ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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第43話 離さないでください

気絶した。ラストルと戦い、勝って、和解したのはいいものの……まあ、何と言うかお互い疲弊していたことに違いなどなかったため仲良く気絶したのだ。

 

 

「んあ……ああ………」

 

 

もう何度も経験したが、あまり見覚えのない天井が最初に視界に入った。

 

ヘスティア・ファミリアのホームではないし、豊饒の女主人の離れの部屋でもない。

 

 

「……どこだよ」

 

 

上体を起こし、部屋全体を見渡す。やはり覚えはない。木造の簡素な寝室のベッドに寝かされていたようだ。

何処かの宿屋に運び込まれたのだろうか。

 

 

「……着替えよう」

 

 

ベッドの横に置かれている自分の鞄を開けて替えの服を取り出した。戦いで負った怪我は途中で回復したが、汚れた服はそうはいかずに就寝用の服に着替えさせられていたようだ。

 

クラウドはワイシャツとズボン、ジャケットを着直し、部屋の棚に立て掛けるように置かれている小太刀と拳銃を取り、腰のベルトに収納する。

 

 

(律儀に武器を置いてくれてるとこを見ると、捕まったわけじゃない。ベルたちが運んでくれたってことか?)

 

 

クラウドは部屋の出入口のドアの取っ手に左手を掛ける。そこで微かな音に気づいた。足音だ。

 

 

(誰だ……?)

 

 

足音の主であろう人物がドアを開いた。顔よりも先に特徴的な身体の一部――尖った耳が眼に入った。

 

 

「起きていたのですか?」

 

 

来訪者は金髪のエルフ――リューだった。そういえば、黒いゴライアスとの戦いで別れたっきり会っていない。

 

 

「何でここにいるんだ? というか、ここは何処なんだ?」

 

 

「待ってください。順を追って説明します。中で話しましょう」

 

 

クラウドはリューを室内に迎え入れた。クラウドは部屋に一つだけあった椅子に、リューはさっきまでクラウドが寝ていたベッドにそれぞれ腰かけた。

 

リューが言うには、何とか黒ゴライアスをその場にいた冒険者とリヴィラの街の住人総出で倒した後、森の中で倒れているクラウドとラストルを見つけたらしい。

その後、救護テントがいっぱいになったためクラウドをリヴィラの街の宿屋に泊めたそうだ。

 

 

「……そうだったのか。皆は無事なのか?」

 

 

「はい、怪我人は多いですが命に別状がある人はいないそうです」

 

 

「そうか……よかった」

 

 

クラウドはほっと胸を撫で下ろした。

暫く沈黙が続く。正直、聞きたかったことが聞けたためこれ以上話題がないのだ。

そのはずなのに、リューはそわそわしながらクラウドと目を合わせたり逸らしたりしている。

 

 

(……ああ、そうか)

 

 

クラウドは今回は合点がいった。リューに会ったら言いたかったことがあったのだ。言うなら今しかない。

 

 

「なあ、ちょっといいか」

 

 

「ふひゃい!」

 

 

「ど、どうした?」

 

 

「い、いえ、何でもありません。何でしょうか?」

 

 

リューは顔を赤くして微かに震えている。普段なら体調の心配をしてしまいそうだが、今はそうではないことがわかる。

 

 

「ラストルとの戦いでわかったことがある」

 

 

「わかったこと?」

 

 

リューは照れ顔から少し立ち直り、クラウドに聞き返した。

 

 

「ああ、俺は多分、あの頃に……処刑人だった頃に戻るのが怖かった。

それに向き合う勇気がなかったんだ。そんなだから、この間みたいに殺人衝動を抑えきれなかった」

 

 

脳裏には、以前怒りに任せて桜花を殺そうとした場面が浮かび上がる。あのときは意識も記憶も処刑人時代のものに変化してしまっていた。

 

 

「………」

 

 

リューは何も言わずにクラウドのことを見つめている。

 

 

「だけど、ラストルと戦ったときに改めて気付いた。処刑人だった頃の俺は別人でも何でもない。今の俺を作ってるのもあの時の俺なんだ。

だから、逃げようとするんじゃなくて受け入れないといけなかったんだよ」

 

 

クラウドは自分の右手を見つめる。何人もの命を奪い、引き金を引いてきた手を。血が染み込んだ人殺しの手を。

 

 

「俺は――俺の人生は奪った命の上に成り立ってる。だから、もう逃げたりしない。いくら、こんな汚い手でも誰かに届くなら絶対に助けてみせる」

 

 

黙っていたリューはすっかり真剣な表情で口を開く。

 

 

「クラウドさん、一つだけ訂正しても構いませんか?」

 

 

「え?」

 

 

リューはクラウドの右手を取り、自分の口許に近づけていく。

 

 

「へ?」

 

 

思わず間抜けな声が出てしまう。いや、出したくもなるだろう。

リューがクラウドの指を、手の平を、手の甲を、舐め回し始めたのだ。

 

 

「れろ……ちゅっ……はぁ……ちゅぱっ……」

 

 

「うっ、ああっ……」

 

 

指を咥え、時折全体に口付ける。唾液で舌が滑り、ぞわぞわとおかしな感覚が走る。

 

何だ? 何でいきなりこんなことされてるんだ、俺は?

