ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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第17話 ガラクタ

クラウドとベルはそれからギルドに戻り、魔石やドロップアイテムの換金を済ませた。リリとは途中で別れて、今はギルドのカウンターでベルのアドバイザーであるエイナと話している。

 

 

「うーん、他所のファミリアのサポーターかぁ....」

 

 

「やっぱり不味いですかね、エイナさん」

 

 

「不味いというか....ベル君から見てどうだったの? そのリリルカさんって子は」

 

 

ベルは最近エイナからサポーターを雇ってみてはどうかとアドバイスを受けていた。一応そのことを報告、というわけだ。

 

 

「いい子でしたよ、あの子のお陰で今日はこんなに稼げたんです」

 

 

ベルは嬉しそうに右手に持った金貨の詰まった袋をエイナに見せる。

 

 

「それにしても....ソーマ・ファミリアかぁ。あんまり賛成も反対もできないところだね」

 

 

エイナは苦い顔をしてカウンターに両肘をついて思案する。クラウドはやっぱりか、とエイナの反応に納得する。

フレイヤ・ファミリアは完全に嫌いだし、ロキ・ファミリアはかつての所属だったので好きだ。そんな風にファミリアの方針やメンバーによってクラウドは好き嫌いを決めているが、中でもソーマ・ファミリアは不気味というかあまり関わりたくないというのが本音だった。

 

 

「あの....そこってどんなファミリアなんですか?」

 

 

「ちょっと待ってね、今資料取ってくるから」

 

 

エイナが奥にファミリアの情報を記録した資料を取りに行こうとするが、クラウドはそれを止めた。

 

 

「ソーマ・ファミリアは探索系の中堅ファミリア。特徴なのは酒を売ってるってトコだ」

 

 

「お酒?」

 

 

「ああ、質のいい酒だって話だぜ。ロキもかなり気に入ってたくらいの上級のヤツがな。そのせいか、団員の数もかなり多い」

 

 

淡々と、纏めて説明してみせた。クラウドとエイナは頷きながらその話に聞き入っていた。

 

 

「団員の数が多いってことは、その主神のソーマ様って....そんなに信仰されてるんですか?」

 

 

「そうじゃないな。ソーマに関しては全くと言っていいほど周囲との関係が断絶されてて、何の噂も流れてない。その酒をソーマが自分で作ってるってこと以外はな。団員が集まってるのはもっと別の理由だ」

 

 

ベルはいまいち要領を得ないと言った風に首を傾げている。

ベルのような純粋な人間と、クラウドのように清濁併せ好む人間とでは神に対する認識が違うのだ。

ベルは神を崇めるべき存在だと思っているのに対し、クラウドは一部の神を除いて大抵の神には信仰心など持ち合わせていない。

 

 

「大体の内容はクラウド君が言った通りだよ。あと付け加えるなら....そうだなぁ、私の主観になるんだけど団員が必死すぎるんだよね」

 

 

エイナが眼鏡の奥のエメラルド色の瞳を曇らせながらそう言った。

 

 

「何と言うか、お金を稼ぐのに死に物狂いで......この間もギルドの換金所で職員と揉め事起こしてたから」

 

 

クラウドは大して驚きもしなかった。以前からその事情については知っていたし、そんな人間がいることにも慣れているからだ。

 

 

「......確かに個人的にはあまり良いファミリアとは言えないな。でもまぁ、リリとのことはもう少し様子見ってことにするか」

 

 

「....そうですね。それじゃあエイナさん、また今度」

 

 

「うん、じゃあね......って、あれ?」

 

 

帰ろうとした2人の背中を見て、エイナは目を丸くする。何度もベルの背中の、腰の辺りを見て不思議そうに目を細くする。

 

 

「ベル君、ナイフはどうしたの?」

 

 

「ナイフ? ナイフならここに....」

 

 

ベルは腰の辺りに差したナイフを確認しようとホルスターをまさぐる。短刀と魔石入れの腰巾着はある。だが、ヘスティア・ナイフは鞘だけを残して無くなっている。

 

 

「おっ、落としたぁああああああ!?」

 

 

違ぇよ、とクラウドは心の中で冷静にツッコミを入れた。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

メインストリートから離れた路地裏。そこに居を構える木材で出来た小さな骨董品屋を、フードを目深に被った一人の男性のパルゥムが訪れていた。

店と同じ木製のドアを開けると、ギギィという乾いた音が店内に響く。それに気付いた白髭のノームの店主が来客の姿を確認した。

 

 

「おお、またお前さんか」

 

 

「お願いします」

 

 

パルゥムはそれだけ言うと、抜き身の黒いナイフと銀色のL字型の武器をカウンターに置く。

 

 

「ふぅん、これはまた変わったものを持ってきて....」

 

 

店主は「少し待っとってくれ」と言い、店の奥に下がっていった。その2つの武器がどんなものか、確認に行ったのだろう。

しかし、かなり早く店主は戻ってきて左右に持っていた鑑定品をカウンターに置いて心底不思議そうな表情を浮かべている。

 

 

「両方とも、30ヴァリスがいいとこじゃな」

 

 

「なっ......!?」

 

 

一瞬、耳を疑った。30ヴァリス!? そんなもの、ジャガ丸くんが買える程度の端金だ。何を言っているんだと抗議したくなった。

 

 

「このナイフ....おかしいんじゃよ。押しても引いても傷一つ付けられんし....刀身が死んでおるよ」

 

 

馬鹿な。ありえない。このナイフはモンスターとの戦闘でその身体を簡単に切り裂いていたのだ。今になって切れないなどあるはずがない。

 

