ごった煮   作:ソーマ=サン

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ONE PIECE 九蛇の男児
九蛇の男児


 

 女系戦闘民族九蛇(くじゃ)の住む()()()()の女人国──女ヶ島(にょうがじま)の朝は今日も早い。

 日が昇る前には目を覚まし、一緒に眠った女性の額にそっとキスを落とすと、()は彼女を起こさぬようベッドを抜け、垂れ下がった布を掻き分ける。

 部屋を出れば当然そこには通路が伸びる。風の抜け道として、ガラスも何も嵌っていない朱色の窓枠だけが等間隔に配置され、皆が起き出す頃になると少々()み合う石造りの共同通路が、左右に(ゆる)やかなカーブを(えが)きながら伸びている。

 

「く、ふぁ……」

 

 そこの(さん)に肘をつき、欠伸と共に胸一杯に吸い込んだ清々しい空気。体内に新鮮な空気が入るように体熱も入れ替わり、熱帯とは言え床から(じか)に足を通して()えが頭の先まで駆け抜ける。肌寒さが背筋(せすじ)を撫で、反射的に身震いした。

 目尻に浮かんだ涙を、腕で(こす)るように(ぬぐ)う。

 

 ジャングルに囲まれた高い山に()く大きな穴、そこに擂鉢(すりばち)状に築かれた九蛇の集落。その広大な眼下に目を向ければ、蛇姫(へびひめ)様の住まう宮に続く石階段の踊り場に薄暗い中でちらほらと篝火(かがりび)が焚かれていた。

 明かりを行動範囲の中心に()え、不審な者がいないかの見回りを、ピンヒールを履いた足で危なげなく行う夜番が数組。彼女達は一様に蛇を連れ、相も変わらず露出度が高かった。

 ビキニのように乳房を覆うだけのトップスに、腰に巻いたパレオ。更に下には無論秘部を隠す三角布があり、肩からは外套(がいとう)を羽織る。

 それでも、裸の上から一枚布だけを被る野性味溢れる俺とは大違い。とは言え、決して俺の巻いている布も襤褸(ぼろ)切れなどではなく、しっかり(あしら)えて貰ったオーダーメイド品。

女ヶ島(にょうがじま)では蛇が暮らしの中に溶け込んでいる。それを模して赤い織物の縁取りは蛇行する蛇の柄。布中央には尾を(くわ)えて円を象る白い2匹の大蛇が刺繍され、蛇の遺骨を組み合わせた大き目の留め具が、長方形の短辺に──着れば丁度鎖骨の辺りから脇下にかけて、ポンチョのような形態で、布をずり落とさないように付属している。

 成長に合わせて着熟(きこな)しの変化を強いられ、現在、()()()調整されてはいるが膝下まで垂れ下がるこれは、皆が俺のためにと作ってくれた最高の宝物だ。

 

 さて、俺の格好の説明はここまでにして、まず向かうは水場だ。そこで顔を洗い、一通りの身嗜(みだしな)みを整える。それを終えると蛇姫様姉妹のとる食事の用意である。

(かまど)に火を入れ、侍女達と昨夜考えた朝食メニューを作りにかかる──のは普段であって、今日は新鮮な果物を御所望だったと思い出し、いつもの癖で薪を取りに行こうとしていた足を、行き先を変更して階を上がる。

 厨房に着くとまだ誰もおらず、食器棚に付いた引き出しから収穫用ナイフ3種類と厚手の平たい袋を1つ、迷う事なく取り出した。全ての刃物を袋に()し入れ首から()げると、「『(わらわ)は珍しいフルーツが食べたいのじゃ』と仰っていたけどどうしようか」などと思案しながら、ぺたぺたと裸足で階段を降りて行く。

 

 寝静まった廊下には、朝明け前の暗くも白んだ光が射し込んでいる。(もや)がかかり、何処か神秘的で静穏。無造作に岩を組んで出来たような内装であるのも相俟って、まるで別世界に迷い込んだような心地がする。

 

 それも(しばら)く進むと現実に引き戻される。

 

 宮の入口で()べる火により、橙色の揺らめきが壁に灯る。その暖かな色合いの中に人影が舞う。実際踊っている訳ではないが、火の()るぎに合わせて不定形にくねる事でそう錯覚する。

 ゆるり、ゆるりと。

 ひたひたと足音が反響し、動く影法師に近づいていく。更に道は続くが、外へ出るため交差路を左に曲がった。

 

