ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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ようやくアニメ第1話分が終わりです。
思ったより長かった!
それから、お気に入り件数が3桁まで行ってすごく嬉しいです。ありがとうございました。


第6話 銀の銃弾

「な....に....っ!!」

 

 

突然の銃声、そしてベートの前髪を僅かに消し飛ばした弾丸の軌跡にベートは勿論、ロキ・ファミリアのメンバーや他の客は言葉を失って、発砲した張本人であるクラウドに視線を向けた。

 

 

「よぉ、よく喋るじゃねぇか豚野郎。いや、犬ッコロの方が正解か?」

 

 

クラウドが右手に持つ銀色の拳銃の銃口からは、白い硝煙がユラユラと伸びていた。クラウドはそれをフッと吹き消して銃を懐に仕舞う。

 

 

「て、てめぇは!!」

 

 

ベートは驚きを隠せずクラウドを見つめる。クラウドは目を細め血走った目でベートを睨む。

 

 

「奇遇だな、そして運が良かったな。俺が酒でも飲んでたら、照準が狂って脳天に風穴が開いてたかもしれないぜ?」

 

 

「......はっ、誰かと思えば話題の裏切り者じゃねぇか。何か用かよ?」

 

 

ベートは立ち上がり、クラウドに詰め寄って睨み返した。

 

 

「用が無かったらあんなマネするかっての。

俺の言い分はただ1つだ、俺の仲間――ベルを馬鹿にしたこと、アイズに失礼なことを言ったことについて謝罪しろ」

 

 

「何だよ、やっぱりお前も自分の間違い蒸し返されんのは気に喰わねぇってか?」

 

 

「違ぇよ、俺のことなんてどうでもいい(、、、、、、、、、、、、、)。2人に頭下げて、しっかり謝れって言ってんだ」

 

 

「ああ? 何で間違ってもいねぇことについて謝んなきゃならねぇんだ? そのトマト野郎が雑魚なのは事実だろうが、あんな救えねぇヤツが冒険者名乗れるわけねぇだろ?」

 

 

確かにベルはLv.1の駆け出しだ。現時点ではお世辞にも強いとは言えない。

だが、クラウドにとってそんなことは関係ない。

 

 

「お前、同じ台詞をLv.1のときの自分に対しても言えんのかよ? 『ミノタウロスに負けるなんて情けない、そんなことなら冒険者になんかなるなよ』って偉そうに言えんのか?」

 

 

「....」

 

 

ベートは目を逸らして歯噛みする。クラウドは淡々と言葉を繋げていく。

 

 

「ベルは確かに冒険者になって日も浅いし、実力もついてない。だけど、それがどうした? ベルはこれから強くなる、俺やお前よりもずっとな」

 

 

「......っ!! うるせぇこの野郎!!」

 

 

ベートは耐えきれずクラウドの顔面めがけて拳を繰り出してきた。だが、クラウドはそれを首を軽く右にずらして回避。呆気にとられるベートを他所にクラウドの右足が彼の腹部に叩き込まれ、店の外に吹っ飛ばした。

 

 

「至近距離なら勝てるとでも思ったか? 元身内なら甘んじて殴られるとでも思ったか? 銃を構えてないなら反撃できないと思ったか?」

 

 

クラウドもカツ、カツとゆっくり歩いて外のベートの元へ近寄る。

既に2人には酒場の客やロキ・ファミリアのメンバーなどの野次馬が出来ていた。

2人は道の真ん中で対峙し再び右手に銃を握ってベートに狙いを定める。

 

 

「最後の警告だ、選択肢は2つ。今すぐ謝罪してこれ以上痛い目に遭わずに済むか、俺を倒して自分の意見を通すか。どっちを選ぶ?」

 

 

ベルはその光景を野次馬に混じって見ていた。自分の世話を焼いてくれる兄のような存在であるハーフエルフの青年、普段の彼が絶対に見せない攻撃的な面。正直ベルには、彼が少し怖く見えた。

 

 

「誰がてめぇごときに負けるかよ!! 来いよクラウド、銃なんて捨ててよぉ!!」

 

 

ベートはダンッ!!と地面を蹴りクラウドとの距離を詰める。それと同時に右足で腹部への蹴りを見舞うが....

