と、いうわけで今年最後の投稿です。今回は長いし、確認もロクにしてないので誤字脱字が多いかもしれません。気づいたら修正していきます。
「いいから寄越せってんだよ!」
「だからっ、もう渡すものはありません! ファミリアの皆さんに渡すことのできるお金は昨日の分だけです!」
リリとの集合場所に着いたクラウドとベル。そこには彼女の姿はなかったが、近くの茂みから彼女が誰かと言い争う声が聞こえてきた。
「リリっ!」
「おっと」
リリの元へ詰め寄ろうとしたベルの肩を誰かが掴む。ベルの後ろにいたクラウドはその人物に見覚えがあった。ベルがエイナと装備を整えに行った日の夕方に絡んできた男の冒険者だ。
「お前ら、あのガキとつるんでんのか?」
「だったら何だ?」
クラウドはベルの肩を掴んでいた男の手を振り払うと、庇うように前に立つ。
「あの子は貴方の探してたパルゥムとは別人ですよ」
「はっ! 間抜けだな、まあいい」
男はベルからの忠告を一蹴すると、ニヤニヤと憎たらしい笑みを浮かべる。
「それよりお前ら、俺に協力しろ。一緒にあのガキを嵌めるぞ」
「......は?」
「勿論、タダでとは言わねぇよ。分け前くらいはくれてやる」
クラウドはため息を吐きながら1つだけ質問をしてみた。もう殆どわかっているようなものだが、この男の意見の善し悪しを計ろうという配慮でもある。
「あいつが能無しで役立ずなサポーターだからか?」
確認にとクラウドは理由を尋ねてみる。案の定、その男は口角を吊り上げて返事をした。
「わかってんじゃねぇか。それじゃあ交渉せいり――」
「断る」「嫌だ」
当然、そんな要求を呑むつもりはない。今ここでリリと離れるのはクラウドにとって得策ではない。
「それとも、前の続きでもしてやろうか? しばらく1人で生活もできねぇくらいによ」
「ちっ....! ガキ共がぁ....!」
盛大に舌打ちをした後、男はその場から去っていった。
ガキって言われるほどの歳じゃないけどな、と心の中で言っておいた。まあクラウドの外見年齢が若いというのも事実だ。十代後半といっても差し支えない。
「クラウド様、ベル様」
「ん?」
「リリ、話終わったの?」
言われて振り返ると、そこにはいつものごとく大きなバックパックを抱えたリリがいた。
「ええ、話はつきました。それより、あの冒険者様と何をお話していらっしゃったんですか?」
若干、リリの声に真剣さがこもる。これは怒りというより疑いといった方が適切だろう。
「なあ、リリ」
「何ですか?」
「お前、あの男に何か恨まれるようなことでもしたのか? やけにお前のこと目の敵にしてたぜ」
リリと目を合わせるためにクラウドは彼女を見下ろしながら問う。
「さあ、身に覚えはありませんが。元々サポーターというのは疎まれる存在ですから、知らないところで恨みを買っていることもあるでしょう」
「へぇ......あんな個人的な恨みを、か」
少しだけ笑いを込めた表情で言ってやると、リリも対応するように薄ら笑いを浮かべる。
「クラウド様も経験がおありでしょう?」
「ああ、数えるのもやめたくなるくらいな」
このときのリリの表情。クラウドの経験に基づく推測でなければ、いやむしろそうであってほしくはないが、ある言葉に意訳されてしまった。『お前も私と同じだ』と。
「......もう、潮時かぁ」
■■■■■
翌日。この日もクラウド、ベル、リリの3人はダンジョンへ行くためにバベルへと向かっていた。
リリの10階層まで潜ろうという提案にベルは困惑している。10階層は今のベルの実力なら十分通用する。しかし、その10階層以下には大型モンスターが出現するのだ。それこそ、ミノタウロスのような。
「ベル様、これを」
「....それって」
リリはバックパックからヘスティア・ナイフの倍ほどの長さをした剣を取り出す。
「今のナイフでは10階層のモンスターと戦うにはやや短いですから」
「でも、これって高いんじゃあ....」
「リリの我儘を聞いてもらっていますから。これくらいは当然です」
