GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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徐々に外堀が埋められていく。

見なくても良かった物の形が見えてくる。

そしてイリヤは___


芋掘り大会 前夜

もしも。もしも、彼が想定した仮説が本当であるとするならば。それでもイリヤにとっては不可解な部分が残っていた。

 

(これこれで解せねぇ……)

 

それは、あの花壇に植えられていたアツミゲシだけではアヘンはそこまでの数を製造することが出来ない、と言うことだ。通常、あの手の薬を製造するのであれば、それなりの規模の栽培農場が必要になる。

 

麻薬の需要供給の一連の流れは「栽培→製造→密売→購入」が一般的である。イリヤは、この流れの中で製造と密売をフェンリル、あるいはもっとタチの悪い連中が担っている、と睨んでいる。そして、栽培の一部はあの孤児院が担っている。

 

無論、イリヤはあの孤児院だけが農場になっているとは思っていない。他の場所でも栽培されているだろう。それでも、だ。

 

イリヤが立てた仮説で行くと、あの花壇に植わっていた数だけでは長瀬があそこまで動揺するとは考え難いのだ。あの孤児院は麻薬の世界に片足を突っ込んでいるのは確かだ。だが、あの量は少ない。少なすぎる。

 

(何かからくりがあるはずなんだが………)

 

イリヤはピジョンズ・ベル児童園の敷地全体の間取りを思い出す。

 

そのどこかに、大量生産が可能な範囲があるはずだ。

 

あの手の植物を栽培したいのなら、まず人目の着かない場所に限定される。そうなってくると、目立つような場所や目視されやすい場所というのは消去される。

 

(どこだ……)

 

頭の中で整理しきれなくなりだした。

デスクにあるメモ帳から1ページを破り取って、改めてピジョンズ・ベル児童園の敷地見取り図を書き込んでいく。

 

 

              ┌──────┐

┌──────┬──────┤      │

│      │ 職員棟  │      │

│児童用宿舎 │ 安全   │      │

│      ├───┬──┘      │

│  安全  │花壇!│         │

│      ├───┤   運動場   │

├──────┘   │         │

│          │    安全   │

│   駐車場    │         │

│   安全     │         │

└─────┤  ├─┤         │

           └─────────┘

 

 

書き込んでいくと、今度こそ完璧に分からなくなった。花壇以外の場所で大量に栽培できるような場所など見つからないからだ。

 

(おかしい……絶対どこかにあるはずなんだが)

 

だが、実際どこを見ても無いのだ。

 

(……どこだ……?)

 

1ヶ所ずつ指で指し示しながら確認する。駐車場、児童用宿舎、職員棟、花壇、運動場………どこも前に見たときは特に何も無かった。

 

思い過ごしだった、ですんで欲しい。しかし、それは無い。ならば、どこかにあるはずだ。

 

 

(何かあるはずなんだが………)

 

 

記憶の中にある、自分が敷地内を歩いていた視点とそこから見えた景色を、1つ1つ思い返してみる。

 

 

 

 

(どっかに見落としがあるはずなんだ)

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

 

その時、ふと思い出した。

 

 

 

敷地に入ったとき、何が印象に残っていたのか。

 

 

 

花壇と、そこに植えられていた本物の花は勿論印象に残っている。色んな意味で忘れられるわけが無い。

 

 

 

 

だが、もう1つ印象に残っていた場所があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

___やけに広い運動場

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………冗談だよな……?)

 

 

イリヤは、ふとこう考えたのだ。

 

 

運動場の“下”に栽培プラントがあるのでは無いだろうか、と。

 

 

既に、地下栽培技術は確立している。とは言え、それはフェンリルが管理するアーコロジー内の直轄のプラントのみが利用している技術だ。

 

通常、民間には無縁な技術と言える。

 

 

しかし。

 

 

このアツミゲシ栽培プラントは、確実に極東支部が関わっている。その手の技術が応用されていてもおかしくない。

 

そもそもこの技術が民間に出回っていないのにはまっとうな理由がある。金がかかるのだ、施設の維持に。それも、かなりの金額だ。だから、民間だとその施設維持費に耐えられないから、出回らない。

 

 

逆に言えば、金さえあれば民間でも問題なく運用できると言うことだ。

 

 

そして、この孤児院はほぼ間違いなく金がある。この孤児院には金が無いとしても、製造密輸に関わっている組織が運用しているから、どっちにしろ金には困らないのだ。

 

 

そうなると、色々と納得がいくところもある。

 

 

イリヤが最初にアツミゲシを見つけたあの花壇。アレは、本来なら至極普通の花壇だったのだ。本当に、ただ観賞用の、それだけのための。

 

