今回はもはや単なるラブコメになってます。バトルとか心の葛藤とかは全くありませんので。多分暫く投稿してなくて感覚が鈍ってます。
無事にゴライアスを倒し、18階層へと向かうことができた探索隊の一行。
しかし、17階層から続く通路において現在進行形でクラウドはとんでもなく危険な目に遭っていた。
「おわあああああッ!!」
「って、あああああ!!」
クラウドとリューが先頭に立って歩いていたのだが、地面の凹みに躓いたリューが前のクラウドに倒れ込みその勢いで坂を一緒に転げ落ちてしまった。
「痛い痛い痛いッ! 岩がゴツゴツしてて服が破れるって!」
「く、クラウドさんっ!? どこを触って......うひゃあああっ!」
「もう無理、気持ち悪い! 何も見えないし目が回るし三半規管が悲鳴を上げてるんだよ!」
転がりながらもそんなやり取りを続け、ようやく坂の終わりまでやって来た。
「またこのパターンかよおおおおおっ!!」
悪夢再びと言うべきか、またもや地面に背中からぶつかることとなってしまう。間髪いれず二度目の衝撃を味わった背中も骨に異状を来すのではないかというほどに痛む。
そうは思ったものの更なる違和感を感じた。いや、違和感というよりは嫌な予感だ。何かがまた顔に乗っている。
つい最近経験したであろう感覚と予感を顔に感じたのだ。
(あれれ? おっかしいなぁー、何これ?)
まず感じたのは匂いだ。甘く、脳が痺れるような香りが口元に押し付けられている。そして薄い布地の感触。
視界がパチパチと火花を散らしよく見えない。だが前回のように何かに覆われて真っ暗ではないため、だんだん何が乗っているのかの情報が露になってくる。
視界が晴れて飛び込んできたのはやはり、リューの身体だった。またもや彼女の尻の下に飛び込んでしまったのかと考えたがそうではない。
彼女は自分と目を合わせるように座っているのだ。前回は彼女の背中を見上げるようにしていたのに今度は腹部より上が見えているのだ。
(え? どういうこと? じゃあ今俺どうなってんの? どこに顔を突っ込んでるの?)
まさか、と考えを巡らせる。前々から彼女に事故とはいえセクハラ同然のことをしていたことを反省しているのにまた繰り返してしまうのか。
あらゆる情報から推察するに、自分は今顔をリューの露出した太股で挟まれ、彼女の股に口を押し付けているのだ。
(は、早くどかないと本当にヤバい......!)
クラウドは彼女の足を掴んで顔を抜こうとするが、突然の足への接触に驚いたリューは思わず足を閉じてしまう。
「やっ、ああっ......」
両頬に感じる柔らかく滑らかな肌の感触と彼女の体温。浅く呼吸をしたり抜け出そうと身動ぎする度に彼女が身体を震わせ発する苦悶の声。この匂いも、声も、感触も、体温も卑怯だ。まるで麻薬のように五感を支配する。
「ひゃっ......だめ......」
一人の男としてもう色々いけない思考へと迷い込んでいる気がしてきた。女性のデリケートな部分への接触などエルフ種でなくとも袋叩きにされるべき罪だ。
そんな風にとうとう思考回路がエロ方向にしか行っていないクラウドに助け船が入った。
「あわわわっ」
「......っ! はぁ......はぁ......」
リューの身体がふわりとどかされ視界が一気に18階層の夜空へと変わる。リューの驚いた声からして誰かに退かされたのだろう。
誰だか知らないが色んな意味で助かった、と思ったのも束の間。上体を起こしたクラウドに誰かが後ろから両腕を回し首を締め上げた。
「ぐっ......あああっ!」
「クラウド、何をしてたの?」
首に巻き付いている腕の感触と耳元に発せられた声からその相手が女性だとわかる。
というか、何だか聞き慣れた声のような――
「あ、アイズ!?」
「クラウド、質問に答えて」
金髪金眼に女神に匹敵するほどの美貌を兼ね備えた少女。クラウドの義理の妹にして弟子でもある。
普段なら心置きなく甘えてくる彼女が何故か弱冠怒りを込めた声で問い詰めてくるのがとても恐い。
「クラウド、今この人と何だかいけないことをしてなかった?」
アイズは締め上げる力を強め、ますますクラウドの呼吸が苦しくなる。坂を転げ落ちて一張羅と三半規管にダメージを受け、さらには可愛い妹からヘッドロックされるなど、踏んだり蹴ったりだ。
