GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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独房に入れられてから、何日経ったのか分からない。

そんな中で、彼はある疑問があった。

倉橋ケンジという男が、どんな人間なのか?


倉橋ケンジという男

「……」

 

何もない天井を見つめる。

 

やることは無く、出来ることも今のところは、無い。

 

不衛生な監獄の中、不衛生な異臭と不衛生なベッド、何もかもが不衛生な空間で、ただ時間だけが流れていく。

 

余りにも暇過ぎる。

 

そこで彼は気分転換がてらに、前から気になっていたことを訊こうと思った。

 

「よぉ、ケンジ。起きてるか?」

 

小さな鉄格子の窓に顔を近づけて、向かいの独房に入れられている囚人、倉橋ケンジに声をかけた。

 

「ん? 起きてはいるが、何だ」

 

「少し話でもしねぇか、と言う粋な計らいさ」

 

「はっ、何だと思えばそんなことか。粋と言うにはちぃとばかし物足りねぇぞ、青二才」

 

「人生経験の差だな。それはそうと、だ。前から気になってたんだが、アンタ何者だ?」

 

「……ん、どうして気になる?」

 

「そりゃあ、な。アンタ、ごくたまにそこから出してもらってどこか行ってるだろ。それで気にするなっつう方が無理があるだろ」

 

「なるほどな」

 

そう、倉橋ケンジという男は、ごくたまに本当にごくたまにだがこの監獄を出て行ってどこかに行っているときがある。それも、フェンリルが公式に認めているところがあるのだ。

 

聞くところによれば、イリヤが放り込まれている監獄はかなりヤバいことをやらかした犯罪者が閉じ込められる場所だ。

 

ちなみに、イリヤは反フェンリルを掲げるテロリストと言う扱いになっていた。強く否定が出来ないので、彼自身その扱いには何も言っていない。

 

そんな、少なくともまともでは無い人間しかいない中で、何故ケンジは出してもらえるのか。

 

イリヤはそれが気になっていたし、もう少し言うと、ケンジの意味不明な待遇が大変面白くなかった。

 

「……そうだな。今の俺は、ぶっちゃけたところ化け物だな。少なくとも、まともな身体をしていない」

 

「? 意味わかんねぇ言い方するなよ」

 

「まぁ、確かに変に思わせぶりに言っても意味がねぇか。良し分かった、教えてやろう。俺はな」

 

そして、イリヤは次の瞬間信じられない言葉を聞く。

 

「俺はな、現役の神機使いだ。ずいぶん前に同僚殺しの罪でここに放り込まれて、そのままここまでだらだらと生き延びてるがな」

 

クヒヒヒヒと、イヤな笑い声が響く。

 

イリヤは唖然としていた。

 

何故。

 

何故、目の前の男は神機使いでありながらここにいるのか。

 

何故、同僚を殺したのか。

 

何故、何故、何故。

 

疑問が止めどなく溢れてくる。

 

「そうだよな、そう言う顔をするわな、普通は」

 

目の前の男は、自分の表情を見てむしろ満足そうな口調でそう口にする。

 

「まぁ、昔々の話だ。今じゃこんな形の俺でもな、昔は正義感溢れるゴッドイーターだったんだよ。マジだぞ?」

 

愉快そうな口調で、男は過去を語り出した。

 

「俺が所属していた部隊はな、極東の部隊の中でもかなりクセの強い奴を集めた部隊だったんだ。他の奴等からは“不良部隊”とか呼ばれてたな。まぁ、実際問題俺たちはそのあだ名に負けない不良部隊だったよ、確かに。任務の先々で、必ず何か問題を起こす。アナグラに戻ってきても、週に3回以上は必ず何かやらかす。まぁ、そんな俺達もな、掟みたいな物はあったんだよ。“身内を愛せ”ってな。いくら不良だ何だと言われても、俺達の結束はそれなりに固かったと思うぜ? 何と言っても、俺達の部隊はかつて極東支部の2本刀に数えられる精鋭だったからな。今じゃ、ノルンからも消されてると思うが“戦技開発部隊”って言う部隊があったんだ。主な任務は『既存の神機、又は新型神機を以てアラガミとの戦闘技術の開発及び対アラガミ戦術の開発』でな。次から次へと、技術屋さんが作り上げたオモチャで遊んでたさ。そうやって、いつもぎりぎりまで遊んでアラガミを討伐してきたもんだ」

 

そこで、ケンジはいったん話を切る。

大きく深呼吸をしてから、再び話し始めた。

 

