ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

33 / 54
第31話 怪物進呈

「で、こっちの人が例の?」

 

 

「ヴェルフ・クロッゾだ。よろしくな」

 

 

ベルに話があると言われクラウドはメインストリートのオープンカフェを訪れていた。

クラウドが来た頃には丸いテーブルにベルとリリ、そして初めて見る赤い髪の青年が座っていた。

何でも、ベルの専属鍛冶師となりさらにはパーティーにも入ってくれるそうだ。

 

 

「ああ、こちらこそよろしく」

 

 

見たところ自分より年下だろうか。外見年齢は十代後半ほどだ。ベルとは同世代でレベルも近い。お互いにいい話し相手になるという点で見れば悪くはない。

 

 

「戦力としてはどうだったんだ? お前らと仲良さそうにしてるから、人柄の方は問題なさそうだけど」

 

 

「そっちも大丈夫ですよ。ヴェルフがいたおかげで僕たちも前より余裕を持って戦えましたから」

 

 

「はは......まあな」

 

 

「そうか。なら俺がいちいち口出しする必要もなさそうだな」

 

 

クラウドは安心して目の前に置かれたカップのカフェオレに口をつけた。

あれから何日か経つがラストルからの接触や襲撃はない。彼女の雇った暗殺者や脅迫状が届くことを警戒していたが、それらしき気配すらない。

薄々感づいてはいたが、やはり彼女は戦術において天才であってもクラウドへの執着心ゆえに搦め手を取るわけではない。好きな相手に向ける感情が強すぎて他の人間など見ていない。目的のためなら実力行使に出ると考えていい。

 

 

「で、中層に3人で行くわけだろ? ちゃんと装備を整えて消耗品は必要以上に持っていくんだ。何が起こるかわからん。特にお前らは初見だからな」

 

 

「クラウド様は過保護ではないですか? それですから年下好きとか子煩悩とか言われるのです」

 

 

「うん、リリ。地味に傷つくから言わないで。一応自覚してるつもりだから」

 

 

色んな人から終いにはロリコンだのシスコンだの言われていたこともある。出来ることなら封印したい過去だ。

 

 

「要するに用心に越したことはないって言いたいんだよ。中層をナメてかかって死んだ奴を俺は何人も知ってる」

 

 

ベル、リリ、ヴェルフの3人はクラウドの話に真剣に耳を傾けた。まだ組んで数日の急増パーティーだが、案外いい感じではないだろうか。

 

 

「最後に一つ、言っておくぞ」

 

 

「何ですか?」

 

 

「また何かのアドバイスですか?」

 

 

「いや、違ぇよリリ。これだけは守ってほしいことがある。他のことは二の次にこのことを第一にっていう条件が」

 

 

クラウドは心に残る不安はこのさい無視して、一歩踏み出そうとしている仲間へ最後の激励の言葉をかけた。

 

 

「絶対に生きて帰ってこい。手足が無くなっても、目が潰れても、這ってでもいいから俺たちのところに帰ってくるんだ。生きてさえいたら絶対に命は助ける。

だから、何があっても死んだりするなよ」

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

「ベル達がここに来てないだと!?」

 

 

「う、うん......そうみたい、だよ」

 

 

ベル達が中層に向かった翌日、クラウドはギルドで受付嬢のエイナから驚くべき言葉を聞いた。

昨日ベル達が帰ってこなかったことを不審に思い、ギルドの厄介にでもなったのかと思ったが見事に肩透かしをくらったのだ。

彼の横に立つヘスティアもその情報に納得できなさそうに顔を曇らせている。

 

 

冒険者依頼(クエスト)を発注したい。依頼内容はベル君達の捜索で頼む」

 

 

ヘスティアはなりふり構っていられないと最大限の手を尽くすことにした。エイナは依頼書の作成に入るためにペンで必要事項を記入していった。

 

 

「報酬はどうしますか?」

 