 そうして眼前には両開きの朱い門。噂に聞く巨人が入れるとは思わないが、ハーフ程度なら問題なく通れる巨大な門。その(すみ)に前持って開かれた小さな扉──夾門(きょうもん)(くぐり)り抜け、俺は静かに外に出た。

 

「あらっ、リーズ早いねぇ」

 

「ふふっ、朝から頑張るわね」

 

 頭を下げて出たところで、寝ずの番をする女戦士が俺に気付き、振り向いた。「おはよう」と挨拶をしてひらひらと手を振るう。

 

 彼女達は揃って腰に矢筒を吊るしている。しかし、矢はあるのに肝心の弓を持っていないのは、首に巻き付いたり、腰に絡んで肩に頭を落ち着けたりする細長い蛇達がその役割を果たすからだ。実に島民の生活に蛇が密接に関わっている。

 

 そんな2人の内、真っ先に驚いたような反応を示した(しゃが)れ声の戦士──アイビー。彼女は強い者こそ美しいとするこの島で、外見からして見るからに“強者”とした太ましい体躯を持つ、男勝りな短髪の女性。腕は俺の胴体程あり、脂肪なんぞ欠片もないと言わんばかりに筋肉質に隆起した厚い鳩胸、腹部は見事なシックスパック。背筋(せすじ)も筋肉で覆われ(おとこ)らしく、太股も(ふく)(はぎ)も、上半身を支えるに不足なしの周囲を誇る。生憎(あいにく)御尊顔(ごそんがん)は強さを(かんが)みたとしても俺の美的感性からは()れ、(いささ)か頬骨が主張され(えら)の張った大きなものだが、あまりある人の良さは折り紙付きだ。

 一方、昨日、扉の開放を約束していた事で驚きに似た表情は浮かべなかったものの、いつまでも変わらず俺の歳を低く勘定して感心したような声を上げる戦士──ロゼット。アイビーの、柔らかさとは無縁の鳩胸とは感じる母性に雲泥の差のある豊満な乳房を持ち、また、彼女と違って長身。ウエストは折れそうな程細く、ヒップは肉感的にボリュームたっぷりで、足はすらりと引き締まって且つ長い。その上性格も柔和で、笑えば見惚れてしまう。一片の疑いなく(まさ)しく女性と断言出来る彼女は、その我が儘ボディに見合わず物理的な実力も兼ね備えていて、アイビーと同様、九蛇海賊団の一員だ。

 彼女等2人は、帰って来る度に武術の手解きをしてくれる俺の特訓相手である。

 

 対して、俺は今年で12になる。四季のないこの地域で、1年の経過を一目瞭然と自然から感じるのは困難だが、時々の獲物などから大凡(おおよそ)の数値は推測される。そうしたところ、俺が生まれてから大体12年くらい経つだろうという大雑把な数え方が出来上がるのだ。

 

 この島の女性は、外海に出て妊娠し、帰国して出産すると、理由は不明だが、必ずと言っていい確率で女子を産む。以前であれば「必ずと言っていい確率」ではなく「必ず」であったが、それに終止符を打った最初にして最後の例外が、皆から「リーズ」と呼ばれる俺である。

 女系戦闘民族九蛇(くじゃ)でありながら矛盾する唯一の男。俺の持つ特異な肩書きである。

 

 一般に、男性が入国すると死罪となるか、何らかの理由で特別措置が取られて牢獄暮らしとなる。

 だが、俺は紛れもなく九蛇の母親から生まれた為、例外中の例外、特例中の特例として女ヶ島“アマゾン・リリー”での生活が許可された──らしい。俺を出産した後に亡くなってしまった母に代わって2年前くらいにロゼットから聞いた話で、真実か嘘かは分からないのだ。まぁ、嘘を()く理由もないので真実だと思うが。

 そして、父親が誰かも分からない。が、ここに住む者は往々(おうおう)にして父を知らない為、()したる問題はないだろう。

 

「今日は蛇姫様のためにジャングルに行くのかしらね?」

 

「うん、珍しい果物が食べたいんだって」

 

夾門(きょうもん)を閉めてくれたロゼットの質問に、首に吊るした袋をトントンと指で叩いて頷いて返す。

 成長途上の背が彼女の鳩尾辺りまでしかない所為(せい)で、自然と見上げるような格好となる。(たわ)わに実ったメロンが視界を遮る。

 アイビーは腕を組んで仁王立ちして、見せ掛けは見張りに戻っているようだった。

 

「へぇ、新しいのが見つかるといいけど……ちょっと私のも採って来なよ。何でもいいから」

 

 階下を眺めながら声だけでアイビー。

 相変わらずものの頼み方が雑。

 