「あの日も、いつも通りの任務だった。討伐対象はヴァジュラ、エリアは廃寺エリアだった。俺達の部隊の隊長はな、女だったんだ。それも、かなり気の強い、しかも実力も相当ある、本気でおっかない女だ。まぁ、そんな隊長のもとで俺達もきびきび動いてたんだがな、その任務の時も同じようにきびきび動いて、ぎりぎりまで遊ぶ予定だった」

 

苦い思い出を掘り返しているのだろう。

ケンジは、鉛よりも重たく鈍い溜息を吐いた。

 

「だがな、あの時の任務は話が別だった。何が別だって、そもそもアラガミに関する情報が余りにも食い違いすぎてたんだよ。ヴァジュラは3匹だったし、他にもサリエルとか強力なアラガミ共がわんさかたむろしてた。それでも、“俺達の実力があれば”って、少しばかり自惚れたのが運の尽きだ。5人で挑んだ任務だったのに、戦闘から生き延びたのは3人だ。俺と、隊長と、ダニエルって言う北米支部から来てた腕利きだ。状況は最悪だった。ビーコンはまとめて壊れてるし、通信機もお釈迦。それに、輪をかけて仲間の“死”。あの隊長も、俺達も、仲間を目の前で失うのは初めてだったんだ。そして、隊長がな。あろう事にもプッツン行っちまってな、暴れ出したんだ。発狂だったな、アレは。今更思えば、あの人は今まで沢山自分の中に溜め込んできてたんだろうな。それで、ただでさえ1杯1杯だったところに、更に仲間が喰われた日にゃあ、そりゃ壊れても仕方ねぇわな。それで尚悪かったのが、それに感化されてダニーまでぶっ壊れた。最悪だったのは、その後ダニーが隊長をレイプしちまったことだ」

 

「!? レイプって……そんな」

 

「……続けるぞ? まぁ、そんな惨状だ。俺もぶっ壊れるかどうかの瀬戸際に来て、まぁあのときいっぺんぶっ壊れた。そんで、ダニーを……結局殺した。最初は隊長から引っぺがしてリンチにしてただけだったんだが、タガが外れたらしくてな。最後には死体になったダニーをずっと殴りつけてた。んで、正気に戻っちまった。その瞬間、“あぁ、何てことだ。俺は何て取り返しの付かないことをしでかしてしまったんだ”って自己嫌悪の渦に飲まれた。その場でのたうち回ったもんだ。そんで最後に見ちまったんだよ。

 

________隊長が自分の神機を胸に突き立てる瞬間をな」

 

 

何も、言えなかった。

否、言えるはずも無い。

目の前の、端から見れば狂ったように見える男は、実際そうなるべくしてなるような道を歩んできてしまったのだ。

 

しかも、そこには誰にも責任が無い。

 

神機使いで無いイリヤにもそれだけは理解できた。

 

「まぁ、そんなもんで、無様に生き残った敗残兵は、あること無いこと色んな罪を背負って、ここにぶち込まれる羽目になったとさ。あぁ、ちなみに、俺がごくたまにここから出してもらってるのはとある実験付き合ってるからだ」

 

「? 実験?」

 

「おっと、これ以上は部外者は無論のことフェンリルの職員にも話しちゃいけないことだ。ここから先の話は諦めてくれ」

 

「あ、あぁ」

 

イリヤはただ、目の前の男が一体どこまで壊れているのかが分からなく、分からないからこそ、底知れぬ恐怖を覚えていた。

 

倉橋ケンジという男は。

 

いったい、何度心を壊したのだろうか。

 

倉橋ケンジという男は、いったい何度“死んだ”のか。

 

少なくとも彼に分かることは、目の前にいる倉橋ケンジという名前を被っている人間は、さっきの話の中で出てきた男からはかけ離れたところに立っている、いわば狂人だ。

 

目の前にいる、“異端”にただ恐怖を覚える。

 

と、同時に、筋違いであるのは充分自覚しているが、それでもなお、彼のことを“哀れ”と同情する自分もいた。

 

それが、根っからの善意だとは言わない。

 

自分が気付かないところに偽善も潜んでいるだろう。

 

だか。

 

それでも、倉橋ケンジという男に同情を覚えてしまっていた。

 

向かいの独房の奥から、すすり泣くような嗚咽のような声が漏れてくる。

 

イリヤは、ただ男の心の闇を垣間見ることしか出来ず、狂を感じ同情を覚えること以外は、何も出来ずにいた。

 

 

 




この回ではケンジの話がメインになりました。

イリヤ君の主人公はどこへお出かけしたのやら……

次はどんなはな展開になるでしょうか。

楽しみにしていて下さい!!


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