ISを操作する以上それなりの体力がいるだろうし、学校としては最新のデータを持っておかないと。
翌日。
一夏にとってそれは無慈悲な宣告に等しかった。
「早速だが、基礎体力の有無を調べる。各自2人組を作れ」
1、2組合同の体育という事で一夏は薄々嫌な予感を覚えていた。それが千冬の言葉で確信に変わる。
授業内男女比1対数十。“2人目”がいるという話だったが、着替えの際も姿が見えない事から校長の
その状況で千冬は「2人組を作れ」と宣ったか。
ここ、IS学園に於いて男子というのはレア中のレア。しかも一夏の見目は優れると来た。
彼と組もうと躍起になる生徒は決して少なくない。寧ろ多いと断言して良い程だ。
「えっ!? ちょ、千冬姉!?」
「織斑先生」と呼ぶのも忘れて声を上げる。
彼としては己が標的、或いは景品と見定められている事は勿論知らない。そこは不名誉な称号を冠するから当然であって、ならば何故、声を荒らげたかと言えば、
無数の女子の視線にあてられながら、その根源である女子とペアを組む。
学園に入学して1週間経つまで半分以上日数の残る現在、当然の如く彼は視線に晒され慣れていない。組んだ者から至近距離で見詰められる事にも、慣れよう筈がない。
故に彼は、どうせ視線が刺さるなら遠目から、が御所望だった。つまり、一夏1人で1組形成が彼にとっての最前だった。
しかし無念、その願いは聞き入れられない。
「『織斑先生』だ。お前は渡辺と組め、異論は認めん」
愛用の出席簿で渡辺を指し、指名する。
その渡辺は、上下長袖ジャージを肘前・膝下あたりまで捲り上げているような格好で、その落ち着きの払い方は立つ場所が違えば、つまり生徒の中ではなく副担任の隣にいれば、まるで教師。そんな彼女は千冬の言葉に軽く体を
「ぅっ……! 反論の余地も与えてくれないのかよ……!」
「そもそも何故お前が不服なのかが私には分からん」
苦虫を噛み潰したような表情の一夏に、然も当然と千冬は腕を組む。心底分からないと思っているようで不機嫌そうに眉間に皺も寄っている。
「そりゃ、ついこないだ初めて顔を合わせたばっかだし……」
「誰でも最初はそうだ。不思議な事ではない」
自分でも我儘に過ぎないと理解しているのだろう。
「そうだけど、気心知れた箒の方が……」
「い、一夏!? わ、私でいいのか!?」
「当然だろ? ……千冬姉、頼む!」
箒が声を跳ねさせるも、一夏はその機微にはやはり疎い。単純に突然名が上がった事に驚いたのだろうと納得して、千冬に対して両手を合わせて頭を下げる。教師に向ける仕草ではないが、その必死さは苦悶の表情もあって伝わって来る。
千冬は呆れたように溜め息を吐くと、今回の授業で使う備品が点在する、「運動場」と言うより「陸上競技場」と言う方がしっくりくるトラックを眺める渡辺の名を呼んだ。
「渡辺、お前はどうだ?」
「相手が誰であれ構いません。それに多少なりとも競うのなら、少しでも拮抗している相手の方がいいですし」
振り返った。
その顔には挑戦的な微笑を張り付け、一夏の事を一瞥する。
同じ組では50m走や砲丸投げ等を除き、一方がしている時に他方はそれを測定しなければならない。別の組であればその必要がないため一夏と競いたい彼女としては、別々である方が都合が良いのだろう。丁度互いに利害が一致している事もあって、頑なに同じ組み分けを主張する事はなかった。
「そうか。一夏、ならばお前は篠ノ之と組め。後は適当に2人組を作れ。砲丸投げと50m走を測る時は私に声を掛けろ。体育館内での測定は山田先生の指示に従え。各々、適当なものから測り始めろ」
その言葉に1年2組の中国代表候補生が一夏の組み分けに文句を垂れるも、これ以上面倒な調整に時間を掛けたくない千冬は聞く耳を持たず、首から下げる2つのストップウォッチの調子を確かめながら、50m走を計測するトラックのゴール位置に向かって歩き出した。
話進まねーの。しかも短い。
「ちょっと! 何で一夏と組んじゃダメなのよ」
「中国代表候補生か。お前は自分が国の代表だという事を忘れるな。お前の品のなさは、つまりは国としての品位を問われるものだ。自国を自ら陥れたくないのなら目上の者には最低限、敬語を使え。お前の国はそういう国だろう」
って感じの千冬と鈴の台詞を挿し込とうとしてたけど、考えるのに頭煮えてお蔵入りした。