ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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ラストル戦、終了です! 一体どれだけかかったんだ(疲)


第42話 変わらない夢

ラストル・スノーヴェイルは目の前の人物に――その姿に対して唖然としていた。

さっき殺しかけた銀髪のハーフエルフとも、かつて憧れていた黒髪の義兄でもない。

 

銀と黒、二つが混じり、合わさった色をしていた。

 

 

「何……その格好? 呪装契約(カースド・ブラッド)じゃ、ない?」

 

 

「ああ、俺にはもう『契約(あんなもの)』は必要ない」

 

 

目の前の男――いや、もう理解できている。この男はクラウド・レインだ。

 

 

「こいつは呪装解放(カース・オープン)だ」

 

 

クラウドは姿勢を低く構え、ラストルを見据える。その視線は今までの自分が知っているクラウドのものではない。処刑人のものでも、現在のものでもない。

 

 

「行くぞラストル。(げんざい)(かこ)も、(いま)(むかし)も、全て俺が呑み込んで、撃ち抜いてやる!!」

 

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

 

「電撃縮地」

 

 

クラウドは屈んだまま両手の拳を握り、構える。ラストルは咄嗟に刀で防御の姿勢をとった。

 

 

「【無刀(むとう)鳴神(ナルカミ)】」

 

 

クラウドの姿が電光と供に消え、ラストルの眼前で拳を振り上げる形で現れる。

 

 

「オオオオオッ!!!」

 

 

ラストルの防御の隙間からクラウドの雷撃を纏った手足が彼女の身体に届く。

 

 

「調子に……のるなぁ!!」

 

 

ラストルは水平に刀を振るい、クラウドを無理矢理離れさせる。そして刀を鞘に納めて一閃。

 

 

「百式ィッ!!!」

 

 

刀身が炎を纏い抜刀の鞘走りで加速されクラウドに迫る。クラウドは素手な上に距離もタイミングも踏まえれば逃れる方法などない。

 

しかし、今のクラウドはその程度で斬り伏せられるほどの強さではない。

 

 

「遅ぇよ、二代目」

 

 

クラウドは刀の柄を握るラストルの右手を正面から左手で掴んで止めてしまう。

本来なら反射的に屈んで回避できるような攻撃でもないはずなのに。それでも、奇跡的にかわしたのならまだ現実味がある。

それなのに、クラウドは超神速の抜刀術を片手で受け止めたのだ。

 

 

「ウソっ……!?」

 

 

ラストルは動揺して一瞬だけ意識が戦闘から外れる。だがその一瞬は反撃を許すには十分だった。

 

 

「【無刀(むとう)天罰(てんばつ)】」

 

 

クラウドの握られた右拳がラストルの腹部に鋭く入り、その体を後方に飛ばし木に激突する。

 

ラストルは気絶こそしなかったものの、地面に膝をついて呼吸を乱してしまう。

 

 

「身体が麻痺して動かないだろ? 今のをくらって気を失ってないだけでも驚きだ」

 

 

ラストルは力を込めて立ち上がろうとするが、ガクッと崩れ落ちる。

クラウドは俯くラストルの前まで移動し、見下ろしながら言う。

 

 

「やめろ、武器を置いて大人しく降参するんだ」

 

 

「こう……さん……?」

 

 

ラストルはぼそりと呟き、身体を小刻みに震わせる。

 

 

「そんなの……するかァ!!」

 

 

ラストルは叫ぶと同時に刀を目の前に立つクラウドの胸元目掛けて刀で突く。

クラウドは軽く身体を捻ってかわし、ラストルの手首を掴む。

 

 

「もう、お前の負けだ」

 

 

「負けてない!!」

 

 

ラストルは息も絶え絶えの状態でクラウドを睨む。もはや立っているだけでも辛いはずだ。

そんな彼女の表情にクラウドは嫌悪感を見せるどころか微かに笑ってしまう。

ラストルはその薄ら笑いにもとれる表情に対して怒りを露わにする。

 

 

「何が可笑しい!!」

 

 

「いや、ようやく『普通の反応』をしてくれたと思ったらさ、嬉しかったんだよ」

 

 

ラストルは言葉の意味を理解した途端に悔しそうに唇を噛み締めた。

 

 

「今まではまともな会話もできなくて正直気持ち悪かったが、ようやくお前の本音に会えた気がする」

 

 

「適当なこと――」

 

 

ラストルは緩まったクラウドの拘束から手を力ずくで外す。

 

 

「言うなっ!!」

 

 

ラストルは自由になった右腕で乱暴に刀を振りまくる。しかし、先程のような明確な殺意と精確さを持った攻撃ではない。子供が癇癪を起こしたような幼稚なものだ。

 

クラウドは難なく全てかわし、ラストルを力強く蹴り飛ばす。

 

 

「があっ!!」

 

 

ラストルは相変わらずクラウドに怒りを込めた視線を向けている。暫く息を整えていると段々彼女の表情が冷静さを取り戻していく。

 

 

「もう……いい……」

 

 

ラストルは鞘を帯から外し、再び刀身を納める。

また、抜刀術の構えか。

 

 

「もう百式は使わない。こうなったら私の最強の技で消してあげる」

 

 

ラストルは柄に右手を添えて腰を低く構える。怒りが収まり本来の力を取り戻したのか。

 

 

「ラストル……お前がそんな風になったのは俺にも責任がある。だから、俺も逃げたりしない」

 

 

クラウドの右手に黒、左手に銀色の粒子が集まり形を成していく。やがて黒と銀の拳銃が握られる。

 

 

「だから、お前も全力で来い。お前の本音も、不満も、俺が全部受け止めてやる」

 

