ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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いつもより遅くなりました。
待っていた方がいらっしゃるのでしたら、申し訳ありません。
それでは、第14話をどうぞ。


第14話 束の間の休日

「ふぁ~....眠い」

 

 

「寝不足なのですか? 約8時間ほど睡眠をとられたと思いますが」

 

 

クラウドがヘスティア・ファミリアに復帰した翌日の朝、ベルとエイナがデートしている頃、彼は買い出しと久々の休暇を満喫しようとキリアと一緒に外に出ていた。

 

 

「今は何処に向かっているのですか?」

 

 

「ロキ・ファミリア....俺の元所属先のホームだよ。これから買い出しに行くからお前を預かってもらおうと思って」

 

 

結局こうなった。豊饒の女主人に預けようとも思ったが、あそこは店の準備やら何やらで何かと忙しい。あまりキリアの世話に時間が割けるとは思えなかったのだ。とはいえ、ロキ・ファミリアのホームだろうが心配なのに変わりはないが。

 

 

「キリア、これから行くところで、知らない男から言い寄られても無視しないとダメだぞ。あと、遠くからジロジロと厭らしい目で眺める輩にも気をつけるんだ」

 

 

「....心配してくださるのですか?」

 

 

「当たり前だろ。ほんの数時間だけ目を目を離すだけでも何かあるんじゃいかって思うくらいだぜ?」

 

 

無論、特殊とはいえ精霊であるキリアの存在を広めれば悪戯好きの神々からどんなちょっかいをかけられることもあるが、それ以上に年の離れた妹――もっと言えば娘のような存在である彼女が男共から手を出されることの方がクラウドにとっては心配なのだ。

 

 

「着いたな、じゃあ入るか」

 

 

そうこうしている内にロキ・ファミリアのホーム『黄昏の館』に辿り着いた。十分に注意して、クラウドはコンコンと扉をノックした。

 

 

「....出ないな」

 

 

「留守なのでは?」

 

 

「いや、この時間帯だと基本的に誰かいるんだけどなぁ....」

 

 

少し待っていると、カチャッと鍵を開ける音が聞こえた。誰かが気付いて応対しに来たのだろう。

そして、扉がゆっくりと開かれ相手が顔を出した。

 

 

「誰だぁ? こんな時間に....」

 

 

「........」

 

 

粗暴な印象が目立つ狼人(ウェアウルフ)――ベート・ローガが。

 

 

「「......」」

 

 

2人が数秒無言で睨み合っていると、ベートはふいに扉を閉じようとノブを手前に引いた。

 

 

「ちょっと待てやコラァ!!」

 

 

クラウドは無理矢理右足を突っ込んで扉が閉まるのを防ぐ。そのまま右手で扉の端を掴んで入口を広げる。

負けじとベートもノブを力任せに引っ張る。

 

 

「何閉めようとしてんだお前はぁ! 仮にも客人なんだから快く中に入れろっての!」

 

 

「偉そうに客人なんて言葉使うんじゃねぇ! 誘拐犯の変態に人権なんざあるかぁ!」

 

 

「お前も初見で俺を変態扱いするクチか! 丸めて川に投げ捨てんぞこの野郎!」

 

 

「やれるモンならやってみやがれクソエルフ!!」

 

 

「上等だ、後悔すんなよ犬ッコロ!!」

 

 

今度は両手を使って全力で開けにかかる。しかし、ベートはクラウドに対抗して足でゲシゲシ蹴りを入れてくる。お互いに拮抗し合い、およそ数分後、その場に現れたリヴェリアによって2人とも沈められた。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

「全くお前達は....どういう理由があったらホームの入口であんな揉め事を起こすんだ?」

 

 

「だってこの犬ッコロが」

 

 

「このクソエルフが」

 

 

「言い訳無用ッ!!」

 

 

綺麗に正座した2人に仁王立ちしたリヴェリアから拳骨が見舞われる。2人とも「ぐえっ」と呻き声を上げて頭を両手で抑えた。

 