ベルは遠慮しながらもリリから短剣を受け取った。しかし、ベルは剣帯の装備を持っていないためそれをどこにしまうか迷ってしまう。
すると、リリが自分の左腕をチョンチョンと指差しているのが見えた。左腕のプロテクターに収納しているヘスティア・ナイフを外し、そこに短剣を新しく収納。ヘスティア・ナイフは右腰のホルダーに入れた。
「よし、行こう!」
それから下りて10階層。無数の木々と草が茂り、白い霧が広がった空間だ。これは中々見通しが悪くなる造りになっている。
「リリ、離れないでね」
「....はい」
「そうこう言ってる内に、早速お出ましみたいだぜ」
クラウドが指を指した方に巨大な生物の影が見えた。3Mを越えるほどの丸く太ったモンスター、【オーク】だ。
「ベル、試しにやってみるか?」
クラウドが流し目でベルに聞いてみる。ベルは以前ミノタウロスに殺されかけたことから大型モンスターに苦手意識を持っている。それを和らげる機会でもあるわけだ。
「はい! やります!」
ベルは両刃短剣を抜き、オークへと近づく。オークも戦闘を察知して近くの木を一本引き抜いた。引き抜かれた木は瞬く内に棍棒へと変化していく。【
「ふっ!!」
ベルは迫ってくるオークのがら空きな腹部に狙いをつけて刃を立てる。短剣の刀身は肉を引き裂き、鮮血を散らす。体勢を崩したオークの胸元にベルは短剣を突き刺し、絶命させる。
「よしっ....!」
「お二人とも、もう一匹来ました!」
「はいはい」
今度はクラウドがそれに対応する。右足で地面を蹴って飛び上がると、自分の倍近く身長のあるオークの首に延髄蹴りを叩き込む。
地面に膝をついたオークの頭に続けて踵落としを決めると、醜く断末魔を上げて、動かなくなった。
「ベル、そっちは大丈夫か!?」
「クラウドさん、大変なんです! リリが....リリがいなくなりました!!」
ベルに安否を尋ねると、焦った彼の声が帰ってくる。ベルとクラウドが戦っている最中にリリの姿が消えたのだと。
それから続いて、2人はある異臭に気付く。クラウドはこの匂いに覚えがあった。もしやと思って木の根元に近寄って確認してみる。そこには、加工された気味の悪い血肉が転がっている。
「モンスター専用の撒き餌か....」
それの示す意味を理解し、その後を予期する。霧の奥から4体のオークが姿を見せた。しかも何故かベルを狙って。
「まさか....!!」
クラウドはオークの行く先――ベルのいる方向へ走る。Lv.5の走力があればある程度の距離など一瞬だ。
駆け付けたところで、ベルはオークに囲まれていた。
「ベル、そこから離れろ! お前の周りにはモンスターの好きな匂いが撒き散らされてる!」
「えええっ!?」
必死で逃げ回るベルだが、突然彼のレッグホルスターに一本の矢が突き刺さる。ホルスターは矢に繋がれた紐によって引き抜かれていく。
「り、リリっ!? 何してるの!!」
「ごめんなさい。ベル様、クラウド様」
ホルスターの行方を追うと、そこには優々とヘスティア・ナイフを手にしたリリの姿があった。
「チャンスを見て、逃げ出してくださいね」
「リリ、何で....ってうわあっ!!」
リリを追おうとするがベルの前にオークが立ち塞がる。クラウドはゆっくりと銃を抜き
「待ってろよ、すぐに追いつく」
「無茶ですよ。貴方は確かにそこそこ腕は立ちますが、この数は捌けないでしょうから」
「....そうかよ」
クラウドは冷たい視線のまま、もう一丁の銃をもう片方の手に握る。リリも相変わらず表情を変えずに10階層から9階層へと続く階段を昇り始めた。
「さようなら、もう会うこともないでしょう」
カツカツと階段を踏みしめながらリリは霧の立ちこめる空間から消えていった。10階層には未だにベルとクラウド、そして6体に増えたオークの群れ。
「ど、どうするんですかクラウドさん!? このままじゃ2人とも....」
「おいおいベル、誰に言ってる?」
クラウドがハッハッハと笑いながら天井を仰いだ。とうとう混乱したのかとベルはクラウドを心配そうに見詰めるが、そんなことは全くなかった。
