GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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4日の眠りから目を覚ましたイリヤ。

しかし彼は___


俺は誰だ

 

痛みで目を覚ました。

 

「ん……あぁ……あ?」

 

目の前に広がるのは、見覚えの無い白い天井。

 

何も、考えることは浮かんでこない。ただひたすらに目の前に広がる天井を見つめ続ける。

 

頭の中に霧がかかったように、ぼんやりとしている。決して眠いわけでは無いが、眠気のときと同じ感覚。

 

何も、考えられない。

 

身体の中に溜め込んでいる空気を一新させようと、とりあえず深呼吸をしてみる。

 

そして、呼吸の痛みに耐えきれず咳き込んだ。

 

しかし、その痛みのせいで頭の中の霧は随分と晴れた。

 

気分は、最悪。

 

頭の中の霧は晴れても、体中の痛みや倦怠感などがむしろハッキリしてしまった。

 

「……ここは……どこだ……?」

 

横になったまま目玉だけを動かして周囲を観察する。青白い天井。落ち着かない、無機質な白っぽい蛍光灯の光。フィルターを通した、むしろ違和感を感じる味の無い空気。

 

気が付けば、彼の周囲は彼を不快にさせる要素で埋め尽くされていた。

 

ここはどこなのか?

 

体中が滅茶苦茶痛い。

 

この光が気に入らない。

 

身体がだるい。

 

空気が不味い。

 

とりあえず___

 

「……ムカつくな」

 

 

そのとき、奥の方からガスが抜けるような音が聞こえた。少し遅れて、カツカツと高いヒールの靴特有の足音が聞こえ、近付いてくる。

 

誰だと思い、ゆっくりと上半身を起こすと。

 

「起きたか……気分はどうた?」

 

とりあえず、あり得ないほど開けっ広げた豊満すぎる胸の谷間に目が行ってしまった。そして、いけないと、心のどこかが叫び幸福の渓谷から視線を外す。

 

「貴様には色々と訊きたいことは山のようにあるが……まぁ今は勘弁してやろう。まる4日間眠り続けた気分はどうだ?」

 

彼の斜め左前に立つ、とりあえず色々と際どい露出の白い服装の美女は、返事しか認めない、と言わんばかりの口調で問うてきた。

 

「最悪……です」

 

「そうか」

 

淡々とした会話。

そんなことよりも、彼は知りたいことが山ほど合った。

 

「あの……」

 

「何だ?」

 

「ここは…?」

 

「アナグラのメディカルセンターだ」

 

どこだそれ?

 

「何があって、自分は4日間もここで眠り続けていたんですか?」

 

「貴様が藤木2等兵と共に向かった任務で、貴様が重症の状態で救助されたからだ」

 

任務?

救助?

藤木2等兵?

 

どういうことだ?

 

「あ……」

 

そこで、彼は気付いた。

 

「ん? 何か思い出したか?」

 

違う、思い出したのでは無い。

 

そもそも、何故目を覚ました初期の時点で“それ”を疑問に思わなかったのか。それが不思議で仕方ないが、今はどうでも良い。それ以上に、重要な気がすることがある。

 

 

 

「____俺は誰だ?」

 

 

 

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「いやぁ、随分とまたややこしいことになったねぇ」

 

極東支部随一の、否恐らく世界一の頭脳の持ち主ペイラー榊は、ずれた眼鏡を直しながら、本当にそう思っているのか怪しい、むしろ少し楽しそうな口調でそう言った。

 

本心を悟らせない細い目も、今回ばかりは少し興奮の色を滲ませている。

 

彼にとってはよほど興味深いデータが入ってきたのだろう、とツバキは内心で溜息を吐いた。

 

「榊博士。笑い事では無いのですが?」

 

ツバキは、目の前の科学者___しかも形式上彼女よりも上の立場の___に向かって不機嫌さをあらわにした声色で返す。

 

「いやぁ、すまないすまない。いやしかし、本当に厄介なことになったね。まさか___」

 

 

____まさかイリヤ君が記憶障害に陥るとは 

 

 

 

「医者の話によれば、薬物による一過性のもの、大量失血時のショック症状で脳の記憶野にも影響が出た、心因性の記憶障害、そのどれもこれもが一気に現れた、だそうですが……」

 

ツバキの声が、徐々に覇気の欠けるものに変わっていく。彼女としても、それなりに衝撃の大きい事柄なのだ。

 

