ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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はい、お馴染みかと思いますがアニメ第1話の後半辺りの話です。


第5話 豊饒の女主人

「ただいま、ベル、ヘスティア」

 

 

シルとリューと別れた後、クラウドは適当に昼食を済ませホームである教会の地下室に戻ってきていた。中ではベルが上着を脱いでステイタス更新の準備をしているところだった。

 

 

「おかえりなさい、クラウドさん」

 

 

「うん、おかえりクラウドくん」

 

 

「ん? これからステイタス更新か? それなら早めに済ませてくれよ。今日はこれからすることがあるからさ」

 

 

はいはい、とヘスティアとベルはベッドに移動しステイタスを更新する。暫く待っていると、ヘスティアが何故か苦い顔をしながらベルから離れていった。ベルは手渡されたステイタスの用紙に記載された項目を何度も見返していた。

 

 

「どうした、ベル? 何か問題でもあったのかよ」

 

 

「いや、問題というか....おかしいんですよ」

 

 

クラウドは首をかしげながらベルのステイタス用紙に目を通す。

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

力:I 82→H 120

耐久:I 13→I 42 

器用:I 96→H 139 

敏捷:H 172→G 225 

魔力:I 0

 

 

 

「....何だこれ」

 

 

目を疑った。熟練度が合計で160越えなど、ありえないくらい成長している。理由はほぼ間違いなく昨日発現したスキル『憧憬一途』の効果だろう。

 

 

「まあ、良かったなベル。お前も成長期みたいだからこの調子で頑張れ」

 

 

「成長期って....そんなのあるんですか? やっぱり何かあるんじゃないですか、神様」

 

 

ベルはヘスティアを困った顔で見つめ、尋ねてみるが聞かれた当の本人は不機嫌そうにそっぽを向いた。

 

 

「......知るもんかっ」

 

 

頬を膨らませ口ごもるヘスティア、反抗期の子供みたいでなんだか愛らしい。

 

 

「ボクはバイト先の打ち上げに行ってくる!! 君たちは2人で楽しく豪華な食事を楽しんでくるといいさ!!」

 

 

ヘスティアはコートを羽織ってそそくさと部屋から出ていった。妙にヘスティアがご立腹なことにクラウドは大体察しがついた。『憧憬一途』の項目にあった『懸想(おもい)』という文字、そしてアイズの存在だろう。つまりはベルがアイズに熱を上げているのが解せないのだ。

 

 

「意外と人間らしいな、あいつも」

 

 

「どういうことですか?」

 

 

「いや、こっちの話」

 

 

残されたベルとクラウドは苦笑いしながら稼いだ金で外食しようかと仕度をするのだった。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

2人はメインストリートを仲良く話しながら豊饒の女主人へと夕食を食べに向かっていた。

 

 

「へぇ、じゃあベルも豊饒の女主人で夕飯食べるのか?」

 

 

「そうなんです。でもビックリしましたよ、クラウドさんもそこの店員さんと会ってたなんて」

 

 

驚くべきことに、ベルも朝の出発時にシルに会って昼食を頂いた上に夕食を食べるように誘われたらしい。オラリオって狭いんだなと実感した瞬間だ。

 

 

「まあな、その代わりに今日だけで2回も戦闘になったけど。美人と知り合いになれたと思えばむしろプラスだよ」

 

 

「ちょっ....美人ってまさか!!」

 

 

ベルの目が輝きクラウドに向けられる。しまった、と後悔するがもう遅い。なんとか誤魔化そうと必死に脳をフル回転させる。

 

 

「ベル、違うぞ....俺が会ったのは、そう。金髪で耳の尖った妖精みたいな女の子なんだ....偶然何かの種族に似てるけどそれな気にするな」

 

 

「それってエルフですよね!? 何を誤魔化そうとしてるんですか!?」

 

 

バレた。まあこれで騙せるようなら相当な馬鹿だろうが。

 

 

「いやだって....成り行きとはいえ、ガッツリ出会い的なことをしちゃったから堂々と言えなくてな。

ほら、そうこうしてる内に着いたぞ」

 

 

ベルは納得いかなそうにしていたが、構わず件の酒場に入る。2人でカウンターに座ると、すぐに昼間出会ったヒューマンの少女のシルが近付いてきた。

 

 