 

 

「よっ」

 

 

そんな間の抜けた声に合わせてクラウドは身体を後ろに引く。ベートの蹴りは虚しく空を切り、乾いた風切り音が響く。

 

 

「このっ! チョロチョロ逃げてんじゃねぇッ!!」

 

 

ベートとクラウドが戦闘を始めた頃、野次馬に混じったロキ・ファミリアの面々は....

 

 

「あちゃー、ベートの奴あっさり挑発に乗りよったで」

 

 

「これは完全にベートに非がある。私からすればクラウドの怒りも尤もだ」

 

 

「団長、止めなくていいんですか!? いくらクラウドでもあの間合いでベートと戦うなんて....」

 

 

アマゾネスのティオネがフィンに2人を説得するように尋ねる。クラウドが得意としているのは中~遠距離。近接格闘を得意とするベートに対して殴り合いを挑むのはかなり不利だ。

 

 

「いや、ティオネ。それは一概には言えないよ。それに、もう止められない(、、、、、、、、)。あの状態のクラウドが本気を出せば僕だってタダじゃ済まないんだから。

彼は――【銀の銃弾(シルバー・ブレット)】はそれくらいやってのけてしまう」

 

 

団長のそんな言葉を聞いた一同は再びクラウドたちの戦闘に注意を向ける。

 

 

「嘘......」

 

 

「ホントに....?」

 

 

アマゾネスのティオナとエルフのレフィーヤは絶句して目の前の光景を見ていた。

 

 

 

 

「どうしたよ? 随分ガタが来てるように見えるぜ?」

 

 

「舐めんなァッ!!」

 

 

 

 

ベートの攻撃が全く当たっていない。首を振ったり一歩後ろに下がるだけで――最小限の動きでかわしている。

 

 

「あれが本気のクラウドだよ。Lv.5に収まってるというだけで、実際は本当に得体が知れない....」

 

 

「ホンマ、改宗したんがつくづく悔やまれるなぁ....」

 

 

フィンも、ロキも苦い表情で2人の攻防を眺めている。他のメンバーには未だに全く攻撃せずに回避に徹しているクラウドが今までとは違って見えた。

 

 

「なんっ、でっ....あたん、ねぇっ!!」

 

 

「動きに無駄が多いんだよ、それに熱くなりすぎだ。そんな風にするなって教えたはずだぜ(、、、、、、、)?」

 

 

そう、クラウドはかつてロキ・ファミリアのメンバーに体術を教えていた師匠でもある。ベートの視線、呼吸、筋肉の動き、手足の角度などから殆ど動きを読んでいるのだ。

煽られたベートは相も変わらずブンッ、ブンッと拳や蹴りを繰り出しては空を切らせる。

 

 

「もう終わりにするからな」

 

 

クラウドはベートの胸元の金属プレートに左足を突き出してドンッ!と強く蹴り出す。その反動で自分も後ろに下がり、彼と距離をとる。そして右手の銃の撃鉄を起こして自分の足元(、、)に照準を合わせる。

 

 

「駆け抜けろ【ヴァイオレント・ゲイル】」

 

 

地面に向けて発砲した途端に風圧が周囲の人間を襲う。クラウドの風系魔法による副次効果だ。

本人も服や髪を(なび)かせながら地面に立ったまま変わらず銃を正面に構えている。

 

 

「行くぜ」

 

 

瞬間、クラウドの姿が消える。野次馬の殆どがざわつく中、ベートはニヤリと笑っていた。自分の勝ちだ、と。

実際、クラウドはこの魔法をロキ・ファミリアの面々には教えているしこの高速移動も何度も見ている。今更使っても手の内は読まれているのは明白。となれば次に現れるのは....