「まぁ、薬物の影響による分には新陳代謝だけでどうにかなるけれど、脳への影響と、心因性のもの、となってくると面倒だね」

 

榊の声が、急に真面目なトーンになる。

 

「脳へのダメージが問題なら、オラクル細胞もってしても回復はほぼ見込めない。下手をすれば彼の神機使いとしての生命にも影響が出かねないしね。それに心因性の記憶障害にしたってそうだ。心の傷__トラウマは消し去ることは出来ない。乗り越えることは出来るけど、傷が無くなるわけじゃないし、そもそも本人がその傷と向き合う気が無ければ、乗り越える乗り越えない以前の問題だ」

 

「そもそも、あの薬物は安全性が定かでは無かったはず!! 何故そんなものが……」

 

「あれは本部の方で研究が進められていた『オラクル細胞の活性抑制薬品』の結果だからね。本部の息がかかったものは、だいたい何でも押しつけられるよ」

 

部屋に重たい沈黙が訪れる。

 

ツバキは、いまだにあの言葉の衝撃を引きずっていた。無理も無い。

 

 

 

俺は誰だ?

 

 

あなたは?

 

 

 

まさか、自分が育てた神機使いが記憶を失って帰ってくるなど、考えたこともなかったからだ。確かに、重症を負って帰ってきた教え子は少なからずいた。身体の一部を失うか、身体の一部だけで帰ってくる者もいた。しかし、それは神機使いとしてはごく普通の話だ。決して慣れることも無いが、特別なことでも無い。

 

だからこそ彼が発したあの言葉の衝撃は、あまりにも胸に苦しいものがある。

 

そんなツバキの様子を見かねてなのか。

 

「今は、少しゆっくりと流れを見極めるべきだ。今慌てたところで、彼にもツバキ君にも、アナグラ全体としても良い影響は無い」

 

宥めるような、静で力強く穏やかな声。

 

「……失礼します」

 

ツバキは、やはり覇気の無い声のまま部屋を後にした。彼女がここまで分かり易く態度に出すのも、珍しいことだ。

 

(まるで“あの時”のようだね)

 

榊はそう思いながら、イリヤの先の任務中のバイタルデータに視線を移した。

 

(それにしても興味深いデータだね。実に面白い) 

 

彼の興味を捕まえて放さないデータ。

 

そこには、体細胞の活性値、体温、心拍数、血圧、脳波、オラクル細胞の活性値等の様々な数値がグラフとして示されている。

 

任務を開始してからメティカルセンターに入れられるまでの間の彼のバイタルデータ。様々な状況を彷彿とさせるその数字の乱れの中に、ほんの数秒。およそ5秒。

 

 

 

イリヤ・アクロワは1度死んでいる。

 

 

 

少なくとも、彼の身体を構成しているヒトの部分は一瞬だが、完全に機能を停止していたのだ。

 

 

しかし、彼は生きた状態で帰ってきた。

 

 

榊の中では、既に仮説は出来上がっていた。

 

通常、神機使いの体内にあるオラクル細胞は、その宿主たる神機使いが死んだとき一緒に死滅する。しかし、イリヤの体内にあるオラクル細胞は、イリヤの身体がまだ取り返しのつく時点で生存本能を活性化させ、イリヤの身体機能を一部代替わりして宿主を復活させた。オラクル細胞は、無限の可能性を秘めた細胞で、それであるが故にこの仮説も筋は通る。オラクル細胞の生存本能が、今回のような形で発現しても何らおかしくは無い。

 

無論、このような現象は世界中どこを探しても、他に類似するような事例は無い。しかし、だからこそオラクル細胞研究の第一人者である榊には大変興味深いのだ。

 

普通、科学の世界では、100回の実験で99回が失敗に終わればその実験は失敗と見なされる。つまり、実験のテーマとされた事例は事実では無くなる。1%の成功も無意味となる。しかし、オラクル細胞はその常識を覆す。

 

世界で唯一確認された事例は、それだけで事実になれる。

 

「実に面白い……!」

 

クツクツと堪えたような笑い声。

 

しかし、その笑い声は楽しいことを見つけた子供のような、無邪気な色に満ちていた。

 

 





さぁて、どうしたものか

プロット通りにキャラが動いてくれない
キャラが勝手に予定に無い動きをしてくれる

作者が作品に振り回される!!!

なんてこったい楽しいぞ!!

頑張ろ


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