GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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何を忘れたのかが分からない。

何を、どこまで覚えているのかも定かでは無い。

名前はイリヤ。

でも、実感は持てない。

自分は誰だ?




記憶

ゴッドイーターが何なのかは、分かる。

 

フェンリルがどう言う組織で、アナグラがどう言う場所なのかも、知識としては覚えている。

 

しかし、彼___イリヤ・アクロワは、自分自身がそのフェンリルに所属するゴッドイーターである、と言うことにいまいち実感がわかない。

 

確かに、自分の右手首にはゴッドイーターの証である赤い腕輪“P53アームドインプラント”がはめられている。と言うことは、これが偽物で無い限りは、きっと自分は本物のゴッドイーターなのだろう。

 

やはり実感は沸かないが。

 

 

個人病室のベッドの上で、イリヤはただ現実感の無い自分の状況を呆然と見つめていた。

 

 

「____俺は誰なんだ?」

 

 

呟きは空間に溶けていく。

 

返事は、返ってこない。

 

自分に問うたはずなのに、全くその実感もわかない。自分とは別の何かに話しかけている気分だ。

 

大切な何かが空回りしているかのような、少なくとも愉快では無い不思議な気分。

 

自分は誰だ?

 

その質問ですら、的外れに感じる。

 

何かが違う___ような気がする。

 

分からない。

 

 

 

「____何なんだ俺は」

 

 

 

 

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(これはまた面白いことになっているねぇ)

 

世界のマッドサイエンティスト___ペイラー榊は、自分の情報端末に転送されてくる、イリヤのバイタルデータを見ながら、やや鼻息を荒げていた。

 

 

まず、神機使いの体内の大前提として、神機使いのヒト細胞と移植されたオラクル細胞は共在はするが共存はしない。つまりどういうことかというと、人体という器の中にヒト細胞とオラクル細胞は同時にあるが、それが混ざり合うことは無い、ということだ。何故なら、オラクル細胞はそれ1つで自己完結した生物でありその細胞と共存すると言うことは、人体という器ごとオラクル細胞に捕食されることを意味するからだ。

 

だからこそ、その捕食を避けるために偏食因子を定期的に接種することで2つの細胞を共在させているのだ。そうすれば、ヒトという器でありながらヒトを遙かに上回る身体能力と神機を使える、と言うメリットに繋がる。

 

しかし。

 

 

イリヤの体内では、その大前提ですらきっちりと覆されていた。

 

 

 

本来ではあり得ないはずの、オラクル細胞の共存。人体への、捕食を伴わない同化。

 

 

 

イリヤという1匹のヒトを構成している細胞の一部を、オラクル細胞が完全に補完していた。

 

 

「まさか、大昔に否定された理論がこんなときに証明されるとはねぇ。実に興味深い!」

 

 

榊は鼻歌交じりにデータを漁る。

 

図らずも、自信が築き上げた仮説が立証されたのだ。単純に、科学者としての喜びが強い。

 

 

ヒト細胞に進化したオラクル細胞。

 

 

イリヤの体内にあるオラクル細胞を例えるなら、この表現に行き着く。

 

僅か5秒間、死んだ彼の使い物にならなくなった細胞“のみ”を“差別的”に捕食し、それをトレースし、彼の生命活動を再開させた。

 

(中枢神経の一部や脳細胞の一部……と言ったところかな。オラクル細胞としての特徴を残しつつイリヤ君の細胞に成り代わるとはねぇ)

 

データの内容を観察しながら、イリヤの体内のどこの細胞がオラクル細胞に補完されているのかを読み取っていく。

 

確かに、イリヤの体内にオラクル細胞はある。しかし、それらは既に1つの捕食細胞ではなく、イリヤの一部としての機能を備えた別な生き物。捕食作用を排除し、ヒト細胞の特徴を完備した独立した生物。

 

そこまで読み取って、イリヤの記憶障害について、榊は唐突に新たな仮説が思い浮かんだ。

 

体細胞の一部が、オラクル細胞によって補完されたことによる身体の拒否反応。彼の脳の一部もオラクル細胞によって補完されている。そのリバウンドで身体が一時的な発作を起こし、それが今回の記憶障害に繋がった。

 

こじつけ感は拭えないが、その仮説が今のところ一番合理的だ。

 

 

そこまで思考が至り、榊は更に鼻息を荒げる。

 

 

(おぉ、そうなってくるとオラクル細胞の可能性はもっと広がってくるねぇ。実に面白い!)

