ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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今回はいつもより早めの投稿です。
戦闘描写はあまり得意ではないので、説明不足な部分があるかもしれません。もしもそういったところがあれば遠慮なく教えてください。


第26話 俺が最強

クラウドは腰から吊るしていた得物を左手で鞘ごと取り出した。

一見すると刀のようだが、刃渡りの長さがよく見る刀のそれより明らかに短い。

 

 

「短剣......? それにしては長いし、ただの剣だと短すぎるし......」

 

 

アイズが色々と思い当たる武器を考えていると、クラウドはその剣を鞘から抜いた。

抜いてから改めて見ても刀身の長さはアイズの剣の4分の3程度しかない。

 

 

「これは小太刀っていう武器だ」

 

 

「小太刀?」

 

 

「ああ、短いから威力で劣るが、軽くて小回りがきく分速度と防御力が高い。

前までは素手で相手してたけど、流石にレベルアップしたお前にはこれを使わないと勝てないと思ってな」

 

 

クラウドは軽く何回か素振りをしてかつての武器を手に馴染ませる。

 

 

「こいつを使うのは5年ぶりか....」

 

 

お互いに剣を抜き、正面で構える。朝日を浴びる2人は同時に走り出した。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「これは......」

 

 

一昨日、豊饒の女主人でクラウドは彼の師匠の逸愧から試作品の武器を受け取っていた。

 

 

「小太刀だ。俺が最近作った特殊武器『夢幻刀(むげんとう)』。そいつを小太刀の長さまで改造したんだ」

 

 

「夢幻刀....これが不殺用の刀か?」

 

 

「ああ、これなら人は殺せねぇ。正確に言えば前の刀よりは遥かに殺傷力が低い。たとえば......」

 

 

逸愧は鞘から小太刀の刀身を少しだけ抜いて刃の部分に人指し指を押し込む。

本来ならそれで指がパックリ切り裂かれるはずなのだが、刃から離した指には血どころか掠り傷すらもついていない。

 

 

「こいつはこういう刀だ。人を斬らず、倒す刀。

生物以外に対しては通常通りの斬れ味を発揮するが、生物は一切斬れない。こいつは生物を斬る代わりに精気を削ぎとる――生きた刀だ」

 

 

「生きた....刀」

 

 

「ああ、こいつは戦うことで強くなる。精気を喰えば喰うほど力を蓄え、より頑丈に、より鋭くなる。

せっかく最新作をタダで使わせてやろうってんだ。間違っても壊したりするんじゃねぇぞ」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ふっ!」

 

 

「せりゃああっ!」

 

 

アイズの剣とクラウドの小太刀が接触する。アイズはクラウドの小太刀を切り払い、二撃目の突きを入れようとする。

 

 

「甘えッ!」

 

 

払われた小太刀の柄で剣尖を打って突きを崩す。そして身体を捻って完全に回避。

そして捻った際の回転を利用してアイズの背後に回り背中に一太刀浴びせる。

 

 

「つっ......!」

 

 

勿論斬れているということはない。服の背中部分が裂けているが、肌には痕すらついていない。

 

 

「次、行くぜ」

 

 

アイズの剣を何度も小太刀で捌く。一撃一撃は以前の手合わせよりも明らかに速く、重い。

ステイタスではLv.6である彼女はLv.5のクラウドより上だ。普通なら一方的に痛ぶられて終わりなのだが、アイズの猛攻は一撃たりともクラウドの懐には入らない。

 

確かに、強い。前よりも一段と成長しているのが感じ取れた。

 

 

「剣の腕はやっぱり一流だ。冒険者としてな」

 

 

「何がっ、言いたいの....」

 

 

剣戟の最中での会話。お互いに感覚を研ぎ澄ませているはずなのに、クラウドには比較的余裕があるように見えた。

 

 

「やっぱりお前には冒険者としての強さがあればいい、って改めて思ったんだよ」

 

 

「......!」

 

 