なぜなら、クラウドの目が全然笑っていないからだ。
「元アポフィス・ファミリア
直後、辺りにいるオークの血と肉が飛沫の如く飛び散った。
■■■■■
「【響く十二時のお告げ】」
詠唱を終えると同時にリリの頭にある犬耳と尻尾が消える。
変身魔法【シンダー・エラ】。リリの使える唯一の魔法だ。
リリは――リリルカ・アーデは産まれたときから【ソーマ・ファミリア】の団員だった。団員だった両親の間に生まれた子だったからだ。
ソーマ・ファミリアは主神であるソーマが自分の趣味である酒造りの、その資金集めのためだけに作られたファミリアだ。完成品である
冒険者としての才能のない自分はサポーターとして生きるしかなかった。だが、自分が相手にしてきた冒険者はロクでもない連中ばかりだ。分け前をくれるでもない、優しくしてくれるわけでもない。無能だ、役立たずだ、邪魔者だ、と。モンスターの囮にされたり、手持ちの金やアイテムを奪い取られたこともあった。
だったら、今度は自分が冒険者から奪ってやる。質のいい金やアイテムを盗んでファミリア脱退用の資金にしてやる。顔を覚えられても問題ない。【シンダー・エラ】があれば別の種族に化けることができるのだ。結局は別人ということで片がつく。
「ベル様は人が良すぎます。それに、クラウド様だって....」
さっきまで一緒にいた白髪のヒューマンと銀髪のハーフエルフの顔を思い浮かべる。ベルはとても優しくしてくれたし、クラウドも自分の正体にほぼ気づいてはいたものの自分に武器や金をくれた。
あの2人は他の冒険者とは何か違う。一瞬そんな思考が頭をよぎったが、首を左右に激しく振って否定する。
そんなはずがあるか。どうせあの2人だって優しくしたのは上辺だけで、内心では自分のことを馬鹿にしているに決まっている。
昨日、自分をつけ狙っていた冒険者の男と何やら話していた2人。あれはきっとあの男から何かを教えられたのだろう。あれ以来、2人のリリを見る目は少し変わった。猜疑心や忌避感が無意識の内に感じられたのだ。
そうだ。リリルカ・アーデは――リリは冒険者が、嫌いです。
「いつかはリリを裏切るに決まってます! だったらその前に裏切って何が悪いんですかっ!!」
8階層から7階層へと渡る階段の前にいる一体のゴブリンを左腕に装備したボーガンで射止め、先を急ぐ。
今持っている、ベルから奪ったナイフにはヘファイストスのロゴが入った鞘もついている。たとえ切れなくてもこの鞘があれば高値で売れることは間違いない。
クラウドから貰っている武器、彼曰く銃というものらしい。これについては情報が少なすぎる。ゆっくり時間をかけてこの武器の構造について探れる必要がある。
「でもこれで....っ!!」
ようやく、ソーマ・ファミリア脱退の目処が立つ。
そう心に聞かせながら7階層への一歩を――
「嬉しいねぇ、大当たりじゃねぇか」
「え?」
踏み出せなかった。その一歩は何者かに足を引っ掛けられたせいでバランスを崩され地面に倒れてしまった。
「いっつ......」
両手を地面について顔を上げる。そこには、どういうわけか例の冒険者の男が、昨日2人と話していたヒューマンが立っていた。
「散々舐めやがって....この糞パルゥムがっ!!」
胸ぐらを掴まれ有無を言わせず投げ飛ばされた。地面を二転三転し、ようやく止まる。まだ終わらない。腹に蹴りを何発も入れられ視界がぶれる。思考が追いつかない。
「いいザマだな、コソ泥」
「うっ......あっ、あああっ......」
男は頭を掴み無理矢理引っ張り上げてきた。
「そろそろあのガキ共を捨てる頃だと思ってなぁ。こうして網をはってりゃあ、絶対に会えると思ってたぜ?」
「あ、み......!?」
「ああ、この階層でお前が使える道はそう多くねぇ。何ヶ所かで張ってりゃあ必ず引っ掛かると思ってたんだが、まさか俺のとこに来てくれるとはなぁ!?」
