GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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人の背後は見えにくい 前

イリヤ、リンドウ、アリサをのせた輸送ヘリコプター。ブラックホーク。その機体が目指す先は贖罪の街。

 

再編成された偵察部隊が早速持ち込んできた任務は、その贖罪の街で確認されたヒト型アラガミ“シユウ”、それの討伐だ。

 

急遽持ち込まれた任務故に、ヘリの中でミッションブリーフィングを行う。

 

とは言え、リンドウが仕切るそれは言うほど長くも形式張ってもいない、優しく言って緩い物だが。

 

「あー、今回相手にするのはシユウだ。コイツの特性は……そうだな、アリサ君。答えてみたまえ」

 

若干胡散臭い講師風の口調でアリサに話を振る。

 

当の彼女自身は、何で私が、と表情で非難しているが、それでも律儀に頭の中にある知識を引き出してくる。

 

「シユウ。数あるアラガミの中でも珍しくヒト型の形態を持つタイプで、大きな特徴は大きな翼を持ち飛行能力を獲得していることです。また、徒手による白兵戦や光弾を撃ち出す能力も持ち合わせており、オールレンジに対応した戦闘能力、加えて高い機動性を持ち合わせた難易度の高い敵である、と言えます」

 

ノルンのデータベースや、神機使いの教範に載っている情報を、淀みなくスラスラと並べていく。

 

まるで優等生だな、とイリヤは彼女の言葉を聞き流しながらそう感じた。

 

と、同時に意味記憶と言うよりも手続き記憶のような調子___つまりはただ刷り込まれた文章をそのまま朗読しているだけのような、上辺だけの文章を聞かされたような感覚も覚える。

 

そんな感想をよそに、話は進む。

 

「全く以てその通りだ。素晴らしいぞアリサ君。まぁ、要は飛んだり飛び道具も使いこなせる、ガタイのデカい厄介な格闘家、みたいなもんだ」

 

1つ言い終えてから、懐からタバコを出して火をつけようとライターを構える。

 

が。

 

「機内は火気厳禁です」

 

ピシャリ、正にその表現がピッタリと合う口調でアリサはリンドウに言う。

 

その様子に、生真面目、のレッテルも付け加えながらイリヤはやはり優等生みてぇだな、と若干やさぐれた心持ちでそんなことを感じていた。

 

何故無関心を念じながらも彼女に絡むような思考になるのか、そこに疑問は感じてしまうがそれを無理矢理飲み込む。

 

「しゃあねぇなぁ……」

 

苦笑いを漏らすリンドウは、素直にタバコとライターをしまう。

 

「実際吸えるほど時間も無かったみたいだしな」

 

いつの間にか高度を下げていたブラックホークのハッチが開くのと、彼ら3人が各々の神機を掴んだのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

降り立った3人を迎えるのは、荒廃し生きる力を失った街だけが持つ独特の空気だった。

 

圧倒的なまでの、拒絶。

 

もはや、人が立ち入って良い場所ではないのだ、と雰囲気が物語っている。だが、この街に降り立った3人にはそんなことは関係が無い。

 

「おぉ、よくよく考えると今回の任務は同行者が2人とも新型だったんだよなぁ~。オッサンも足引っ張らないように頑張らねぇとな!」

 

本意はどうであれ、実戦慣れしていない2人、特にアリサを気遣った発言。無論、リンドウが足を引っ張るわけが無い。彼は、今や本部でも名が通った生ける伝説のゴッドイーターで、むしろイリヤやアリサの方が実力も経験も大きく後れをとっている。

 

しかし、その事実を釜の底というか釜の存在そのものから忘れきっているアリサには、全く以て通じることも無く。

 

「旧型は旧型なりの仕事をして頂ければ良いと思います」

 

無感情ではなく、どちらかと言えば冷たく蔑ずんだような口調でそう言い放った。

 

その、当たり前のことを言ったまでですが、と言わんばかりの物言いを前にイリヤもリンドウも思わず目をパチクリさせてしまう。

 

イリヤからしてみれば、何言ってんだコイツ、である。まるで、新型こそ最強でその最強を操れる私が全て正しいのだ、と言わんばかりの態度。実際彼女の中ではその通りなのだろう。

 

現実がどうかは別だが。

 

彼女の口調からは、第1世代機を操る神機使いに対する明らかな侮蔑が顕在しているのだ。

 

彼女の物言いに、確かな苛立ちを感じるイリヤだがしかしリンドウはそうではなかった。

 

「ハハッ、まぁ気楽にやらせてもらうさ」

 

何も気にした様子も無く、そして気負ったような雰囲気も無くそう告げる。そして、すれ違い様にアリサの肩をぽんと叩いたときだった。

 

「キャアっ!?」

 

まるで暴力を振るわれそうになった少女のような、切実さを孕んだ悲鳴が木霊した。

 

さすがのリンドウも、これには本気で驚いた様子で。

 

ぽかんとした表情をしつつも、

 

「……なかなか嫌われたもんだな」

 

と乾いた嗤いと共に呟くだけだ。

 

そして、何よりも場の空気を釈然としないようにしているのが、先程の悲鳴を上げた本人であるアリサで。

 

「え? あれ……え?」

 

何故自分が、あんなにも過剰に拒否を示したのかを理解できていない様子で、相当に困惑しているのが端から見ていてもよく分かる。

 

その様子を見ながらイリヤは

 

(ワケあり、って感じか)

 

と彼女の裏側を何となく察していた。

 

「アリサ」

 

スッと、困惑していた空気を引き締める声が響く。

 

紛れもないリンドウの声だった。

 

「こう言うときはな、空を見るんだ。そんで動物に似た雲を探せ。そいつを見つけたら、俺たちに合流しろ」

 

リンドウの間合いとアリサの間合いが丁度触れあうだけの距離から、彼はそう支持した。

 

「何で私がそんなことをっ」

 

「これは命令だ、良いからさっさと探せ」

 

彼女の抗議には目もくれず、ジェスチャーだけでイリヤを伴わせて、リンドウは歩き出す。

 

もう数メートル離れた背後では、アリサが文句ありげな表情をしながらも律儀に空を見上げて、必死に雲を探していた。

 

今日は快晴。雲は少ない。

 

動物に似た雲を探し出すのには少し時間がかかりそうだ、と言うのは誰の目にも明白だ。

 

と、唐突にリンドウが、耳打ちに近い声で告げてきた。

 

「あのアリサだがな。実はワケありらしい。どうにも精神的に不安定なところがあるみたいでな、今でも専属の医者から定期的にメンタルケアをしてもらっているみたいなんだ」

 

それを聞いてイリヤは自分の直感が正しかったと知る。

 

「あいつの変に高飛車な態度もそれに起因してるんじゃねぇか、と俺は考えてる。まぁ、こんなご時世だ。まともな奴の方が少ねぇさ」

 

だから、あいつに壁を作るのはまだ待ってやってくれ、と陽気に言いながらリンドウはイリヤの肩を叩く。

 

(見抜かれてたのか)

 

どうあっても、この人には叶わねぇだろうなと感じながらイリヤはリンドウの後ろに続く。

 

倒すべき敵は、すぐそこまで近づいていた。

 




大変長らくお待たせしました!

アギョーです!

生きていましたよ。逃げては。。。いたけど何とか這い戻ってきました!!

失望されていた方もおられるかも知れません、ずっと待っていて下さった方もおられるかも知れません。

逃げずに、最後まで走りきります。

ですので、皆様、どうか応援の程よろしくお願いします

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