ですから、いつもよりクオリティが下がっているかもしれません。それを踏まえた上でご覧になってください。
「(ラストル....今はどうしてるんだ)」
ラストル・スノーヴェイル。8年前にクラウドと一緒にアポフィス・ファミリアからロキ・ファミリアへと移籍した少女。
とはいっても、ロキ・ファミリアには殆ど顔を見せず数年に一回ステイタス更新をしに来るだけだ。
剣術も身のこなしも、あの【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインとほぼ互角と言われた天才剣士。
実際、3年前にアイズとほぼ同時期にLv.5となるほどまで実力は拮抗していた。それ以来、ファミリアに在籍してはいるものの全くと言っていいほど顔を出していない。
「何だって処刑人に....ダメだ、わかんねぇ」
同じファミリアの、同じ師匠の元で育った彼女は何となく思考が自分に寄っていたところもあった。処刑人を引き継いだのは比較的平和な社会を裏から手助けしようという責任感なのか、或いは対人用の剣技を磨きたいという私的な欲求か。
それが何であろうと、なるべく早くコンタクトを取ってこの事態を安全に終わらせなければならない。
クラウドは誰に頼まれようが殺すべきじゃないと思った人物は殺さない。処刑人時代の彼であってもだ。
「あれ? ヘスティア?」
色々と考え事をしていたら、前方から近づいている乳母車にぐてーっと横向きに乗ったまま手足を投げ出している人物が見えた。
特徴的なツインテールと足に履いているサンダルにははっきりと見覚えがある。クラウドの主神であるヘスティアに違いない。
そんな彼女を運んでいるのは群青色の長髪をした背の高い青年だ。彼にも見覚えがある。
「ん? クラウドか?」
「ああ....ミアハ....様」
少々吃りながら様付けはしておいた。神にも基本的に呼び捨てやタメ口をしているクラウドだが、ちゃんと神様やってる方々(要は神様らしい神物)には一応様付けはしている。
「ベルとは一緒ではないようだが....今帰りか?」
「ああ、ちょっと今日は別行動してて....見たところヘスティアが迷惑をかけたみたいだが」
ミアハ・ファミリアは道具屋を経営している。だが、失礼かもしれないが彼のファミリアも自分たちと負けず劣らずの零細ファミリアだ。そのためかヘスティアと彼は仲が良く、ベルもよくそこでポーションを買っている。
よく見ると、ヘスティアを運んでいるのは乳母車ではなく商品を積んでいる手押し車だ。
「実はな....大通りで偶然ヘスティアに会って、先程まで飲んでいたのだがヘスティアがどうにも情緒不安定でな」
「何か心当たりとかは?」
「そういえば....ヘスティアが言っていたのだが、何やらベルが自分の知らない女子といたことが気にくわなかったようだな。終始そんなことを叫んでいた」
「......鮮明にその光景が浮かぶよ、浮かべたくないけど」
多分その女の子というのはリリのことだろう。ベルとしてもサポーターである彼女の貢献度と人柄(あくまでもベルの主観での)を気に入っている。そんな2人が和気藹々と歩いていようものならあのロリ巨乳様にとっては面白くないだろう。
何で神というのはこんなに世俗的な連中が多いのだろう。確かにいつも気を張り詰めろとは言わないが、神としての最低限の威厳を保ってもらわないとこっちとしては尊敬などできないのだ。
「何というか、ごめんなさい。ヘスティアは俺が連れて帰るから」
「そうか、ではよろしく頼む。そなたも気を付けて帰るのだぞ」
「....何で他の神ってこうじゃないんだろ」
最後にボソッと呟いて、ヘスティアを手押し車から抱き上げて背負った。如何せん、ヘスティア、ロキ、フレイヤ、ついでに言うとアポフィスのような神としての能力はあるのかもしれなくとも、敬意を評するような人格ではない神が彼の近くには多い。
神が下界の子供同士の恋愛(ヘスティアから見て)に嫉妬するという何とも世俗的な光景が出来上がっている始末だ。
「....まあでも、それも悪くないかもな」
自分の背中に体重を預けて眠るヘスティアのことを考えながら、クラウドはホームへ帰るべく一歩踏み出す。
そうだ、この神様は自分の新しい家族の1人だ。この家族を――ヘスティア・ファミリアを守らないといけない。そのためにも、あの審議員の人間を上手く出し抜かなければ。
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「ぬぁぁぁぁぁっ......!?」