 

「そんなに怒るなよ。余計に老けるぞ、お母さん」

 

 

「だ・れ・が、お母さんだ!? それに、余計にだとか言うな! そして私はそんな歳ではない!」

 

 

クラウドからのお母さん発言に顔を歪ませながら反論するリヴェリア。そんな彼の横ではベートが必死に笑いを堪えている。

 

 

「いや......お前が俺の倍以上歳取ってるのはバレてるんだから、今更誤魔化すなよ」

 

 

「女性に歳の話をするなと学ばなかったのかお前は!?」

 

 

お怒りになるリヴェリア様(年齢不詳)はさておき、クラウドはちょいちょいと後ろのソファーに座っているキリアを指差す。

 

 

「それより、本題に入らせてくれよ。今日の夕方まであの子を預かっててほしいんだ」

 

 

「お前と一緒に来た子のことか? 私は別に構わないが....」

 

 

「よっし!! お母様からのお許しが出たぞ!!」

 

 

「様付けすればいいと思うなぁ!!」

 

 

クラウドはリヴェリアのツッコミを無視すると急いでちょこんと座っているキリアの元へ歩いていく。

座ったままのキリアと向かい合うとクラウドは床に片膝をついて彼女と目を合わせる。

 

 

「キリア、俺は出掛けてくるから。大人しくいい子にして待ってるんだぞ」

 

 

「はい。クラウド様もお気をつけて」

 

 

よしよしとクラウドはキリアの頭を撫でると、ゆっくりと立ち上がり出口へと移動――

 

 

「......クラウド、何をしてるの?」

 

 

しようと振り返ったところで呼び止められた。金髪金眼の少女に。

 

 

「あ、アイズ....」

 

 

「その子は、誰? 何をしていたの?」

 

 

ロキ・ファミリアの幹部を務める剣士にして、クラウドの妹分。アイズ・ヴァレンシュタイン嬢その人だ。

アイズは相変わらず無表情というか感情の起伏の少ない様子でクラウドとその後ろにいるキリアについて尋ねてきた。

 

 

「この子はな....」

 

 

そこまで言うと、何故だかアイズの目がさっきより細くなったような気がしたが構わず続ける。

 

 

「ファミリアで預かってる子なんだ。訳あって俺が世話をすることになってな....」

 

 

「....そう」

 

 

するとアイズはスタスタとキリアに歩み寄り、彼女の両肩に手を置いた。

 

 

「じゃあ、私のことはお姉ちゃんと呼んで」

 

 

......キリアとクラウドは何も言えずに固まってしまった。正確にはクラウドは困惑して声も出ないのだが、キリアは口を開けてポカンとしていた。

キリアは何のことかわからないのか、アイズに質問した。

 

 

「アイズ様....と仰いましたか。その要望はどういうことなのですか? 説明を求めます」

 

 

「クラウドは私の家族。そして、君もクラウドの家族。それなら、私と君は姉妹同然」

 

 

「なるほど。理解しました」

 

 

クラウドの現旧義妹である2人が妙な絆で結ばれた瞬間だった。

しかし、そう世界は優しくない。キリアは「ですが」と言葉を区切りソファーから立ち上がるとクラウドに近づいて彼の左腕に両手を回してひしっと抱きついてきた。

 

 

「一番は私です。いくらお姉様がクラウド様の家族といっても一心同体である私には敵いません」

 

 

爆弾を放り投げてきた。当然アイズもこの挑発に乗ってきて、クラウドの右腕――キリアとは反対側の腕に抱きついてきた。

 

 

「....そんなことない。私は8年もクラウドの妹だから、私の方が上」

 

 

「浅はかですね。たとえ妹として上回っていようと、異性としての愛情を抱くかは別です。クラウド様は幼女が好きという証言も得ています」

 

 

「....クラウドは優しいからそう言ってるだけ。そもそも、アプローチするのに胸が無いのは致命的だよ」

 

