

「えぇ、それで事に当たっていたのが結社『赤銅黒十字』です。」

 

『赤銅黒十字』・・・この結社には聞き覚えがある。

少し考えた後、以前リリアナに紹介された人物を思い出した。

 

「ドニの野郎が馬鹿やった時に手伝って貰った結社だったっけ?

 確かリリアナの幼馴染がいた所だった筈・・・名前は・・そう、エリカ!」

「はい、その通りです。

 彼等は神格の弱い神だった為、周囲に被害は出したものの神の封印に成功したと発表しました。

 ・・・彼女もこの件に関わっていたそうです。」

「へぇ~~良かったじゃないか。」

 

そう言うとリリアナは少し訝しげな表情を浮かべた。

そんな彼女を不審に思って思わず問い掛けてしまった。

 

「どうしたんだ?」

「それが・・・他の魔術師達が封印箇所を確認した所・・・封印魔術を使用した形跡は見つかったのですが。

 ・・・そこには何も封印されている様子が無かったそうです。」

「どういう事だ?」

「わかりません・・・赤銅黒十字に問い合わせても調査中の一点張りらしく。」

「それで、それがどうしたって言うんだ。」

 

そう、この話で俺に関係する事は神様位だ。

だけど、封印を破っていたとしても、態々日本にまで来るとは思えない。

しかし彼女を口から聞かされた情報は全く想像を超えた話だった。

 

「あくまで噂の域を出ないのですが・・・その時に誰かがまつろわぬ神と戦っていた・・・という噂があります。

 その者がまつろわぬ神に勝利し新たな『神殺し』が誕生したのではないか・・・という噂が流れているんです。」

「そんな、まさか・・・。」

「はい、私もそう思います・・・単なる根も葉もない噂でしょう。

 ・・・しかし万が一という事もありますので、報告させて頂きました。」

「はあ・・・そうか、わかったよ・・・態々ありがとな。」

 

しかし、やっと強敵との戦いもひと段落した所なのに、新しい同属の誕生?・・・冗談であってほしい。

そんな話をしている内に時間になりこのクラスの担任となる教師が入ってきた。

 

「いきなりだがこのクラスに留学生が1人入る事となった・・・入って来て。」

 

担任がそう言うと・・・入って来たのは赤みがかった金髪に、繊細な造りの美貌を持つ美少女。

俺は・・・俺達は彼女を知っている。

隣に座る二人も入って来た少女を見て驚いている。

担任の隣に立つ少女は妖艶な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「皆さん初めまして・・・私はイタリア・ミラノから来ました、エリカ・ブランデッリといいます。

 これから宜しくね。」

 

そう、その留学生はさっきの話にも出ていた人物・・・リリアナの幼馴染だった。

彼女は自己紹介を済ませると教師に指定された席には向かわず俺の方に歩いて来た。

そして俺の前に来ると膝を付き、恭しく礼を取って来た

 

「御久し振りで御座います、草薙 護堂様。

 この度は御挨拶が遅れた事・・・真に申し訳御座いませんでした。」

 

余りにも場違いな行動に教室内の空気が固まった。

そして俺は・・・絶句・・・言葉も出ない。

 

「勘弁してくれ、ここ学校だぞ。」

 

思わず呟いてしまった俺は悪くないと思う。

リリアナが来た時や、万里谷と仲良くなってからも凄かったが今回は・・・この後を想像したくない。

 

「後程ちゃんとした形で御挨拶に伺わせて頂きますので・・・今回はこの辺りで。」

 

そう言うと彼女は何事も無かった様に立ち上がり、自分の席へと戻って行った。

これには担任も呆気に取られていたが、我に返り今日の予定に付いての説明して行くのだった。

 

 

 

担任が居なくなると、多くの女子生徒がエリカの元へ殺到した。

エリカもあれだけの大人数に囲まれているのに1人1人丁寧に対応していて・・・素直に尊敬する。

 

何て彼女を視線で負いながら現実逃避をしてみる。

・・・だって俺は現在、クラスの男子全員に囲まれているのだから・・・。

 

「なんで、なんでお前ばかり。」

「リリアナさんと万里谷さんだけでは足りないと言うのか。」

「あんな丁寧な挨拶をされて・・・いったいどういう関係だ!」

「羨ましい、羨ましいぞ草薙!」

 

等々皆さん好き勝手言って来る。

どういう事だと問い質したいのはこっちの方だってのに。

 

 

 

それとなく対応して何とか野郎共をやり過ごす事に成功した俺は、待ちに待った放課後に突入した。

隣に居るリリアナと万里谷と目配せをして頷き合うと、未だ女子に囲まれているエリカの元へと向かった。

 