翌日、ヘスティア・ファミリアのホーム。そこにあるベッドではヘスティアが毛布に包まって頭を押さえながら呻き声を上げていた。昨夜の飲酒によって完全に二日酔いになっていた。
「だ、大丈夫ですか、神様?」
ベルが心配そうに水の入ったグラスを持ってやってきた。ヘスティアは飛び起きてグラスを奪うと、喉を鳴らしながら飲み干した。
「具合はどうだ? 一応消化に良さそうなもの作ってきたけど」
クラウドが鍋掴みを両手にはめて鍋を運んでくる。中身はシンプルに白粥にしている。
「う、うん。ありがとう、頂くよ」
一応テーブルに鍋敷きを置いて、その上に白粥の入った鍋を乗せる。深めの皿とスプーンも用意しておいた。
「そういえば、ベル様もクラウド様も今日はお休みなのですか?」
ソファーに座って足をパタパタさせている幼い少女。クラウドの専属精霊のキリアだ。
「何時までもダンジョンに潜りっぱなしなわけにもいかないからな。丁度いいから今日は休みだ」
「うん、それに今の神様を放ってはおけないから」
ちょっと色々なことが続いたのでクラウドとしても休みたいところだった。ラストルもそうだが、リリのことも今は気掛かりなので早急に解決したいところだ。
「そうだ、神様。今度の休みっていつですか?」
「どういうことだい?」
白粥を食べ終えたヘスティアはベルの質問に首をかしげる。
「実は、最近ダンジョンでたくさん稼げるようになったから....ちょっと豪華な食事でもしにいきませんか?」
ベルとしてはお世話になっている主神への恩返しのつもりだろうが、ヘスティアは別の意味で捉えていた。
「....デート」
「え?」
「今日行こう! そう、そうだ! 今日行くんだ!!」
ヘスティアは凄まじい速度で立ち上がると盛大にガッツポーズを決める。神様の回復速度、恐るべし。
「二日酔いじゃなかったのか、ヘスティア」
「心配いらないよクラウド君! もう治った! 今、この瞬間に!!」
ヘスティアはベッドから飛び降り、クローゼットから服を取り出そうと取っ手に手をかける。そこで、クラウドが彼女の右肩を掴んだ。
「待て、ヘスティア」
「なっ、何をするんだ!?」
クラウドは右手の人差し指をちょいちょいと自分の方に振る。耳を貸せ、というジェスチャーだ。ヘスティアは右耳だけをこちらに向けて、クラウドはそれに合うように身を屈めて口元を彼女の耳に近づける。
「酒の臭いが残ってるぞ」
「はっ!!」
そう、昨夜やけ酒をしていた彼女の身体には酒の臭いが染み着いている。ベルが尊敬する神様をその程度で嫌いになるはずはないが、少なくとも好印象など持たれないだろう。
「ベル、俺とキリアは別の店に行くから」
「何でですか?」
「今日はキリアと出掛ける用事があるんだ。だから、
すかさずキリアとヘスティアに瞬きでアイコンタクトをとる。幼女2名もその意図を察したようで、無言で瞬きを返す。
「それじゃあベル君、6時に南西のメインストリート、アモールの広場に集合だ!」
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「それで? 戦果は?」
「....ゼロだったよ」
「何やってんのかねぇ、この紐神様は!」
そしてその日の夜、ヘスティア・ファミリアのホームにてクラウドがヘスティアに尋ねたところ、デートは失敗したらしい。
あれから神聖浴場という神専用の浴場へと赴き身体を綺麗にしてから、ヘスティアなりにお洒落をしていい雰囲気でいざ出陣となっていた。しかし、それを嗅ぎ付けた女神たちによる妨害工作から逃れるため、2人は散々逃げ回ることになってしまう。その結果時間は潰れ、デートは失敗という流れだったとか。
「神という名の娯楽に飢えたハイエナに目をつけられたのが運の尽きだな、全く。あいつらの無駄な執念を舐めたらこういう目に遭うってことだ」
「君....本当にボクの眷族なんだよね? 何だか凄く言動が辛辣なんだけど......」
「俺はアンタに感謝してるし、いい神だと思ってるけど別に尊敬してるわけじゃないからな」
少し嘲るように笑ってみる。やっぱり彼女は仕えるべき主君や上司ではない。仲の良い家族、そういう認識だ。
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数日後、またもやヘスティア・ファミリアのホームにて。
「ベル、お前何か忘れてることないか?」
「え?」
ヘスティアはバイト、キリアは奥のベッドで昼寝している頃にソファーに寝転がったクラウドがベルに尋ねた。