「来てくださったんですね、ベルさ....あれ? クラウドさんも?」

 

 

シルは今日出会った2人が隣同士で座っていることに首をかしげている。そういえばシルはクラウドとベルが同じファミリアということは知らない。

 

 

「俺とベルは同僚なんだ。今日は都合がいいから一緒に食べに来たぜ。

そういえば、ベルに昼の分の食事渡してくれたんだろ? 俺からも礼を言っとくよ」

 

 

「いえいえ、いいんですよ。代わりにこうして食事に来てくれたじゃないですか」

 

 

「ハハッ、そうだな。じゃあシル、俺は蜂蜜牛乳とビーフステーキ。ベルは?」

 

 

「僕も同じのもので」

 

 

「かしこまりましたっ!」

 

 

シルは注文を受けるとタッタッタッと調理場へと戻っていく。

 

 

「クラウドさん、お酒は飲まないんですか?」

 

 

「ああ、飲めなくはないんだけどな....2日酔いとかになると銃の照準とか合わなくなるからさ。基本的には飲まねぇよ」

 

 

「そうなんですか、意外に考えてるんですね」

 

 

「意外に、は余計だ」

 

 

ベルの額を指で軽く小突くと、「あうっ」と間の抜けた声を上げた。そのため、クラウドは面白がってベルの右頬を引っ張ったりして散々イジり倒していた。

 

 

「クラウドさん」

 

 

「ん?」

 

 

後ろから聞き覚えのある声をかけられた。若干声のトーンが高いような気もするその声の主――彼女も今日出会った女性の1人、エルフのリュー・リオンだ。この店のウェイトレスである彼女は、その端正な顔に僅かな笑みを浮かべてクラウドに挨拶をしていた。

よく見ると両手で料理とジョッキを乗せたトレイを持っている。どうやら2人の分の注文の品を持ってきたようだ。

 

 

「おお、リュー。約束通り夕飯食べに来たぜ」

 

 

「はい、約束を覚えておいてくれたんですね。ありがとうございます。こちらの注文の品をお持ちしました。」

 

 

リューは丁寧にステーキの乗った鉄板と蜂蜜牛乳の入ったグラスを置く。ベルも簡単に挨拶を済ませ、リューは一礼して奥に歩いていった。

 

 

『リュー、どうだった? ちゃんとアタックできた?』

 

 

『あ、あ、アタック!? べ、別に私とクラウドさんは....その、そういう関係では....』

 

 

『あれれ~? ミャーたちは誰もあの銀髪頭の名前ニャんて、出してニャいけどニャ~?』

 

 

『言わずともわかります!! 確かにクラウドさんは素敵な方ですが、流石にそれはまだ気が早いでしょう!!』

 

 

『まだ? おやおや、いいこと聞いちゃったな~』

 

 

『しっ、シルッ!!』

 

 

....何だか奥の方が騒がしいような気がするが気のせいだろうと意識の外へ追いやる。

 

 

「アンタらがシルの言ってたお客さんかい? 2人とも冒険者なのに可愛い顔してるねえ!」

 

 

「ほっといてください」

「嬉しくねぇよ」

 

 

ベルもクラウドも心の中で、目の前のカウンターから身を乗り出しているドワーフの女将さんにツッコミを入れる。

事実ではあるが、クラウドとしては20過ぎてまで女顔だの何だの言われてきたのであんまり嬉しくはない。

目の前のドワーフの女店主、彼女がシルやリューの言う『ミアお母さん』なる人物なのだろう。

ミアはクラウドとベルの間のテーブルに巨大な焼き魚をゴトッと置く。ベルはもはや形容するのが難しくなるほどに奇怪な悲鳴を上げている。

 

 

「それだけじゃ足りないだろう? これ、今日のオススメだよ!」

 

 

「頼んでないんだが?」

 

 

「若いのに遠慮するもんじゃないよ!」

 

 

「だから、若くねぇって....まあいいやベル、今日は俺が奢るから遠慮すんなよ。じゃ、乾杯」

 

 

「はい!」

 

 

ベルとクラウドはカランとグラスを鳴らして蜂蜜牛乳を喉に流し込んだ。

それからは肉厚のステーキを切って口に運び、ミアから勧められた焼き魚を食べたり、2人でくだらない話でもして盛り上がった。すると、シルが2人のいるカウンターにやって来た。