 

 

「そこかぁ!!」

 

 

そして、予感は的中。一瞬後には背後に黒い影が現た。

背後。生物にとっての死角とも言えるその場所に入れば回避に使える時間は最も少なくなるため、隙を突かれやすい。

だが、それは殆どの者が知っていること。逆に読まれやすい場所とも言える。ベートは勝利を確信しながら振り向き様に右足での回転蹴りに繋げるが....

 

 

ボフッ

 

 

そんな、鈍くふざけた音がベートの耳には伝わった。彼の足が捉えたのはクラウド本人ではない。彼が着ていた黒のジャケットが足に引っ掛かっただけだ。つまり、黒い服を着ていた彼が背後に回ったのではない。

黒い上着だけ残して(、、、、、、、、、)別の場所に移動したのだ。一瞬でそれを悟ったベートは再び急いで後ろに振り返る。

 

そこには、黒の上着を脱ぎ捨てて下の白いシャツだけを着たクラウドが銃をベートの鼻先に向けていた。

 

 

 

 

「ハズレだ」

 

 

 

 

バンッ

 

 

銃声が鳴り響く。あんな至近距離で喰らえば確実にお終いだ。殆どが目を見開いて呆然としているが、確実に違和感を感じるところがあった。

 

 

「何だ......これは」

 

 

ベートは自分の顔や胸元をペタペタと触るが、どこにも傷は無い。だが、クラウドが引き金を引くのも、それに伴う銃声も確認されている。

クラウドは下に下げていた左手をゆっくりと上げて自分の目の前に持ってくる。その手には黄金色の小さい円柱型の物体――空の薬莢が握られていた。

 

 

「空砲だ」

 

 

「空....砲?」

 

 

「簡単に言えば、弾丸が発射されないってことだ。説明するのは面倒だからしねぇ」

 

 

クラウドは薬莢をポケットに仕舞うと、構えていた銃を下ろす。そして、ベートが先程足に巻き込んだ自分のジャケットを拾い、埃を落とす。

 

 

「今の、実弾ならお前は死んでたぜ」

 

 

「なん......だと?」

 

 

「ヒューマンは....亜人(デミ・ヒューマン)もそうだが、銃で撃たれると身動き1つとれずに即死する箇所が存在する。脳幹だよ。

たとえ神の恩恵(ファルナ)を授かった者、それこそ第一級冒険者だろうが、脳幹を大きく損傷すれば死からは逃れられないんだよ。

俺が何を言いたいかわかるか?」

 

 

ベートはクラウドの目力に押されて後ろへ2、3歩距離をとる。

 

 

「命っていうのはそれくらい簡単に『失う』ってことだ。命を張ることは勇敢だがな、『命を張る』ことと『命を投げ出す』ことは違う。

ベルは情けなく逃げ出したんじゃねぇ、自分の命を守るのに必死だっただけだ。

 

で、ここまで聞いて何か言うことはあるか?」

 

 

「俺が....悪かった」

 

 

クラウドは肩をすくめ、大きくため息を吐いて踵を返す。

 

 

「わかったなら、それでいい。その気持ちを忘れるなよ。ベル、帰るぞ」

 

 

「えっ? あっ、はい!!」

 

 

ベルは一瞬驚いたが元気よく返事を返す。

クラウドはもう一度店に戻ると近くにいたリューに金貨の入った袋を手渡した。

 

 

「これ、代金と迷惑料。騒ぎ起こして悪かったな」

 

 

「いえ....事情があったのでしたら、そこまで責めたりはできません。それに、ミア母さんもそこまで怒ってはいませんし」

 

 

「それでもだ、気持ちとして受け取ってくれ」

 

 

少々不本意ながらもリューは了承して金貨の入った袋を頂いた。そのまま帰れればよかったが、彼を呼び止める人物がいた。

 

 

「クラウド、ちょい待ちぃや」

 

 

「ロキ」

 

 