 

ラストルはそんなクラウドに笑い返した。狂気染みた気味の悪い笑みではない。

不敵で、苦しそうな風に見えた。

 

 

「だったら私も全力で殺しに行ってあげるよ。これであなたが本当にクラウドかどうかはっきりさせる――してみせる」

 

 

クラウドは二丁の拳銃をラストル目掛けて構え、引き金に指を掛ける。

 

 

「なぁ、ラストル」

 

 

「……何?」

 

 

「俺が昔お前に聞いた……将来の夢、だったか? お前、何て答えたか覚えてるか?」

 

 

ラストルは突然の質問に訳がわからないと言わんばかりに顔をしかめる。

 

 

「何それ? そもそも今更何を言ってるの?」

 

 

「……いや、ただ――」

 

 

クラウドは一呼吸置いて真剣な顔で尋ねた。

 

 

「決着をつける前に、聞いておきたかったからさ」

 

 

「……覚えてないよ、何て答えたかなんて」

 

 

「……そっか」

 

 

クラウドはさして気にするわけでもなく口を閉じた。

 

 

「……いくぞ」

 

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

「【雪帳(ゆきとばり)終式(ついしき)】」

 

 

「【双刀雷雨(デュアル・サンダー・ストーム)】」

 

 

 

 

 

クラウドの両手の拳銃から放たれた二つの銃弾が大きな竜巻と青白い稲妻を放ち、周囲の木々を紙のように吹き飛ばしながら進んでいく。

 

対してラストルが右足を前方に踏み込むのとほぼ同時に刀が抜き放たれ、斬撃と炎、そして魔力によって固められたそれらのエネルギーが銃弾を押し返すようにぶつかり合う。

 

 

 

二人の攻撃の威力はほぼ拮抗していたかに見えたが、その関係はすぐに崩れた。

 

 

クラウドの二つの銃弾が一つに融合し、さらには周囲の竜巻や稲妻を収束させていく。

 

 

収束された攻撃はラストルの終式のエネルギーを貫通し、粉々に破壊する。

 

 

(そんな……!!)

 

 

ラストルは刹那の間に自分の敗北を悟っていた。

そういえば、いつかもこんな風に勝利を確信した後でどんでん返しをくらったことがあったと頭によぎる。

 

 

 

 

 

『あー! もー! また負けたぁー!!』

 

 

『惜しかったな、ラストル』

 

 

確か、以前ロキ・ファミリアで修行していた頃だった。自分の大好きな兄と何度も模擬戦をしたが、一度も勝てなかった。

悔しかったが、そのときに兄の見せた笑顔も、労いの言葉も掛け替えのないものに思えた。

 

 

『こんなのじゃあ……全然ダメなのに……』

 

 

『ん? どうしたラストル、何か悩んでるのか?』

 

 

『うん。私ね……大きくなったら――』

 

 

 

 

 

思考はそこで途切れた。ラストルの視界に映ったのは自分の刀の刀身が折れ、宙を舞っていくところだった。

 

 

ラストルは刀が折れると同時に上空へ舞い上がり、地面に仰向けになる形で激突した。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……ま……けた?」

 

 

地面に伏したラストルの元へクラウドは駆け寄った。

 

 

「……おい、大丈夫か?」

 

 

「くら、うど?」

 

 

ラストルはクラウドが顔を覗き込んだ途端に両眼から大粒の涙を流した。

 

 

「……お兄ちゃん」

 

 

ぽつり、とラストルが呟く。さっきまでの嫌な感じが抜けている。刀を折られ、戦闘不能に追い込まれたことで闘気が削がれたせいか。

クラウドは優しく彼女の頭を撫で、快活に笑いながら返事をした。

 

 

「ああ、久しぶりだな、ラストル」

 

 

「お兄……ちゃん、ごめんなさい。私……」

 

 

「謝るなよ、俺は全然気にしてない」

 

 

「でも、お兄ちゃんのこといっぱい傷付けて……」

 

 

ラストルは申し訳なさそうにクラウドから眼を逸らすが、クラウドは苦笑いしてみせた。

 

 

「こんなのは……あれだ。妹とじゃれ合っただけだろ?」

 

 

「もう……」

 

 

ラストルもそれにつられて明るく笑う。クラウドにはその笑顔がとても眩しく思えてしまい、彼女を両手で抱き寄せた。

 

 

「うわわっ」

 

 

「悪い、少しだけな」

 

 

「う、ううん。いいよ、私も……」

 

 

ラストルもクラウドに向けて身体を預け、受け入れる。

 

 

「お兄ちゃん、もうちょっと……」

 

 

ラストルは甘えるようにクラウドにより体重をかける。クラウドは悪戯気味にラストルの頭を小突いた。

 

 

「……こいつめ」

 

 

ラストルはクラウドの腕の中で思い出していた。クラウドの――兄の温もり、優しさに触れたい。

これからも一緒に食事をして、眠って、冒険をしたい。

 

 

そんなことをずっと考えていたから、昔の自分はあんなことを言ったのだろう。

 

 

 

『私ね……大きくなったら、お兄ちゃんみたいな冒険者になる! 絶対、ぜーったいだよ!』

 

 

 

ラストルは今も昔も変わらない夢を思い出しながら、大好きな人の腕の中に浸り続けた。




ラストルとの決着、そして過去の克服。これが為されたということは次回どうなるのか、察しの良い方々はお気づきになっていることでしょう。次回もよろしくお願いします!

それでは、感想、質問などありましたら感想欄に、意見や要望、アイデアなどがありましたら活動報告にどちらも遠慮なくご記入ください。

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