だが、どこかの段階でついうっかり、誰かがあの花壇にアツミゲシの種を落としてしまったのだ。そうなれば、あの微妙な場所にアツミゲシが数本だけ咲いていたのも納得がいく。

 

もとよりあそこにあったアツミゲシは、アヘンの原料として植えられていたものでは無かった、と言うことなのだ。

 

そして、長瀬は、イリヤにアツミゲシの存在がバレたことに驚いていた。だが、その根本は“どうして地下プラントの存在がバレたのか”と勘違いしたものだろう。だから、イリヤが「花壇で見つけた」と口にしたときに更に驚いたのだろう。

        ・・・・・・・

何せ、本来そこにあるはずが無い秘密の花を見つけられたのだ。無理も無い。

 

 

(だいぶ見えてきた……)

 

 

ここまで来ると、あのピジョンズ・ベル児童園が“公的には”フェンリルの支援を受けていないにも関わらず、民間経営にしては随分と小綺麗な施設を持っていることにも納得が出来る。

 

イリヤは確信した。

 

ピジョンズ・ベル児童園は、もはやただの傀儡だ。麻薬密売に関係している組織の言いなりになっているだけの状態なのだ。

 

 

そして、イリヤは自分が立てた仮説を立証するために最後の調査に取りかかった。

 

ノルンを起動し、検索システムに自分が知りたい情報の開示を要求する。

 

 

 

検索内容、それは____

 

 

 

 

 

 

___ピジョンズ・ベル児童園の創設から、現在に至るまでの経営状況だ。

 

 

 

 

 

イリヤの予想が正しければ、この孤児院はある状況に陥っているはずなのだ。

 

 

求めているデーターを見つけて、それを出力。

 

 

見ると、この孤児院は極東支部が設立されてから少し時間がたってから設立されたようだ。支部内の孤児院としては後発にあたる。

 

 

(入園者の基準が低いことを売りにしてたのか)

 

 

フェンリルの支援を受けている孤児院は、そのほとんどが入園者の受け入れ基準がやや高いのだ。例えば、アラガミの被害に遭って両親を無くした者に限る、とか。

 

 

 

(設立当初からしばらくは好調…………)

 

 

 

経営状況を示すグラフの線を、心持ち急かすように追いかける。

 

 

そして、やはり彼の予想した通りだった。

 

 

途中から徐々に経営状況が悪化を始め、そしてそれは緩やかにあの孤児院の首を絞めていっていた。

 

 

そして、経営状況が最低の状態が1年ほど続く。

 

 

そして、何があったのか“知らないが”すこしずつ経営状態が改善されていっている。

 

 

そして、ある一定のところで落ち着き初めて、そして現在の状態に至る。

 

 

 

「……これだ……!」

 

 

 

イリヤが立てた仮説はこうだ。

 

ピジョンズ・ベル児童園は設立当初は経営状況は好調だった。しかし、他のフェンリルの支援を受けている孤児院の方が受け入れ基準を緩和し始めて、ピジョンズ・ベル児童園の売りであった受け入れ基準の低さがそれほど効果を発揮しなくなってしまった。すると、徐々に経営状況は悪化していき、そしてついには破綻寸前まで落ち込んだ。その状況を、麻薬密売に関係している組織に付け込まれたのだ。大方“アツミゲシの栽培農場のための土地を寄越せ。クスリを売った利益の一部をソッチに流すから”と言ったところか。その時の誘惑に抗えずに、孤児院は要求を受け入れた。そして、共犯者になってしまったのだ。

そして、最悪の想定で言えば極東支部もグルになっている。そうなってくると、仮に孤児院側が情報をリークしても、孤児院だけが裁かれる様に内側から働きかけることが可能になる。そうすることで、組織はピジョンズ・ベル児童園を傀儡に仕立て上げたのだ。

 

 

 

(……結構でけぇ問題だな)

 

 

イリヤはそう感ぜずにはいられなかった。

 

もともとはトモキやノゾミ達を任せる場所として下見に訪れたはずの孤児院が、実は麻薬犯罪の氷山の一角を担っていたのだ。そして、掘り下げていけば行くほど、見なくても良いところまで見つけてしまった。挙げ句の果てに、フェンリルの上層部にまで届きかけているのだ。

 

イリヤも、この問題を無視する気は毛頭無い。

 

毛頭無いのだが、彼1人ではどうにもならないのも事実だ。何せ、相手が大きすぎるのだから。

 

(誰を味方につけるかね………)

 

まぁ、1人は確実に決まっている。

 

彼を味方につけない理由は無い。

 

 

イリヤはベッドから起き上がった。

 

 

 





何か大変なことになってる(-_-;)

次はどんな展開になるのやら……((o(^-^)o))

お楽しみに!!

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