朱色の髪の女神――かつての自分の主神ロキが店から出てきたクラウドを呼び止めた。

 

 

「ちょうどウチらが揃っとるんやから、話したらええんやないか?」

 

 

「何をだ?」

 

 

「改宗した理由や」

 

 

ピクリとクラウドの眉が動く。そしてロキ・ファミリアの幹部勢8人はこちらをじっと見つめてくる。

 

 

「それは詳しく聞かない約束だろ? 1人で行動する時間を作らないといけなくなったからってのが一応の理由だ」

 

 

「それは聞いたで。でも、ウチらはその『詳しく』ってとこを教えてほしいんや」

 

 

「......悪いが、答えられないな」

 

 

ロキは普段の笑顔から一転、半眼になり口をクラウドの耳元に近付ける。

 

 

最初の(、、、)ファミリアに関係しとるんか?」

 

 

「......」

 

 

ロキの言葉には驚いたが、ここで動揺するわけにはいかない。クラウドは何も答えず彼女が離れるのを待った。

 

 

「ま、言いたくないんならええわ。いつかはわかってまうことなんやからな」

 

 

そう言ってロキは店の中に一同を連れて戻っていった。クラウドは手早くベルの手を取って、店から出ていった。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

街灯と月明かりが照らす夜道をクラウドとベルは歩いていた。お互いに何も話さず、ただ並んでホームを目指していた。

そんなとき、ベルが恐る恐る話を切り出した。

 

 

「あの、クラウドさん。さっきはありがとうございました。その、わざわざあんなことさせてしまって....」

 

 

「そんなこと言うなよベル、俺はちっとも迷惑だなんて思ってねぇよ。お前はこれから強くなる、それは俺が保証してやるよ。だからそんな悲しいこと言うなって」

 

 

横を歩くベルはその性格故か、律儀に申し訳なさそうに感謝の言葉を述べた。しかし、これはクラウドにとっては迷惑などではない。

というか、『自分の大切な人が侮辱されるのが許せない』というのが個人的な気持ちなので、これは彼からしてみれば自分1人の責任と思っている。

 

 

「でも、クラウドさんがせっかく稼いだお金も使って....しかも、怪我するかもしれなかったのに....っ!!」

 

 

ベルは、途中で言葉を遮られた。クラウドがベルの頭を掴んで、胸元に抱き寄せたからだ。ベルは一瞬何のことかわからず戸惑っていたが、何秒かして状況を理解する。

 

 

「ベル、よく聞け。金なんか俺がダンジョンに潜ってまた稼げばいい、怪我しようが時間が経てば治る。

だけどな、蔑まれたお前の気持ちは治らないかもしれないんだ。俺はそうなってほしくないんだよ。

お前にとっては余計な世話かもしれないけどな、それでも俺は家族が傷付けられる(、、、、、、、、、)のを見逃したり(、、、、、、、)なんか出来ないんだ(、、、、、、、、、)

 

 

「かぞ....く....?」

 

 

「ああ、家族だ。だからな、俺がお前のために怒るのは当たり前なんだ。頼りないかもしれないけど、俺に出来ることなら何でも言えよ。絶対に力になる」

 

 

ベルはクラウドの服に手を置いて、身を任せる。気持ちが、感情が決壊した。悔しさが、悲しさが、嬉しさが涙となって溢れてくる。クラウドはシャツが涙で濡れるのも気にせずにベルの頭を撫でていた。

何分そうしていただろうか、ふとベルが顔を上げて服の袖で涙を拭う。そしてクラウドを見上げて真剣な眼差しで言った。

 

 

「....僕、強くなりたいです。今よりもっと....クラウドさんと並べるくらい、強く....」

 

 

自分の弟分の見せた小さな成長。それを少々微笑ましく思いながら、クラウドも笑みを浮かべて返事をした。

 

 

「ああ、お前ならきっとなれる。これからも一緒に頑張ろうぜ」

 

 

2人は笑い合うと、そのまま真っ直ぐホームへと歩を進めていった。


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