 

「これで頼む」

 

 

クラウドは懐から愛用しているシルバーフレームの銃を取り出し、カウンターに置いた。

銃はクラウドが独自の技術で作っているため、オラリオ中を探しても他に作れる人間はいない。しかも販売すらしていないので、欲しがる冒険者は山ほどいる。

 

 

「でもこれって......いいの?」

 

 

「いいに決まってんだろ、ベル達の安全の方が大事だ」

 

 

「わ、わかったよ」

 

 

エイナはクラウドの眼力に圧され、慌ててペンを走らせた。

クエストの発注を済ませたところで2人はギルドを出る。出口にはミアハ・ファミリアのミアハとナァーザがいた。

 

 

「どうであった、ヘスティア」

 

 

黙って首を横に振る2人にミアハたちも口をつぐんでしまう。皆予想はできていても口にするべきではないと考えているのだ。

ベル達が中層で全滅し、そのまま死んだという可能性に。しかし、ヘスティアはそんな雰囲気を悟ってかしばらく続いた沈黙を破る。

 

 

「クラウド君、最悪の事態は今のところ来てはいないよ。ベル君は生きてる。まだあの子の恩恵は感じられる」

 

 

「......そうか。なら絶望するには早いな」

 

 

主神である彼女は眷族の恩恵を認知できる。ベルは死んだわけじゃない。絶対に間に合わせないといけない。

 

 

「ヘスティア、俺はリリとヴェルフについて当たってみる。ソーマはともかくヘファイストスのファミリアなら話を聞いてくれるだろ」

 

 

「わかった、頼んだよ」

 

 

「2時間後にホームに集合な」

 

 

クラウドはヘスティアに背を向けて歩き出した。ヘスティアは何も言わずにその背を見つめていた。

ナァーザはそんなヘスティアの様子を訝しく思い、質問する。

 

 

「ヘスティア様......クラウド、何か変だったような」

 

 

「ああ、君の言う通りだよ。今のクラウド君はいつもと違う(、、、、、、)

 

 

ヘスティアは直感的に理解していた。5年前までの彼の立ち振舞いは知らないが、隠しきれない殺気が彼を『処刑人』へと僅かだが変貌させていた。今は内側から滲み出ているようなものだが、もし箍が外れればどうなるかわからない。

 

 

「ミアハ、ナァーザ君。気をつけてくれ。もしベル君達を危険な目に遭わせた連中がいても、決してクラウド君に知らせたらいけない。

クラウド君は、それが何人だろうと絶対に生かしてはおかないから」

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

「すまん、ヘスティア!」

 

 

夕方のヘスティア・ファミリアのホーム――その上に位置する廃教会の中でヘスティアに深く頭を下げる男がいた。

彼はタケミカヅチ・ファミリアの主神、タケミカヅチ。その後ろには彼の眷族。団長の桜花、つい最近ランクアップした命、サポーターの千草、そして他にも3人のヒューマンが立っていた。

その場にいるのは彼らだけではない。ミアハとナァーザ、ヴェルフの主神であるヘファイストスも傍で成り行きを見守り、クラウドの専属精霊であるキリアも椅子に座ってその様を見ていた。

 

 

「つまり、彼らがダンジョンでベル達にモンスターを押しつけたのか?」

 

 

「ああ、こいつらも必死だったとはいえ、申し訳ない」

 

 

話はこうだ。タケミカヅチ・ファミリアのメンバー6人はベル達と近い場所――中層である13階層で戦っていた。だが、兎型モンスターのアルミラージに翻弄され仲間の1人が負傷。まだ中層に疎い彼らは陣形を崩され撤退を開始した。迫り来るモンスターの群れに逃げ切れないと勘ぐった団長の桜花は近くにいたベル達のパーティーにモンスターを押しつけた。

 