 

「偉大なる先人の言葉には『貧乳は稀少価値』というものがあります。その手の方々にとってはむしろ需要が高いのですよ。そしてクラウド様もその1人という訳です」

 

 

「そんなのは、負け惜しみ。大きい方が有利なのは事実だから」

 

 

後半に至っては陰湿な言い争いになっていたが、2人の間に挟まれているクラウドにとっては気まずいことこの上ない。かつてはクラウドもこんなシチュエーションに憧れていたが、いざ体験すると何とも言えない。

 

 

「お、お前ら落ち着いて....」

 

 

そうは言ったものの、止まる様子はない。ふと、誰かの視線を感じた。ベートのとてつもなく悔しそうなものと、リヴェリアの呆れたようなものの2つだ。

これ以上付き合ってられないと、クラウドは未だに言い争っているキリアとアイズの手を振りほどいた。

 

 

「あっ....」

 

 

「......?」

 

 

2人とも突然のことに動揺しているのか、反応が遅れた。これは好機だとクラウドは出口へと走る。

 

 

「ベート、リヴェリア!! 後は頼んだ!!」

 

 

大声で挨拶を済ませて、何とか難を逃れたのだった。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

「あの2人、仲良くなれてたらいいけど......」

 

 

ロキ・ファミリアのホームから離れて、クラウドは商店街に来ていた。ドワーフや獣人の店主が武器や雑貨、食料品を店に並べている。

 

 

「ヘスティアにああ言った手前、食費について考え直した方がいいかもな」

 

 

今日クラウドは食材の買い出しに来ていた。ヘスティア・ファミリアは現在主神も含めて4人。ベルとクラウドがダンジョンに潜り、ヘスティアがバイトをすることでやりくりしていたがそこに1人プラスされたので少々困っていたのだ。

流石にキリアを何処かの職場に置くのはマズいので、なるべく節約しようという心掛けをしたのだ。

 

 

「当面は外食はナシにするか......あとは弾代も節約しないと」

 

 

しばらくは自分で4人分の食事を作ろうと意気込み、食料品店に入る。中年のヒューマンの男性が元気よく挨拶をしてきて、それを会釈して返す。

パンや卵、野菜などが安く売られているようだ。クラウドはパンのあるコーナーに行き、置かれている紙袋を取ってパンを詰めようと右手を伸ばした。

 

 

「ん?」

 

 

すると、同時に誰かが左手を反対側から伸ばしてきたのが視界に入った。思わずクラウドは目線を右にずらしてその人物を確認する。

 

 

「クラウドさん?」

 

 

「......!?」

 

 

そこに居たのは、豊饒の女主人の店員服を着た金髪のエルフの少女だった。リュー・リオン、つい最近クラウドに鉄拳制裁を与えた人物でもある。

 

 

「「........」」

 

 

お互いに見つめあって、数秒固まってしまう。これは、彼女の美貌に見惚れていたというのもあるが、それ以上に警戒心という理由もあった。

 

 

「ま、また会いましたねクラウドさん。クラウドさんも買い物ですか?」

 

 

リューがぎこちなく話を切り出してきた。クラウドも冷や汗を流しながら返事をする。

 

 

「ああ......そんなところだな。リューも店の買い出しか?」

 

 

「はい、ミア母さんに頼まれまして」

 

 

怒ってる....のか? 少なくとも敵対的ではない。

この間は個室でキリアと一緒にいたところを見られ、変態だと誤解されてしまったのだ。やはりエルフ、そういった不潔な存在を嫌う傾向にあるのだろう。

 

 

「えっと....リュー?」

 

 

「何ですか?」

 

 

「その....この間はごめん。不潔というか、汚らわしい所を見せたみたいでさ....」

 

 

そのときのクラウドに邪な心はなかった(興奮しなかったわけではないが)とはいえ、それに近いことをやったのに変わりはない。一応謝っておこうとクラウドは申し訳なさそうに頭を下げた。