アイズが強く剣を振り抜く。クラウドはバックステップでそれを回避し目の前の彼女と再び目を合わせる。

焦りが彼女の剣を迷わせている。

 

 

「お前は冒険者の中でも最短記録保持者だ。1年でLv.2にランクアップし、今やたった8年でLv.6にまで昇りつめた。

だけど、そんなに焦って何になる? お前は冒険者として俺より早く高みに昇ったが、一人の人間としてはまだ俺には届いていない」

 

 

アイズは一瞬で距離を詰め左薙を放つ。だが、クラウドは小太刀でそれを防ぐ。だがそれだけでは終わらない。袈裟斬り、左薙ぎと連続して剣戟を続ける。

瞬きもできないほどの超高速の攻防。しかし、アイズの――【剣姫】の剣はクラウドの右手に握られた小太刀に全て阻まれる。

 

 

(通らないっ!!)

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

アイズは心の中でずっと焦り、迷い、戸惑っていた。剣の腕も、冒険者としての経験も積んできた。階層主を単独で倒しついにLv.6にまで至った。

 

 

だが、目の前の青年はその程度で倒せる相手ではなかった。クラウドの使う独自の戦闘技術、それはレベルの力関係を崩すほどのものだった。

ロキ・ファミリア在籍時にも副団長のリヴェリア、団長のフィンたちLv.6(格上)と模擬戦をして、彼らに匹敵するほどの実力を見せた。

自分が兄として慕う青年には自分ですら知らない経験と能力がある。

それを掴むには、もうなり振りかまっていられない――

 

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 

全力で勝ちを手に入れる。出し惜しみしない。それくらいしなければ、これ以上の力など手に入るはずもない!

 

 

「【エアリアル】!!」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「......ッ!?」

 

 

クラウドはアイズの魔法詠唱に一瞬だけ反応が遅れた。

アイズが持つ唯一の魔法、エアリアル。風を纏うことで術者を守り、攻撃速度を上げる。数々の難敵を打ち倒してきたアイズの奥の手。

 

 

「ちぃッ!」

 

 

さっきよりも速く鋭い斬撃の嵐。いくら小太刀の防御力が高いといっても、これを捌き切るのは容易ではない。

その乱撃を完全に防ぐことは敵わず、左肩、左足、右腕が斬られる。

このままでは確実に負ける。だったら――

 

 

(だったら、俺も本気で行くとするか......)

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

アイズの魔法によって一度は押していたが、クラウドの剣気が高まった途端にそれは崩された。

剣を振る角度とタイミングが予測されているかのように攻撃の先を読んでいる。

攻撃の合間にクラウドの小太刀がアイズの腹部に入り、服を貫通。肉体には損傷は無いが確実にアイズの体力は奪われる。

 

 

「はあ....はあ....」

 

 

「ふう......やるな。先読みが無かったら今頃負けてたぜ」

 

 

「さき....よみ....」

 

 

戦いに身を置く者にとって重要な要素、危機管理能力。無論、第一級冒険者の域になれば殆どの者が持ち合わせている能力だが、クラウドのそれはもはや質が違う。

アポフィス・ファミリアの副団長であり、犯罪者専門の暗殺者【処刑人】でもあったクラウドは相手の手の内を読むことを常としている。

 

 

「俺と何度手合わせしたと思ってる? 呼吸も、癖も、思考も、お前のことなら俺は知ってる」

 

 

ほら、全力で来い。本気で返してやる。

 

 

「これで......最後だよ、クラウド」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

風を纏ったアイズの身体は神速とも言える速度で移動し、右切り上げに繋げる。

だが、切り上げのために振りかぶった瞬間。クラウドの姿がぶれた。消えた、と形容してもいい。

その刹那、アイズの脳裏にある光景が浮かんだ。昔クラウドが一度だけ見せた神速の移動術――

 

 

 

電撃縮地(でんげきしゅくち)

 

 

 

アイズの剣は虚しく空を斬った後、クラウドはアイズとすれ違い、小太刀を鞘に収めた。

アイズは一瞬何が起きたか分からずに背後のクラウドに向かって振り返る。そして彼女の眼にクラウドの顔が映った瞬間、ガクッと膝から崩れ落ちた。

 