 

 

一人の科学者として、目の前に示された可能性の塊に、興奮を隠しきれない。

 

榊の鼻歌は、鳴り止まなかった。

 

 

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「___行くわよ、カエデ」

 

聞いたことの無い女性の声。

声のイメージとしては、随分と凜々しい感じ、と言ったところか。だが、どことなく無理をしているような雰囲気も見受けられる。

 

「___ご苦労様、カエデ」

 

「___あっ、刃こぼれしてる……ゴメンね」

 

「___あのネコスケ…! 行くよカエデ!!」

 

「___今日もありがとうね」

 

 

何というか、誰かの話を聞いている、そんな気分になる。誰かが聞いた話を自分が聞かされている。果たして自分は誰かの話を聞かされる機会があったのかどうかが甚だ怪しいが、しかし感覚としてはそれが一番シックリくる。

 

声は凜々しいが、きっと優しい人なんだろうな。聞こえてくる声にそんな印象を抱く。

 

「___○○○○! どこに撃ってるのバカ!!」

 

「___やるじゃない! 次もお願いね」

 

「___怪我してるなら出てくるな、治せ!!」     

 

「___あなた達、少し反省しましょうか?」

 

あ、やっぱり恐い人かも知れない。

最後の台詞は、マジで恐ぇ。トーンがヤバい。

 

それにしても、誰なんだろうか。

この声の女性は。

 

「___ちょ、話が違うじゃ無い!! 偵察班は何を見てきたのよ!? 嘘ばっかりじゃない!!!!」

 

「___○○○! 後ろ!!」

 

「___皆いったん退くわよ!!」

 

「___仇よ。絶対に、ここで討つ」

 

「___このおぉぉおお!!!!」

 

「___絶対にただじゃ死なないわよ…!!」

 

「___お前等は! ここで! 死ねぇぇええ!!!!!」    

 

「___何人生きてる…?」

 

「___え? ちょ、や来ないで! イヤ、イヤァ!!!」

 

「___アハハッ、ハハハハハハ……もう、何もかも、いやんなっちゃった……ハハ、アハハハハハハ!!!」

 

「___モうイや…………ごメんネかエデ」

 

 

その瞬間、口の中に鈍い痛みと共にじわりと血の味が広がった……

 

 

 

 

 

「__はぁっ!? っはぁ、はぁ、はぁ」

 

 

イリヤは血の味と口の中の痛みで目を覚ました。

 

息が、荒い。

 

「痛っ……」

 

痛む部分を舌でなぞって、そうしてやっと自分が頬の内側を噛んでしまったのだ、と気付く。舌の上に、血の独特な苦いような塩っぱいような不快な味が広がる。

 

「何だったんだ、今の……? 夢?」

 

ジクリ、と胸が痛んだ。

この痛みは苦しみの痛みだ、心当たりは無いが直感的にそう理解した。酷い後悔と自責の念、そう言った負の感情の痛みだ。

 

 

「……カエデ……」

 

 

何となく耳に残っていた、誰かの名前。でもきっとそれは、誰か、では無く、何か、の名前だろう、とこれもまた直感的に感じていた。

 

そして、そのカエデというフレーズに何故か違和感を感じている自分がいる。

 

 

(カエデ……で合ってるはずだが……何か違うな)

 

 

ジクリ。ジクリ。鈍い痛みが彼の心を苛む。

ジワリ、と涙が浮かんでくる。慌ててそれを拭うが、1度浮かんできた悲しい気持ちはなかなかおさまらない。

 

 

「___何なんだ、ほんとに……」

 

 

青白い病室の中。声は誰にも届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





フフゥフ!

プロットなんてわがままは言わねぇ、キーワードさえ押さえていればもうキャラがどんなに暴れようと構わねぇ!
好きなように動きやがれ、コンニャロめ!!ww

テンションおかしくてすみませんm(_ _)m

頑張ります!!


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