GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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気づける者は既に気付いていた。

今のイリヤがまともで無いことを。


分かる者

 

「早くこのゴッドイーターを運べ、急げ!!」    

 

 

ヘリポートでタンカに乗せられた少年___イリヤが数人の男達に運ばれていく。彼が行く先はメディカルセンターの特別集中治療室。神機使いのための特殊医療設備だ。

 

その1連を見送った倉橋は、改めてヘリから2つの神機を持ち出した。

 

1つは彼専用の遠距離型の第1世代神機“神墜”、もう1つはイリヤの神機___シノ。

 

(今はシノって呼ばれてんのか、お前さんは)

 

イリヤの神機を見つめながら心の中で呟く。呟くというよりかは、神機に向かって語りかける、の方が倉橋の感覚としては正確だ。

 

(覚えてねぇか? ずっと前、俺はお前さんを“あの人”の次に近くでずっと見守ってたんだが)

 

神機は何も応えない。

 

(_____カエデさんよ)

 

そう呼びかけた瞬間、シノを握っていた左手が痛いぐらいに痺れた。反射的に神機を手放す。

 

ガシャン、と重たい音を立てて神機が床に横たわる。

 

(その名前が嫌いなのか、それとも“あの人”以外には呼ばれたくないだけなのか……とりあえず邪険にしないでくれると嬉しいね)

 

神機にそう語りかけながら、改めて柄を掴む。拒まれはしなかったが、手に馴染むことも無かった。

 

(あぁ、お前さんはそれで良い)

 

そう語りかけて優しく微笑む。

 

 

  

 

「___やっぱりテメェだったか」

 

 

 

 

ヘリポートで芯の通った低い声が響いた。

 

 

 

「____倉橋」

 

 

 

 

そこに立っていたのは百田ゲン。

ピストル型神機の時代を切り抜け、ついに生き残った百戦錬磨の元神機使い。旧軍からの叩き上げのその男は、鋭いながらも懐かしさと哀れみを含んだ目で倉橋を見据えていた。

 

 

「久しぶりだな____ゲン」

 

 

「あぁ、もう何年ぶりかも忘れちまったが久々だな。まだ神機を握ってたとはな」

 

 

悔しそうな色を滲ませた口調。

 

百田ゲンという男は、ピストル型神機時代を生き延びることは出来たが、今で言う第1世代神機の適正は無く、ピストル型神機が役に立たなくなるのと同時に現役を退いた。

 

しかし、今、目の前に見据える男はゲンには越えられなかった壁を乗り越えることが出来たのだ。

 

しかし。

 

「そんな悔しそうな声するなよゲンちゃん。俺の身体だって、お前さんが思ってるほど羨ましいもんじゃねぇんだ。お前さんは人だったから戦場から生き延びれた。俺は化け物だったから今も戦場をのたうち回る猟犬を演じなけりゃならん。それだけのことだ」

 

 

倉橋はそう言って、ゲンの悔しそうな態度を一蹴する。

 

 

「倉橋……」

 

 

倉橋の言葉に、ゲンは何も言えなかった。

 

 

「俺は死ぬそのときまで猟犬を演じなきゃならんのだ。全く、もう少し御老体を労って欲しいもんだ」

 

見せ付けるように“イリヤの神機”を肩に担ぎ、ゲンの横を通り過ぎていった。

 

「倉橋、テメェまさか…!?」

 

ゲンは倉橋のその態度で理解した。

 

倉橋はもう後戻りが出来ない所にいると言うことを。

 

「ん、あぁあと1つ」

 

ゲートをくぐる直前、倉橋はゲンに向き直った。

 

「あのイリヤってガキなぁ……下手すりゃあともう一息で壊れるぞ。何でお前さんがいながらあんなになるまで放置してたんだ?」

 

 

「___何のことだ?」

 

 

「とぼけんなよゲンちゃん。俺もイリヤのことは気に入ってんだ。ありゃあ、相当いじめ抜かれたヤツの目だ。しかも、溜め込んで怒りに変換する、厄介なヤツだ。アイツの目と、神機の有様見たら嫌でも分かるぜ?」

 

やや皮肉と挑戦を込めた視線。

 