「アイビー、何を言っているの。……リーズ、蛇姫様が第一だから無理にアイビーの分まで採って来なくて大丈夫よ?」

 

 アイビーを見て、溜め息を吐いて彼女を咎め、視線を俺に戻してロゼットは言う。

 

「そこんところは大丈夫。だけど……分かった、ちゃんとロゼットのも持って帰るよ」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 自身の黒い長髪をさっと払い、ぎゅっと頭を(かか)えるように抱擁された。それに答えて俺もその腰を抱き締め返す。

 九蛇の皆が、俺にとっての母であり、姉妹であり、家族である。

 数瞬だけ肌の温かみを感じ、どちらからというでもなく腕を離した。

 

「アイビー、行ってきます」

 

「はいはい、手の掛かる子供だねぇ」

 

 アイビーともハグをして、俺はジャングルに向かって()()()()()

 

 

 

 

 因みに、通路の窓枠や厨房から跳び出さなかったのは、一度()()()()()とこってり叱られた経験があるからである。逆も然り。

 

 

 ◇

 

 

 自身十数人が手を繋いでやっと一周出来る大樹が当然の如く乱立し、身の丈以上の草花が平然とスペースを確保して生えている。環境が環境なので至るところにキノコが繁茂(はんも)し、やはり俺の半分以上の身の丈で群れていた。

 途中、そのキノコを選り好んで食べる巨大猪の群れと遭遇したが、蛇姫様の御所望の品ではないので無視して珍しいフルーツがないかと疾走する。

 

 鬱蒼と(しげ)るジャングルの中を(ひた)駆ける。景色は矢のように過ぎて行き、後方に留まる事なく流れ行く。

 

 この高速移動を可能にしたのは、()くまで副産物。

 “覇気”の扱いに精通した皆の助けと、島にいる間は土台成就不可能な「男に会ってみたい」という俺の好奇心を、偶々(たまたま)聞き入れてくださった蛇姫様のお陰。主に、王下七武海としての立場がある筈なのに、手土産として、“六式”の幾つかを習得した海兵を攫って来てくださった蛇姫様──アマゾン・リリー皇帝ボア・ハンコック様を筆頭とした九蛇海賊団のお陰である。

 

 地上では瞬発的に加速し、消えたように移動する“(ソル)”。空中ではその応用技として爆発的な脚力で大気を蹴り、宙に浮く“月歩(ゲッポウ)”。

 俺の修めた六式は海兵の習得していたその2種だけだが、他にどのようなものがあるかは聞いたので現在練習中だ。とは言っても、覇気をロゼット達に叩き込まれたので、態々(わざわざ)残りの六式を覚える意義は薄いように感じている。結果、六式習熟は現状、暇潰し以上の意味は持っていなかった。

 

(ちな)みに、(くだん)の海兵がその後どうなったかは知らない。皆を見る目がねっとりとイヤらしく、嫌悪感があって、外界の人間に、それも男に親しさなどそう湧くものでもない、と話をしていて感じたのでどうでもいい。海王類の餌になっていると望ましい。島民第一である。

 

 それは扨置(さてお)き、新鮮な果物狩りの時間である。

 まずは集落周辺のジャングルを一周する形で地上を大まかにぐるり。次いで樹上を適当にぶらり。

 太陽が地平線から昇り切るまでを制限時間として探し回り、

 

「案の定、だな……」

 

 その結果得たのは馴染みのある、逆を言えば真新しさのないものばかりだった。

 四角形の模様がびっしり入り、俺の頭程の大きさの黄色いパイナップル。鮮やかな赤さでぶつぶつとした外皮を持ち、内部が白く半透明のライチ。赤色から緑色へと見事なグラデーションのかかった橙色の繊維質な果肉のマンゴー。赤紫色の果皮で、時に赤く、時に白い身の詰まったドラゴンフルーツ。濃い黄色で、反り返った腕程の巨大なバナナ。黄色がかった緑色で、仄かに甘く、切り口が星型のスターフルーツ。などなど。

 馴染みの有無に関わらず、数のある物はその場で試食し、酸味が強過ぎたり苦味が強かったり甘ったるいものは採って来ずに、脳内メモに書き留めてある蛇姫様の好みに合わせて厳選。厳しい審査に残ったのは、やはり馴染みのあるものばかりとなってしまった。

 一通り採り尽くして、その上で好みか否かの判断基準が出来ていたので仕方がない。

 収穫したものを簡単に葉を編んで作った背負える形の籠に入れ、俺は九蛇の集落に帰るのだった。

 

 

 ◇

 

 

