GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
仔犬とご主人。
2人の間に流れる時間は緩やかで穏やかで___
温かい時間が流れていく。
会話は無い。しかし、それでも充分だった。
グリグリと胸にすり寄ってくるシノの、細くしなやかな長い髪の毛がくすぐったい。どう扱ったら良いのかよく分からないが、とりあえず頭を撫でておくことにする。
(俺の髪よりもサラサラじゃねぇか……)
敗北感とまでは言わないが、シノの髪のさわり心地と自分の髪とを比較して、何か思うところが生じてしまう。悔しいわけでは無いはずなのだが複雑な気分だ。
いつの間にか、シノの頭を撫でていた手はシノの髪を手櫛していた。
(……これはこれで……なかなか面白ぇな)
スルスルと透き通るような手触りの髪をすきながら、イリヤは久しぶりにろくでもないことを思いついた。
手櫛をしながら、そこはかとなくシノの髪の毛で遊んでみる。三つ編みにしてみたり、適当にまとめてみたり、団子を作ってみたり、ツインテールにしてみたり、ポニーテルにしてみたり、サイドテールだったり____
___ガリッ!
「いって!」
鎖骨を噛まれた。思いっきり。
割と本気で痛い。
「私の髪で何してんのよ?」
歯を立てたままの少しこもった声が、顔のすぐ近くに聞こえる。分かっててやっているのか、とイリヤは少し困ってしまった。
(意外と色っぽい噛み付き方するなコイツ……)
少し怒ったような目つきで上目遣いをされてしまい、妙な気分になりかける。鎖骨に突き立てられた八重歯が、尚のこと犬っぽさを引き立てる。
見た感じは、充分に可愛らしい。
やや暴れん坊の仔犬感が溢れ出している。
だが。
「まぁ、とりあえず歯ぁ立てるのを止めてくれ。思いの外痛ぇんだ」
彼は失念していた。
今目の前でじゃれてくる“仔犬”の名を冠する少女は、今でこそ人の形をしているが、本来は神機なのだ。
さっき抱きつかれたときもそうだったが、これが意外と力が強い。抱きつかれたときも痛みは感じなかったが充分に息苦しかったし、噛まれたときも骨が割れそうなほどの痛みだった。
(ますます仔犬だな……)
しかも、力加減やら何やらが不器用な、少し困った方の仔犬だ。手がかかる。
しかし。
手がかかる仔犬ほど可愛い物なのだ。
「髪の毛がな」
「?」
「髪の毛が結構サラサラだったから、つい遊んじまった」
淡々とした口調。反省の色は、無い。
「___開き直りって言わない、それ?」
「おお、シノが難しい言葉使った!」
「馬鹿にしてるでしょ!? ねぇ!?」
「…………ん?」
「とぼけんなぁ!!」
襟を掴まれて、グラグラと揺すられる。
やはり、力加減が苦手らしい。イリヤの視界がグワングワンと歪んでいく。
「シノ~、脳震盪起こしそうだ~、緩めてくれ~」
「えっ、あ、ゴメン!」
最後の一振りが一番衝撃が強かった。
ガクンッ、と本来ならばあまり人間にはよろしくない勢いの衝撃が、イリヤの頭と首に襲いかかった。
幸い、ゴッドイーターの強化された肉体にはこれと言った影響は無かったものの、やはり痛いものは痛い。
「ゴメン、その……大丈夫? 頭とか」
「シノ、さらっと非道い言い方すんな」
「え?」
どう言う意味なのか全然分かっていない様子のシノに、イリヤは手がかかる、と少し困ったように溜息を吐いた。
「まぁ、単に言い回しの話だが……仕方ねぇ。またおいおい教えてやるよ」
多分コウタに聞かせたらアイツ傷つくだろうなぁ、とかまた少し良からぬ想像をしてしまう。それはそれできっと見物にはなるだろうが、シノの場合は何の悪意も無いからむしろもっと非道い。
「?」
やはり最後までよく分かっていないシノであった。
その時、シノの身体に異変が起きた。
シノの身体から、淡く柔らかい白い光が発せらた。
「あ」
その変化の正体に一番早く気が付いたのは、本人であるシノであった。
「この光は……?」
蛍のように漂う数多の光。
「もうそろそろ時間みたい。器に戻らなきゃ」
「器?」
「うん。イリヤ達で言うなら神機ってやつ」
「そう、か」
話している間にも、彼女の身体からは光が放ち続けられていて、しかも徐々に身体が透き通ってきている。まるで水彩画のような淡く澄んだ姿。
「あ!」
突然、彼女が何かを思い出した様な素振りを見せた。イリヤはそれに気が付いた。
「どうしたんだ?」
「話すの忘れてたんだけど、イリヤを助けたのってこの光なんだよ。この光、全部私の身体みたいなものだから」
「ん? ……あ」
少し考えて、イリヤはシノが何を言っているのか、いつの話をしているのかを理解した。
そう、あの宮内のとき。初めて、イリヤがシノと会えたあの日。イリヤが彼女に“シノ”と名付けたあの時。確かに、彼等の周囲をこれと同じような光が包み込んでいた。
「あの時は、私もほとんど何も考えずにやっちゃってたからね……。思い出してみると、結構無茶なことをしたものね」
そう言って、クスクスと笑う。
「まぁそれで命は助かった……と言うよりかは生き返れたからな。ありがてぇ話だ」
「……うん、助けたご主人がイリヤで良かった」
彼女はそう言うと、明るくはにかんだ。
「止めろ、恥ずかしいから」
照れくさくなってシノから顔を逸らす。すると、彼の頬に手を添えられた。そのままシノに向き直される。
「ちゃんと私を見て」
彼女の表情は仔犬のような明るい笑顔では無く、悲しみも知った、ひたすらに穏やかな優しい笑顔であった。
「また、こうやって話そうね」
その言葉に。
「ああ。約束だ」
イリヤは優しく微笑みながら頷いた。
そして。
___シノの姿は空気に消えた。
(また、な)
彼の心は至って穏やかであった。
さて、次はどんな話にしようかな~♪
それにしてもリザレクションやりてぇなぁ
追加
まだこの話は終わらせませんよ!!
お付き合いの程ろ世しくお願いします!!!