「___独善が善行って訳じゃねぇんだ」

 

ゲンは苦々しくそう吐き捨てた。

 

 

「……ふん、老いは恐いねぇ。ゲンちゃん、くれぐれも身体に気を付けろよ」

 

 

今度こそ明らかな皮肉を込めた口調で言い放ち、倉橋はヘリポートから姿を消した。

 

 

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楠リッカは唖然としていた。

 

無理も無い。

 

今、目の前にあるイリヤの神機の破損の度合いが、毎回更新していた“過去最悪”を今回は大幅に更新していたのだ。彼女が神機整備の現場に踏入始めてからこの方、ここまで滅茶苦茶に壊した神機使いはいただろうか。

 

答えはNO。

 

当然ながら怒りは感じる。何でもっとちゃんと使ってあげないのか、と。

 

しかしながら、今回ばかりはそれを遙かに上回って、どうしたものか、と途方に暮れてしまう側面の方が大きい。

 

(シールドは全壊……ブレードはガッタガタ……銃身も結構酷いね、これは……)

 

もはやあまりの酷さに乾いた笑いが出てきてしまう。

 

リッカはつなぎのポケットからメモ帳とペンを取り出して、イリヤの神機の整備に関するメモを書き足していった。

 

(最優先事項……補足事項……整備順序……所要期間)

 

必要事項に埋め尽くされたメモ帳の1ページを破り取って、イリヤの神機の固定台に貼り付ける。

 

「これは相当かかるだろうね……」

 

そして、目の前の神機の使い手___イリヤのことを、ふと思い出した。

 

(イリヤ君……大丈夫、なのかな……)

 

その心配は、今回のイリヤの怪我のことも含めてはいるが、それが全てでは無い。むしろ、彼の心の方が過半数を占めている。

 

 

実際の所、イリヤの神機は破損の程度こそ“未だかつて見たことが無いほどの破損”だが、破損の仕方、どんな使い方をした結果の破損なのかは簡単に分かる。流石に、誰にでも分かるというものでは無いが、リッカにはそれが分かった。

 

ただ単に、あらゆる部位に過剰な力をかけた。

それだけ。

 

最たる例は、それこそギッタギタに破損したシールドだ。あの破損の仕方は、見ただけで“あ、この人盾で殴りつけたな”と分かってしまう。

 

攻撃を受け止めるとき、受け流すとき、自ら力をかけたとき、とで盾にかかる力は大きく変わる。盾は、前者2つを目的に作られているからその用途で使う分にはほとんど壊れることは無い。壊れたとしても、表面が焼けただれたり削れていたり、と受動的な傷ばかりだ。

 

しかしイリヤの神機の盾は、ベコベコだ。

 

これほど分かり易く盾で殴りつけた、と分かる壊れ方の方が、ある意味珍しい。

 

そして、ブレードパーツの破損の程度にしても同じ事が言える。“あ、この人固いものを無理矢理叩き割ったな”と“あ、この人攻撃をブレードで受け止めやがったな”の2通りの破損の仕方が共存している。

 

 

そして、それらの破損の仕方から彼女が感じ取ったのは、使用者であるイリヤの“怒り”もっと言えば“ストレス”だ。

 

彼は、それらの感情を神機を経由してアラガミにぶつけることでどうにか均衡を保っている。

 

だからこそ、こうして神機が破損する、という“副産物”が発生する。

 

リッカは、神機使いと直接関係を持つ機会は少ない。友人と言える人間関係を築きにくい立場だ。しかし、だからこそ、その人その人の心の持ちようや気分、感情を神機を通じて察する術を身につけた。

 

イリヤの神機を見て分かること。

 

それは、彼はずっと苦しんでいる、それだけ。

 

(どうしたら良いのかな……?)

 

神機を修理することはいくらでも出来る。どれだけ滅茶苦茶な壊し方をしようが、ちゃんと修理できる。その自信はある。

 

しかし、それだけでは足りないのだ。

解決にはならない。

 

(1度、ちゃんと話し合わなきゃ……)

 

リッカはそう心に決めてから、目の前のボロボロの神機の修理に取りかかった。

 

   


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