GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
突如、人間の姿に発現したシノ。
何が故に、そうなったのかは分からない。
そんな中、イリヤは。
苦痛と、痛みと、不安がルーチンになって自分の中を流れていく。
その苦しみ。
ひたすらにそれに耐えている毎日だった。
「あっ」
気が付けば、冷たい金属製の床の上に立っていた。裸足、と言うのだろう。足の裏の感覚が、やけに冷たい。
「……何これ?」
とりあえず、見える範囲で自分の身体___と思われるそれを全部観察してみる。
皮膚。何だか、オウガテイルの顔面みたいに白い。いや、アレよりかは若干ピンクっぽい…? 何にせよ、白い。
手。小さくて、指が細くて長く、全体的に縦に長いと行った印象の、手。
足。これもまた小さくて、人差し指が一番長く、それをてっぺんに矢尻状に指先の山をなしている。何となく、ほっそりと少しとんがったイメージ。
脚。少し外側に弓状に反った脛、あまり大きくないふくらはぎ、緩やかな出っ張りの膝、太い印象は持てない太もも。とりあえず、全体的に細い。
次に胴体。細く、くびれ___で良かっただろうか? それがある腰。うっすらと縦に筋が入ったお腹。
あれ、何この薄い変なの? 服? 今更それに気付く。
なだらかであまり起伏の無い曲線の胸。
毛。頭に生えてる毛。髪の毛といっただろうか? 長い。色は、淡い黄色を帯びた銀髪。感触は、細くて柔らかい。サラサラした感じ。
(この身体……ニンゲン?)
だとしたら、確か雄雌があったはずだ。
自分はどっちだ、と疑問に思う。
(普通雄雌の概念が無かったし……何で区別するんだっけ?)
あ、と思いだしておもむろにヒップやら股やらをまさぐりだした。
(……メスか)
と言うか、何だろうか。この身体のことを知っている気がする。
そのとき、身体にふと違和感を感じた。
ジクリ、ジクリ。胸が、痛い。
視線を胸に移すと。
「えっ」
ぽっかりと、穴が開いていた。
そのとき、一気に全ての記憶が頭の中から溢れかえってきた。そして、思い出す。
「これ、私の身体じゃない!」
ハッとなって、後ろを振り返る。
目の前に鎮座していたのは、もう1人の自分。
物言わぬ、同族の血に染まり、大切なヒトの血に穢れた、冷徹なる自分の器。
神機___シノ。
「え、どうして?」
どうして、自分は人間の身体に___器から抜け出したのだろうか?
どうして、何かが足りない感じがするのだろうか?
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ジクリ、ジクリ。
目を覚ます度に、その胸の痛みに顔をしかめる。
あの日以来、彼はあの夢を見ることは無くなったが、刻みつけられた強烈なイメージと痛み、そしてあの時の血の味は忘れられないでいた。
悲しく、哀しい。
胸の痛みを感じる度に、心臓がきつく縛られ、胃がねじ切られるような苦痛を感じる。
(何でこんなに悲しいんだよ……)
やはり、問うたところで誰も何も返してはくれない。自ら投げかけた疑問は、まるで無重力の中を突き進むように。
そして、包帯まみれの身体が現実の痛みを訴え、それでやっと現実に戻る。とは言え現実に戻ったところで、今の彼は何が出来るのか、何が出来ないのか、それすらもやはり分からないままなのだが。
神機使いだと言われながら、自分にはその実感がまるで無い。
とある任務で重症を負った、と説明されてもやはり実感はわかない。そもそも、そんなことを思い出せない。
任務って、いつ? 俺が? 嘘だろう?
そうは思っても、実際包帯にぐるぐる巻きにされて、しかもその下からは現実の痛みがズキズキと刺してくるのだから、まぁきっと何かはあったのだろう。それが件の任務の結果である、と言う確証も無いが。
果たして、自分は何を忘れているのか。
果たして、自分は何を覚えているのか。
そもそも、自分が今持っている知識は本当に自分の記憶なのか。
疑い出せばキリが無い。
分かってはいつつも、それでもやはりどこか腑に落ちない。頭の中にある知識が、それが自分が知っているものでは無く、まるで辞書を読み上げているだけのような、上辺だけのもののように感じる。
ズキリ。
「痛っ…」
突然の頭痛に、考えすぎたな、と思った。
目を覚ましてから、まる1週間。目を覚ました最初の日以来、誰とも会わず、ただ1人。
心の痛みと、身体の痛みと、漠然とした不安に苛まれ続ける毎日を繰り返すだけ。
彼は、疲れていた。