 

 

「楽しんでますか?」

 

 

「ああ、十分すぎるくらいな」

 

 

「僕はまあ、圧倒されてます」

 

 

「ふふふふっ、これで私のお給金も楽しみですよ」

 

 

意外と現金というか図太いというか、正直な奴だとクラウドは苦笑いしてしまう。

 

 

「ここでの働きに満足してるみたいだな」

 

 

「ええ、ここには沢山の人が集まって....色んな発見があるんです。知らない人と触れ合っていくのが趣味になっちゃったんです」

 

 

「....結構凄いこと言うんですね」

 

 

ベルが食べ物を口一杯に頬張りながらそう言った。クラウドもシルの考えには共感できるところはある。新しい発見を得られるのはとても嬉しい。

そんなシルの発言の後、1人の猫人(キャットピープル)の女性店員が大きめの声で客の来店を知らせた。

 

 

「ニャー! ご予約のお客様ご来店ニャー!」

 

 

彼女の声に続いて何名かの団体が店に入ってきた。数は、9人。そのメンバーを見てクラウドはギョッと顔を引き攣らせる。

 

 

「(なんっ......で、あいつらがここに!?)」

 

 

昼間に会った自分の元主伸ロキを筆頭にロキ・ファミリアの幹部勢が――つまりはクラウドの元同僚たちが来たのだ。

クラウドは在籍当時自分の銃の整備やら研究やらに時間を費やしていたためあまり外食はしなかった。無論何度か行きはしたのだが、偶然にもこの店には行っていなかったのだろう。

クラウドはカウンターに頬杖をついて素知らぬ顔で食事にありつく。

 

 

「クラウドさん、ロキ・ファミリアの人たちですよ! 挨拶とかしないんですか?」

 

 

ベルが耳元に小声で言ってくるが、クラウドは左手の人差し指でテーブルに『しずかにしろ』と平仮名で書き黙らせた。

 

 

「(今更会ったら何て言われるか....特にリヴェリアとかに)」

 

 

幸いロキ・ファミリア一行はクラウドたちとは離れたテーブルに座ったことと、自分達は彼らとは背を向ける位置に居たので気付かれていない。

 

 

「よっしゃ、皆遠征ご苦労さん! 今日は宴や、飲めえ!!」

 

 

ロキの声と共に一行はジョッキを鳴らし乾杯をする。それからはしばらく気付かれないまま時間が過ぎたが、不意に何者かの大声でそれが破られた。

 

 

「そうだ! アイズ、そろそろあの話聞かせてやれよ!」

 

 

「あの話....?」

 

 

声を張り上げたのはアイズの向かいに座っている狼人(ウェアウルフ)の青年――ベート・ローガだ。アイズは何の事か分からないとキョトンとしてしまう。

 

 

「あれだって! 帰る途中で何匹か逃したミノタウロス、最後の1匹お前が5階層で始末したろ?

そのときに居たんだよ! いかにも駆け出しって感じのひょろくせぇガキと、『裏切り者』のクラウドがよ!!」

 

 

クラウドはピクッ、とグラスを持つ手を止めた。そして顔を少しだけ後ろに回して視線をベートに向ける。

 

 

「ミノタウロスって....17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出していったやつのこと?」

 

 

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、それで5階層に行ってみたらそのガキがめちゃくちゃ震え上がって壁際まで追い詰められてたんだよ!」

 

 

あのとき、ベルが5階層でミノタウロスに襲われた日、何故かクラウドがいた14階層でミノタウロスと3体も遭遇したのはこういうことか。

 

 

「それで間一髪ってとこでアイズがミノを細切れにしてやったんだよ....それでそのガキ、あの牛のくっせー血を浴びて真っ赤なトマトみてぇになっちまったんだよ! くくくっ、ひーっ、腹痛ぇ....」

 

 

「それで....クラウドはそこに居たの?」

 

 

「ああ、そのガキ助けようとしてたみてぇだったがうちのお姫様に取られちまってよ。流石は裏切り者だぜ、仲間1人守れねぇなんて....ほんと情けねぇよな!!」

 

 

ベートは腹を抱えて大笑いする。確かに他にも笑っている者はいるが、それはアマゾネスの少女2人にエルフの少女1人が苦笑いしているだけ。その他は無表情を貫いている。

 