リリは戦闘能力が無い分、極力戦闘をしなくて済むルートを把握している。男はそれを知った上で何人かの協力者と待ち伏せしていたのだ。
「今すぐにでもブッ殺してぇとこだが、その前に....金目のもんは頂くとするかぁ?」
男はリリのローブを引き剥がし、その中のものを検める。
「魔石に、金時計にぃ....おいおい、魔剣まで持ってんじゃねぇかよ!? こいつも盗んだってか!?」
嗜虐的な笑みを浮かべて男は大笑いする。美しい光沢のナイフ、つまりは魔剣にかなり満足したようだ。
「それからぁ....ん? 何だこりゃ? おかしな武器じゃねぇか? まあ後生大事に持ってるってこたあ、よっぽど上等なもんなんだよなぁ!?」
最後に奪ったのは、銀色の輝きを放つ飛び道具の武器――リリがクラウドから借りていた銃だ。
「そっ、それは......」
「何だ、何だぁ? そんなに渡したくねぇってか? お願いでもしてみるんだなぁ、
全ての装備を奪い取られ、リリにはもう抵抗の意思さえ見出だせない。ここで、目の前の男とは別の声が響く。
「やってますなぁ、ゲドの旦那」
「おう、早かったな」
現れたのは1人の獣人と2人のヒューマンだ。3人の顔にははっきりと見覚えがあった。全員ソーマ・ファミリアの団員であり、リリに金をせびっていたのも彼らだ。
「見ろよカヌゥ、こいつ魔剣まで持ってやがった。予想通り、たらふく溜め込んでやがったみたいだぜ」
「ああ、そうですかい。それなんですかね、旦那。一つ頼みがあるんですが......」
「何だ?
ナイフをくるくると片手で振りかざしながらゲドと呼ばれた男は答えるが、カヌゥは「いやいや」と首を左右に振る。
「そいつから奪ったもん全部置いていってほしいんでさぁ」
「は?」
ドサッ、と重い何かが投げ捨てられる音がした。カヌゥの足元にそれと思しきものが転がっている。
黒い、蟻の上半身――
「き、キラーアントっ!?」
「そ、瀕死のキラーアントは仲間を呼ぶ信号を発する。冒険者の常識でさぁ」
「しょ、正気かてめえらあああっ!!」
もしそんなことをすれば辺り一体からキラーアントの群れが現れる。Lv.1の冒険者にとっては脅威だ。
そうこう言っているうちに無数のキラーアントが部屋に集まってくる。
「旦那、俺達とやりあってる間にそいつらの餌食になんてなりたくないでしょう?」
「ちっ、畜生....!! 覚えてやがれっ!!」
ゲドは持っていた金品を地面に放り投げると一目散に逃げ出した。
その場にはリリとカヌゥら4人が取り残される。
「アーデ、助けに来てやったぜぇ? 何せ同じファミリアの仲間だからなぁ」
「か、カヌゥ....さん....」
「お前、もう金は無いとか言ってやがったがまだあるんだろ? なぁ、俺の言いたいことわかるよな?」
キラーアントを何体か蹴散らしたカヌゥはリリを睨みながら頭を掴む。リリは苦々しく唇を噛みしめると、首から下げていた鍵を渡す。
「ノームの貸出金庫の鍵です....お金は宝石に変えて....保管しています」
「そうかそうか、ありがとよっ!」
リリから鍵を強引に奪い取ると、続けて彼女の軽い身体を持ち上げる。
「な、何をっ....!?」
「ヤバそうだからな、囮になってくれや」
「そんな....!! 話が違いますっ!!」
「サポーターなんぞとまともな話するかよ!! 最後に俺達の手助けでもしてくれよなあ!!」
キラーアントの群れの真ん中に投げられ、カヌゥたちはそそくさとその場から逃げていった。キラーアントは殆どリリの元に集まり、辺りを囲む。
「ふ、ふふっ、はははっ」
思わず笑ってしまった。ベルとクラウドを裏切って、金品も強奪されて、終いにはここでキラーアントの群れに囲まれただ死を待つ破目に遭っている。そんな状況にもはや笑いがこみ上げてきてしまう。
「どうして....神様は、どうしてリリをこんなリリにしたんですか....?」
地面に仰向けに倒れたまま、そう呟く。これは報いなのか。もしかしたら自分を理解できるかもしれなかった人を裏切った自分に対する、報い。
弱くて何もできないくせに、一丁前に何かを手に入れようとしたことに。