 

「くっ......」

 

 

「神速の足運び『電撃縮地』から繋げる一瞬の斬撃。これを防いだことがあるのは師匠とオッタルの2人だけだ。たとえエアリアルの防御があっても、この技の威力は消しきれないぜ」

 

 

膝をついて堪えていたアイズだが、ついに力尽きて地面にうつ伏せに倒れる――その寸前、クラウドが左手で彼女の身体を支える。

 

 

「くら....うど....すごい、ね......なんだか......ずるい....」

 

 

落ち際に彼女が呟いた一言にクラウドは薄く笑って言葉を返した。

 

 

 

「だから俺が最強なんだよ」

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

「ん......」

 

 

「起きたか?」

 

 

アイズが目を覚まし、上体を起こすと市壁の上にある出っ張りにもたれかかっているクラウドが見えた。

 

 

「私......落ちてたの?」

 

 

「ああ、20分くらいだけどな」

 

 

「......負けたんだね、私」

 

 

アイズは残念そうに拳を握り締める。クラウドに何度か傷を負わせることはできたが、本気を出した彼に叩きのめされたからだ。

 

 

「私は....まだクラウドには敵わないんだね」

 

 

最後に手合わせしたときよりずっと強くなったと思っていたのに、クラウドはそれさえも越えた。アイズは心から

悔しそうに表情を曇らせる。

 

 

「アイズ......」

 

 

「な、なに......っ!?」

 

 

クラウドはアイズの前に跪くように座ると、彼女の身体を両腕で包み込んで抱き締めた。

 

 

「そ、その......」

 

 

「アイズ、そんなに自分を責めるな。お前は悪くない」

 

 

「だって......」

 

 

アイズはあたふたと慌てて、自分を抱き締めているクラウドに抗議しようとするが、言葉が詰まって何も言い出せない。

 

 

「お前は『冒険者』としての道を選んだんだ。だから、それとは別の力に染まったらどうなるかわからない。

だけど頼む。俺との言葉だけの約束でも構わない。将来破りたくなったら破ってもいい。頼むから....俺の好きなお前でいてくれ」

 

 

「え......?」

 

 

「俺はお前を大切に思ってる。掛け替えのないって思えるくらい、大好きだ。だから......」

 

 

その先の言葉は止められた。アイズがクラウドの腕の下から両腕を回して抱き締め返したからだ。

 

 

「私も、大好きだよ。お兄ちゃんのこと」

 

 

アイズは純粋に、そして子供らしく笑顔を浮かべてクラウドの身体に体重をかけた。

クラウドもそれに合わせて抱き締める力を少しだけ強める。

 

 

 

「ああ、俺もだ。お前は大切な妹だよ」

 

 

 

そのとき、ピキッというその場にあるまじき擬音が響いた(ような気がした)。

 

 

「....え? もしかして、好きって......」

 

 

「ああ、妹としてな」

 

 

クラウドには悪意や悪戯心など無かったのだろう。本心で、自分の気持ちを発しただけだ。

それゆえに彼女には抑えきれぬ明確な『怒り』があった。

 

 

「クラウドの......」

 

 

「ど、どうした?」

 

 

「クラウドの......唐変木っ......!!」

 

 

Lv.6のステイタス。近距離での全力の拳。それが鈍感女誑し(クラウド)の鳩尾にクリーンヒットする。

 

 

「か.....はっ......?」

 

 

何故殴られたのか、それすらも理解できずに、クラウドは市壁の上にある床へと倒れこんで意識を失った。




クラウドとアイズに実力差があるのは単純に場数が違うからだと解釈してください。
たとえ格上だとしても経験とテクニックで立ち回るのが彼流です。
オッタルや師匠に敵わないのはそんなんじゃ埋められないほどの差があるからです。この2人は別格。

それでは、感想、意見などありましたら遠慮なくご記入ください。

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