 要塞化している集落の城壁上を通り、市場に出す品を獲りにジャングルに繰り出す者と()れ違い様に短い挨拶を交わしつつ、俺はそんな正規ルートは知らんと城壁から飛び降りるように月歩(ゲッポウ)で跳んで帰還した。

 宮で門番をするロゼット達に「ただいま」という言葉と、後で直接部屋に差し入れする旨を告げ、開かれた本門を通り抜ける。埃の類は城壁の上で(はた)いてきたので指摘される事はなかった。

 

 これからするのは、岩盤を()()いて出来た冷暗所に流れる小川で、御姉妹が起床されるまで採って来た果物を冷やしておくのと、盛り付けの細部を詰める思案である。ただ、パイナップルはバナナ程群生していなかったので、パイナップルがある場合とない場合の2種類の盛り付けを考えなくてはならない。味見(あじみ)時の評価次第で出すものが変わってくるのだ。

 

 そうと決まれば見聞色の覇気で宮をまるっと収め、内部の様子を確かめる。

 九蛇の皆が活動し出すため、身近に人の気配を多数感じる。

 その中でも、一際(ひときわ)異彩を放つ生命力──アマゾン・リリー皇帝ボア・ハンコック様。

 それより数段劣るが他の者より輝く気迫が2つ──()の妹君、サンダーソニア様とマリーゴールド様。

 彼女等に付き添う若者にも劣らぬ壮健な気──ニョン婆様の愛称で(した)われる先々々代皇帝グロリオーサ様。

 以上4名の覇気が殊更強く感じられた。

 やはりと言うべきか、御老体になられたニョン婆様は既に活動を開始しておられるようだ。蛇姫様の元にいらっしゃるのも、眠りが浅く、お目覚めが早かったのが御理由だろう。己を基準に若い蛇姫様等を無理に起こしてはまた寝室から窓の外に放り投げられるに違いないのに、どうにも懲りない御方だ。御歳(おとし)の割にアクティブである。

 

「あ……」

 

 身近だった感覚が物理的に近付いて来る。ニョン婆様が宮の外に投げ飛ばされ、落下しているようだ。

 蛇姫様も蛇姫様で美しく華やかではあるが、子供のようにやんちゃな一面が(たま)に顔を覗かせる。

 綺麗であると同時に可憐という印象。常人ではそうそう並び立たせる事の出来ない印象と思うが、そこは流石蛇姫様というところか。

 さてはて、攻撃的な色に染まったこの御様子では、再び眠りに就くとはあまり考えられない。それほど冷えてはいないが、かと言って集落外の川で洗いつつ冷やしつつ果物を探していたので、特別(ぬる)い訳でもない。そのまま盛り付けてお出ししても問題ないと結論付け、冷暗所に向かっていた俺は(きびす)を返した。

 

 駆け足気味に廊下を歩き、階段を登る。

 帰って来た厨房には顔馴染みの料理人の姿があった。彼女達は戦士の朝食をこれから作るようで、大きな鍋を用意したり、野菜を切ったり、いない者は追加の肉の買い出しに行ったり、足りないその他の食材を買いに行ったりしているようだった。

 邪魔にならないように素早く彼女達の後ろを通り抜け、皿を洗うための水を張った桶の中に平たい袋から収穫に使用したナイフを抜き、放り込んでおいた。

 そうして代わりに、引き出しから新たに包丁と吊り下げて乾かしていた(まないた)を取り、隅の机の一角を借りる。盛り付け用の皿、それと収穫した果物も広げ、パイナップル以外を豪奢な皿に手早く乗せていく。馴れた手付きで彩りも考慮して配置し、「パイナップルがなくとも見栄え良く」を今回の標語に盛っていく。

 瞬く間にフルーツの塔が出来上がった。それも3つ。

 我ながら上出来、などと眺める暇もなく、パイナップルの味見に入る。

 

 手に持った包丁に覇気を纏わせる。刃物に武装色の覇気を使う事で黒く変色し、(なまくら)でも鉄を断てる硬度に向上する。包丁の切れ味が悪い訳ではないが、見た目が少しでも悪くならないよう、果皮に引っ掛かる事なく切るための知恵だ。

 

 予定通り、(まないた)に注意してストンと縦に半分に切り、更に縦に半分こ。4分の1ずつを盛り付けに使い、残りの4分の1を味見に用いるのである。

(へた)下、芯、皮の直ぐ内側、芯と皮の中間、底部分の果肉、と細かく切り出し、それぞれを口に入れる。

 

 まず(へた)下部分。

 一度二度、もぐもぐと口を動かす。

 