「お前最近ダンジョンで昼食に何を食べてる?」
「クラウドさんの作ってくれたサンドイッチですけど....リリも美味しいって言ってましたよね」
「いや、うん。喜んでくれるのは俺としても願ったり叶ったりなんだけどさ、ここまで言えばわかるよな?」
「ここまで言えば....って、あああああ!!」
ベルが目を見開いて「しまった」という表情で叫ぶ。それを察知したクラウドは神の如き速さでベルの口を塞ぐ。
「大きな声出すんじゃねぇ、キリアが起きるだろ」
クラウドの冷笑にベルは頬から汗を垂らして、コクリと頷く。
「わかったらさっさとシルにバスケット返してこい」
「......は、はい」
ベルはキッチンに起きっぱなしにしてあったバスケットを掴むと、大慌てで部屋から出ていった。
「ふぅ....やれやれ。起きてるんだろ、キリア」
「....気づかれましたね、どうしてわかったのですか?」
カーテンで仕切られた空間からキリアが顔だけを出してこちらを見る。
「可愛い娘の考えることくらいお見通しだからだよ」
「....何だか悔しいような、嬉しいような....複雑です」
キリアはカーテンをバッと開け放つと、トテトテとクラウドの座っているソファーの右隣に腰を下ろした。
「わざわざ人払いをしたということは、何か聞かれては困ることですか?」
「ああ....少なくとも、もしお前が俺の素性を知らなかったらこんな話はしたくなかったよ」
クラウドは先程とは変わって、少し暗い表情でキリアと目を合わせる。
「なあ、前に使った
「はい....使えますが、ああ、私の心配ですか? 問題ありません、私がわざわざ戦地に赴かなくともクラウド様の呼び掛けがあればいつでも力は使えます」
「そうか、だったらいいんだけど....」
「不安そうですね。もしかして
まるで見抜いたようにキリアは距離を詰めて質問してくる。ラストルのことを話すべきかと思ったが、そういうわけにはいかない。それは話しすぎだと自制して、話題を変える
「そういえばさ、俺が5年前まで何をしてたか、知ってるよな?」
「処刑人のことですか? それなら勿論知っていますよ。何せ私は8年間貴方の影に居ましたから」
そう、処刑人の話だ。キリアはクラウドの8年前までの主神だった神アポフィスによって作られた精霊。クラウドとアポフィスの契約における仲介役として生み出されたクラウドの専属精霊だ。
面識を持ったのはつい最近だが、彼女は度々クラウドの様子を、それも戦いの光景を影から目の当たりにしているのだ。故に、処刑人のことを知っているのも当然と言える。
「ですが、クラウド様はもうその仕事を辞められたのではないですか? 何故今更になって......」
「いや、確認しておきたいことがあるだけなんだ。
もしも俺が処刑人だった頃の記憶や経験を頭から呼び起こしたら、また『処刑人』に戻ったりしないかってさ」
「......質問の意図がわかりかねますが、つまり人間との命のやり取りや悪人に対する敵意などが芽生えた場合、殺人衝動を抑え込めるのか、ということですか?」
そうだ、クラウドは正直に言うとまだ処刑人だった頃の感覚を忘れた訳ではない。理性では誰かを殺すことに抵抗があっても、感情ではそれがない。
自分は犯罪の根絶のために技術を振るって人を殺してきたが、そうでないなら誰かを――
「殺したくない、って思ってはいる。だけど、俺は5年前に比べたら本気の戦いに弱くなってる。だから、自分の中の
突如、腹の辺りに柔らかい感触が生まれた。少しの圧迫感と温かい体温。そして服越しでも伝わるサラサラとした長い銀髪の肌触り。
キリアが自分に体重を預けて両腕を身体に回しているのだ。
「負けませんよ」
「....キリア」
「負けません、絶対に。今の貴方には私もヘスティア様もベル様も、勿論ロキ・ファミリアの方々も――そういった大切な方々がいますから。
誰かのために戦うクラウド様は最強です。自分の過去に――去っていった過ちに負けるなんて、有り得ませんよ」
笑顔だ。まさしく御伽噺に出てくる精霊のように眩しい笑顔で励ましてくれた。
負けられないな、と苦笑いしながらクラウドは彼女の頭を撫で続けた。
前回は多くの感想ありがとうございました。非常に嬉しかったです。これからもよろしくお願いします。
あと、この話を書いててキャラの設定とかを覚えてもらえているか不安になりました。なるべく地の文などで説明しますが、話についていけなくなった場合は前の話をご覧になってください。
それでは、感想、意見などありましたら遠慮なくご記入ください。