「ぎっ………!」
左足を刺し貫く刀の切先は地面まで通っている。ほとんど足が地面に縫い付けられたようなものだ。
「痛い? ねぇ、痛い? じゃあこうしたら、どうかな?」
地面に踞るクラウドをラストルは見下ろし、刀の柄を握る。次の瞬間、クラウドの嫌な予感は的中した。
「あはっ」
ラストルは舌舐めずりしながら笑う。一秒もかからないほどの速さで刀をクラウドの足から引き抜いた。
「ひっ………がっ、ああああああああああああ!!!」
「うるさいなぁ、黙りなよ」
ラストルは左足でクラウドの顎を蹴り上げる。クラウドは二転三転しながら地面に仰向けになった。
(足が………)
刃によって切り裂かれた血管から血が流れ出す。手で押さえてもドクドクと絶え間なく溢れるほどに。
何より足をやられたのだ。もう走り回って攻撃は難しい。
「はぁ……はぁ……」
「汚い叫び声だね………吐きそうだよ。吐いちゃってもいい? あなたの顔にでもぶっかけてあげようか?」
ラストルはまるでゴミでも見るような冷たい目でクラウドを見下ろす。クラウドは左足を引き摺りながらも立ち上がり、右足に体重を任せながら拳銃と小太刀を構える。
「ふーん、まだ戦うんだ。もしかして、死ぬ気で頑張れば勝てるとか思ってる? 笑っちゃうよね、ムカつくけど」
「……言ってろ。必ず俺が……お前を……」
クラウドが痛みに耐えながら話そうとしたがラストルから左足に蹴りを入れられたことで遮られる。
「ぐあっ………!!」
「えー、なに? あなたが私をどうするって? すごーく生意気なこと言おうとしたように聞こえたけど?」
何とか起こしていた左足が膝を折り、体制を崩してしまう。
「お前を……助ける……!」
「だーかーらーさー!!」
ラストルは怒りを露わにしながら刀を横凪ぎに振るう。クラウドは小太刀で防ぐが続く攻撃に押されていく。
「何を偉そうに助けるだなんて言ってるのかなぁ!? 私はあなたをさっさと殺してクラウドのところに行くの!! 何様のつもりか知らないけど私を何から助けるだなんて――」
クラウドがよろめいて膝をつくと、そこへラストルの回し蹴りが側頭部に入る。
「言ってるのさ!!」
「……っ、がぁ!?」
鈍い痛みとともに視界が大きく揺れる。平衡感覚も脳震盪のせいで正常に機能していない。
「このっ!!」
クラウドはラストルの身体めがけて発砲するが、軽く上半身を反らして回避される。
「無駄ぁ!!」
ラストルは猛りながら刀を振るい、二閃――右足と左腕から血が吹き出した。
「しまっ………」
二撃、三撃、ラストルの刃がクラウドの手足や胴体に裂傷を作り続ける。
「
ラストルの猛攻にクラウドは為す術がない。もはや一方的と言ってもいいほどの戦いだ。
「【
刹那、斬撃が止んだ瞬間にラストルは刀を鞘に納め、抜刀術を放つ。
クラウドは僅かに残っていた体力で後ろへ跳ぶ。
「は?」
刀を完全にかわしたわけではない。服は大きく裂けて皮膚にも浅く傷ができた。
しかし、そんなことはどうでもよかった。クラウドの意識はそんなことより、
「らあっ!!」
クラウドは燃えていく上着を脱ぎ捨て、下に来ていたワイシャツ一枚になる。
地面に捨てられ燃え朽ちていく服に疑問を抱かざるを得なかった。魔法を詠唱した様子もない。詠唱の短縮ができるクラウドや無詠唱のベルでさえ魔法名は口にしているのだ。
だとしたら――
「スキル……か」
「正解。壱~参式は言ってしまえば単なる超高速の抜刀術。だけど百式は斬撃と同時に私のスキル【
抜刀術と同じく、このスキルも知らない。これもラストルが新しく手に入れた力だ。
ということは、以前9階層で会ったときの戦闘では大幅に手加減されていたのか。
「で、どうするつもり? 両足に左腕、それに百式の裂傷と火傷も受けてるから普通死んでると思うけど……まだ続ける? 今なら泣いて謝ってクラウドについて知ってることを洗いざらい話したら楽に殺してあげるけど?」
「だから、俺が……クラウド……だっての……」
ラストルはクラウドの苦しそうな声を聞き入れることなく刀の柄頭で殴る。
「うるさいって言ってるの!!」
「ぐっ……」
ラストルの言う通り、もうまともに戦えない。ここは一旦引くしかない。
(今だ!)
クラウドは咄嗟にベルトについたポーチから一つのボールを取り出し、地面に放る。ボールは強烈な光線を放ち、辺りを真昼のごとく照らす。
「うっ………」
ラストルは反射的に目を覆う。その隙を突いてクラウドは激痛に耐えながら近くの岩の陰に身を潜めた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
クラウドは身体から止めどなく流れる血を押さえながら息を整える。
それと同時に現状を打破する策を必死に考える。
「くそっ……回復アイテムは上着ごと燃やされたし、何よりこっちの攻撃が通らない……どうすれば……」
余計に考えずとも頭の中では打開策は出ている。傷を回復させ、戦闘力を上げる方法が。
「いや、ダメだ」
唯一と言っていい打開策――『
ラストルを倒すことも可能なはずだ。
だけど、それは危険だ。俺が俺でなくなるかもしれない。
また、
だったらどうする? ここでラストルに斬り殺されるのか?
ベルやアイズ、ヘスティア、リリ、ヴェルフ、他の仲間たちの知らないところで、志半ばで野垂れ死ぬのか?
「それは……もっとダメだな……」
あのとき、リリやベルに正体を明かしたときに誓ったはずだ。
これからの人生を今まで奪った命より多くの人を救うために使うと。
そのために、絶対に死ぬわけにはいかないと。ここで諦めたら殺した人達にも、これから救う人達にも会わせる顔がなくなる。
それに、俺には約束した人がいる。
『その……告白をしてくれるときになったら、今度は貴方からしてもらえますか?』
『ああ、お前のためにも……必ず、そうするよ』
そうだ。リューと約束したんだ。生きて、あいつに思いを伝えると。
必ず生きて彼女の笑顔を心に焼き付ける。
殺すためじゃない。死から逃げ惑うわけじゃない。
生きてやる。手繰り寄せてやる。生きて、皆のいる日常に戻るために、俺は戦う。
「【
クラウドは口から血を垂らしたまま薄く笑い、言葉を紡いだ。
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