(ふむふむ、少し酸っぱいか)

 

 いつものと変わらない慣れた味。問題があるとすれば、少しばかり酸味が強い事くらいか。

 冷静に分析し、三度目と歯を噛み合わせた。

 

「ん……?」

 

 異変に気付いた。

 濁流(さなが)らに滲み出た果汁。ごくりごくりと飲み込めばジュースのようで、爽やかな風味が鼻を抜ける。

 そうと分かれば絞ってジュースとしてお出しするのも名案だ、などと思っていたのも(つか)()

 

「……んっ!? んんっ……!!?? ~~~~っ!!??」

 

 利用方法を検討するだけの余裕は一瞬で吹き飛んだ。

 ぶわっ!! と体中の穴という穴から汗が吹き出る。

 口内に広がる邪悪と、叫び出そうとする精神を抑え付け、震える膝から(くずお)れる。武装色の覇気が強制的に解除され、手から滑り落ちた包丁が(まないた)の上に音を立てて転がった。

 

(あぐぅおおおお~~~~っっ!!?? 酸っぱぁっ……!! 滅茶苦茶っ、酸っっっっぱいっ!!??)

 

 拳を作るように、床に押さえ付けて両手を握る。体を丸め、ガリガリと爪が立つ痛みと合わせて意識を保つ。

 急に酸味が口の中で跳ね出した。味を細部まで確かめようと噛み締めた瞬間、これまで感じたことのない刺激が爆発した。

 これはそう、覇気だ。蛇姫様から感じた覇王色の覇気。このような例として出すには不適切極まりないが、他者を屈服させるという面を見れば、(まさ)しく覇気に違いなかった。

 急いで飲み込み、手近にあった(かめ)に入った水を柄杓(ひしゃく)(すく)って口を(ゆす)ぐ。

 これで(やわ)らぐだろうとひんやりした冷水が口に入った途端、

 

「ごふっ……!?」

 

 酸味が渋味に変わり、盛大に()せた。口端から吹き出た水が床を濡らす。間一髪、瓶に入る事は避けられた。

 どうしたのかと調理の手を止め、寄って来ようとする料理人を手で制し、何事もなかったとパイナップル(強敵)の前で仁王立ち。

 耐え忍ぶ事数秒。強烈な波が引き、体の震えが治まった。

 

「……けほっ、はぁ……」

 

 他の部位ももしかするとこんな感じなのかと戦慄しながら、召使いの流儀に従い毒味を続ける。

 

 次は芯部分だ。堅い外皮に沿った果肉は、これまでの経験から味が似通っている。ならば同じ(てつ)を踏みに行く必要はない。

 繊維が蜜に詰まった芯をぱくり。警戒しながら舌の上で転がす。

 

(……酸っぱくは……ない。どちらかというと甘い、な)

 

 それも甘過ぎず、程良い。酸っぱいものを食べた後にこの感じ方という事は、やはり酸味は強めなのだろうか。

 意を決して顎を動かす。上顎と下顎の間で擂り潰す。

 

「ぅぼァ……」

 

 反射的に変な声が漏れた。

 今度は途轍もなく甘い。果物を煮てジャムを作る事があるが、それを何十倍にも濃縮した頭が痛く、思考力を蝕むような味。サトウキビから精製した砂糖の塊を、飲み物を飲むが如く流し込んだような味だ。とてもではないが食べられない。

 吐き出すのは衛生上宜しくないから、()むを得ず鼻を(つま)み、これまた嚥下(えんげ)する。そして水を飲み、

 

「ァァア゛ア゛ア゛ア゛~~~~!!??」

 

 辛味に変わってのたうち回った。

 辛味は鼻を塞いでいても関係ない。ダイレクトに脳を焼き切る痛み。勿論比喩だが、舌の上で火事が発生したように錯覚して、ひりひりどころかビリビリする。

 そうして二種類の果肉が胃袋で落ち合って、

 

「うぷっ!?」

 

 耐え難い吐き気に見舞われた。

 物理的に込み上げる気がして、俺は(かわや)にすっ飛んだ。

 

 

 

 

 総評として、不味い。

 厠から戻って今更ながら果皮の細部に目を向けると、四角く区画分けされた中で渦巻き模様が散見された。このパイナップルはちょっとした突然変異種なのかもしれなかった。

 

 

 





 出したい悪魔の実があって、それを得るために出来るだけ自然な流れにしたかった。
 多分自然に出来たと自負してる( ・´ー・`)ドヤァ
 ただ、悪魔の実らしい不味さじゃない気がする。

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