横に居るベルはガタガタ震えて両足の上に手を乗せてこれでもかと握り締め、クラウドはハァー、と静かに低い声で息を吐いて気を落ち着かせていた。

 

 

「しっかし、ああいうヤツら見ると胸糞悪くなっちまうよなぁ。泣き喚くガキにロキ・ファミリアの顔に泥塗った裏切り者....ああいうのがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート」

 

 

ここで、アイズの隣に座るハイエルフ、リヴェリアが口を挟んだ。

 

 

「ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ、恥を知れ。それにクラウドのことについてはこれ以上文句は言わないと全員で決めた筈だぞ、忘れたのか」

 

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。どこぞのハーフエルフ野郎とは大違いだな。でもよ、ゴミをゴミと言って何が悪い。」

 

 

「これ、やめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

 

ロキも見かねて止めに入るが、ベートはもう止まらない。

 

 

「クラウドのことだってそうだぜ。あの野郎の脱退に納得してなかったのはお前も同じだろうがよ。

アイズ、お前はどう思うよ? 自分より弱ぇ、震え上がって逃げ出す雑魚のことをよ?」

 

 

「あの状況なら....仕方なかったと思います」

 

 

アイズの主張は尤もだ。Lv.1の冒険者にLv.2にカテゴライズされるミノタウロスと戦えなどと言うのは、死ねと言っているようなものだ。ベルが逃げたのも仕方がない。

 

 

「ああ? じゃあ質問を変えるぜ。あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 

「ベート、君酔ってるね?」

 

 

団長のフィンがベートを宥めるがそれすらも無駄だ。

クラウドは歯軋りしながらグラスから手を放す。これ以上持っていたら絶対に割り砕いてしまう。

 

 

「聞いてんだよ、アイズ! お前はどっちを選ぶってんだオイ!」

 

 

「....私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

 

「無様だな」

 

 

アイズに一蹴され、それをリヴェリアに呆れられる。ベートはギリッと怒りを露にした。

 

 

「黙れババァッ。....もしかしてよぉ、アイズ。お前まだクラウドのこと兄妹だとか何だとか思ってんのか?」

 

 

「......っ!!」

 

 

アイズは虚を突かれたように視線を泳がせる。ベートは得意気に笑ってさらに言葉を続ける。

 

 

「わかってんのか? あいつは散々俺らのファミリアの世話になっといて、今更弱小ファミリアに鞍替えしやがったんだぜ? 自分が抜けたらどんだけの損害になんのかも知らずに平気な顔してよぉ!!

あんな野郎に第一級冒険者だとか、お前の兄貴分だとか言う資格があんのか!? そんなはずねぇよなぁ!!」

 

 

「......」

 

 

アイズは答えない。ただ目の前の青年からの言葉を聞いているので精一杯なのだろう。

 

 

「自分より弱くて軟弱な雑魚野郎も、いい顔しといて平気で逃げる裏切り者も、同じだぜ? お前の隣に立つ資格なんざねぇ。

 

あんな野郎共じゃ釣り合わねぇんだ、アイズ・ヴァレンシュタインにはなぁ!!」

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

 

クラウドは左に座るベルの右手を掴んでいた。決して強くはなく、軽く、掴んだ。

 

 

「くら....うど....さん........」

 

 

ベルの顔は、これ以上無いほどぐちゃぐちゃな、悔しそうな顔をしていた。クラウドはそんなベルと目を合わせ、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

 

「ベル、感傷的になったらダメだ」

 

 

「え....?」

 

 

ベルの目は、身体は小刻みに震えている。どう考えても気が動転している。クラウドはベルの両肩を掴んで少しだけ力を込める。

 

 

「深呼吸して、気を鎮めるんだ。ここでお前が過剰に反応したら、あいつの言うことをお前が認めたことになる。

それだけは、ダメだ。」

 

 

クラウドはスー、ハーとベルに軽く深呼吸をさせる。ベルは少しだけ落ち着いたのか震えは止まっていた。

 

 

「お前はここに座っててくれ、ちょっと話し合いをしてくる」

 

 

そう言って立ち上がったクラウドは、懐から銃を抜く。

 

そして、何の躊躇いもなく目標の狼人へ発砲、その銃声が店内に大きく響いた。


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