 

 

「………はあ」

 

 

「リュー……どうしたんだよ、いきなり……」

 

 

「……いけませんか?」

 

 

「いや、そうじゃなくて……びっくりしたから……」

 

 

リューはようやく口を離した。だが、未だにクラウドの手を握ったままだ。

 

 

「クラウドさんが御自分の手を汚いと言ったので、それを訂正したかったのです」

 

 

「そ、それでか………」

 

 

「はい、貴方の手は汚くありません。舐めてもいいくらい、綺麗で、温かいです」

 

 

今度は手を握ったまま頬に当ててきた。まるでクラウドが彼女の顔を撫で回すかのように。

 

 

「まったく……ずるいな、本当に」

 

 

ああ、やっぱりだ。再び自分の気持ちを確認できてよかった。ドキドキして落ち着かないが、それと同時に喜びに溢れてしまっている。

 

 

「リュー、俺が過去を克服できたのはお前のおかげだ」

 

 

「? 私の、ですか?」

 

 

「ああ」

 

 

瀕死の重傷を負い、過去に向き合う恐怖に潰されそうになったとき、リューとの約束が頭によぎった。

 

 

「私だけではないはずです。クラネルさんや、貴方の仲間がいたから貴方は戦えたのでしょう?」

 

 

「そうだな。だけど、あの時背中を押してくれたのはお前との約束だ。それだけは、確かだ」

 

 

クラウドは空いている左手をリューの右肩に置き、椅子から下りる。そして、ベッドに座ったままの彼女の顔と自分の顔を近づけた。

 

 

「リュー、俺はお前が好きだ」

 

 

「………!!」

 

 

リューの顔が再び赤くなる。眼が潤んで驚きで震えている。

 

 

「普段の物静かなところも、仲間思いなところも、戦ってるところも、時々見せる笑顔も、どうしようもないくらい、大好きだ」

 

 

「く、クラウドさんこそ……狡いです」

 

 

リューは見惚れるくらいの美しい笑顔で微笑んだ。互いにゆで上がったように顔が赤く、熱くなる。

 

 

「私も貴方が好きです。心から、愛しています」

 

 

「それじゃあ……この間のお返しだな」

 

 

クラウドはゆっくりとリューとの距離を縮めていく。彼女の髪、身体、服の香りが心地良い。彼女の金髪と白い肌が視界を埋めていく。

 

そして、二人の唇は重なった。

 

 

「んっ……」

 

 

リューが合わさった唇の隙間から僅かに吐息を漏らす。リューの唇は柔らかく、体温を感じ取れた。

 

二人は数秒ほどして唇を離す。リューは息を止めていたのか、浅く呼吸を繰り返している。

 

 

「リュー……もしかして、初めてなのか?」

 

 

「……当然です……私は、誰かと手を繋いだこともありません。ましてや、口付けなど……」

 

 

クラウドも唇にキスしたのは初めてだが、何となくリューからぎこちなさを感じたのだ。疑っていたわけではないものの、まさか本当に生娘だったとは。

 

 

「クラウドさんこそ……慣れていませんか? 誰かと経験が……」

 

 

「俺もキスするのは初めてだよ。それに……その……そんな相手もいないしな」

 

 

「それなら……『私』に慣れてください」

 

 

今度はリューの方からキスをしてきた。突然の不意打ちにビクッと身体が強張ってしまう。

 

 

「ん……ちゅっ……はぁ……」

 

 

「!?」

 

 

さらに予想外のことが起きた。リューがクラウドの口の中に舌を入れてきた。お互いの口の中で暴れ回り、唾液が交換されていく。

 

清純な少女を汚して支配しているような背徳感が芽生え、さらに興奮が高まる。

 

 

「はあ………はあ………」

 

 

色々と不味い。体調も、体裁も、理性も、思考から外れそうになっている。

 

 

「………っは」

 

 

「あっ………」

 

 

リューは十分だと判断したのか、唇を離した。気付けば彼女の顔は蕩けてすっかり女性としての表情へと仕上がっていた。

クラウドはその姿に生唾を飲み、呼吸を整える。

 

 

「まだ慣れませんか?」

 

 

「余計に慣れなくなったかもな………もう一回………いいか?」

 

 

「はい。その代わり、私のことを………離さないでください」

 

 

「ああ。俺はこれからもずっと、リューと一緒にいる」

 

 

頭がぼうっとしてお互いに相手のことしか考えられなくなっていた。

触れ合ったのは一時だったが、刻まれた思いは永遠だと確かに感じることができた。




これを見てエロい気分になった方は腹筋か腕立て伏せをどちらか千回して頂きます。(言うのが遅(ry)

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