「ちょっ、アイズ! ムリムリムリムリ!! 内臓とか骨とか血とかが口から飛び出すって!! お子様に見せられなくなるから!!」
「大丈夫、終わってからのクラウドの身体の管理は妹の私がするから」
「お前ラストルの変装とかじゃないよな!?」
一難去ってまた一難。リューとの件は別に災難ではないがこれは完全に誤解だ。とにかく拘束を解いてもらわねばならない。
だがここでまたもや助け船が。話し声を聞きつけたのか誰かがこちらに走ってきた。
「あーっ! ヴァレン何某、どうして君がここにいる!」
「ヘスティア様ぁ、待ってくださいよー」
遅れて18階層へと降りてきたヘスティアとキリアがアイズを発見した。アイズがヘスティアに反応し、腕の拘束が緩んだところでクラウドは頭を抜いてアイズから距離をとる。
「助かった......ありがと、ヘスティア様」
「クラウド君、何で君が敬称付きなんだい?」
普段呼び捨てしかしない彼を不思議がるヘスティア。必死に酸素を求めて多少混乱していたクラウドだが、次に届いた声で我に帰る。
「クラウドさん?」
よく聞いていた少年の声。クラウドが幻聴でも聞いているのでなければ、間違いなく自分達が探し求めていた少年の声だ。
クラウドは声のした方を向くと、所々に包帯や絆創膏を貼ったベル、リリ、ヴェルフの姿があった。
「ベル? リリ、ヴェルフ!?」
「クラウドさん、どうし......って!?」
クラウドは有無を言わせずベルたち3人をまとめて抱き締めた。3人共驚いて声を上げているがそれすら嬉しく思えてしまう。
「よかった......心配したんだぞ、本当に。生きててくれたんだな、お前ら......」
「クラウドさん......」
「クラウド様......」
「クラウド......」
目一杯抱き締めるとクラウドは回していた手を離し微笑んだ。
「クラウドさん......涙が」
「え? ああ......おかしいな、何でこんなに......」
頬を涙が伝っていると言われ両手で拭うが、絶えることなく溢れてくる。思いの外、家族や仲間のことに敏感になっていたようだ。
喜びの感情が涙へと変換されているのではないかというほどに。
◼◼◼◼◼
「テントが足りない!?」
「ああ、残念ながらね」
ロキ・ファミリアと無事に合流し夕食を共にしたはいいものの、就寝となりテント割りを決めようと探索隊メンバーとベル達で話し合っていた時に問題は起きた。
18階層に存在する『リヴィラの街』には冒険者たちが店を開いている。そこの宿に泊まることも可能だが、この街の性質上法外な値段がかかってしまう。
そのため森の中にキャンプを作って寝泊まりするのが普通である。遠征中のロキ・ファミリアもそれは承知の上。テントを張ってそこで眠るはずだったのだが――
「いやあ、こんなにも人数が増えてしまうと予備のテントも無くなってね。あははは」
「フィン、結構深刻な問題であることに気づこうか」
元々彼らはベルやクラウド達と合流する予定などなかった。そこに合計で十二人も追加となり、結果テントが足りなくなった。
そのため、丁度クラウド一人だけが余るような形になってしまう。しかし野宿するわけにもいかない。クラウドはフィンと交渉に出た。
「一人でテント使ってる奴とかいないのか? あの大きさなら二人は入れるだろ?」
「確かにそうだけど......一人余っているのは女性だけだよ? まさか女性と一緒のテントで眠りたいなんて言わないよね?」
「俺を何だと思ってんのお前!?」
やはり道徳心を考慮してか異性との就寝は禁止らしい。
笑顔で自分を見上げてくるパルゥムの少年が憎たらしく思えてきた。尤も、見た目は少年でも中身は自分の倍近い歳をしているのだが。
「......ベルとヘスティア辺りに一緒に寝てもらうか。ベル、それでいいか?」
クラウドは普段同じ部屋で寝ているベル達に提案する。ヘスティアは完全に乗り気だったがベルは顔を赤くして両手を顔の前で激しく振った。
「でっ、できませんよそんなの! 僕には荷が重すぎます!」
「何でだい、ベル君!? ボクなら万事オーケーだっていうのに!!」
ワーワーギャーギャー騒ぐ主神とその眷族にクラウドは頭を抱えるも、問題は解決しそうにない。