「なぁエリカ、少しいいか?」

「皆さんご免なさいね、少し失礼するわ。」

 

俺が声を掛けると分かっていたかの様にエリカは席を立つ。

 

「ここじゃ何だし場所を変えよう。」

 

エリカは黙って頷き、俺達4人はその足で屋上へ向かった。

流石にまだ新学期初日・・・好都合な事に屋上には誰も居なかった。

屋上に着くとエリカは俺の前に膝を付き、頭を下げる。

 

「先程のご無礼お許し頂きたく存じます。」

「あぁ、待て待て・・・お願いだ、勘弁してくれ。

 前に会った時も言ったと思うけど、俺そういう事されるの苦手なんだよ。

 頼むからもっと普通にしてくれ。」

「そう・・・王のご命令なら、従わせ貰うわ。」

 

俺がそう言うとすんなり立ち上がり、言葉もかなり崩れた。

俺達が最初に会ったのはアイーシャ夫人の権能に巻き込まれ時間旅行をする前。

ドニの奴が主催した悪巧みを事前に阻止する為に赴いたイタリア。

その場でリリアナに紹介されたのが赤銅黒十字の総帥であるパオロさん・・・その後ろに控えていたのが彼女だ。

あの時はあまり言葉を交わさなかったけどこんな奴だったとは・・・。

 

「・・・久し振りだな、エリカ。」

「えぇ久し振りね、リリィ。」

「馴れ馴れしく呼ぶな!!・・・親しくもない奴に愛称等で呼ばれたくはない。」

「あら、いいじゃない、幼馴染なんだし。」

「違う!!お前とは幼馴染では無く腐れ縁だ!!」

 

何て言い合いを始めてしまった2人を慌てて止めに入る。

 

「まあまあ、落ち着けって。

 それにしても久し振りだな・・・あの時はあんまり話せなかったけど、お前ってこんな奴だったんだな。」

「失礼な人ね・・・貴方が普通に話せって言ったんじゃない。

 貴方がカンピオーネで無かったら進んで関わる事何て、絶対に微塵も思わなかったでしょうね。」

 

エリカの高圧的な話し方に少々イラッとしたが、一々気にしても仕方ない。

気持ちを静めて本題に入る事にした。

 

「悪かったな・・・それで、態々留学までして、お前は日本に何しに来たんだよ。」

 

1番気になっていた事・・・それは、どうして日本に、それも俺のいる城楠学院に来たのか。

大手結社の総帥候補が留学するのだ・・・普通に考えても裏があるとしか思えない。

リリアナはイタリアで起こった事件の詳細が気になっている様で、続け様に口を開いた。

 

「それに、エリカ・・・先日あったイタリアでの件、どうなっている。」

「リリィ、それに付いては何も言えないわ。

 結社の方からそう指示されているの・・・ごめんなさいね。」

「お前、それで通ると思っているのか!!」

「えぇ、例えカンピオーネの命令であったとしても、私から言う事は何もないわ。」

 

完璧なる拒絶。

魔術師にとって神殺しは絶対的な強者だ・・・それを神殺しの命令でも話さない何て・・・。

たとえ死んでも話さない・・・彼女からはそう言う覚悟が見えた。

・・・これは本当に俺が聞いても話さないだろうな。

 

「くっ!!」

 

リリアナは悔しげな表情を浮かべている。

万里谷もエリカの拒絶に驚きを隠せない様子だ。

 

「それで、結局日本に何しに来たんだよ。」

「ああ、それは・・・・・。」

 

エリカが口を開こうとした時、後ろから屋上へ続く扉の開く音がした。

驚いて顔を向けると、そこには・・・黒髪で少し長めの髪、身長は小柄、顔は女の子にも見える中性的な顔。

男子の制服を着ていなかったら性別の見分けがつかない少年が扉から顔を覗かせていた。

 

こんな時間に新入生が来る何て・・・珍しいな。

 

少年は扉からきょろきょろ視線を彷徨わせると、俺達に気付いた。

俺達に・・・厳密に言うとエリカを見つけた瞬間、彼はとたんに笑顔になり、こちらに走り寄ってきた。

彼はエリカの傍まで来ると朗らかな笑顔を浮かべた。

 

「エリカさん、探しましたよ。」

「ごめんなさい、少しこの人達とお話していたの。」

 

エリカの言葉に初めて少年は俺達に顔を向ける。

俺はその笑顔を見た瞬間・・・何とも言えない感覚を感じ取った。

少年はそんな俺に気付く事無く・・・はきはきと丁寧に挨拶をしてくれた。

 