てっきりここでリューは「あのような淫らな行為は他所でやってください」と呆れながら言うと思っていたが、予想外にも彼女は顔を赤くして目を逸らしていた。

 

 

「ああいうことがしたいのでしたら......私に一言言ってくれれば......」

 

 

「ん?」

 

 

何だかよく聞き取れなかったが、これで怒っていないことは確認できた。クラウドはほっと胸を撫で下ろした。

それからは、各々会計を済ませ店を出た。帰り道がほぼ一緒だったことからクラウドは彼女を送っていこうと同行することになった。

 

 

「路地裏から行くのか?」

 

 

「はい。この方が近道ですから」

 

 

確かに正規の道をぐるっと回るより路地裏を通ってショートカットする方が早いのは事実だが、クラウドには心配することがあった。

 

 

「危なくないか? こんな薄暗くて見通しの悪いところ使うのは」

 

 

「多少は危険でしょう。しかし、私にはそこまでではありません」

 

 

クラウドとしては以前リューと戦ったことから彼女は只者ではないと察しているものの、やはり女性1人がこんな道を通るのはあまりいただけない。

クラウドは渋々了承しながらも、リューと一緒に路地裏に入っていった。

 

 

「足元に気をつけろよ。誰かがゴミ捨ててもおかしくないからな」

 

 

「ご親切にありがとうございます」

 

 

前を歩くリューの表情は見えないが、さっきより明るい声になっているのはわかった。

 

 

「クラウドさん....1つ、聞いてもいいですか?」

 

 

「何だ?」

 

 

「貴方と一緒に居た少女は....貴方とどういう関係なのですか?」

 

 

一緒に居た少女、つまりはキリアのことだろう。どういう関係か、いざ言われてみると数瞬考えてしまうがクラウドはすぐに答えを出した。

 

 

「家族だよ、俺の大切な」

 

 

「家族......ですか」

 

 

「ああ。俺が昔所属してたファミリアは解散しちゃって....キリアはその忘れ形見みたいな子なんだ」

 

 

キリアがいきなり現れて自分に衝撃的な告白をしたときは驚いたが、今となっては可愛い子供だ。クラウドはそういう意味で言ったのだが、何故かリューは少し不機嫌そうな雰囲気を出していた。

 

 

「忘れ形見....」

 

 

「お、おう」

 

 

忘れ形見という言葉に引っ掛かりがあるのだろうか。クラウドにとってはかつての主神アポフィスの作った精霊である彼女はそう表現して差し支えないはずなのだが。

クラウドが不思議そうにリューの後ろ姿を眺めながら付いていく。

 

 

「ひゃっ....!!」

 

 

突然、考え事に耽っていたせいかリューが足元の段差につまづく。クラウドはすぐに前方に倒れそうになるリューの身体を支えようと紙袋を持っていない右手を伸ばす。

 

 

「よっ....と」

 

 

「....! ありがとう、ございます....クラウドさ....っ!?」

 

 

何とかクラウドが右手をリューの右腕の下から彼女の身体の前まで通して引き寄せたため、倒れることはなかった。

だがどういうことだろうか。リューは言葉を詰まらせチラチラこちらを見ている。

 

 

「や....んんっ....」

 

 

顔を真っ赤にしたまま何やら妙に甘い声を発している。そんな仕草にドキッとしながらも、クラウド自身混乱していた。

 

 

「(え? 一体どうした....はっ!!)」

 

 

そこで、気づいた。さっきから自分は何を掴んでいる? 何だか右手にプニプニと弾性のあるものの感触がする。間違いないだろう。クラウドはリューを右手で引き寄せたとき、彼女の右胸に触れて今も手の平でわし掴みにしているのだ。

そこからのクラウドの行動は早かった。右手を光に迫るほどの速度(あくまで比喩)で引き抜き、ビシッと気をつけして腰を前方に90度曲げる。

 

 

「すいませんでしたぁぁぁぁ!!」




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