「寂しかったなぁ......」
寂しい。両親が死に、孤独になった自分は利用されて、搾取されて、そんな日々が続いたせいで自然とそんな感情は閉じ込めるようにしていた。しかし、心の奥底ではそうではない。
本音では、本心では本当に寂しいと感じていた。
もしかしたら、あの銀髪の青年と白髪の少年は自分にとっての特別だったかもしれないのに。
「やっと....死ぬ」
段々とキラーアントの姿が迫ってくる。その鉤爪を降り下ろそうと手を振りかぶって近寄ってくる。
「し....ぬ....?」
死。そうか、もう自分は死ぬのか。死ぬのは経験したことはないがきっと痛いのだろう。だが、これで今の自分から、リリルカ・アーデから別の誰かへと変われるかもしれない。
変われる、そうだ。それなら、殺されることなんか、死ぬことなんか――
「こ....わい....しにたく....ない」
「よく言った、それでいい」
リリの耳に、カヌゥたちともゲドとも違う声が届いた。声の方向に視線を向けると、
「どんなときだろうと、諦めるな。死ぬことを許容するな。それさえ出来ればお前は十分立派だ」
「く、クラウド....さま? それにベル様も?」
投げられたのは驚くべきことにベルだった。声の方向にいた人物であるクラウドは左手に銃を持って不敵に笑っている。
「待ったか、リリ。ん? どうやらヘスティア・ナイフは持ってるみたいだな」
クラウドの足元には何故かさっき逃げたはずのカヌゥたちが転がっていた。ところどころに打撲の痕が見られるのがわかる。
「おら、さっさと返せ。クズの手に渡すくらいなら粉々に砕いた方がマシなんでな」
「ぐっ....ああっ....」
ボロボロになっているカヌゥの手からシルバーフレームの銃を取り上げる。クラウドがリリに渡していた銃だ。
「ベル! さっさと起きろ! このキラーアント共を一掃するからな!」
「ふぁ....ふぁい。というか、クラウドさん......投げないでくださいよ、痛いです....」
クラウドはベルとリリの回りにいるキラーアントに銃口を向ける。そして、一瞬。
ほんの一瞬でキラーアントの額に銃弾を叩きこみ、絶命させる。
「ほらほら、立て。そんなに速く投げてないだろ」
「速いですよ!! 本気で死ぬと思いましたからね!!」
クラウドはベルを起き上がらせると、その手にナイフを握らせる。
「ちょっと待ってろ、リリ。お前には話さなきゃいけないことがあるんだ」
■■■■■
それからは、もう一方的な戦いだった。キラーアントの群れに2人はものともせずに簡単に蹴散らしていった。暫くすると、辺りにはキラーアントの大量の魔石が転がっているだけとなっていた。
「......どうやって、ここまで」
「
「そ、それよりもリリ、大丈夫? 怪我してる......」
ベルはリリに駆け寄りポーションを差し出す。だがここでクラウドがそれを制した。
「待て、ベル。俺はリリと話さないといけないことがあるんだ」
「......」
リリはきまりが悪そうに俯いてしまう。間違いなく、窃盗の件だろう。今の自分は魔法を解いて元のパルゥムの姿に戻っている。それについて糾弾しようという腹なのだ。
そう思っていたからだろう。彼が頭を下げてきたことに戸惑いを隠せなかった。
「お前に謝らないといけない。謝って済む問題じゃないが、謝らせてくれ」
「え?」
「クラウドさん?」
隣にいるベルも何のことか理解できていない。クラウドの真意は一体何だ? 何故自分に謝ることがある?
「ベルも聞いてくれ、これはお前にも謝らないといけないことなんだ」
「で、ですからっ、一体何なんですか? 何をしたんですか!?」
リリからの言葉にクラウドはゆっくりと顔を上げる。そして、膝を折ってリリと目線を合わせる。クラウドはリリの目を真っ直ぐに見据えて、衝撃の告白を口にする。
「リリ、お前の両親を殺したのは俺だ」
来年もよろしくお願いします! 元気にやっていきましょう!
それでは、感想、意見などありましたら遠慮なくご記入ください。