「初めまして、1年生の神藤 昴です・・・これから宜しくお願いします、先輩方。」

「あ、あぁ、俺は草薙 護堂だ・・・宜しくな、神藤。」

「万里谷 祐理と言います・・・こちらこそ宜しくお願いします。」

「リリアナ・クラニチャールだ・・・おい、エリカ、やけに親しそうだが・・・そいつは誰なんだ。」

 

我に返った俺はさっき感じた感覚に疑問を思えながら挨拶を返した。

それに万里谷とリリアナが続いたのだが・・・リリアナ、お前ちょっと失礼だぞ。

同じ事を思ったのか、エリカが少し表情を険しくしながらリリアナを嗜めた。

 

「リリィ、彼に失礼な事言わないで頂戴。

 ごめんなさいね、昴・・・私の幼馴染なの、許してあげて。」

「気にしていないので大丈夫ですよ。

 これから宜しくお願いしますね、クラニチャール先輩。」

 

朗らかな笑顔をリリアナに向ける後輩・神藤・・・随分と出来た1年生だ。

エリカに頭を撫でられて気持ち良さそうにしている姿も、俺達に気付いて慌てる姿も、随分と可愛らしい。

ほのぼのとした空気に包まれて、思わず目的を忘れそうになってしまった。

そんな俺達を現実に引き戻してくれたのは万里谷の問い掛けだった。

 

「それで、エリカさん・・・神藤さんとはいったいどういったご関係何でしょうか?」

「ああ、そうだったわね・・・彼が貴方達の質問の答えよ。」

「どういう事だ?」

 

言っている意味がよく分からず、俺は首を傾げる。

リリアナは笑顔のままのエリカがふざけていると判断して声を荒げた。

 

「エリカ、お前ふざけているのか!!」

「落ち着きなさいリリィ・・・それにふざけて何かいないわ・・・彼こそが私が日本に来た理由よ。」

「だからどういう事だと聞いている!!」

 

エリカの言う通り落ちつけ、リリアナ・・・彼奴は多分お前の反応を見て楽しんでいるぞ。

何ともいい笑顔を浮かべるエリカを見てリリアナとの関係が何となく見えた。

思わず溜息を吐きそうになったが、それはエリカの零した言葉によって驚愕へと変わる。

 

「言葉通りに意味よ・・・だって彼、私の婚約者だもの。」

「「「・・・・・・・・・・えええええぇぇぇぇぇーーーーーー!!!」」」

 

嬉しそうな笑顔を浮かべるエリカに、恥ずかしそうな神藤。

そんな2人を前に俺達は学校中に響き渡る様な大声を上げて驚いてしまった。

動揺しながらもリリアナがエリカに声を掛ける。

 

「エ、エ、エリカ・・・お前に婚約者がいた何て聞いた事無いぞ・・・。」

「それはそうでしょうね・・・私だって最近知ったんだもの。」

「なっ!!お前はそれでいいのか!!」

「何も問題ないわ・・・私は今すぐ結婚したい位に彼の事を愛しているんだから。」

 

エリカの何とも堂々度した発言に俺達は何も言えなかった。

しかも彼女は俺達が見ていると言うのに神藤に抱き着いたのだ。

突然の事に驚いたのは神藤も同様で、顔を真っ赤にしながらあたふたしている。

 

「ほらこの反応を見て、出会ってからいつまで経っても初心なのよ・・・可愛いでしょ!!」

「エ、エリカさん、は、恥ずかしいですから、離して下さい。」

 

呆気に取られた俺達だったが、まっ先に声を上げたのはしっかり者の万里谷。

 

「エ、エリカさん、学内ですよ!!その様な行動は慎むべきです!!」

「エリカ・・・お前にいったい何があったんだ。」

「・・・・・・・・・・。」

 

リリアナは幼馴染の変わり様に困惑している。

俺はと言うと・・・急展開が多過ぎて考える事が嫌になり、あぁ確かに可愛いなぁ・・・何て思っていたりする。

 

 

 

「それで・・・私が日本に来た理由は判って貰えたかしら?」

 

満足したのか神藤から離れたエリカの言葉に我に返った俺は慌てて言葉を返す。

 

「あ、あぁ・・・つまり婚約者の傍にいる為に日本に来たって事でいいのか?」

「ええ、その通りよ・・・それよりも今回はこの辺りでいいかしら。

 私まだ日本に引っ越して来たばかりで家の片付けとか終わってないのよ。」

「あぁ、悪かったな・・・神藤もエリカをこんな所まで連れ出して悪かったな。」

 