そこでどこからかクラウドの左肩に手が置かれる。振り向くと近くのテントを指差したアイズがいた。
「クラウド、私と一緒のテントで寝よう」
「は?」
「私と、一緒に寝よう」
「言い直すな、聞こえてるから。それに意味が改悪されてるし」
何を仰っているのか理解はしたくなかった。当の彼女は不思議そうに首をかしげて「どうして?」と尋ねてくる。
「昔はよく、一緒のベッドで寝てたよ」
「何年前の話だよ......お前も年頃なんだから軽々しくそんなこと言ったら駄目だろ」
「私はそうなっても......構わないよ?」
「アイズ......兄ちゃん悲しくなってきた」
確かにロキ・ファミリア在籍当時は一緒のベッドで眠ることなど珍しくなかったが、それも彼女が小さな子供だった頃のこと。
彼女に手を出そうなどと考えているわけではないが、万が一ということもある。それに周りの人間からゴチャゴチャ言われるのも面倒だ。
「待ってください。でしたら私もそれに乗らせていただきます」
静かに成り行きを見守っていたキリアが話に割り込んできた。キリアはクラウドの右腕に両手を絡ませてその小さな身体を密着させてくる。
「私はクラウド様の娘も同然。それに以前から一緒に寝ていますから問題ありません」
クラウドは少し愛娘に感謝した。キリアに危害が加えられないように女性冒険者の誰かに同伴してほしかったが、その役目を自分がやるのに越したことはない。
だがアイズはキリアとは逆にクラウドの左腕にしがみつき対抗してきた。ちなみに鎧を外しているため彼女の胸元の柔らかい感触が伝わってくる。イカンイカン。
「私が先に誘ったから、私が優先」
「アイズ様は御一人でも眠れるでしょう? 私はこの通りまだ子供なのでクラウド様と一緒でないと」
「......早い内から親離れしないと後から苦労するよ」
「アイズ様こそもういい歳なのですから兄離れするべきですよ? 私は小さいから問題ありませんが」
何とも穏やかでない争い。クラウドが苦笑いしかできないまま、ついに2人はクラウドから離れ論争を続けてしまう。大人しく見守っていたもののふと服の裾が後ろに引っ張られる感触に気づく。
言い争う2人を他所にそちらへ振り向くと、遠慮がちにクラウドのジャケットの裾を掴んでいるリューの姿が。
「クラウドさん、よろしければ私と......」
「いやいやいや、一番よろしくないだろそれ!?」
真っ向から断られ、リューは悲しそうに顔を俯かせた。クラウドは自分の失態に気付きすぐにフォローに入る。
「だって......その、歳の近い男女が同じ空間で寝るっていうのは色々と不健全な所があったりするだろ?
決して嫌悪感とか拒否したいとかじゃないけど、相手が嫌がることをするのは流石に......」
一応相手の機嫌を損ねないよう配慮して言い方を変えてみた。アイズやキリアならまだしも彼女とでは緊張して眠れそうもない。
「つまり......嫌ではないんですよね......?」
......何だか雲行きが怪しくなってきた。
何故そんなことを確認するのだろう。まさか親切心や同情ではなく彼女が自ら望んで言っているとでも?
クラウドの嫌な予感の通り、リューはクラウドの両肩を掴んでくる。
「り、リュー、無理しなくても......」
何だか今日のリューは押しが強いような気がする。というかつい数時間前の彼女との騒動のせいでかなり気まずい。
グイグイ自分を引っ張りテントへ連れていこうとするが
「待って」
「待ってください」
とうとう三つ巴になった。離れたところで言い争っていたアイズとキリアがこちらのやり取りに気付いて止めに来たのだ。
「私はクラウドの妹だから、私と一緒になるのは当然」
「浅はかですねぇ、娘の私の方との格の違いを教えてあげますよ」
何やら2人は既に戦闘の構えになっていた。最後に立っていた者がその権利を得るだとか何だかで戦うことにしたそうだ。
「テント壊れるからやめろ」
クラウドからの呆れ気味のツッコミに押し黙ってしまい、その場は矛を納めることに。正直ホッとした。
結局はヘスティアとベルが同じテントになってクラウドは一人でテントを使うこととなり、この件は丸く納められた。
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