ダンジョン内で行われる撤退戦術『怪物進呈(パス・パレード)』。自分達が助かるために他のパーティーを危険に晒す方法。

反対意見もあったが、背に腹は代えられないと桜花は押し切り帰還に成功した。

そして、今しがたクエストの貼り紙を見た彼らは慌ててタケミカヅチに本当のことを話したらしい。

 

ヘスティアは怒るでもなく、泣くでもなく、静かに目を閉じて6人の前に立った。

 

 

「ベル君達が帰ってこなかったら、君達のことを死ぬほど恨む、けれど憎みはしない。約束する」

 

 

慈悲深い神の言葉に命たちは言葉を失い、膝をつき頭を垂れた。

 

 

「今は、どうかボクに力を貸してくれないかい?」

 

 

『――仰せのままに』

 

 

子供達を許したヘスティアに彼女の神友は微笑んで見ていた。しかし、ヘスティアの顔はどこか優れない。何か蟠りがあるような表情に全員違和感を感じていた。

 

 

「皆、このことはクラウド君には内密にするんだ。それから君達は暫くどこかで時間を潰してきてくれ。

もうすぐクラウド君が戻ってくる。その前に――」

 

 

「誰が戻ってくるって?」

 

 

全員がヘスティアの言葉を遮る声に凍りついた。教会の入口の陰から件の声の主が現れる。

しかし、彼の外見にどう見ても疑問を抱かざるを得ない部分がある。

 

 

「恨みはするが、憎みはしない。か。我が主神様ながら深いお言葉だな。

ヘスティアらしくていいと思うぜ。だかまあ、それとは全く関係ない話として、聞きたいことがある。

誰がやったんだ(、、、、、、、)?」

 

 

クラウドの髪が白銀の色から、黒曜石のような黒へと変わっているのだ。これはまずい、とヘスティアはクラウドを止めにかかる。

 

 

「クラウド君、落ち着くんだ。彼らは――」

 

 

「そんなことは聞いてないぜ。俺は『誰がベル達にモンスターをけしかけたか』を聞いたんだ」

 

 

ヘスティアの横にいたキリアの姿がぼやけ始める。クラウドのリミッター、感情の箍が外れて『呪装契約(カースド・ブラッド)』の能力が発動しようとしている。

そう思ったのも束の間、キリアの姿が完全に消えクラウドの身体に取り込まれた。クラウドの髪が黒を通り越して闇の色へと変化する。

間違いない。クラウドは処刑人に――自身の持つ全能力を解放した。

 

 

「......教えたらどうするんだい、君は」

 

 

ヘスティアは冷や汗を垂らしながらクラウドを刺激しないよう聞いた。

だが、それすらも今のクラウド(処刑人)にしてはいけない選択だった。クラウドは深くため息を吐いて天を仰ぐ。そして、右足を軽く地面から離し――

 

 

「決まってんだろ」

 

 

一気に力強く地面に打ち付けた。

 

 

『な......っ!?』

 

 

地面が揺れた。まるで大地が波打つように変動し、たちまち亀裂を生み出す。教会にあった椅子は全て粉々の木屑と化し、壁は一部が崩れ大きな穴を空ける。

クラウドが立っている場所を中心に蜘蛛の巣状の破壊痕が出来ている。

 

その場にいた全員が天変地異のごとき結果に何も言えず固まってしまう中、破壊の中心にいたクラウドは無機物と見紛うほどに冷えきった瞳を向けた。

 

 

「ベル達と同じ目に遭わせるんだよ」




クラウドの恐れていたことがついに......次回は早めにしたいと思っています。
あと、お気に入り数が1000を越え、ついに4桁にまで届きました。一重に皆様のお陰です。これからもよろしくお願いします。

それでは、感想、意見などありましたら遠慮なくご記入ください。

それから、新しく番外編も始まってるので要望などがあれば活動報告にご記入ください。出来る限りの希望にお答えします。それ以外の小さなアイデアなども大歓迎です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。