俺は彼女の言葉に時計を確認する。

彼女と話し始めてから結構な時間が過ぎていた事に初めて気付いた。

俺の謝罪にエリカは全くだと憮然とした表情を浮かべると、神道に顔を向けた。

 

「それじゃあ、帰りましょうか。

 私は教室まで鞄を取りに行かないといけないから、昴は先に校門の所で待っていてくれる?」

「はい、わかりました。

 先輩方、今日は話の途中で邪魔してしまってすみませんでした。」

 

最後まで丁寧な可愛らしい後輩は笑顔でエリカと去って行った。

 

 

 

彼等の後姿を見送った後、俺達は屋上に残り話し合いを始めた。

 

「2人の事どう思う?」

「エリカがどういう積りかは判りませんが・・・彼に対する気持ちは嘘ではないでしょうね。」

「そうか・・・。」

「但し・・・彼が唯の一般人という事はあり得ません。」

「どういう事だ?」

 

確信を持ったリリアナの言葉に俺と万里谷は首を傾げる。

 

「彼の動きは武道を嗜んでいる者の動きでした・・・少し彼に着いて調べてみる必要があります。」

「ただ武術を学んでるってだけだろ・・・万里谷は何か感じたか?」

「いえ、私は何も・・・特に気付いた事はありませんでした。」

 

・・・そうか、万里谷の霊視では何も感じられなかったのか。

彼女の言葉に少し考え込んでいるとリリアナに声を掛けられた。

 

「何か気になる事でも?」

「いや・・・何て言葉にすればいいか分からないんだけど・・・何か気になるっていうか。」

 

神藤の笑顔を見た瞬間に感じた感覚・・・あれは一体、何だったんだろうか。

はっきりと言葉で表現出来ない事がもどかしく思う。

俺の表情から何かを感じ取ったのか2人も真剣な表情を浮かべ出した。

 

「貴方が気になると言う事は・・・『まつろわぬ神』か『カンピオーネ』という事になります。」

「いや、もし神藤が『カンピオーネ』だとしたら万里谷が気付かない訳ないだろ。」

「確かにそうですが・・・万里谷 祐里、本当に何も感じなかったのか?」

「はい、私は彼からは何も感じ取れませんでした。」

「だろ、だったら俺の気の所為だって。」

 

しかし俺の言葉に2人は首を横に振る。

 

「いえ、貴方の直感は無視出来る物ではありません・・・彼に付いて早急に調べてみる事にします。

 ・・・万里谷 祐理が判らなかった事も何かの権能による可能性もあります。」

「神藤さんが神殺しかどうかは別として、エリカさんの婚約者です。

 何かしら魔術界に関係のある人物と言うのは確実でしょう・・・調べて損をする事は無いと思います。」

 

2人の意志は固いみたいだ。

確かにあの感覚を無視するのは少々難しいとは俺も思う。

俺は1つ息を零すと口を開いた。

 

「考え過ぎ・・・って事は無いのか??」

「それを確認する為に調査するのです。

 それに、こう考えれば赤銅黒十字の不可解な行動も説明が付くかもしれません。」

「どういう事だ?」

 

リリアナは一つ一つ指を折りながら推測を話し出した。

 

「イタリアでの件・・・事に当たっていたのは赤銅黒十字。

 仮に神藤 昴が神殺しであるならばその場でエリカと接触していた可能性があります。

 彼の命令か赤銅黒十字の方針か分かりませんが、その縁で赤銅黒十字が神藤 昴の傘下に入った。

 ・・・そしてエリカが日本まで神藤 昴を追って来た。

 まだ何の確証もありませんが・・・可能性としてはあると思います。」

 

確かに・・・証拠も何もないが、可能性と言う話だけならあり得なくもない。

まぁ・・・神藤が『神殺しだった』としたら・・・という話だ。

調べるだけなら別にいいか・・・もしかしたら何か厄介事の前触れかも知れない。

準備して置くに越した事はない・・・それがこの1年戦ってきた中で覚えた事だ。

 

「まあ、程々にな。」

「沙耶宮 馨にも報告して手伝って貰いましょう。」

 

俺の程々と言う言葉は聞こえていなかったのか、リリアナは勢い込んで話す。

そんな彼女を仕方ないなぁ・・・と言う視線を送ると、同じ表所をした万里谷と目が合い苦笑し合う。

そして俺達も下校する為、屋上を後にするのだった。

 

 

 

 

 

後日・・・リリアナからイタリアの事件の時に神藤が卒業旅行でミラノに行っていたという情報が入った。

馨さんからはとある古武術の当主だという情報も・・・。

その話を聞いた俺達は神藤 昴と言う後輩を少しばかり警戒する様になった。

 


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