 

「それともう一つの方の....これはどんな武器なんじゃ? 殴るにしては小さすぎるし、投げるにしては形が歪じゃしのぉ」

 

 

「....!!」

 

 

しめた。最初は落胆していたが、ここでようやく光明を見出だせた。この店主はこちらの武器の使い方を知らないらしい。

 

 

「待ってください! そっちの武器はこうして使うんです! ちょっと貸してください!」

 

 

やや乱暴にカウンターから銀色のL字型武器を掴み取ると、右手の人差し指をL字の角の内側にある四角いフレームに囲まれた突起に掛ける。

ここを引けば遠距離の標的を瞬時に破壊することが出来る。原理は知らないが、これは弓やブーメラン、投げナイフなどとはワケが違う。威力も速度もそれらを遥かに凌駕するのだ。

それを見せればこの店主も納得せざるを得ないだろう。そう考えて、そのパルゥムは床に狙いを定めて突起に掛けた人差し指を手前に引いた。

 

 

「あ、あれっ? なん....で....」

 

 

動かない。まるで溶接されたかのようにその突起は微動だにしていないのだ。どれだけ力を込めても、いっそ折ってしまうほどに全力で引いたが、ビクともしないのだ。

 

 

「一体....何がどうなって....!!」

 

 

「うーん....もういいかのぉ。それがどんな武器なのかはわからんが、どうも役に立ちそうにないよ。」

 

 

「そっ、そんな....これは....」

 

 

「いやあ、しかしこんなガラクタを買い取っても本当に飾るくらいしか使い道がなさそうじゃしなぁ....合わせて60ヴァリスでどうだい?」

 

 

それからはちょっとよく覚えていない。気づいたら2つの鑑定品を左右の手にそれぞれ持って店を出ていた。

路地裏を歩きながら、心の中で悪態をついていた。

ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。この2つの武器は正真正銘の一級品だ。それもヘファイストス・ファミリアの最上級鍛冶師(マスター・スミス)でもそうは作れないほどとなれば、巨万の富を約束されたも同然だというのに。

だが、そのパルゥムの心の中では何よりも気になることがあった。数時間前に何の因果か手に入れたL字型武器。今右手に握られているそれが、何の役にも立たなかったのを目にしたことだ。この武器は一瞬で遠く離れた敵を即殺している。その威力は強固な岩を一撃でバラバラにするほどもあるのだ。

こんなものを売れば、大儲け間違いなしだろう。にも関わらず、この武器は持ち主が使っていたときのような芸当が出来なかった。不可解極まりない。

 

唇を噛みながらそんなことを考えていると、前方から誰かが近づいていることに気付いた。

 

 

「すいません、シル。荷物持ちなどさせてしまって」

 

 

「うん、それは平気だけど....リュー、いつもこんな道通ってるの?」

 

 

エルフとヒューマンの女性2人だ。どちらも同じようにウェイトレスの服装をしていて、両手に紙袋を抱えている。

 

 

「はい....こちらの方が近道ですから。何か問題でもありますか?」

 

 

「問題っていうか....心配するよ。特にクラウドさんが」

 

 

「なっ....!! 何故そこでクラウドさんが出てくるのですか!? あの人と私は....そんな....」

 

 

何やら雑談に花を咲かせているようだ。今なら通り抜けられる。咄嗟に左右の手に持った武器を袖に隠して、その2人とすれ違う。

 

 

「――待ちなさい、そこのパルゥム」

 

 

さっきまで何やら慌てた様子で横のヒューマンの少女と話していたエルフの少女が、振り返って背中を見せた瞬間に声をかけてきた。

頬を冷や汗が伝って、一滴地面に落ちる。落ち着け、まだバレたとは限らない。冷静にこの場を乗り切ることだけ考えろ。

 

 

「....何ですか?」

 

 

「左袖にしまったナイフと、右袖の....確か『銃』と言いましたか。それを見せてほしい」

 

 

バレている。しかもこの暗闇で武器の判別までもされているとは。一体どんな視力をしている。

 

 

「何故ですか?」

 

 

「知人の持ち物に似ていたので、確認したい」

 

 

「あ、生憎ですが、これは2つとも私のものです。変な言いがかりはよしてください」

 

 

反論などさせない。適当にあしらって逃げよう。あんな荷物を持っているなら簡単には追いつけまい。

そう決めて、歩を進めようと足を踏み出した。

 

 

 

 

「抜かせ、その武器(拳銃)の使い手はあの人以外に考えられない!」

 

 

 

 

背中に氷塊を入れられたかのような寒気が身体を襲った。その冷ややかな声から感じた恐怖。本能的に感じたのだ、彼女は危険だと。

右足を蹴り抜いて逃げようとするが、突如響いた軽やかな金属音が耳に届く。

 

 

「いぎっ!?」

 

 

そして、左手に鋭い衝撃が走る。後ろにいたエルフが金貨を指で弾いて左手に当てたのだ。その痛みに思わずナイフを落としてしまう。

バッ、と後ろを振り向くとそれを行った本人が右足を上げているのが目に入った。

 

 

「腹に力をこめた方がいい」

 

 

有無を言わせず足が振り抜かれ、パルゥムの脇腹に強烈な蹴りが叩き込まれた。ぶれた視界の中で右手の武器――彼女が銃と呼んでいたものが手から離れていった。




進まねぇ....まだアニメの第4話の途中くらいですよ。トホホ......めげすに更新速度を上げていきたいです。

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